第4話
「夢宮ーっ!御前何処の部活に入ったの?」
終礼が終わると銀哉の阿呆が教室中に聞こえるような大声出して静貴に聞いてきた。
「え?僕ですか?ええと・・・・・・・弓道部です」
対する静貴は弱々しげな小声で答えた。銀哉の勢いに押されているようだ。
「弓道部!?俺と同じじゃん!わぁ〜新入部員大歓迎〜夢宮、俺が案内するぜっ!」
「銀哉、あんた滅茶苦茶五月蝿い。うざすぎるよ」
香が銀哉の頭をこつんと拳で殴った。もちろん軽くである。彼女が本気で殴ると・・・・・・本当に痛い。
「痛い!堪忍してよ〜」
「まぁ良いけど。百合亜ぁ、先帰ってるね」
「OK!グッドラック!」
生徒のざわめきの中をくぐり抜けて百合亜は教室を出た。目指すは第四体育館。
ちなみに、百合亜の学校には体育館が五つある。第一、第二はバレー部かバスケ部が使い、第三は卓球部か柔道部、第四は剣道部、第五はプールで、水泳部が使う。
だから、百合亜は剣道部である。
「ちわ〜す!」
元気のよい挨拶をしながら百合亜は第四体育館の扉を開く。体育館といえど、第四は第一、第二、第五に比べ、随分小さい。第三と同じ位である。
ちなみに、五つの体育館は同じ建物の中にある。地下二階に第五、地下一階に第二、一階に第一、二階に第三と第四。
「おはようございます!」
後輩達が一斉に百合亜に向かって頭を下げる。その中には今朝彼女の教室に無断で入り込んできた櫻木悠里もいる。
言い忘れたが、百合亜の学校は中高一貫だ。だが、高校生は殆どなると同時に部活を引退する。勉強が忙しすぎるのである。
だから高校生の先輩は殆どいない。いるのは、百合亜と長い付き合いの龍崎嘉樹と、有馬修、田木レイのみ。
「じゃあ、班分けをするから、二列に並べ。えーと、右の列、前から五人が一班、左も前から五人が二班。残りが三班だ。一班に俺、二班に有馬、三班に田木だ。まず手始めから」
部長の龍崎がてきぱきと指示を下した。百合亜は二班、有馬と悠里がいる班だった。
「先輩、今度こそは勝ちましょう!」
意気込み語る悠里。ちなみに、前回の対抗の時も二人は同じ班で、びりっけつだった。
十八人いる剣道部の部員の中で三班に分かれ、それぞれ対抗する。勿論一人ずつ。
二つの班が対抗している時、残る一つの班は練習したり、審判をしたりする。審判は、主審、副審、得点の三人。
先に一班と二班が対抗する事になった。最初に出たのは百合亜。相手は、彼女と同学年で、部の中でもずば抜けている鷹川翔夜。
御面の隙間から、百合亜はじっと相手を睨んでいた。相手の方が実力上上なのだ。油断を見せてはならない。木刀を握る手に汗が滲む。
試合開始の号令が主審から出される。百合亜はそっと右に歩む。対する翔夜は全く動かない。御面の隙間から、目を閉じいたって冷静な彼の表情が伺えた。
木刀を振り上げた。彼はゆっくり目を開け、百合亜の攻撃を防ぐ。そしてそれを跳ね返した。
百合亜は神経を逆立てて、体勢を崩すのを防いだ。真正面から、胸もとめがけて突進する。
一瞬、翔夜が目をきっと見開くのが、百合亜に見えた。次の瞬間、彼女の手から木刀が離れて宙を飛び、首下にもう一本の木刀の刃が触れていた。
其処まで、と主審が声を上げる。百合亜は歯を食い縛りながら御面を外した。
また負けた。この前も、その前も、ずっと負け続けていた。彼女が彼に勝った事など、一度もない。
短い時間で試合を切り上げるため、一つに付き一本しかない。今日はこれで百合亜と翔夜の対戦は終わった。
結果、二班は三対二で一班に勝った。悠里も有馬も好調だった。
今日の所は一班が優勝した。百合亜は、二度目の試合では相手を負かしたけれども、やはりいつもと同じく、どこか吹っ切れない所があった。
そして、そのまま百合亜は家路についた。




