3 ガムテープ
目を開けるといつもの部屋にやはりあの少女がいた。
どれくらい気絶していたのだろうか。
時計を見たいところだが生憎背を向けていて確認できない。
少女は俺の本棚を眺めて「うわぁ…」などと声を漏らしていた。
おい、ちょっとまて。
なにひとの本棚を漁ってんだよ!
「んぉふ!!んんい!!!」
「ふぁっ!?…あ!おきたの?」
声が出ない。
いやでないっていうか、
「あーごめんね。
だってガムテはっとかないとすぐ叫ぶし」
全身も動かない。
この野郎、全身ガムテでグルグル巻きにしやがったのか。
部屋に横たわる形でガムテに縛られる俺とそれを見下すようににやける少女。
なんなんだこれ…。
「まぁいいや、わけわかんないと思うし説明してあげるから早く座るかなんかしてよ」
お前のせいで起きれないんだよ!
バタバタと小さく飛び跳ねるように動くと少女はようやく理解したのか、口に手を当てた。
「あーそうか起きれないのか。
…魚みたい」
ブフッと吹き出す少女。
本当に腹の立つ奴だ。
なんでもいいからさっと説明してくれ。
「ふふ…まーいいや、そうだねさっき見たと思うけどこれ。
私はパソコンから出てきましたー」
まぁそれはなんとなくわかる。
ガムテもそこから出してたしな。
「で、まぁパソコンの向こうにも世界があるわけで!
私はそこに住んでるんだけど、あんたを連れてくるように命令されてやってきましたー」
なんだよそれ。
ちょっと待ってくれ、まさか俺のこと…
目で訴えていると考えを読み取ったのか、少女は笑顔で俺にひとこと。
「そ!引きずりこみにきましたー」
逃げなくては。
転がってでもいい、階段は少々痛いだろうがこの際そんなことはどうでもいい。
美少女にパソコンに引きずり込まれる。
死に方としては悪くないが生憎俺はまだ死ぬ予定はない。
ひきこもりはいらねーってか神様。
ごめんなさいちゃんと働くから!
「あっ、ちょっとなにしてんの!?」
ゴロゴロと転がってなんとか扉にぶつかったがどうやらこの扉が空く気配はない。
くそっ鍵なんかかけるんじゃなかった。
今の縛られた状態じゃ鍵をあけることはおろか、起き上がる事すらできない。
そこで背後に少女が迫っていることに気付いた。
「なに?逃げようとしてたの?でも開いてなかったみたいだね。
残念でしたー!」
がしっと俺を両手で持ち上げる少女。
え、こいつこんな力どこにあるんだよ。
「はいもうめんどくさいから送っちゃうね。
いってらっしゃーい!」
画面目がかけて俺を投げ込む少女。
画面が眼前にせまる。
待ってパソコン壊れるって壊れるって壊れるって!
やめて!!
目をギュッとつむって覚悟を決めた。
しかしいつまでたっても顔面に衝撃がくることはなかった。
「ふ…」
息はできる。
でもまるで水の中にはいったように重力を感じない。
ゆっくりと目を開けるとそこは真っ暗な空間だった。
「あーよかったなんとか入れたみたいだねラッキー」
ふわふわと浮いている俺をよそに少女は背後でなにか通信をしているようだ。
声だけが聞こえてくる。
「あーとりあえず入ったよ。
でも説明まだだからもうちょい時間かかるかも…
ってえ?いやだって仕方なかったんだもん〜
あいつすぐ叫ぶしー」
誰と話しているのかは全くわからないがおおよそこいつの仲間だろう。
話し方からして上司かなにかだろうか。
「あーはいはい、わかったって。
じゃーねー」
通信が終わったのだろうか、今度は俺の前までやってくると顔に手をかけて口にはられたガムテの端をつかむ。
「おそくなってごめんねーでももう喋っていいからとってあげるよ」
そういうと一気にベリッとガムテを剥がした。
じんわりとした痛みが広がる。
くっそこいつ…!!
何か言ってやろうと睨む。
すると少女は嬉しそうに笑って言った。
「でも叫んだらまた鳩尾殴るからね!」