CHAPTER1-3【授業】
「はい、それではホームルームを始めます……」
と、狗神は教壇に立ち言った。
このクラスの担任の教師は出欠確認を終えると、そそくさと次の授業の準備を始めに職員室へと戻ってしまうので、朝の連絡等は委員長である狗神が行うことになっているのだ。毎朝毎朝、彼は担任から渡される連絡プリントを貰ってホームルームを実施しているので、実質的に彼がこのクラスの担任にも思えてしまう。
「最近不審者が多くなってきたそうなので、登下校の際には注意してくださいねーーーちなみに、俺も昨日不審者に襲われましたので……」
ザワザワザワっと、教室がざわめくがコホンと、軽く咳払いをして次の話に狗神は移る。
「本日ですけど、校長先生と教頭先生……それから、近隣の校長先生方がこのクラスの授業を参観しに来ますーーーので、授業前に1度掃除をしろとのことで、1時限目の現代文の時間は掃除の時間に変更になりましたのでホームルーム終了後から掃除を始めましょう」
「次に、NASAの職員が午後にうちのクラスを訪問するんだけど……これちなみに、どんな用件なの?」
そういって狗神は、【彼】の方をみる。【彼】はにこりと笑って「多次元への移動方法確定理論についての議論だよ」と答えて、はいと納得せざる終えなかった。
「それでは、最後に……期末テストが来週にあるのでいつも通り頑張りましょう……以上でホームルームを終了したいと思います」
と、ホームルーム終了後、クラスはいつものように賑やかな雰囲気に戻った。狗神はホームルームが終わるなり、清掃道具のあるロッカーの方へ歩く。そして、モップを取り出してそそくさと掃除を始めた。
他のみんなも、雑巾で机を拭いたり、窓を拭いたりと、いつものように連携して掃除を始めたのだった……が、問題児2人だけは違った。
天才児と不良……この2人は正直言って教師からみれば扱いにくい。片方は頭が良すぎるため、片方は頭が悪すぎるため……言ってしまえば極端な2人なのだ。極端な者ほど扱いにくいものはない……という事で、彼ら2人は別室にて待機しているのだった。
掃除を終えた頃、1時限目の半分も行っていなかった。なのになぜ、1時限目を掃除の時間に当てたのか……これは、【彼】に対する明確な甘やかしなのだ。そうやってご機嫌をとっておけば、この学校を辞められずに済むから……つまりは、そう言うことなのだ。【彼】はこの学校にいることによるこの学校に与える経済効果というのは絶大で、国からの多額の援助も受けられているとかーーーそのため、【彼】専用の研究施設まで作られて、俺たちはそこでたまに理科の実験をやらせてもらったりするが、見たことないような機械ばかり……。専門機関にしかないような分析装置や、実験装置まで盛りだくさんなのだ。これに国民の税金が使われているとなると、普通ならば許されざる事なのだが、【彼】がもたらした特許によって今現在この国はすさまじく裕福であるのだ。だからこそできる究極の措置とも言える。
【彼】……天野翔琉という男は凄まじい人生を送っていると見られる。狗神瞬によると、天野翔琉には行方不明の時期があったらしい。それは中学生の頃の話で、突然爆発した理科室に居たらしく、3日ほど行方が分からなくなっていたらしいが、ある日ひょっこりと彼は教室へと戻ってきたことによって、奇跡の生還とまで言われるほどになった。その後、中学卒業までに夥しい論文を学会へ提出して、彼は中学3年の冬にノーベル化学賞とノーベル平和賞を取り、特許を大量に取得し、世界一の最年少大富豪になりその金の半分を20ヶ所の発展途上国へと寄付したという伝説を残したくらいだ。
そんな人物に勉強を教えていいのは誰か……結論は、教えなくていいのだ。だって、彼自身がもう知っているのだから……じゃあなぜ学校に来るのかーーーそれは、常識を学ぶためなのだ。
「いくら天才だろうが、金があろうが、権力があろうがーーー常識を持たぬ人間は、人間として生きるためにはあまりにも大きすぎる代償だ」という彼の持論の元に、彼は学校に通っているのだ。まあ、たまに実験ばかりで教室に来ないときもあるらしいのだが……。