乙女ゲームの世界でもセクハラは立派な犯罪です‼
「…乙女ゲームに転生とか、テンプレ乙…」
日本国内であるにもかかわらず『これは何処かの国のお城ですか?』と言ってしまいたくなるような白い校舎を見上げながら、私は口を引き攣らせた。
私の名前は色無 芽実、冒頭で出てきたお城のような学校『宙海学園』に今日から通う事になった花の女子高生です。
容姿はナチュラルボブヘアの赤みがかった茶髪に丸くて大きい蜂蜜色の瞳に、体型は細すぎず太すぎず身長も低すぎず高すぎずと平均的で、自分贔屓を除いてもかなり可愛い部類に入る女の子じゃないかなと思っています。
そしてなんと、前世の記憶を持った転生者でもあります。
あ、はい、信じるとか信じられないとか転生小説でよくある掛け合いは結構です。長たらしく説明して最終的に結果は変わりませんので。信じない人は回れ右を、信じてくれる人はどうか私の話をそのまま聞いてください。
私は物心ついた頃から「あ、私転生したんだ」ということがなんとなく分かって、記憶は虫食い状態なんてこともなく大体覚えてたタイプの転生者です。よくある転生テンプレの1つですね。
因みに死因はこれまたテンプレな車に轢かれたことによる事故死です。ただしなんと運転手はスマホを見なが車を運転してましたが。ながらスマホは前世での現代社会問題となってはいましたがまさか歩きながらじゃなくて運転しながらとかビックリだよ。スマホを見ながら運転して私を轢いた運転手のことは許さない絶対にだ。
しかも、転生は転生でもこれまたテンプレで、私の第一声を聞いた皆さんのお察しの通り私はどうやら前世でプレイしていた乙女ゲーム『Love・Fortune・Color ~私の運命はあなた色!~』の世界に転生していたようです。しかも主人公であるヒロインに。
ハマってた前世のネット小説では乙女ゲームの悪役に転生しちゃってたってパターンが多かったけど、私はヒロインだったってパターンになるとは…
先程も述べたように私結構かわいい顔だなと思ってたけど成程ヒロインなら納得ですねってか私の顔どっかで見た事あるなとは思ってたんですようん。名前はデフォ名だから曖昧に知ってるような知らないようなって感じになる訳だようん。
…うん、自分の事に関しては見た事ある気がする顔だけど聞いたことある気がする名前だけど気のせいかなとかで済むけど、髪色に関しては明らかに周りカラフルすぎでしかも染めてない天然ものだとかどう考えても同じ世界な訳ないし、学校に関してはなんでパンフレットで学校名見た時とかオープンスクール行って校舎見た時とか受験した時とかになんで思い出さなかったんだ私!! 前世的に考えても校舎の外観といいDQN臭い学校名といいおかしいじゃない! 桜か、桜が咲いてなかったからか!? いやでもゲーム期間の1年間で背景の学校はちゃんと四季に合わせて変えてたから桜咲いてなくても分かるはず! それなのに今学校に入学した瞬間に思い出したとか! 私馬鹿なのお間抜けさんなの!? 私これでも成績はいい方でこの学校もかなり偏差値が高い進学校なんだけどなぁ!?
…やめよう、なんか言ってて虚しくなってきた。
それに多分転生したけど自分が元いた世界に生まれ変わったんだと思ったのが要因だろう。異世界に転生したなんて普通思う訳ないんですよ、ええ。憧れや夢を抱いても皆心のどこかで異世界転生なんて妄想の産物のお話でしかないと思っているんだから。後歴史とかそういったところが同じだったから異世界なんて思わなかったんだ。まぁそれは私の元いた世界が作ったゲームだからベースが同じでもおかしくないよね、うん。
もう今思い出して後悔しても仕方ないよね、うん、気を取り直そう。
それに、ここが乙女ゲームの世界で私はヒロインに転生したからと言って、特にどうこう変わる訳じゃないしね。
『私ヒロインに転生しちゃったの!? それじゃあイケメン達を侍らして逆ハーレム作っちゃお☆』、な~んて事にはなりません。前世でも今世でも『私はお姫様になるの☆』とか言っちゃう電波な人間じゃないし前世で転生モノのネット小説を好んで読んでた口ですよ? そんな事したら周りからどういった感情を抱かれるのか一目瞭然ですよ。
私はぼっちになりたくない! いじめにもあいたくない!! 尻軽ビッチになりたくない!!! 前世で肉体的に死んだのに今世で社会的に死ぬなんてまっぴらごめんだよ!!!!
