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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
二学期の始まり、変化の始まり
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美少女、文化祭の前に

第九十五話 美少女、文化祭の前に




 いよいよ文化祭を明日に控え、学校全体が文化祭本番へ向けての最後の準備を急いでいる。

 教室で喫茶を開くようなところは飾り付けを急いで進めていたり、屋台を開くところは当日の下準備を進めている。

 僕らは劇なので、教室は開放しない。主に荷物置き場として使い、当日の更衣室代わりにもなる。尚、更衣室代わりに使うのは男子くらいで、女子はちゃんとした更衣室が使える。

 体育館のステージは僕らのクラスを含め、色々な部活やクラスが使用するため、タイムテーブルがしっかり組まれている。僕らの劇は文化祭の一日目、二日目ともに十五時からスタートとなっている。

 十五時からだと言って、それ以外の時間が暇なわけではない。当日はみんなで朝からずっと看板を持ってPR活動をすることになっている。劇で使う衣装を着て、公演の時間と題目をアピールする。少しでも劇を見に来るお客さんが増えるように頑張るのだっ。

 

 ……ちなみに僕はすっかり忘れていたのだけど、ミスコンも体育館で開かれる。

 二日目の十一時から応募者へのちょっとしたインタビューをして、十四時に結果発表らしい。

 そう、そしてそのミスコンには僕も参加することになっている……。そういえば文化祭の準備が忙しくなってきたあたりに、写真を撮ったなあ……とそんなレベルで気にしてなかった。劇の練習が忙しすぎて、それどころじゃなかったのだ。

 その写真は今頃文化祭のホームページ上に公開されてることでしょう。エントリーした人を事前に確認可能なようにってことらしいんだけど……。まさかインターネットに写真が載せられてしまうなんて! なんてことだ! いや、写真撮る前になんか同意したけど!

 ま、まあ気楽に考えよう。どうせグランプリになんて選ばれはしないのだ。ああいうのは、もっと綺麗なモデルさん……そう、芳乃さんのような人が選ばれるんだ。僕みたいなちんちくりんは、同じ土俵に立っていないのだ。自分で思ってて、ちょっと悲しいけど。

 そりゃ、ミスコンに選出されれば、結果発表の後にすぐ僕らの劇というドンピシャなタイミングだし、いい宣伝にはなるんだろうけどね。残念ながら、そんな都合のいい話にはならなそうだ。



 お手洗いに行った帰りに、教室までの廊下を歩いていると、殺風景だった廊下が文化祭のカラフルな飾り付けで綺麗に生まれ変わっていた。

 教室で出し物をするところは、扉や教室の壁が華やかな感じになってきている。

 今日は授業がないので、まる一日を準備に充てられる。とは言え一日つかえても時間に猶予があるわけではないので、みんな急ピッチで準備しているのだ。そしてその短時間で、教室や廊下が生まれ変わっていく。お祭り前の雰囲気はとても好きだ。

 僕らのクラスも大道具の最後の点検をしたりしているし、この後リハーサルもする予定のはず。

 教室の扉を開けると、さっそく萌香ちゃんから声がかかる。


「アユミちゃーん」


「どうしたの?」


「えっとね。藍香から衣装を受け取ったんだー! だから早速着てみてほしくて」


「おおー! ホントに藍香ちゃんが作ったんだ。すごいね!」


「ふっふーん。藍香のは結構すごいんだよー!」


「そうなんだ。更衣室で着替えればいい?」


「うんうん♪ じゃあ着替えさせてあげるねっ!」


「え……?」


 そのまま萌香ちゃんに手をつながれて、一緒に更衣室へ。


「えっと、一人で着替えられるんじゃないかなって思うんだけど……」


「だめだめ! 結構難しいんだからっ!」


「えー……」


 そうして出てきた服はフリルがふんだんにあしらわれた、薄い水色のワンピースだった。そこに濃紺のパンプスと、白いストッキング。不思議の国にでも行きそうな服なんだけど、ヒロインは確か町娘だったような……? こんなに可愛らしい服が一般市民に手に入るのだろうか。

 ま、まあ高校の劇だし、創作だし、中世ヨーロッパとかじゃないからいいのかな?


