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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
二学期の始まり、変化の始まり
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美少女、戸惑う

遥か昔なのでちょっとだけ補足

須藤君→文化祭の劇の主役(ヒロインの幼馴染役)

三田君→文化祭の劇の台本を作成

第九十四話 美少女、戸惑う



 文化祭まであと一週間まで迫った。放課後の練習も今まで以上に熱が入り、大道具なども徐々に完成していっている。

 放課後練習のさらにそのあとの良治との練習の甲斐があったのか、僕の演技もなかなかのものになってきたんじゃないかと思っている。

 ……あくまで自己評価ですがっ。

 

「うん。俺も劇の事はわかんないけど、初めよりは大分よくなってると思うぞ」


「ほんと!?」

 

 今日の良治との練習が終わると、良治が僕の演技を評価してくれた。

 ぽんぽんと頭を撫でて子供みたいな扱いをするのはいただけないけど、でも何だか嬉しかった。

 なんだろう……。みんなとの劇の練習で褒められたりするより、体の奥底からこみあげてくるような、そんな不思議な感覚を覚える。


「ああ。これなら当日ミスんなきゃ大丈夫じゃないか?」


「そっかぁ……。本番、緊張するなあ」


「今から緊張してもしょうがないぞ」


 それもそうだ。でもここまで来たのも、良治に練習に付き合ってもらったおかげだ。気心の知れた相手と練習できたおかげで、大分捗ったと思う。クラスでの練習だけだと、きっとこうはいかなかっただろう。


「ねえ、良治」


「なんだ?」


「ありがとう」


 ちょっと恥ずかしいけど、ちゃんと良治の目を見て言えた。上手く感謝の気持ちが伝わっただろうか。その後良治の反応がないので、ちょっと心配になる。

 

「良治、大丈夫?」


「あ、ああ。どういたしまして?」


「なんで疑問形なの」


 変な良治だ。いつもみたいに軽く流すと思ったのに、今日は疲れてるのかな? 大道具の作成も佳境に入ってるしね。

 良治と家の前で別れ、僕は自宅の玄関の扉を開ける。


「ただいま」


 ぱたぱたとスリッパの音がしたと思うと、リビングへのドアが開き、ママが顔を出した。


「アユミちゃん、お帰り。ご飯もうできてるから、早く着替えていらっしゃい」


 僕はママの言葉に頷くと、靴を脱ぎ二階への階段を上がる。

 制服を脱ぎ、部屋着へと着替える。最近は劇の練習で遅くなることも多いので、晩御飯の手伝いはなしにしてもらっている。でも、その遅くまでの練習の甲斐あって、僕の演技も上達して来ている。

 文化祭当日は保護者や兄弟姉妹も招待されているので、僕の練習の成果を見せられるはずだ。ちょっと恥ずかしいけど、頑張ろうと思う。



********************************



 夕食も終え、お風呂に入る。

 洗面所でふと鏡を見ると、そこには年齢より幼く見える女の子の姿が映っている。当たり前だけど、僕の姿だ。

 この姿を見るのも、もう約半年だ。今となっては、裸を見ることにわたわたしてた時期もあったなあ、なんて思ってしまう。

 僕が男だった時の記憶も勿論あるけど、今はこちらの方が僕なんだとも思えてきている。アユミになってから、大切なものもたくさんできた。これは男の時にはなかったものだ。

 

 湯船につかると、色々なことを考えてしまう。いや、最近になって色々と考えることが増えた。

 部活のこと、萌香ちゃんや桜子ちゃんのこと、劇の事。蒼井君や良治の事……。

 鈍感だと言われている僕でも、蒼井君が僕に好意を持っているだろうってことはわかる。そしてそれは嫌じゃない。

 ……では、仮に、もし仮に蒼井君が告白して来たら、それにOKを出す……?

 何かがもやっとする。

 蒼井君とは何度か……で、デートのようなこともしたし、楽しかったのは確かだ。僕の事を考えてくれているのもわかるし、紳士的な態度だと思う。では、何かが違うような、そんな風にも思う。

 こんなよくわからない気持ちで彼の誘いに乗るのは誠実さに欠けているように感じる。これでいいのだろうか。そもそも、僕に魅力なんてないのでは?

