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短編集

クリスマスの日のケーキ売り

作者: 霧星 蒼

ジングルベールジングルベール♪


俺が背にしている店内から、決して大きな音ではないクリスマスの歌が流れている。


楽しそうに、カップルたちが、俺の目の前を通り過ぎていく。


俺は店の入り口の隅に立ち、客を呼び込んでいる。その俺の隣には、茶色い長机が置かれ、その机の上には白い箱に入れられた、ホールケーキが積み重ねられている。長机の向こうにも、サンタの帽子を被った若い、大学生ぐらいの男が立っている。


あぁ、立っているのも疲れんな。


俺は心の中で大きくため息をついた。


「ケーキはいかがですかー?」


雑騒の街に、張り上げられたその声が溶けていく。


ケーキの方をちらりと見れば、ケーキの山はまだまだ残っている。


時折、歩いているカップルや主婦らしき女の人が、嬉しそうにケーキ売りの長机へと向かっていく。


大きなケーキの白い箱の山がどんどんと減っていく。さーて、俺も頑張りましょうかね。


俺は気合を入れ直すと、また売り子を再開する。ケーキの箱の山も残り3個となったとき、道行く人の中のカップルの一人が、俺の方へと指を向けた。


「あ、かわいいツリー。」


背中まで伸ばされた明るい茶髪のくるくると巻かれた髪は、気合いが入ってることが分かる。割とかわいい顔の若い女の子だ。すると、その隣に立つ、右耳に銀色のピアスを付けまくった、チャラそうな金髪頭の短髪の男は、その女の子の肩を組んだ。


「あぁそうだな。だがお前の方が可愛いぜ。」


「何言ってるの恥ずかしい!」


……なんだこいつら、さっさとどっか行けよ。俺は12ヶ月ぶりの外なんだよ。リア充どもが、羨ましい。


……いかんいかん、考えないようにしていたのに、つい考えてしまった。クリスマスという、リア充がたくさんの日にそんな嫉妬心を燃やしていたら、俺が立ち直れなくなる。ここはそうだ、目をそらすのが一番だな。


俺は目をそらす。そのカップルが通り過ぎていったのが、横目で見えた。


それにしても。寒いな、凍りつきそうだ。


俺に巻かれたピカピカと光る飾りに目を細めた。バイトの若い女の子が楽しそうに飾ってくれたたくさんの飾りに、俺は少し笑みをこぼした。


ふと、冷たいものが俺の体に触れた。俺はそれをしばしば見る。また、冷たいものが落ちた。俺は上を見上げる。空からは、ふわふわと白い綿のような雪が、ふわふわと舞い降りている。


ホワイトクリスマスか。ベタだな。


俺は少し笑う。そして、心の中で呟いた。


メリークリスマス、自分。








「ありがとうございましたー!」


売り子の若い男が声を張り上げた。あれほど置いてあったケーキの箱は何もない。最後の客が見えなくなってから、その男は大きく伸びをした。


男は店の中に入っていく。残されたのは、長机。その長机の左には。


人の背ぐらいの大きさの、クリスマスツリーが、飾りをたくさん付け、巻きついた色とりどりの電球が、ピカピカと光っていた。



読んでくださりありがとうございます。

メリークリスマス!……なんか最近、幸せそうなクリスマスソングを聞いてるとイライラしてくるんですよね。……別に寂しくなんかないですよぉー。


……よし、ケーキとかチキンとか食べるぞー。

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