「えっとねー、まずストッキングをはいて、そのあとペティコートを履いて――」


 なんかいろいろ本格的なのね。よく作ったものだと思う。

 はっきり言って、着替えの仕方がわかりませんでした。萌香ちゃんの着せ替え人形のように、言われたままに装着していく。まさか衣装を着るのにこんなに苦労するとは……。

 何とか着終わると、ちょっと息苦しかった。うう、コルセットみたいなものも着けるなんて。町娘だよね? 町娘というより、装備が貴族っぽいんだけど……。そこまできつくはないんだけど、普段つけてないから異物感がすごい。

 と、そんなことを呟くと、萌香ちゃんが「劇なんだから、とりあえず華やかで目立つようにしたらしい」とありがたい答えを聞かせてくれた。


「よーっし♪ あとはお化粧ね!」


 そういうと、萌香ちゃんはにこやかにメイク道具を取り出した。

 更衣室に鏡なんてないので、一体どんな感じにメイクされているのかがわからないのが不安だけど、自分でメイクやったところで上手くなんてできないので、大人しく萌香ちゃんのなすがままにされる。

 萌香ちゃんは、しばらくあれこれやっていたようだけど、ようやく満足のいく出来になったのかにっこりとほほ笑んだ。


「これだけ可愛ければ、きっと良治君も喜ぶよ♪」


「うぇっ!? な、なんで良治が出てくるの?」


 突然出てきた名前に僕はドキリとした。おかげで変な声まで出てしまった。


「あれあれ、違ってた? アユミちゃん、良治君と一緒にいるときが一番いい笑顔してるから、もうそういうものだと思っちゃった」

「ええええ!? ち、違うよ!? その、良治とはまだ……」


 まだ……なんなんだろう。

 ふと、そう思ったけど、萌香ちゃんと二人でいる今、その問いへの答えを出すことは出来なかった。


「んっふっふー。なるほど! でも大丈夫! ほら、こんなに可愛い!」


「だからそう言うのじゃないんだっ……あ……」


 萌香ちゃんが取り出した手鏡には、メイクした僕の顔が映っていた。これが僕なのか……。劇向けと言うこともあって、若干厚い化粧にはなっているけど、どことなく清楚で上品な感じには見える。

 芳野さんにメイクしてもらった時も思ったけど、お化粧の力は凄い。顔が変わったとか、そういうわけではないんだけど、何だか生まれ変わったみたいだ。

 ……これなら良治は喜んでくれるかな? 可愛いって言ってくれるだろうか。

 ――ああもう、なんでそこでいちいち良治が出てくるのっ! 萌香ちゃんが変なこと言うから妙に意識してしまう。


「ほら! アユミちゃん、嬉しそうだよ? ニコニコしちゃってー」


「だ、だから!」


「はいはい♪ 可愛くなったアユミちゃんの姿を……って元から可愛かったねっ。じゃあ、宇宙一可愛くなったアユミちゃんの姿をお披露目に行こう!」


「飛躍しすぎでしょ!?」


 とか言いつつ、僕は少し楽しみだった。今の僕の姿を見たら、良治はなんて言うだろう。

 僕もメイクを勉強してみようかな、なんてね。


 そんな風に気楽なことを考えていると、不意に胸の奥がズキリとした。


 このままでいいの? と自分の中で何かが問いかけてくる。

 何がこのままなの? と自分自身への問いかけに、さらに問いかけで返す。


 ――いや、わかっている。良治の事、蒼井君の事。

 僕は自分のことばかりだ。自分からは何もせず、周りの環境が変化するのに任せて自分からは動こうとしていない。

 褒めてもらいたい、大事にされたい。自分からは何も動かないくせに、求めることは一丁前だ。

 女の子になった当初はそれでも良かったんだと思う。でも今は、きっとそれだけじゃダメなんだと思う。


 蒼井君のことを考える。

 僕は彼をどう思っている……?


 良治の事を考える。

 僕はどうしたい?