 僕はどうしたいんだろう……。わかんないや。

 

 お風呂に沈み、ぶくぶくと気泡を吐き出す。

 良治のこともある。良治にラブレターが来たとき、僕はどうしてあんなに焦ったのだろうか。

 仲のいい友達が離れてしまうから? 本当にそうなのだろうか? 良治がラブレターの主と付き合う気がないと言った時、僕はほっとした。それは、ひょっとして……。

 

 僕はぺちぺちと頬を叩く。

 少しのぼせてしまったみたいだ。お風呂から上がり、バスタオルで体をふく。

 鏡で自分の姿を見ると、そこには当然僕の姿が映っている。少しだけ困ったような顔をしていた。


「はあ……。この姿になってから、まったく身長も変わってないし……」


 それに、胸の大きさとかも変わっていない。もしかして成長止まってる……なんてことないよね。

 スタイルがよければ魅力的だなんて思ってはいないけど、でもやっぱり欲しいもは欲しい。こんなことを悩むなんて、昔の僕じゃ考えられなかっただろうけど。それに良治だって、スタイルがいい女の子の方がいいに決まって……ってなんでここで良治が出てくるんだろう。

 ぶんぶんと顔を振って、変な気持ちを追い払おうとしたけど、あんまり効果はなかった。なんで余計なことまで考えてしまうんだろう。

 結局、このもやもやした気分は布団に入って眠りに落ちるまで続いた。





********************************


 翌朝、いつものように良治と一緒に教室に入ると、教室の中がいつもよりざわついていた。

 その雰囲気から、何か良くないことが起きたのだと推測できる。


「あ、アユミちゃん! おはよっ」


 萌香ちゃんが僕に気づいた。


「おはよう、アユミちゃん」


 次いで桜子ちゃんが挨拶してくれたので、僕も「おはよう」と返す。


「ねえ、何かあったの?」


「みたいだね。私も今来たばかりだからわかんないんだ」


 と言って萌香ちゃんは首をかしげてみせる。


「あ、佐倉さん!」


 三田君が僕の方に駆け寄ってくる。


「どうしたの?」


「実は……、須藤君が事故で入院したらしい」


「えっ? 今なんて?」


 僕は三田君の言葉に思わず聞き返してしまった。

 しかし返ってきた言葉は同じだった。須藤君が入院? 幸い大怪我ではないらしいけど、一年A組としては窮地に立たされたことになる。

 何故なら彼は文化祭の劇での主役なのだ。僕がヒロインなのでその相方となる。運動部らしい須藤君は、元気いっぱいでやる気満々、勢いもあったことから劇の役もかなり上手にこなしていた。

 それが、文化祭本番の一週間前に入院となると……。


「怪我自体は重くはないんだが、それでも一週間以内に退院は無理みたいでね……」


 と言うと、三田君はため息をつく。

 ここでホームルームのチャイムが鳴ってしまったので、僕らは一旦席についた。

 僕たちの劇をどうするかを話し合うには、ある程度まとまった時間が必要だろうということで、放課後に話し合いを行うことになった。




 放課後――。いつもは大道具やら何やらを引っ張り出してドタバタしているのだけど、今日に限っては全員着席した状態だった。


「えーと、須藤君が入院となってしまったことで、劇の主役を演じるのが難しくなってしまいました。今日はこれからどうするかを決めたいと思います」


 進行役は桜子ちゃん。その言葉にざわつくクラスメイト。


「やっぱ代役を立てるしかないんじゃないか?」


「今からって無理じゃね。あと一週間もないぞ」


「でも佐倉さんとの主演だぞ!」


「それは捨てがたいが、失敗したらどうすんだ」


「だからと言って劇をやめるっていうのも難しいわ」


 代役を立てるか劇をやめるかの二者択一。でも準備を進めてしまっていることと、残り一週間を切っている現状、劇をやめても他の出し物の準備はできない。

 しかし、代役を立てるのも……劇のキャスト以外は練習もしていないし、台本も読み込んではいない。そんな中で代役に立候補する人はいないようだ。

 司会をしている桜子ちゃんもどう纏めればいいのか困った様子。

 残り一週間以内で、主役のセリフも覚えてて、台本も頭に入っている都合のいい人なんて……。


「あっ……」


 いるじゃん。

 僕は良治の席に目を向けた。すると良治は一回ため息をついて頭をかいた。


「俺が代役をする!」


 ざわついていたクラスが静かになった。


「マジで!?」「大丈夫なのかよ!」「助かるわ!」


 などなど、様々な反応がクラス内を駆け巡る。


「えっと……。多川君、大丈夫なの?」


 桜子ちゃんが良治に確認をする。良治は「任せてくれ」と頷く。

 しかし、クラスメイト達は半信半疑の状態だ。期限が近い上に、良治は大道具係。つまり普段の放課後練習では劇を見る機会は全然ない。本当に任せてしまっていいのかの判断ができないんだ。

 だから、ここは僕が大丈夫だってことを教えてあげないと――。うう、発言するのは緊張する……。

 でもっ! ここで言わないと、折角みんなで頑張ってきた劇が終わってしまう!

