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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
二学期の始まり、変化の始まり
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美少女、他校の文化祭を見学する【バイト先の先輩編】②

第九十話 美少女、他校の文化祭を見学する【バイト先の先輩編】②




 お化け屋敷の後は、展示物を見たりして時間を潰した。

 特に鉄道研究会の鉄道模型なんかは見ていて面白かった。電動で動く模型が、ジオラマの中を疾走する様子はいつまで見てても飽きない物だ。良治曰く、ああいった模型は、お値段も結構張るとのこと。ジオラマで一つの大きな町を作り、山を発泡スチロールで作りと、色々手の込んだことをすると大分お金がかかるみたいだ。スペースも結構とるし、お金持ちの道楽なのかもしれない。

 僕の学校にも鉄道研究会あったっけなあ……。もしあったなら、文化祭で探してみよう。

 

「そろそろシフトの時間じゃないのか?」


 良治がスマートフォンで時間を確認し、矢崎さんに尋ねる。

 丁度正午を回ったところ。矢崎さんのクラスはメイド喫茶をやっているとのことだけど、軽食系の出店ならお昼からお茶の時間までは忙しくなるはず。

 ホールスタッフとしてアルバイトをバリバリこなす矢崎さんなら、この時間帯に大きな戦力となるだろう。

 

「十二時かー。確かにそろそろ準備しないといけないかもね。ほら、更衣室で着替えないとだめだし」


 良治に言われ、矢崎さんも時計を確認した。


「じゃあ、うちのクラスのお店まで行こっか」


 彼女は僕に向かってにっこりほほ笑むと、廊下を先に進み始める。僕と良治も見失わないように後に続いた。

 矢崎さんのクラスは、とても淡いピンクやクリーム色を基調とした飾りつけで、とても可愛らしい色使いになっており、パッと見凄く女の子っぽい雰囲気がある。

 しかし扉を開けて、お店の中に入ると、そこには服装だけはとても可愛らしい、その実中身は逞しいメイド姿の男子たちが待ち構えているのであった。

 勿論女の子もいるのだが、インパクトでは男のメイドさん――と呼んでいい物だろうか――に負けている。入った瞬間に野太い声で「おかえりなさいませ、ご主人様」と言われれば、誰でもそっちに目が行ってしまうと思う。


「誰が得するんだよ……」


 良治に至っては天井を仰ぎ目を手で覆っている。

 どう見てもネタなんだけど、そんなにショックを受けることなの!?

 

「なんだー。理恵子じゃん。お客さんかと思って挨拶しちゃったよー」


 矢崎さんのクラスメイトとみられる女の子達がぞろぞろと集まる。ちなみに理恵子と言うのは、矢崎さんの名前だ。


「ちゃんとお客さんも連れてきたからね! 感謝しなさいっ」


 矢崎さんがくるっと僕らの方を振り向き指さす。

 その動きを見て、彼女のクラスメイトも僕と良治の存在に気付いたみたいで、徐々に僕達の方へ集まってくる。


「ちょっ! この子すっごい可愛いじゃん! どこで攫ってきたの!?」


「わわ、すごい綺麗な髪! それに肌も超綺麗じゃんっ。どこで攫ってきたの、理恵子!」


 僕と良治の周り、というか僕の周りに女の子のメイドさんが続々と集まってくる。

 矢崎さんが僕の一つ上なので、ここにいる人たちもみんな一歳年上ということになる。高校での一年の差は大きいみたいで、みんな僕より大人びた顔をしている。うん、僕が子供っぽい顔しているだけかもしれないけどっ。

 そんな大人のお姉さん達がしきりに褒めてくるので、何だかすごく恥ずかしくなってしまって、思わず僕は下を向いた。

 褒められるのは嬉しいけど、褒められすぎるのも、どんな顔して受け流せばいいのかわからなくなってしまう。それにこの可愛がり方は、ペットとかにする可愛がり方みたいで、何か複雑な気分だっ。