それにあくまでもここは現実。そんなご都合すぎる展開になる訳ないし乙女ゲームの設定そのままとは限らないのだ。現に確か乙女ゲームの設定ではヒロインは一人っ子の筈だけど、現実の私には下に弟がいる。それに攻略対象者達だって何股もかけるような女に惚れる筈もなくきっと汚物を見るような目で見るに決まってる。
後『って事はこの世界には私の好きな××くんがいるって事!? それなら××くんを絶対彼氏にしちゃうんだから!』なんて事もない。
プレイしてた身で言うのもなんなんだけど、私はこの乙女ゲームには好きなイラストレーターと声優が制作に携わっているから買ったっていう性質なんだよね。残念ながら攻略対象に好みのタイプはいなかった、しょぼん。
だから私は、ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインに生まれ変わったと分かったところで何かしようとは思わない。入学する前から考えているように学園生活を楽しみたいだけだ。
「…うん、ホント折角の乙女ゲーム転生だけど私本人は特にどうこうしたい訳じゃないんだよねぇ…」
入学式や教師による説明が終わり教室内でクラスメイトが帰宅し始めたりお喋りしたりする中で私は一人ぼんやりと外を眺めながら、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
んーでもとりあえず、一応ゲームの登場人物達に会わないように注意しようかな? 乙女ゲームの設定通りのままって訳じゃないのは分かってるんだけど、よくある物語の強制力みたいなのが無いって確実に言える訳じゃないし、私みたいに転生者がいるかもしれないしね…私の好みは攻略対象者の中にはいないから付き合いたくないし…もし転生者が脇役とかでしかも私を悪役にしてヒロインに成り代わろうとしてるだったら難しいけど…必要出費と考えてボイスレコーダー持ち歩く事にしようかなぁ…学校のいじめは結構陰湿で怖いからね…ここお金持ちもそこそこいるから余計に怖い…
とりあえず、私は最初の目標に『登場人物から避ける事』を設定した。
まず攻略対象者から。確か腹黒生徒会長、ふわふわ不思議系副会長、爽やか会計、無口書記、ツンデレ風紀委員長、後は隠しキャラの大人の色気ぷんぷんな購買員さんで全員だった筈。
攻略対象者は皆顔が周りからずば抜けてイケメンなのと名前に色の名前が入っていて分かりやすいから気を付ければ避けられるね、うん。
後気を付けるのは、ライバルキャラもといそれぞれの攻略対象者(隠しキャラ除く)の非公式ファンクラブの会長さんだよね。
サポートキャラの子は私の隣の席だから回避は難しいけど、知人以上友達未満の関係で留めとけばいいかな。隣だからって必要以上に親しくしなくちゃいけないなんて事は義務付けわれている訳じゃないし。
後気を付けるとしたら…
「…あ゛」
そして私は、最悪の事を思い出した。
「…この乙女ゲーム、『噛ませ犬』がいるんだった…」
最も、この乙女ゲームにおいて、乙女にとっての最大の敵である存在がいるという事を…
噛ませ犬、それは物語において主要人物達を際だ立たせる為のやられ役であり生け贄である存在の事だ。
そんな噛ませ犬的存在が、この乙女ゲームでも存在するのだ。
その噛ませ犬の名は『瀬谷川 慎治』、ヒロインの一つ年上の二年生だ。
瀬谷川はお金持ちの家の長男として産まれ甘やかされて育った傲慢な男で、可愛いヒロインに一目惚れして無理矢理恋人にしようと序盤辺りからヒロインにセクハラをしてきたりしてくる最低野郎だ。前世ではネット上で『万年発情期(嫌悪)』というあだ名が付けられ女の敵として嫌われていた。
勿論、噛ませ犬らしく最終的にはルートに入った攻略対象に家を没落させられて退学に追い込まれるのだが…
しかし今現在私には攻略対象と恋する気はない。
もし、もし万が一瀬谷川と私が出会って一目惚れされて付きまとわれても、ゲームと違って私には守ってくれる攻略対象者はいないのだ。
という事は、私は瀬谷川にセクハラをされる毎日を送ってしまう事になるの!?