 

 ――このまま、僕が何もしなければ何も変わらないのかもしれない。そうすれば、ぬるま湯に浸かったような毎日を送れるのかもしれない。

 でも、それはきっと自分が本当に求めていることでもなくて。そして相手にも失礼なことで。

 僕は、どうしたいんだ……。



「はい、とうちゃーくっ!」


 考え事をしていたら、いつの間にか教室の前まで来ていたようだ。

 心の準備をする時間すらなく、萌香ちゃんはそのまま勢いよく教室の扉を開けた。

 


「見て見てー! アユミちゃんの衣装姿だよー」


 しかもわざわざ皆の注目を集めてくれたりもした。


「おー!」「かわいいー」「後で写真撮ろうよ」「持ち帰りたい!」


 みんなの評判も良いみたいで、本当に良かった。


「アユミちゃん、本当によく似合ってるし、とても可愛いわ。これからずっとその服で過ごしてほしいくらい」


 と、これは桜子ちゃん。

 似合ってるって言ってくれるのは嬉しいけど、ずっとこの服はね……と僕は苦笑する。

 クラスメイトに混じって、良治も僕の方を見ている。良治はどう思ったんだろう。変だって言わないよね……。

 そんなことを考えていると、桜子ちゃんが僕を見つめているのに気付いた。


「どうしたの?」


「うーん、ちょっとね」


 頭に疑問符を浮かべる僕をよそに、桜子ちゃんは、ぽんと手を叩いた。


「そうだ、アユミちゃん。ちょっとチラシをコピーして来て欲しいの。多川君と一緒に行ってきてくれる?」


「え? 良治と?」


「うん。お願いー。結構な枚数だし、二人で行ってきて」


 半ば追い出される感じで、僕と良治は教室から外に出ることになった。

 枚数が多いとは言え、紙なんだし一人でもできる気がするんだけどなぁ。

 良治と一緒に廊下を歩く。コピー機は図書室か資料室、または職員室にある。職員室のコピー機は基本的に使えず、資料室も普段は鍵がかかってて使えない。図書室のコピー機も普段は図書室利用者くらいしか使えないんだけど、この時期に限って開放されている。 そんなわけで、僕らは図書室まで向かっている。

 更衣室から教室までの移動は、考え事をしていたおかげもあって他人の視線に気づかなかったんだけど、こうして歩いていると結構気になってしまう。


「そ、そういえば、良治は衣装着ないの?」


 そんな気恥しさから、僕は何とか良治に話題を振る。


「そうだなあ。もうすぐ大道具の準備終わるから、そのあとかな。ぶっちゃけ、ちょっと恥ずかしいわ」


「いつも人にメイド服着てくれーだの言ってるくせに……」


「アユミは別。俺は俺」


「なにそれー」


 横暴な理論に、僕はあきれてしまう。


「それはそうと……」


「ん?」


 良治にしては珍しく、少し言いにくそうな様子を見せている。なんだろう、ちょっと頬をかいたりして……。


「アユミ、その……衣装よく似合ってるぞ」


 な、なんで、そんな真面目な感じで言うの!? いつもみたいに茶化したノリじゃないせいで、すっごい恥ずかしい……。

 カーッと顔が熱くなっていくのを感じる。耳たぶまでアツアツだ。


「あ……うん。ありがと……」


 絞り出すようにして、やっと答えたけど、多分僕の顔は真っ赤になっているだろう。

 でも、そっかぁ。似合ってるかぁ。


「よかったぁ」


「……ちょっと、深呼吸させてくれ」


 僕の顔を見た良治は、顔をそむけてスーハースーハーと深呼吸を始めた。

 変なの、と思いながらも僕も呼吸を整えることにする。良治から不意を打たれた感じになったせいで、ドキドキしちゃってるし、顔も冷ましたい。でもなんだか胸の奥が暖かくて、それに自然と口元が緩んでしまう。

 萌香ちゃんが変に意識させるから、きっとこんなことになってしまうんだっ。

 ……ううん。違う。

 そうだ、これは――。





 ***********************************



 文化祭の準備もリハーサルも無事に終わり、後は本番を待つだけとなった。

 明日に向けて、早く寝ないといけないのに、気持ちが妙に昂ぶってしまっていた。緊張、もあるけど、わくわくしている部分もある。

 僕が劇の主役をやるなんて、男の子だった時には考えられないことだ。そしてそれを楽しみに思えるようになったことも、だ。


「誰か、起きてるかな?」


 スマートフォンのメッセンジャーアプリを起動する。

 ありゃ、何個か未読の状態のがある。

 萌香ちゃんと桜子ちゃんの会話が続いていたので、僕も混じることにする。


「こんにちは……と」


 相変わらずの遅い入力なのだけど、不器用だからね……仕方ないんです。ひょっとすると、フリック入力じゃなくて、昔の携帯電話みたいな入力の仕方の方が僕には合っているのかもしれない。