 僕だって一年しか変わらないのに。


「わー照れちゃって、かわいい! ホント、理恵子はどこから攫ってきたの?」

 

「攫ってきてなーい! あんたら私をどういう女だと思ってんの!? その子はバイト先の後輩!」


 一瞬、僕を取り囲むメイドさんの動きが止まった。


「バイト先……だとっ」「理恵子のところって、バイト募集してなかったっけ」「早く言ってよ。履歴書買うから」


 いやいやいや、来る気満々になってもらっても困……らないやっ。むしろ人が足りてないから、どんどんウェルカムかもしれない、店長的には。

 ただ、何だか身の危険を感じるので、僕としては遠慮していただきたいっ。


「ところで、あの男の子は彼氏なの?」


 ここで、存在を忘れられていた良治に目が向けられる。

 っていうか彼氏じゃないし。男女並んで歩いていればデートだとか、彼氏とみられるのはおかしいと思うんだっ。ここはきちんと否定しておかねばっ。


「ははは、まあそんなようなもんですよ」


 否定しようと思った矢先に、良治がさらりと答えていた。

 何を涼しい顔で答えてるんだよっ! しかも小憎らしいくらい良い顔でっ。

 しかもメイドさんの先輩達も「へー、そうなんだ」とか言ってるし。後ろの男のメイドさんらは、エプロンをぎゅって掴んで歯を食いしばってるし。それは男の子がやっても気持ち悪いだけだからっ!


「ちょ、ちょっと待って! 全然違うでしょっ!?」


 慌てて否定する僕。しかし良治はどこ吹く風で、


「おいおい、照れるなよ」


 なんて言っている。

 なんで、全然知らない人の前で、意味わからない嘘つくかなっ!


「あの、本当に違うんでっ」


「りょーじは佐倉ちゃんの家の近くに住んでるだけでしょーっ」


 僕の必死の弁解と、矢崎さんの一言で何とか変に誤解を与えないで済んだようだ。

 良治をきっと睨みつけると、彼は口笛を吹く素振りをしてそっぽを向いた。

 ぐぬぬ……なんで誰も得しない嘘を吐くんだろう。恐らくは、もう会うことなんてないだろう人たちだけどさっ。良治は僕と恋人に見られたいわけなの? いやいやいや、自分で考えておきながら、これは余りにも現実からかけ離れた考えだわっ。

 良治は僕の友達だし、向こうもそう思ってるはず……。それ以上同行しようなんて、流石にないよなぁ……。でも最近、色々と世話も焼いてくれるし、変に近しい距離感を取ろうとするし、以前と少し違う気もする。さっきだって手を繋ぎたいなんて言ってたし。本音かどうかはわからないけど。

 まさか、単純に体目当てとか……。いやいやいや、いくら良治がエッチだと言えども、そこまで良識がないとは思いたくない。っていうか、友達なのに酷いな僕。

 じゃあなんなんだろう。まさか本当に友達以上の何かを期待している……?

 流石に自意識過剰すぎるな、僕。相手が思ってるかわからないことを勝手に想像して慌てるなんてバカみたいだ。


「あれ、佐倉ちゃんどうしたの? なんか考えてたみたいだけど」


 矢崎さんの声に、僕は思考を中断させる。変な深みにはまるところだった。

 顔を上げて周りを見回したら、みんなの視線が僕に集中していた。


「あはは。えーと……」


 変に注目を浴びてしまった以上、何か答えなければならない。変なことを言って自爆したくもないし、かといって考えていた内容を追求されるようなことも言いたくない。

 上手くお茶を濁せるような模範的解答は……。


「えっと、皆さんの衣装が可愛いなーって見てましたっ」


 そう、困ったときは容姿や衣装を褒める。これが僕の出した答えだっ。


「そう? 気に入ってくれて嬉しいわ」


 メイドさんに扮している先輩たちも、褒められてまんざらではなさそうだ。

 よし、何とか上手く煙に巻いたみたいだ。


「それじゃあ、貴女も着てみる?」


「は?」


 メイドさんの一人の発した言葉に、僕は思わず間抜けな声を上げてしまった。

 その言葉は波紋のように広がっていく。そして何故か「いいわねー」とか「サイズあるかな」とか肯定的な意見が占めている。

 どうしてみんなノリがいいの!? お店やるのつまんないのっ?