「い、嫌だ…!」
いくら精神年齢が前世+今世で○○歳(女性の年齢は体重と同じくらいトップシークレット!)だとはいえセクハラされるなんて嫌!
女にとってセクハラされるというのは人生においての死活問題なのだ! 前世でも今世でも電車とか会社とかで女性にセクハラをする男なんて●●●が腐って捥げてしまえばいいと思ってる私に、耐えるなんて無理だ!
しかもセクハラを拒否ったり反撃したりすれば金で脅されるとか、なんて無理ゲー!? お金持ちって怖い!!
「…ぜ、絶対瀬谷川にだけは会わないようにだけ気を付けなくちゃ…!」
そして私はこの高校生活で、登場人物達に出来る限り遭遇しない事というだけでなく『瀬谷川に見かけられることなく二年間を無事過ごす事』という第二の目標を胸に抱えたのだった…
私がこの学園に入学してからまず行動した事は、校舎の間取りの確認だった。
乙女ゲームでの定番だが、攻略対象にもライバルキャラにもよく過ごす場所というのが存在する。例えば腹黒生徒会長なら自分のお城である生徒会室、不思議系副会長なら花がいっぱいの庭園とか…
なので私はそういった場所に出来るだけ近づかないようにする為に地理を把握しておかなければならないと思ったのだ。この世界が乙女ゲームの通りじゃないのは分かってるけど、でも多分その場所が登場人物達にとってはよく過ごす場所である可能性が高いからね。
そういう訳で、私は放課後の時間に探索する事にした。放課後だと生徒会メンバーは生徒会室で仕事をしてる割合が高いし、入学から一~二週間の間なら放課後は部活見学期間でもあるから風紀委員にだって声をかけられることはない。勿論下校時間ぎりぎりになってツンデレ風紀委員長に注意されるフラグなんて立たないように余裕を持って帰宅してる。ライバルキャラの非公式ファンクラブらの活動教室も真っ先に把握して(というか新入生らをそこかしこで勧誘してるからすぐわかったんだよね)近づかないようにしている。
なので現在高校生活五日目にして、私は登場人物達をたまーに遠くから見かける程度で擦れ違う事もなく平和に過ごせている。
攻略対象全員ヒロインと学年が違うとかどうなの?、とか前世では思ってたけど今はその設定が本当にありがたいです…!
「さ、後はこのあたりだけかな~」
そして私が最後に備品室など物置にされてる教室が多い棟へとやって来た。
ここをチェックすれば私は新入生の中で誰よりも学校内部に詳しい人物となるだろう…フッフッフッ、それで丁度いい空き教室を私の特等室にでも仕立てあげてくれるわ! ゲームとかお菓子とかやり放題の私のお城をね!
さぁ、いざ!
私はテンションを高くしながら最初に目に入った教室のドアを開けようとしたら、
―――――ガララッ
その前に誰か教室内からドアを開けた。
そこまでは、まだいい。
(…な、なんで…)
だけど、教室から出てきた人物に、問題があった。
(なんで目標を掲げた五日目にして、よりにもよって瀬谷川に遭遇しちゃうのさ―――っ!!!)
私の一つ上の先輩にしてお金持ちにして傲慢で万年発情期(予定)の、瀬谷川 慎治が、目を見開いて私を見つめていた。
…こ、この状況は非常にマズイ‼
今私達がいる所は普段から人通りが滅多にない場所だ。しかも今は放課後で皆部活に行ってるやら帰宅してるやらで人が来る可能性は更に低いだろう。
そして瀬谷川の目の前には(恐らく)一目惚れした女子生徒!
そして背後には(恐らく)空き教室!