『あれー、アユミちゃんが起きてるの珍しいねー』


『ホントだ。こんばんー』


 普段は僕は割と早めに寝ちゃうからね。今日は緊張して寝られないと打ち込む。


『遠足前の小学生みたいね。萌香と同じね』


『待って、待って! さりげなく私を混ぜないで!』


 と桜子ちゃんの一言に萌香ちゃんが憤慨している。僕も「そんなことない」って返したいところなんだけど、悔しいけどその通りなので何も返せなかった。


『そんなことより、今日どうだった?』


 萌香ちゃんを軽くスルーして、桜子ちゃんが話を振ってくる。


『どうって?』


『多川君と二人でコピーに行ったでしょ? なんかなかったのかなーって』


 あの無理やりな二人組でのコピー作業は、そういう意図が……! 萌香ちゃんといい、桜子ちゃんといい、なんで構いたがるの。

 とりあえず、何もないって返しとこう。


『あれあれー、嘘ー。アユミちゃん、戻ってきてから良治君のことを見てはニヤニヤしてたよ』


『えっ!? 萌香ちゃん、それホントに!?』


『うん』『うん』


 そんな二人でほぼ同時に返事しなくても……。


『萌香の言うとおりよ。だから、いいことあったんだなって思ったの』


『それは……』


『聞きたーい。ひょっとして告白されたりとか……!?』


 こ、告白!? 萌香ちゃんのメッセージに僕は慌てて否定する。

 そんな、なんでそんな話に? そもそも僕と良治はそういう仲ではないし……。


『あれ、アユミちゃんって良治君のこと好きじゃなかったの?』


『え……?』


 萌香ちゃんの一言に、僕は言葉に詰まる。


『勘違いだったかな。そうだったら、余計なことだったかも。ごめん……』


「あっ……」


 どう返したらいいのか僕にはわからなかった。


『わからない』


 僕はそう返した。

 僕は、良治が好き?

 友達して、親友としては勿論好きだ。でも、萌香ちゃんが言っていることの意味は、そういうのではなくて。

 良治と、男女の付き合いをする? 僕と良治が!?

 僕は、顔がまた熱くなっていくのを感じた。 顔の火照りを冷ますために、枕に顔を突っ込む。ひんやりとした感触が気持ちいい。

『そっかあ。じゃあさ、わたしと桜子で質問するから、答えてみて?』


 萌香ちゃんの提案に僕はOKと返した。本当は聞かれると恥ずかしいと思ったんだけど、でもひょっとしたら、自分の事を整理できるかもしれない。そう思った。


『前に良治君が取られちゃうかもって思った時は嫌だった?』


『うん』


『衣装を多川君に褒めてもらいたかった?』


『……うん』


『できれば良治君と一緒に登下校したい?』


『うん』


『多川君がそばにいないと落ち着かない?』


『え……そうかも……』


『良治君と一緒に遊ぶなら何でも楽しい?』


『うん』


 これ以降もいくつかの質問が続いた。

 しばらくして、二人からの質問が止まると、沈黙が訪れる。

 萌香ちゃんたちは聞きたいことを聞き終えたのかな。ひょっとすると二人で会話しているのかもしれない。

 僕の方も一つ一つ整理していったおかげで、自分の心が理解できた。ぐるぐるとした思考の渦から抜け出せたのかもしれない。

 むしろ、こんなに想っていたのに、なんでそれに気づかなかったのか。いや、気づこうとしなかったのか……。

 

 そう、僕は――、


 と、その時スマートフォンがぶるぶると震えた。

 画面に目を落とすと、プッシュ通知でメッセージが届いた旨のお知らせが出ていた。

 差出人は、蒼井君だった――。

続きが書けた(安堵)。

色々と思うところはあるのですが、なんとか出せました。

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