 良治に至っては、矢崎さんのクラスメイトの持ってきたメイド服に「もう少しスカート短い方がアイツに合いますよ」とか注文つけてるし。ちょっとは反対してよっ!


「あの、僕は部外者なんで……。あんまりお邪魔するのも悪いかなって」


「あらあら、いいわよー。みんな文化祭二日目でダレ気味だし! ちょっと新しいことがあったほうが面白いから」


 ぎらぎら光る眼をしたメイドさん達の注目を浴びてしまうと、僕には「ソウデスカ」としか言えなかった。だって、女の子とは言え先輩だし、断りにくいんだよ。

 矢崎さんは、苦笑しながら「ごめんね」と口を動かしている。

 ごめんと思うなら止めてくれてもいいんじゃないかなあ。

 結局僕は矢崎さんと一緒に更衣室でメイド服に着替える羽目になっている。何故他校の文化祭で、こんなコスプレをしなければならないのか。


「ごめんねー、佐倉ちゃん。うちのクラスってバカばっかだから」


 矢崎さんはケラケラと笑っている。

 うーん、全然ゴメンって雰囲気じゃないなっ。いや、まあ矢崎さんが直接何かしたわけじゃないんだけど。もとはと言えば良治が変なこと言い始めたせいなんだけどっ。何か美味しい物奢らせちゃおうか。


「うちのバイト先の制服だと思って、ちょっと着てやってよ。文化祭も二日目じゃ、結構飽きちゃうものなんだよ」


「うう……。バイト先の制服とは全然違うよ」


 確かに似てはいる。だけど、バイト先の制服にはこんなにフリルがついてないし、こんなカチューシャもつけないし……。やっぱりどこからどう見てもコスプレなんだよね……。

 僕が恥ずかしがってもたついている一方で、矢崎さんはさっさと着替えて髪を整えたり服の乱れを直している。その様は堂々としたもので、恥ずかしさなんて微塵も感じられない。

 もしかして恥ずかしがってるほうがおかしいのかも、なんて思わせるほど平然としている。文化祭なんてお祭り気分なんだし、変な恰好している子もいっぱいいたし、メイドくらい誰も気にしないものなのかも。こうやって平然としていた方が周りに溶け込めて、僕みたいに恥ずかしがっていると逆に目立っちゃうのかもしれない。

 僕は覚悟を決めて、メイド服へと手を伸ばした。

 

 

 着替え終わると、さっきの覚悟はどこへ行ったのやら、羞恥心がこみあげてきた。

 それもこれも全部良治のせいだっ。スカートが短い方がいいとか言うから、僕のスカートは膝上丈くらいになってしまっている。矢崎さんの衣装のスカートは足首まであるのに……。

 どうしよう。人前に出たくないな……。そりゃ、僕だってミニスカートだって履くし、このくらいの丈のスカートなんて何回も履いてるけど……。やっぱり服装が服装だけに、その露出加減を気にしてしまう。

 大体、ご主人様に仕えるメイドさんはもっとお淑やかな衣装であるべきだよっ。こんなミニスカートを履くなんて破廉恥なっ!


「おーい、佐倉ちゃん。そろそろ行くよー」


 僕が心の中で愚痴愚痴言っていると、矢崎さんが僕を呼んだ。

 ま、まあきっとメイドさんなんてありきたりだし、誰も気になんかしないよねっ!

