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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
二学期の始まり、変化の始まり
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美少女、文化祭に臨む①


第九十六話 美少女、文化祭に臨む①




「アユミちゃん、準備はいいの? 具合悪くない?」


「だ、大丈夫……!」


 文化祭当日。玄関で靴を履いていると、ママが今日何度目かの言葉を投げかけてくる。

 そんなに今日の僕は危なっかしそうに見えるのだろうか。

 確かにちょっと……いや、結構緊張しているけど……。


「あゆねーちゃん、それ靴の左右間違ってるよ」


「わっ!? ホントだ」


 弟の要に言われ、間違いに気づいた僕は、慌てて靴を履きかえようとする。

 しかし慌ててたせいで、思わずバランスを崩してしまった。


「おっとっと……」


「大丈夫か? アユミ」


 と、ここで父さんに支えられて何とか体勢を戻した。

 っていうか、なんでみんなでお見送りにきてるの!? 佐倉家勢ぞろいだよ! ちょっと狭いよ!?


「「「そりゃあ。何だか心配だったから」」」


 三人そろって言わないでよ! 息ぴったしだね!

 でも、こうしてみんなで応援してくれるのはちょっと嬉しかったりもする。今日はみんなで劇を見に来てくれるし、気合が入る! ……まあ、それが余計に緊張してしまう原因でもあるんだけどね。


「アユミ。今日はばっちり写真撮るからな」


 と、例によってバズーカ砲みたいなカメラを構える父さん。


「そしたら良治さんにあげよう! ね? あゆねーちゃん」


 そしてそんな父さんの言葉に乗っかる形で要も続く。


「良治……」


 朝だというのに、顔がゆでだこのように熱くなっていく。

 だめだだめだ! 昨日の萌香ちゃんや桜子ちゃんとチャットでの話を思い出してしまって、変に意識してしまう。こんな状態で、良治と一緒に学校に行けるの!?


「どうした? アユミ。やっぱり写真撮られるのは緊張させてしまうか?」


 父さんがちょっとだけ困った顔をする。僕の様子が普段と違うからか、気づかってくれているようだ。


「あ、ううん……。そうじゃないよ。その。どうせ撮るなら――」


 そう、良治にも渡すのなら――。


「可愛く撮ってね?」


 ガタンと大きな音を立てて。要が玄関に尻餅をついた。

 父さんは、何故か涙を流し始める始末。


「パーフェクトよ、アユミちゃん! ああ、こんなに立派な女の子になって。ママ嬉しいわ!」


 そして母さんには抱きしめられた。

 一体何がどうなったと言うの!? うちの家族はやっぱりみんなおかしいよ!


「そ、それじゃあ行ってくるからね!」


 玄関で様々な反応をしてる家族三人を置いて、僕は玄関の外に出る。

 丁度良治が来たところで、自転車をとめて立っていた。


「ご、ごめん。待たせた?」


 何となく顔を見ることが出来なくて、僕は視線をそらす。


「いや? いつもより時間かかってるなとは思ったけどな」


 確かに、玄関でのアレコレのせいで、ちょっとだけ時間が押している。

 今日は文化祭当日で、開場したタイミングから動かなければならないので、早めに登校しなきゃいけない。少し急がなきゃ。

 僕は慌てて良治の元へと駆け寄る。いや、駆け寄ろうとしたのだけど、緊張からか変に強張ってしまって、途中で足がもつれてしまった。

 ――やばい、転ぶ!?

 

「危ないぞ。当日にいきなり怪我は勘弁してくれな?」


 盛大に転ぶかと思ったけど、その未来は訪れなかった。

 危なっかしい僕の動きを見越してだったのか、転ぶところで良治が受け止めてくれたようだ。

 受け止めて……。

 そう、僕の体は良治にがっちりと抱きとめられており……はたから見れば抱き合ってるようにしか見えない状態。

 こんなに密着しちゃうなんて。心臓が暴れすぎてる。今までに、こんなにドキドキすることなんてなかった。

 それに呼吸をすると良治の匂いがして――。

 って、なんだ匂いって!? 変態じゃあるまいし! ちょ、ちょっと昨日から意識しすぎだよ。落ち着くんだアユミちゃん。大丈夫、僕は元気デス。


「おいおい、大丈夫なのか? まさか足くじいたとか?」


 僕の反応が一向にないせいで、良治を心配させてしまったようだ。


「だ、大丈夫」


 僕は可能な限り平静を装って、良治の顔を見上げる。まあ平静を装っても、顔は多分赤いだろうね……恥ずかしい。

 あ、パニックになってたせいで、目に涙たまってるや。

 僕の返事を聞くと、良治は「ぐっ」とよくわからないうめき声をあげて顔をそらした。今の僕って、そんなにひどい顔してるのだろうか。


「と、とりあえず駅まで行くぞ」


 良治は何かを振り払うかのように、ぶんぶんと頭を振って、そう言うのだった。



************************



 文化祭が始まると、徐々に一般のお客さんも入ってくる。

 僕ら一年A組も、プラカードや案内のチラシを持って、十五時からの劇の宣伝に精を出していた。

 勿論僕や良治もチラシ配りに専念している。結構な頻度で写真をお願いされたりするので、軽くミスコンの事にも触れておいたりもしている。優勝できないだろうけど、そこそこ知名度を上げるだけでも、二日目の劇にいい影響を与える気がするからだ。

