君のことが好きだから
君と過ごすクリスマスイブ。
賑わう街を君と歩くクリスマスイブ。
「あの星が欲しい!」
突然、君がそんなことを言うので僕は驚く。
君の指を追って上を見上げた。
君が見ていたもの。
それは、クリスマスツリーの頂点で輝く大きな星。
他とは全く異なる輝きを放つ、大きな大きな星。
君の視界には、きっとそれしか入っていないんだろう。
ただ頂点の星だけを見つめて、君は言っていた。
その姿を見た僕は、改めて君は凄いんだって思った。
僕が恋した相手は、大きくて立派で上だけを見ている人。今は亡きその人に、よく似ているよ。
「本当に君は可愛い人なんだな」
少し馬鹿にしたように思ったのか、君は可愛らしく頬を膨らませる。
その姿があまりにも可愛くて、幸せで僕は笑った。
君は気付いていないんだろうね。
それでも君はもう持っているじゃないか。
今更求めなくても、君は持っているじゃないか。
あの大きな星を? いいや、違う。
その星よりも、もっと輝きを放っている星を。
もっともっと素敵で美しく、注目を集め大きく輝く星を。
僕は言ったのだけれど、それでも君はまだ気付いていない様子だね。
鈍感なところも君の魅力、そう思うよ。
可愛らしく、君は不思議そうに首を傾げた。その可愛さに、僕は少し意地悪をしてみたんだ。
鈍感なくせに、僕の表情を見てかそれには気付くんだ。
「意地悪しないでよ」
と、君は頬を膨らませる。
それは本当に可愛らしくて、もっと見たくて。だから僕は、少し意地悪に笑ったんだ。
でも本当は君が大好き。
嫌いで意地悪しているんじゃなくて、好きだから悪戯しているの。
君自身に見つけて欲しい、そう思ってさ。
だけどやっぱり僕は甘いみたい。わからないと言う君を、突き放すことなど出来なかった。
正解はちゃんと渡してあるんだよ? いつ気付くのかな、楽しみだよ。
君と過ごすクリスマス。
僕の家に君を招き、二人きりで祝うクリスマス。
窓を開けると、一気に冷たい風が吹き込んでくる。
それを全く気に留めず、身を乗り出して君は空を見上げていた。
「サンタさん、来て欲しい!」
なんて、可愛らしく言って君は空に祈る。
君が今何を欲しいのか。
それくらい僕は知っているよ? 君のことは僕の方が知っているよ。
サンタさんよりも、僕の方が君をわかっている。
君が求めるプレゼントくらいわかる。
それなのにサンタさんからのプレゼント、と思われるのは少し癪。
しかし君の夢を壊さずに、君を喜ばせる方法なのだから僕は満足であった。
だから僕は、君の頭を撫でてあげる。
「夜更かしをしなかったら来るでしょ」
と、笑ったんだ。
君は嬉しそうに頷いてくれる。
君はきっと気付いていないんだろうね。
それでも今年、ちゃんと配ったじゃないか。
ちゃんと君に届けたじゃないか。
どんなプレゼントより高く、大切なもの。
決してお金では手に入らない、大切なもの。幸せを。
それは当然の幸せ、平凡な幸せ。平凡と言う幸せ。
プレゼントを買い与えてしまうのは、僕の罪滅ぼし。自己満足かもしれない。
妻を亡くしたことを悲しみ、ずっと君を一人にした。
親としての責務を果たさずに、一人娘に寂しい思いをさせたのだから。
僕が言っても、君はまだ気付いていない様子だね。
可愛らしく、不思議そうに君は首を傾げる。
そんな君が可愛かったから、僕は少し意地悪をしたんだ。
「教えてよ」
なんて、君は頬を膨らませた。
それが可愛かったから、僕はもう一度意地悪な笑顔を見せた。
でも本当に君が大好きだから、大切だから。
プレゼントはちゃんと渡してあるよ? 翌朝目を覚まして、喜ぶ姿が待ち遠しい。
昨夜そう思っていたのだが、君は気付いてくれなかったんだ。だから君は、今夜も空を見上げているんだ。
それもなんだか可愛らしかったから、僕は教えずに君の姿を見つめてしまう。
いつになったら気付くのかな。
今年もあとわずかになったね。
残りはたったの一週間、全力で行こうか。
もう君に不自由はさせない、寂しい思いはさせないよ。
君のことが好きだから。