 僕が挙手をすると、桜子ちゃんはびっくりしたようだったが、すぐに発言を許可された。


「えと……。良治は、毎日僕の練習に付き合ってもらってるから、須藤君の分のセリフは全部覚えてると……おもう」


 みんなが一斉に注目してきたので、後半になるにつれて声が小さくなってしまったけど、多分聞こえてたと思う……。

 あんなにざわついてたのに、僕が喋るときだけ全くの無音状態だったからねっ!


「そういうわけなので、台本はばっちり覚えてるぜ」


 良治の一言を契機にまたクラスは騒がしくなる。

 何故か良治への罵詈雑言の嵐になっていた。


「抜け駆けしてんじゃねー!」「二人で練習ってどういうこと!?」「立候補に感謝したいが殴りてぇ」


 ……おもに男子陣からの批判が激しいようです。

 しかし、現状良治以上に役をこなせそうな人がいないため、良治が代役をするということで話はまとまった。

 その後の練習で、良治が本当にセリフや台本を覚えていることが証明できたので、クラスは何とか落ち着きを取り戻した。




********************************




 すっかり日も落ちてしまい、暗くなったところを僕と良治は並んで歩いていた。

 良治は自転車を押している。流石に暗い道を二人乗りで走るのは危ないのでこうなっているのだ。

 今日の劇の練習は、始まった時間が遅かったのも相まって、かなり遅くまで続いた。結果として、こんな真っ暗な道を歩くことになっているのだ。

 疲れもあって、僕と良治の間の会話は少ない。

 でも……会話が少なくても、良治とだと不思議と居心地がよかった。何か話さなきゃって焦ることもない。


「……ねえ良治」


「どうした?」


「劇の代役、ホントに良かったの?」


「アユミが気にすることじゃない。実際のところ、俺くらいしか代役できそうになかったしな」


「でも。なんか無理に立候補してもらったみたいで」


「いやいや。アユミがこっちに視線送らなくても、立候補はしてたさ。俺はエスパーじゃないんだし、目が合ったからといって、やりたくもない事をやる気にはならないさ」


「そう。ほんとに?」


 僕は良治の目を覗き込む。良治の目が少し泳ぐ。


「そんな顔で上目遣いは反則だろ」


「何が反則なの」


「あー……。うん、まあ……」


 はっきりしない答えをする良治。彼はちょっとだけ何かを考えていたようだったけど、一回ゴホンと咳払いをすると言葉を続けた。


「とりあえず、それは置いといてだ。俺は何も無理に劇の代役を買って出たわけじゃない。OK? 俺だって大道具班で色々作ったのがパーになるのが嫌だったし、ここまでクラスでやってきて、それが台無しになるのも嫌だった。それに須藤だって、自分が怪我したせいで文化祭で劇ができなくなったってなったら凹むだろうしな」


 僕は良治の顔をまじまじと見つめてしまった。こう言っちゃなんだけど、良治がこんなに文化祭に気合を入れているとは思わなかった。それにクラスの事も考えていたなんて、僕は良治を勘違いしていたみたいだ。

 真面目な顔をして答えた良治の顔は、なんていうか――、


「なんだよ……。ひょっとして、俺恰好よかった?」


「へっ? あ、えっと……。りょ、良治の割には凄い真面目に考えてるんだなって思っただけだよっ!」


 思っていたことを先に言われて、少し言葉に詰まってしまった。「その通り」なんて言えるわけもなく、誤魔化すために茶化してしまった。


「おいおい。俺だってTPOはちゃんとわきまえるんだぞ!?」


「えー……? 全然わきまえてないような気がするんだけど」


 僕は普段の良治を思い浮かべて苦笑する。


「そんなこと言ってると、もう放課後の練習付き合ってやんないぞ」


「えっ、それは困る! ごめんごめん」


 暗い帰り道を二人で歩く。

 こんな風に二人で冗談を言い合っていられるっていうのが、とても居心地がいい。もうすぐ家に着いてしまうのが少しだけ残念だと思った。

ご無沙汰しています。

以前活動報告で、書きたいことを大体書いて満足してしまったみたいな事を書きましたが、やはり完結は目指そうと思い立ち、続きを書いてみました。

とは言え、既にとても難産なので、いつ完結するのかはわかりません(できるかもわかりません)。本当に申し訳ないです。

こうしたいという筋道はあるのですが、そこまで話を展開する能力がなくて、なかなか話が作れないです。

完結後の甘々な話とかもちょっと書きたいんですが、そこまで持って行けるのか。。。


言い訳ばかりになってしまいましたが、こんな状況です。


一部章構成を変えました。

番外編置き場を削除して、1個だけあった番外編を夏休み編の章の一番下に移動しています。

はじめは割り込み投稿にしてたのですが、自分の管理画面の投稿小説履歴の更新日が2014年のままだったので……とりあえず整理してみました。

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