 

 

 

 

     ******

 

「すみませーん、写真撮ってもいいですか?」


「だ、だめですっ」


 誰も気にしないなんてことは夢か幻だったようです。

 さっきみたいに、やたら写真を撮っていいか聞かれるし、中には一緒に撮ってもいいか尋ねてくる人までいた。


「佐倉ちゃんつれないなあ。写真くらい撮らせてあげたら?」


「いやいやいや、ないですっ」


「そう? 一枚三百円くらい取ればぼろ儲けだよっ?」


 ぼろ儲け……。

 い、いやいや! 何でお金につられそうになってるのっ。そもそも僕にお金払う価値なんてないから、その理論は成り立たないじゃん。それに部外者が文化祭でお金とってるとか見つかったら大変だよっ。


「あの……」


 後ろから声がかかる。まただっ……そう思った僕は、断りを入れるために振り返る。

 しかし、期待していた位置に、僕の事を呼んだ人物の頭はなかった。


「あのっ」


 それでも声がする。

 もしやと思って、ちょっと視線を下げてみると、そこには小さな女の子がいた。

 

「ど、どうしたの? 迷子?」


 見たところ小学校の低学年くらい? いや、もっと幼い気がする。一人でいるところを見ると、親とはぐれたのかもしれない。もしそうだとしたら、えーと……どうすればいいんだろう。

 しかし、迷子かと聞いた僕に対して、女の子は首を振る。

 じゃあなんだろうと首をかしげると、女の子は満面の笑顔でこう言った。


「おしゃしんとってもいーい?」


「えと……」


 きらきらした顔で聞いてくる目の前の女の子を前に、僕は固まってしまう。

 今までの学生相手みたいに無下に断るのも可哀想に思う。今までの学生、特に男の子の下心が見え隠れした視線とは違い、穢れが一切ない視線を向けている。


「あの、どうして写真撮りたいの?」


「だってだって、おねーちゃんすっごいかわいいんだもん」


 にっこり笑う女の子を見ていると、何だか胸の奥がきゅっと締まる様な感覚を覚えた。

 これが胸がきゅんとなるっていうことなのだろうか。ああ、小さな子はなんて愛くるしいんだろう。


「おねーちゃん、なんでなでるの?」


「あ、ごめん」


 気が付けば、女の子の頭を撫でていた。いけないいけない、何をやってるんだ僕は。

 ……ここで気が付く。普段みんなが僕の頭を撫でるのも、僕がこの子に対して思ったことと違わないのではないかと。

 むむむ、小さなお子様みたいな扱いだったのか……。子ども扱いってわかってなかったの? と聞かれればわかってはいたんだけど、本質的にどういうことなのかを理解してしまったのがなんだか悲しい。


「ねーねー、おしゃしんー」


「あ、うん。いいよ。じゃあ一緒に撮ろうか」


 僕が微笑み返すと、彼女は本当に嬉しそうに笑う。


「ほんと? ありがとう!」


「おやおや、佐倉ちゃんも小さな子には弱いのねー」


 ずっと傍観していた矢崎さんが、僕のわきを肘でつつく。


「でも気を付けないと、小さな子と一緒なら撮ってくれるとか思われて、小さな子を利用する奴が出てくるかもよ」


「あはは、まさかそんな……」


 流石にそんな外道みたいな真似をする人はいないだろう。そう思って僕はあたりを見回す。

 何故か僕から視線を逸らす人が何人かいた。

 

 女の子と写真を撮り終わったところで、丁度彼女のお母さんが慌てた様子で探しに来た。

 どうも、遠巻きに僕を見つけた後、目を離した隙にいなくなっていたようだ。

 迷惑をかけたと何度も謝るお母さんと、嬉しそうに手を振る女の子を見送ると、僕らは再びクラスに向けて歩き出す。

 色々と騒ぎがあったおかげで、メイド服にも慣れてしまった。

 よし、こうなったからには接客頑張ろう!

 ……あれ、これって僕の文化祭じゃないよね……。




更新がゆっくりになってしまっていて、自分としても不本意です('A`)

とは言え療養中にガリガリ書いても……と思うので、もうしばらくはこんな感じで進みます。


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