いや恐らくじゃないや今更思い出したけど瀬谷川がよく居るのって空き教室だったわ!
―――どうみても『好意を抱いてる女の子を空き教室へと無理矢理連れ込んで事を致そうとする』フラグですビンビンに立って折れてくれそうにないフラッグですね本当にありがとうございます。
…い、いやぁああああああああああああああああああああああああああ‼
嫌だ! こんな所で乙女の純潔を失いたくない! 最低でも初めてはベッドがいいですいやその前に女の子にろくにアプローチもしないで強引に進めようとする人物が初めての相手とかいやぁああああああ‼
混乱している私を前にして、瀬谷川は見開いていた目を細めている。
こ、これはあれですか!? ヒロインが瀬谷川と初めて出会った時悪役らしさバリバリのいやーな笑いを浮かべて『お前気に入った、俺の女になれ』っていう台詞を言う場面が展開されてしまうんですか!? うわぁああああああああん早く逃げないといやしかし金持ち瀬谷川に逆らったら私だけじゃなくて家族がヤバいああああああせめて攻略対象者の誰か一人とでも友好関係を築いた方が良かったかもしれないでももう遅いよぉおおおおおおおおお‼
私は乙女ゲームを楽観視しすぎてたんだ。所詮現実だからそう簡単にフラグなんて立たないとたかを括りすぎていたんだ。
いや神様それならせめて攻略対象者とのフラグも頑張って立ててくださいよ攻略対象者という壁ぐらい用意してくださいよぉおおおお…
あぁ、これから私の最悪な高校生活が始まってしまうんだぁ―――ッ!!
「…新入生か? 備品室なら隣の教室だぞ、間違えるな」
「………はひ?」
しかし瀬谷川は、不愉快そうな表情をしながら命令でもなんでもない言葉を、私に投げかけたのだ。
あ、あれ? いやーな笑顔ではなく不愉快そうな表情を浮かべておりますね? その不愉快そうな表情はよく攻略対象者達に対してしてたよね? 何故私に対してその表情を?
しかも、私は瀬谷川に何か違和感を感じた。
今目の前にいる瀬谷川は不愉快そうな表情をしている。しているのだが…
私には、その不愉快そうな表情が作った偽物に見えるのだ。
それだけじゃない、私のセンサーがビビビと反応している。
あっれぇ? 乙女ゲームの瀬谷川ってそんな面一切なかったよね?
でも私の『こいつは私の好み』を直感させるセンサーがバリバリ反応してるんだけど…んんん?
「…俺は新入生と違って忙しいんだ。どけ」
私が百面相をしていると瀬谷川は私から目を反らし横に通り抜けようとした。
「えっ、ちょ」
え? スルーするの行っちゃうの?
自分で言うのもなんだけど瀬谷川ご待望のヒロインだよ?
…もしかして、この人は、私が知っている乙女ゲームの瀬谷川 慎治ではないんじゃないか?
そして私と瀬谷川が擦れ違う瞬間―――――
―――――むにゅっ
「っきゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
人通りの少ない校舎の一角で、絹を裂くような男の悲鳴が響き渡った。
…ん? 皆さん浮かない顔をしてどうしました?
何処か間違いか誤字でもありましたか?
今のところないと思ってるんだけど……え? 絹を裂くような『男』の悲鳴って部分が間違っているって?
いえ、間違っていませんよ?
