勉強します
照子と天照が誓約を交わしてから一週間がたった。
二人は市内の図書館に来ていた。天照の知り合いの神々を捜すにあたって、彼らのことを少なからず調べておくことが必要だと思ったからだ。
天照やその身内らの神話が記されている古事記や日本書紀といった書物はもちろん、照子の祖父の書斎にも置いてあったのだが、注釈さえも解釈の難しい古い物だったので照子の力にはならなかった。
「古事記と日本書紀で少しずつ色々違うんだけど、どっちを参考にした方がいい?」
この一週間で分かったことと言えば、天照は見えるように意識すれば、照子以外の人にも見えるようになれると言うことと、照子以外の人に姿が見えない時は空中浮遊が出来ると言うことだ。
天照は今、現代の日本ではかなり目立つ和装を脱ぎ、無断で拝借してきた照子の母の服を着て|(照子は天照より大分小さい)、他の人にも見えるようになっている。見えないと、相談をする際に照子が盛大な独り言をしているように思われるからだ。
「わたしは古事記出身よ。でもどっちでもいいんじゃない? どちらにしても天照はわたしなんだし」
もう一つ分かったことがある。
書物から連想される天照とは違い、ここにいる天照はとてもいい加減ということだ。
そうですか、と半ばあきれ気味の照子は〈日本神話入門~馬鹿でも分かる古事記~〉という本を片手にメモを取り始めた。
「……アメノミナカヌシ……タカミムスヒ……カミムスヒ……」
「別天津神達の御芳名じゃない。その方たちは……降臨されてないと思うけど」
「どうして?」
「あの人たち、偉大ではあるけど性格が確立されてなかったから」
「キャラ設定がないって事? 確かに、脇役って書いてあるね。……はあ、聞いたことない名前いっぱいで頭こんがらがりそう。誰が降臨してるとか把握してないの?」
「んー、降臨してるのは母上と父上から後に出てくる物語の格となる神々の一握りだと思う。」
貸して、と天照は照子の使っていたシャープペンを器用に使い、ノートに神々の名前を書き始めた。
彼女の適応力といったらない。この一週間|(照子が学校へ行っている間)の内にひらがなカタカナをすぐに覚えたのはいいとして、筆記用具やリモコンなどはまるで当たり前のように、果てはパソコンをローマ字入力で使いこなせるようになったのだから驚きだ。神、侮るべからず。
「はい。この人達は絶対に降臨してると思う。多分、いや多分」
返されたノートには八柱の神々の名が箇条書きにされて書かれていた。
・いざなぎ
・いざなみ
・すさのお
・つくよみ
・おもいのかね
・うずめ
・たぢからお
「へぇ…これみんな家族?」
「ううん、血がつながってるのは上の四柱。あとは友達とか」
「とか?」
「うん。わたし飽きたから他の本読んでくるね!」
「えっ」
天照は物凄く飽き性なのかすぐどこかへふらふらと行ってしまう。
物覚えは超人をはるかに越えているし、帰る時になるといつの間にか近くにいるので手間がかからなくて良いと言えば言えばよいのだが……。
照子はノートに記された名前を頼りに、彼らの関係性の独自調査を始めた。