CHAPTER1-2【学級】
狗神瞬……一般家庭で育った穏やかな青年。文武両道で、誰からにも慕われるような力量と懐が広い彼は、誰かに殺したいと思うほどに憎まれている。それはもう、はたから見れば単なる妬みや嫉妬であることが伺える。だが、果たして本当にそれだけだろうかーーーと、言う質問を瞬にしたところできっと彼にも答えることはできないだろう。だって、心当たりが無いのだから……。
「はあ……」
呪人の襲撃と、大神牙の正体が分かってから一夜明け、自宅から再び学校へと向かう狗神瞬はため息をついていた。昨日の出来事がまるで、夢であってほしいと言わんばかりに……だが、現実は非情である。昨日大神に不意にやられた傷跡は未だに残っているし、なにより痛みも酷いままだ。到底【夢】と言って否定できない状況だった。
「おーい、瞬!」
と、大声で周りの目を気にせずに瞬の方へと向かうのは、噂の大神牙ーーー狼男である。
「あー、大神くん。 おはよう……」
「お?元気ないな?なんかあったのか?」
「昨日の出来事が印象深すぎて……あんまし寝れなかった……」
「はは~なるほど、俺との夜が刺激的すぎたんだな」
「その発言は色々誤解を生むからやめろ!」
瞬の大声が思った以上に出たみたいで、周りの人は一斉に瞬の方を見た。俗に言う、【やっちゃった感】のある状態だ。
瞬は恥ずかしくなって急ぎ学校へと向かうのだった。
「おはよー」
そういって、瞬が教室に入るとクラスのみんなのほとんどが揃っていた。いつもサボっている男と、学校側と国から授業免除を言い渡されている男を除いて……。
「瞬君!おはよー!」
と、副委員長である猫山心優が瞬に声をかけた。そして瞬に、廊下の方へ来るように、と言って彼女はそそくさと教室から出ていったのだった。
訳もわからずに、鞄をおいて瞬は言われるがままに廊下へと向かう。
「あー、瞬君。あのね、さっき先生から言われたんだけどーーー今日【彼】が登校してくるみたいなの」
「【彼】?ーーーそれって、どっちだ?」
「天才の方!」
「あー、【彼】くるんだ。珍しいね、学校にくるなんて……また、先生たち疲れるだろうね……何せ、大学の教授ですら敵わない知識を持っていて数多くの特許を持っている男だからね……【彼】は」
「うん、それでね……【彼】が学校に来るから、大変だと思うから周知しといてくれって……」
「はぁ……うん、まあ分かったよ。 ありがとうな、猫山」
「もう、心優って呼んでよ♪」
ふふっと、頬を赤くした副委員長は教室へと戻っていく。また、狗神も教室に戻る。そろそろ、HRが始まる時間だ。果たして、問題児2人はいつ来るのか……それは、瞬にも分からなかった。ひとつ言えるのは、2人とも自由気ままに生きていると言うことだけだった。
キーンコーンカーンコーン……。
チャイムの音がなり、瞬は起立!と大きく掛け声をあげ、礼!と再び声をあげ、着席と言って座るのだった。
「では、出席をとります……」
と、担任の先生は名前を呼ぶ。よりによって問題児2人ともは名前が先頭の方だが……果たして間に合うのかどうか……。
「はあはあ……すみません!遅くなりました!」
そういって、勢いよく教室に入ってくるのは天才児の方だった。だが、担任の先生はニコリと笑って「間に合ったから大丈夫だよ」と、彼に着席を進める。ちなみに【彼】は、瞬の隣の席だ。
「おはよう、狗神くん……研究忙しくて、遅刻しちゃった……」
「大丈夫だよ、先生も言ってたから……問題は……」
その時バキッと扉が折れて、体つきのいい男が「チーッス」と言いながら、教室に入ってきた。
「問題は、やつなんだよね……」
と、狗神は笑いながら【やつ】……大神牙の方を見た。最後の問題児とは大神牙の事であった。
「大神!だから、毎回扉を壊して入ってくるなと言ってるだろうが!」
と、担任の先生は怒るが、気にもしていない大神は瞬の後ろの席に座るーーーが、瞬は座った大神の頭を軽く叩いて。
「だーめ!」
と、叱るのだった。はたから見れば、不良の大神に叩くなんて事は自殺行為だろうが、瞬の場合は違うのだ。クラスメート全員が知っている、事実。大神は瞬を慕っていると言うことだ。だから、大神が暴走するときは瞬に任せれば問題ない……と、いうことをクラスメートは知っている。担任に至るまで……。
「狗神……まいどすまないな……」
「いえいえ、委員長ですから……では、先生……引き続き出席を……」
と、いつものようにこうして狗神瞬の学校生活は始まるのだった。