はじまり
辺りは暗く澱みゆく。
ドロドロとした川のような靄に包まれて、そのドロドロに身を任せながら深い眠りについている彼らは、ゆっくり、ゆっくりと流れていく。
この世界、始まる時もそうだった。
形がなく、ドロドロし、混沌としていた。
ここに眠る彼らは、沢山の出来事を、長い時間をかけて体験している。
それは誇り高き事であったり、許されざる事であったりする。
この世界は既に終わっている。
彼らは死んではいない。
人々が、頁をめくり続ければ、彼らは死ぬことは無いのだから。
人々が、この本を読み返すのをやめるときまで、彼らは何度でも蘇るのだ。
同じ人生を、彼らは永遠に繰り返す。
しかし、同じ人生を繰り返すということはあるいは、進まない人生を彼らは過ごしているということだ。
進まない人生など、死んだも同然 。
私は永遠に生きながらに死んでいる 、可哀想な彼らに、少し だけ、新しい人生を与えようと思う。
辺りは暗く澱みゆく。
ドロドロとした川のような靄に包まれて、そのドロドロに身を任せながら深い眠りについている彼らは、ゆっくり、ゆっくり、光の射す方へと流れていく。
ここに眠る彼らは、沢山の出来事を、長い時間をかけて体験している。
それは誇り高き事であったり、許されざる事であったりする。
眠りについてから果てしない時間を経て、彼らの行い総てが時効を迎えた。
彼らは再び始まりに向かっている。
生まれ変わるのではない。
同じ人生を始めるわけでもない。
少しだけ、新しい時代に…。
もうすぐ、目が覚める。
起きやすいように、 数えてあげよう。
三 、 二 、 一 、