何故なら…
「私が瀬谷川のお尻を掴んだことによって瀬谷川の口から出た悲鳴だからね!!」
「一体何言ってんだぁあああああああああああ今すぐにこの不埒な手を離せ痴女がぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」
そう言って瀬谷川が涙目になりながら女である私の手を全力で叩き落としてきた。そりゃもうあまりにもしつこい蚊にイライラがMAXになった時に叩き潰そうとするくらい思いっきり。
あまりの痛さに私は思わず顔を歪めた。
「痛ったー! 乙女の柔肌を手加減なしで叩くなんて酷いじゃないですか!」
「乙女は男の尻を掴んで尚且つ揉み続けねーよ!!」
私の言葉に対して、瀬谷川が怒鳴り返してきた。
まぁ確かに正論ではある。いてて。
そう、私は先程瀬谷川が横を通りすぎる時、つい瀬谷川のお尻を掴んでしまったのだ。ついでに揉んでしまったのだ。
「それに関しては申し訳ないです。けど柔らかすぎず硬すぎない触り心地のいいお尻で最高でした!!」
「こいつなに言ってんのぉおおおおおおおおお!?」
おっと、つい本音が。
しかしもう後の祭りで瀬谷川は私の事を恐ろしいものを見るような目で見て涙目になって身構えている。ついでにお尻もきっちりガードしている。
ひどいなぁ。
しかし、これで私はある程度確信を持てた。
なので確認してみるとしよう。
「ところで先輩、私達って初対面ですよね?」
「当たり前だろ! お前みたいな痴女に今まで出会った事ねーよ!」
「酷いですね! だってそんないいお尻を揉まない選択肢がありますか!? いや、ないね!!」
「ホントなに言ってんのこいつはぁぁああ!? 」
「本当の事を言ってるだけです! もし許されるならワンモアプリーズ!!
…それじゃあ最後に。初対面の私が先輩の名前を呼び捨てにしてても気にさせれてないようですが、もしかして先輩も転生者ですか?」
「ワンモアじゃねぇよ! 後確かに俺は転生し……………はぇ?」
瀬谷川は、私が後半に言った言葉の意味を理解したみたいだ。
ポカンと口を開けた呆けた表情をして私を見ていた。
うん、やっぱり乙女ゲームの瀬谷川らしくない。
「え、なんで転生って、え? そういや初対面のはずなのに、俺の名前…って事は…お前、まさか…」
そして『転生者』という言葉に、不審がったりしないという事は、つまりそういう事なのだろう。
「はい。改めて初めまして。私は、先輩と同じ転生者の、色無 芽実と申します」
嗚呼、やっぱり、瀬谷川 慎治も転生者なんだ。
だからこそ、乙女ゲームの瀬谷川らしくないんだ。
この世界に転生したのは、私一人だけじゃないんだ。
私は、瀬谷川へと、腕を伸ばした。
「―――――させるかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
瞬間、瀬谷川は叫びながら、私の腕を掴んで止めた。
「くっ、痛いじゃないですか腕を離してください!」
「いやお前なにやろうとした今なにやろうとした!?」
「なにって同じ転生者の人に会えて嬉しくて思わず抱き着こうとしてる図にしか見えないでしょう!?」
「嗚呼、普通ならな! だけどお前は…」
すぅうううう、と、瀬谷川は大きく息を吸うと、私を涙目のまま睨みつけて…
「…どう見てもお前は捕食者の目をしながら俺の胸に手を伸ばしてるようにしか見えねぇんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
校舎の中で木霊するような大声で、叫んだ。
…ちっ! 騙されなかったか!
「くっ、もうこうなったら開き直ってやる! 先輩、私―――――
――――――先輩の雄っぱいを揉みたいんです揉ましてください!!」
私は欲望のままに叫んだ。
そう、私は同じ転生者に会えて嬉しくて抱き着こうとしたんじゃない…瀬谷川の雄っぱいを揉もうとして腕を伸ばしたのだ!!
「ホントになに言ってんのこのヒロインはぁああああああああ瀬谷川って嫌われ者じゃなかったっけぇえええええええええ!?」
私の腕を掴んで押さえつけてる瀬谷川はさっきの不愉快そうな表情をどこへやら、めちゃくちゃ泣きそうな顔をして怯えていた。
ヒロインとか色々言ってるとこをみるとこの世界が乙女ゲームだという事も知ってるみたいだ。いやまぁ自分の名前を知ってるのに然程驚いた感じはしなかったのでそうだとは思っていたけど。
けど、今はそんな事は気にしてられないくらいに、私の気分が高揚していく。
嗚呼、その顔、本当に可愛い!!
この瀬谷川は、私のタイプ、ドストライクだ!!
