日差しのおかげ
予定時刻に二分遅れて重造が現れた。その間、照子は何度ケイタイの画面とヒカル時計を見たことだろうか。
「ごめん! 本当は30分前に来てたんだけど、常世の奴がどうしても2分遅刻しろって引き留めてくるものだから……」
眉をここまでかというほど八の字に垂らし、ペコペコと謝る重造を、照子は慌てて大丈夫ですからと制した。
「あの……ということはオモイノカネさんもいらっしゃるんでしょうか?」
「そうなんだけど……あれ?どこ行ったかなアイツ……」
辺りを見回したのち、重造は携帯を取り出すと電話をかけはじめた。
「もしもし? お前今どこだよ。……え? 勝手なことばかりだな……いや、別にいいけど。じゃ。」
重造は呆れたようにため息をついて電話を切る。
「ごめん、常世の奴、みたいテレビがあるから帰ったって……何をしについて来たんだか」
思金がいると聞いて、少し残念な気持ちと、ホッとした気持ちが入り混じっていたのだが、今度はいないと聞いて、照子は背筋が伸び、顔が熱くなるのを感じた。
「テル子ちゃん、大変だ、顔が赤いよ!」
「ひ、日焼けです日焼け!焼けやすいんです私!」
照子は慌てて火照る顔を手で扇いだり、おさえて隠したりした。
「6月の紫外線は強いらしいし、今日は天気がとても良いからね……日陰いこうか?」
「いえ、大丈夫です! とりあえず……歩きましょう!」
快晴にしてくれた天照に、照子はまた心から感謝したのだった。
それに、今日の目的はデートでは無いのだから。
「暑いけど、頑張って探そう。俺たちと同じ境遇の人たちを。」
照子は小さく頷き、少しだけ真剣で、先程までとはまた違った緊張を表情に現した。
二人は常盤公園から少し離れた場所にある駅から電車にのって移動した。
"他の神たちの居場所の手掛かりを掴んだかもしれない"
そう、照子の元へ連絡が来たのは先週の話だった。
重造は大学に通いながら、彼の憑神の常世思金神と一緒に、図書館館長である祖母のもとで手伝いをしている。
その中で、古事記や日本書記など、日本神話にまつわる書籍の貸し出し状況を、全国の姉妹図書館の協力を得て調べ、ここ最近で貸し出し数が急上昇した地域は無いか探していたのだという。
そして、幾つか浮かび上がった地域があった。そのうちの一つが本日訪れた場所、照子たちの街から電車で40分と多少離れた<桃岩市>という都市である。
桃岩市は緑化計画に力を入れていて、植樹や花づくりが進んでいる。人口的ではあるが緑と都会が融合して県内でも、一、二を争う美しくオシャレな街として知られている。地価は高いがここに住んでさえいればなんでも出来るし、手に入る。
電車を降りた二人は大きく伸びをし、景色を見渡した。
「この街のどこかに神憑きの人がいるかもしれないんですよね?」
「おそらく。まずは図書館に寄ってみよう」
照子と重造は駅からは歩いて図書館を目指した。
道中には、キラキラと客も華やぐ店が立ち並び、モデルがスタイリッシュに映った企業の広告もでかでかと貼られている。そのうちの一つのポスターを指差し、照子は言った。
「あっ、凪くん波ちゃんだ!」
「え? テル子ちゃんの知り合い?」
重造の質問に照子は一瞬耳を疑った。
「違いますよ!小学生モデルの双子、蛍原姉弟。なかなか有名なんですけど、重造さん、テレビあまり観ない人?」
「そうなんだ、俺、芸能関係は疎いんだよね……」
「最近はメディア露出が減ってるみたいで、私も久しぶりに2人の顔を見ました。やっぱ、小学生には見えない美男子美少女具合……」
その瞬間、照子と重造はなぜか同時に振り返り、後方の店の入り口を見た。
店の中から出てきたのは、黒くつばの広いハットを深く被り、長袖のロングワンピースを清楚に着た車椅子の女性と、それを押す大きな黒縁メガネを掛けマスクをつけている女の子であった。
「あの、2人……なんか気になる、よね?」
「うん。もしかしたら神憑きかもしれない。さっそく、ついて行ってみよう」
照子と重造は見失わない程度の適度な間隔をあけその2人組の後ろを付けることにした。




