たった一夜の舞台
今日、素敵なパーティを開催する。
思い思いの仮装をして、皆で集まっておいで。
何を気にする必要もないよ。
このパーティでは、本当の姿を隠していてもいいのさ。
遠慮はいらない。このパーティでは、何をしたって罪はその仮面が全て背負ってくれる。
どのような仮面を付けていたって、誰も責めはしないから。
素顔を全く見せない、厚い厚い仮面でもいいの。
だってここに集まっているのは、皆々同じなのだから。
皆々、同じように苦しんで、仮面に頼る人なのだから。
恐れる必要なんてないよ。
ここでなら、何をしたって許されるのだからね。
ここにいるのは、きっと皆が苦しんでいる人だからね。
一人じゃないよ? 安心してやっておいで。
恐怖のパーティへ。
果たして、本当の姿とはなんなのだろうか。
どんなに賢い人でも、その質問の答えなんて知らない。
その質問に答えられる人なんて、きっといない。
だから、答えられないからって凹む必要はない。
皆、君と同じだよ。
今日集まっているその姿は、本物なの? それとも、偽物なの?
この質問ならば答えられるでしょう。
でも残念。
皆がわかっているようで、実は誰もが間違えている。
そんな、ひっかけ問題みたいなものさ。
ありのままの自分。真実の自分の姿を映す、醜い醜い仮面を付ける。
そうすると、その仮面の姿は自然と仮の姿になるよね。
自分を守る為に、無意識でそう称しているのさ。
そして、普段の自分を本物だと思い込ませようとしているんだ。
パーティでの姿が仮の姿だから、もう一つの姿は真実の自分だと。
そんなんじゃ駄目駄目。
わからないかい? それなら教えてあげようか。
本当の姿、と言うものを。
今日は、仮面を付けて来てくれただろう? なら簡単だ。
その仮面を取った、その姿が本当の姿なのさ。
仮面の上から厚い仮面を被った、普段の姿なんかじゃない。
その下に眠っているのが本当の姿。
さあ、迷わず手を取り合って? 皆で楽しく踊りましょう。
遠慮は不要だって言っただろう。
妖怪だって魔女だって、どんなことも今日は関係ないよ。
相手なんて選ばないで、仲良く踊ってくれよ。
罪を重ねることを恐れなくていいんだから。
さあ、誰も一人にはさせないで? 皆が付いているのだから。
怯えは不要だって言っただろう。
楽しむんだ。
いいね? 楽しむんだ。
楽しむこと、このパーティの法則はそれだけさ。
果たして、本当の自分ってなんなのだろうか。
いかほどの策略家でも、その質問の答えは知らない。
見栄は張るかも知れないが、口から出任せさ。
本当は誰も知らないの。神様だって。
その質問の答えを知っている人なんて、きっといない。
今日集まってくれたその姿は、自分なの? それとも、全く別の存在なの?
この質問は、聞くまでもないように思えるね。
それでも案外答えは分かれるものだよ。
考え方次第で大きく変わる。人それぞれなのさ。意地悪な問題だろう?
このパーティでは、常識の枷すらも破っている。
いかに常識と言うのが脆いものか、思い知らせてやりたいものでね。
常識なんて、結局は自分の意見でしかないのさ。
先程の問題の答えが分かれたように、常識なんてその程度のもの。
それに気付かせるパーティ。
それに自力で気付いたと思い込み、そんな自由なこの姿を賞す。
面白いものだよ。そんな人間の醜態を眺めるのもね。
そして常識が脆いことを知ると、質問の答えは一致する。
同時に、この姿が自分であることを否定しようとするんだ。
仮面を被ったこいつは、全くの別人だと主張するしかないんだ。
人間と言うのは、実に周りに流され易い生き物なのだな。
そんなに知りたいか。それじゃ、教えてあげようか。
自分自身が知らない、本当の自分を言うものを。
普段は、醜い仮面を付けているだろう? 今の姿よりもっと醜い仮面を。
醜い仮面を付けた、その姿こそが本当の自分なのさ。
自分の中にある最も醜い存在が、本当の自分と言うものなのさ。
さあ、恐れず手と手を取り合って? 楽しく踊りましょうよ。
恐怖に溢れ返るこの場所なら、特別怯えるものなどないでしょう。
ほら、仮装しているんだから大丈夫。
心配しなくてもいいんだよ? それが誰かなんてわからないのだから。
このパーティでは、くだらない現実世界の法則も法律も常識も関係ない。
パーティ内の法則さえ破らなければ、今日は何をしても責められはしない。
何をしても罪にはならない。
だって、顔が見えないのだからね。
さあ、誰だって関係ないさ。
遠慮し合ってないで、楽しく踊りましょう。
どうせここは夢の中。
罪が罪となりはしない、欲望に塗れた夢の中。
ここでならば、たとえ何をしたとしても簡単に許されてしまうんだ。
さあ、手を取り合って? 皆は仲間だから。
警戒せずに、楽しく踊りましょう。
妖怪だって? 魔女だって? 笑わせないでくれよ。
そんな小さなこと、今日は全く関係ないね。
心配する必要なんてないのさ。
さあ、誰だって構わないの。
楽しく踊れるならば、相手なんて誰でもいいじゃないか。
必ず楽しむこと。
それだけが、このパーティの法則なのさ。
自分が求めている、理想の姿に仮装して。
ほらほら、皆で集まれ。
このパーティでは、本当の姿は隠していてもいいのさ。
どんなに美しく飾り立てた、高い理想を謳う醜い仮面を付けていてもいいの。
誰も責めはしないし、誰も咎めはしない、誰も嗤いはしない。
だって、ここにいる皆だってその仮面を付けているのだから。
その人間の醜いところだけが現したかのような、醜い仮面を美しいと勘違いしてね。
恐れる必要なんて、全くないんだよ。
大丈夫だから、皆は仲間だから。
安心しておいで? 恐怖のパーティへ。
ただ、くれぐれも法則だけは破らないでね。
他は何をしても許してあげるけど、法則を破ったものには重い罪を与える。
このパーティの開催中は、法則を破るような真似をしてはいけない。
どんな理由があろうとも、絶対にだよ。
罪を犯そうとも、咎められることのない。
実に楽しい、そこは自由の世界。何にも縛られない、自由の世界。
そんな甘い誘惑に、どんどん体が侵されていく。
自分の欲望に逆らえずに、どんどん悪色へと……罪色へと……血の色へと染まっていく。
それは、仮面舞踏会の恐怖。
自由と言う枷に縛られる、愚かな人間の性。
解き放ってもいいのさ。
たった一夜の舞台。