欲求が暴走して押さえられないまま、私は叫んだ。
「―――――私、先輩みたいな泣き虫な人が大好きなんですからかわれたりいじられたりして泣きそうになったりとか転けても『痛くねーよ!』とか言っちゃってるけどホントは強がってるだけで痛くて涙目になってたりしてるのとか自信満々に言っといて結果うまくいかずに恥ずかしくって泣くのに耐えてるとかそういうのも大好きなんです私泣き虫にプラスしてヘタレとか強がりとかビビりとかもあると更にいいんですけど先輩はそんなところもあるみたいで本当に嬉しいですさっきの不愉快そうな顔してるけど内心『うまく顔作れてるかな…ってかこんな表情向けてごめんなぁ…』とかそんな事思ってて申し訳なさそうにしてたところとか男なのに年下のしかも女の子にセクハラされて羞恥で顔を赤くして泣きそうになってる顔とか今私にいい歳なのに泣き虫な人と言われちゃって悔しいけど事実だから言い返せなくて凹みまくって今にも大泣きしちゃうそうな顔とかたまりませんとりあえずもっと真っ赤な泣き顔が見たいんでセクハラさせてくださぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!」
「い、いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ変態だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
人気の無い校舎の一角から少女のセクハラ発言と少年の悲鳴というW絶叫が聞こえてきて通りすがりのツンデレ風紀委員長が思わず固まってしまっていたとか、ヒロインに追いかけられながらも瀬谷川が逃げ出した先に攻略対象者の無口書記がいてしかも瀬谷川と小さい頃からの親友になっていたとか、サポートキャラが「こ、校内でも有名なイケメン's5に入る緑沢先輩と強がってるけどホントは気弱でそんなところが可愛くて女子の母性本能をくすぐり思わず守ってあげたくなっちゃう男の子No.1の瀬谷川先輩がちっこい頃からの幼馴染あーんど親友同士ですとぉ!? こ、これは緑沢×瀬谷川ですか生BLですか!? 幼馴染で親友な無口×泣き虫とかめちゃくちゃ美味しいですハァハァ!」と戯言をほざきながら鼻息荒くしてこっそり覗き見ていたとかは、また別の話である。
いつから変態(噛ませ犬)×被害者(ヒロイン)だと錯覚していた…?
残念!これは変態(ヒロイン)×被害者(噛ませ犬)の物語だったのさぁ!!(╯⊙∀⊙╰ )
「こんなヒロインは嫌だ」と考えながら思いついて書いた結果がこれです。
連載にしようかと思ったけどオチや経過が思いつかなくとりあえず短編に。
この短編で出てる女の子二人どちらもまともじゃなくてやばいと書き終ってから気がついた。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
≪登場人物紹介≫
色無 芽実
主人公。乙女ゲームのヒロインに転生した。
可愛らしい外見なのに中身が残念な変態。好みの男の子は泣き顔が似合う子でその点転生者瀬谷川はドストライクだった。
乙女ゲームでヒロインにセクハラやらしてくる噛ませ犬の瀬谷川を警戒していたが、彼が転生者で好みのタイプだと知り逆セクハラをかますようになる。
男からセクハラされるのは嫌だけど自分からなら構わない子。お巡りさんこの子です。
瀬谷川 慎治
転生者。ゲームは姉がプレイしてた。
乙女ゲームの瀬谷川は金持ちで傲慢な態度を振るったりヒロインに一方的に惚れてセクハラをしてくるなど噛ませ犬な存在。
一応乙女ゲームの瀬谷川っぽく演じようとしてるけど全部空回りしてるくらいよく涙目になっている泣き虫。周りからは強がってるのがバレバレでそれがまた可愛いとひそかに人気があったりする。
ヒロインにちょっかい出したら家が没落すると分かっていたからヒロイン回避を目指していたのにまさかの遭遇でしかも逆にセクハラされる事になって泣きそうというか泣いた。頑張れ若人。
緑沢
乙女ゲームの攻略対象者の無口書記。
しかしここでは瀬谷川の親友で幼馴染。
乙女ゲームでは過去にとある事件に巻き込まれ他人を嫌い寄せ付けようとしないキャラだったのだが、瀬谷川が意図せずそれを解決しちゃったから他人嫌いになっていない。
サポートキャラの女の子
情報通。腐女子。