1話
廻る。
永久に廻る。
人の生命は永久に廻る。
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「はあ…。」
俺は学校へと続く長い一本道をおぼつかない足取りで歩いていた。
秋嶋廉都、17歳。
一見どこにでもいる普通の男子高校生…と言いたい所だが、俺は明らかに普通ではない。
なぜなら…
「れーーんーーとーーーーっ!!」
突如、背後から重みを感じ俺はその場にうずくまる。
俺がせっかくかっこよく自己紹介しようとしていたのに何をしてくれるんだ。
そう思いながら俺はその重みの主の顔を見る。
「いってぇ…つか重い…。」
「ちょっとお!レディに向かって何なのかなっ!?ひどくない!?」
そう言いながら自称レディこと村雨夏樹は頬をパンパンに膨らませながらこちらを睨んでいた。
本物のレディはきっと、いきなり知り合いにダイブしたりはしないのだろう。
「あー、はいはい。ごめんね、痛かったけど重くはなかったよ。」
明らかに棒読み。実際問題痛かったし重かった。
小柄で細身。肩まである栗色の光沢のあるツインテールが揺れる。先程の衝撃で地面に倒れた俺を夏樹は腰に手を当てながら見下ろしていた。
「先に学校行こうとするから急いで追いかけて来たんだよ!?まだその格好慣れてないんだから!!」
「そうだぞ廉都ー。夏樹に心配かけるとか殺すぞ貴様ー。」
「おい……朝から物騒なこと言わないでくれよ、聖也……。」
「あ、聖也おはよー!」
いきなり俺の背後から声をかけてきた青年、峰川聖也は朝からそんな物騒なことを言い出した。細身で長身、黒髪に眼鏡のポーカーフェイス。明らかにモテまくるクールなイケメン。だがその容姿に加え目が笑っていないおかげで物騒な発言がさらに物騒に聞こえる。
「廉都、何回言えば分かるんだ。俺ら《吸血鬼》は1人で出歩いたら危ないって。」
そう、俺は吸血鬼なのだ。
その証拠に牙も尻尾も角もある。
「えー……だってめんどくせえし……。」
「駄目なものは駄目なのっ!何のために私がついてると思ってるのよ!!」
夏樹はまた頬を膨らませて怒る。夏樹の背中についている翼がバサッと音を立てて開いた。
夏樹は死神なのだ。
俺の通う学校は死神と吸血鬼が集まる学園。『地獄立魔界魔族学園死神・吸血鬼科』通称『地下墓場』
俺はそこの『強行科』の1年生になる。
死神とは本来、魂の管理者である。
魂は輪廻のサイクルを廻り続け、死んでは生き返る。善人の魂も、悪人の魂も同じように。
同じ魂は同じ道を、永遠に回り続ける。
つまり、悪人の魂は汚れ続けるのである。
汚れた魂の回収、破壊するのが『強行科』の仕事である。
吸血鬼が自分の血液を契約者の死神に送ることによって魂の破壊が可能になる。………らしい。
正直、俺もよくわかっていないのだ。
ちなみに吸血鬼には牙しか武器が無く、戦闘能力が皆無に等しいため契約した死神に守ってもらうのが普通である。
俺にはまだ契約者がいない。 それは今日発表されるのだ。
契約主のいない俺は契約者が決まるまで幼馴染みである夏樹に守ってもらっている。聖也はその夏樹の契約者だ。
校門の前で足を止めた。 契約者が決まる。それがどういう事なのかよくわからないがとりあえず悪い予感しかしない。俺が校門の前で渋っていると、夏樹が手を引っ張ってきた。
「大丈夫だよ。」
いつもとは違う大人っぽい笑顔。 見たことのない彼女の表情にしばし見とれてしまった。しかし俺はすぐに現実に引き戻されることになった。
背後から感じる、鋭く突き刺さるような殺気。
ふり返れない。体が動かない。
空気が白く凍りつく。
そんな状況の中、一人の少女が校門を通りすぎた。
美しくしなやかな白髪に整った容姿。誰が見たって美人である。
しかし その少女に見とれることは出来なかった。
何故ならその少女が
明らかな殺気を放っていたからだ。
「……白き狂犬」
聖也がぽつりと呟いた。
「白き狂犬?」
「あぁ。噂でしか聞いたことなかったが本当にいたとは……。」
凍りついた空気をかき消すように学校のチャイムが鳴った。
HRの開始が迫っていることを知らせる予鈴だった。