 ミスコンの発表すぐ後に劇、いいタイムテーブルだよね。


「何度見ても、アユミのその衣装可愛いな!」


 そう言いながら良治が僕の頭をぽんぽんと撫でる。

 子ども扱いされてるみたいで微妙な気分ではあるけど、可愛いと褒められるとやっぱりちょっと嬉しい。でも劇までの間に汚さないようにしないといけないので、結構気を使っているのだ。勿論お昼の時は着替えるつもりでいる。

 良治の衣装はというと、袖がちょっとひらひらした白い長袖シャツに、ややぴっちりした茶色いズボン。一応舞台で目立つように赤いマントをつけてはいるけど、総じて装飾は地味だ。

 僕の衣装は藍香ちゃんが全力投球して作った一点ものなので、ぶっちゃけると他の衣装と比べて結構浮いていたりする。


「良治の衣装も、かっこいいよ」


 ちょっと恥ずかしかったけど、僕は思ったことをそのまま返す。


「お、おう……」


 僕のことはからかうくせに、自分に振られるとその反応なの!?



 そんなこんなあって、結構な枚数のチラシを配ってた僕たち。

 少し疲れてきた。履きなれていない靴でもあるし、動きにくい上に、コルセットみたいなのをつけてるから息苦しさもある。町娘なのに、こんなフル装備でドレスみたいなの着てるのってやっぱりおかしくない!?


「ちょっとベンチで休むか」


 良治の言葉に僕は頷く。辺りを見回すと、丁度空いているベンチがあったので、汚れてないかの確認だけして腰掛けた。

 足が疲れてたのか、じーんとする。


「なんかジュースでも買ってくるわ。何がいい?」


「果物の……甘いやつ」


「なんだその言い方。子供か!」


「う、うるさい」


 良治は苦笑すると自販機のある方向へと走って行った。風を受けマントがたなびいている。なんだか無駄にカッコいい。

 良治が戻ってくるまで、やることもないので僕はスマートフォンを取り出す。

 昨日の寝る前の蒼井君のメッセージをもう一度読む。

 彼は文化祭に来るという。僕が日程を教えたんだし、何も不思議ではない。


 僕は、どうすればいいんだろう――。

 前に桜子ちゃんが言ってた。「蒼井君と遊ぶときに深い意味を持たせなければいい」と。そうなのかな……。確かに、告白されたわけでもないし、告白したわけでもない。

 何をするのが正しいのかはわからない。

 

 もうわかってるんだ。

 僕は、良治の事が好きなんだ。

 でもそれはきっと、僕の想いってだけで、良治はそう思ってない。だって、良治は僕が男だったことを知っているから。女の子として生きていくというのは、あくまで僕の決意であって、良治の気持ちではない。

 良治は親友だから、僕と遊んでくれるし、助けてくれる。でもきっとそれは、親友という枠内から出ることはないんだろうな。

 今までは自分のことすらわからなかった。でもわかってしまうと、今度は相手が思ってることが怖くなる。

 ……だからと言って、一度わかってしまった自分の気持ちが揺らぐことはなく。

 

 曖昧なまま、心を見ようとしないままでいたなら、きっとどっちつかずの態度でいられたのかな。

 今の僕は、蒼井君を前にして、いつもの自分でいられるのかな。

 

 変な話だよね。良治とだって付き合ってるわけでも、付き合えるわけでもないのに。勝手にギクシャクして、はたから見れば滑稽かもしれない。

 桜子ちゃんだったら「キープしておけば?」みたいにしれっと答えてしまいそうだけど、不器用な僕には難しいよ。


「はあ……」


 僕はため息をついて、空を仰いだ。


「あれ、佐倉さん?」


 呼びかけられた方向に体を向けると、そこには蒼井君がいた。こんなタイミングで会ってしまうなんて。

 心の準備ができていなかった僕は、なんて答えていいかわからず、ただただ黙ってしまった。

 彼は、部活の友人の二人を連れてきているようだ。


「どうしたの? 休憩?」


 蒼井君は、友人二人を置いて僕の前まで駆け寄ってきた。


「……うん」


 内心、どうしていいかわからず、心の中はぐるぐると何かが渦巻いていた。

 ようやく絞り出したのが、「うん」の二文字という始末だ。


「そうなんだ。それって前に言ってた劇の衣装? すごくかわいいね」


「ありがとう」


 蒼井君に言われると、やっぱり嬉しい。嬉しいと思う気持ちは間違いない。

 でも、このドキドキも良治の時とは違っていて。

 僕の方からも、会話を続けることができず、蒼井君の方も僕の様子が少し違うので戸惑っているようだ。

 そして、そんな沈黙状態の二人の元へ――、


「アユミ、どうした? 知り合いか?」


 良治が帰ってきた。

書けそうな気がしてきました╰(*´︶`*)╯

気分的に盛り上がってきました! この盛り上がりを文章で書ききれないのがセツナイ。

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