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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
二学期の始まり、変化の始まり
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美少女、誕生日プレゼントを探す

第八十八話 美少女、誕生日プレゼントを探す





 目覚ましが鳴る。

 布団の中でもそもそと動き、それを止める。

 起きるという一点のみに全エネルギーを使う勢いで体を起こす。しぱしぱする目をこすり、時計を見る。時刻は七時丁度。

 昨日は帰ってからも練習したからなぁ……。弟の要を無理やり突き合わせて。

 ……無理やりだった割に、僕より楽しそうにやってたけど。僕なんかはセリフ読むだけで恥ずかしいっていうのに、要はそうでないという。あれはもう僕とは違う生き物なんだろうね。

 今日のお昼はバイト。でも昼の三時には上がれるから、終わったら良治の誕生日プレゼントでも探しに行こうかな。

 男の子だった時は特に誕生日とかを気にしたことなかったし、何を上げていいのやらさっぱりだ。とは言え、自分の誕生日に物を貰ってしまったために、良治の誕生日をスルーするわけにもいかない。

 僕は寝ぼけ眼をこすって、ベッドから立ち上がる。

 テーブルの上に置いてある台本に目をやる。昨日は練習しすぎて、夢の中でも練習してたな……。それだけ練習しても、要にすら「まだ下手」と言われてしまった。要ほど身内びいきが酷い子もいないと思うのに、それでも下手と言わしめてしまうあたり、僕には本当にセンスがない。

 前向きに考えれば、「まだ」下手ってことは、練習したことで多少はマシになったということ。まだまだ期間はある、少しずつでもみんなに追いつけるようにしなければ!

 まだ眠たい頭をすっきりさせるために、僕は両方の頬を手のひらでぺちぺちと叩く。今日も頑張ろう。

 

 


    ******


「りょーじの誕生日プレゼント?」


 お昼前、お客さんがまだ来店していないところで、僕は矢崎さんに良治への誕生日プレゼントの相談をしてみた。

 すると、矢崎さんはさも驚いたという表情で聞き返す。


「あたしに聞かれてもなー。あたしもそんなの送ったことないし」


「矢崎さんも?」


 小学生の時から良治と顔見知りという矢崎さんが、一度もプレゼントを送ったことがないというのには僕も驚いた。

 

「うん。だって付き合ってるわけでもないしー、って言うかそもそも誕生日なんて知らなかったよ」


「そうなんだ……」


 当てが外れてしまった。矢崎さんなら誕生日プレゼントを贈ったこともあるだろうし、聞けば参考になると思ったのだけど。ここで矢崎さんに意見を聞けないとなると、あっという間に手詰まりになる僕の交友関係の狭さよ。

 同じ男の子だからって、蒼井君に聞く……なんてとんでもないことは流石にできないし……。


「それでそれで! りょーじにプレゼントを贈るってことは、そういうことなのっ?」


「そういうこと?」


 僕は首をかしげる。


「僕の誕生日にプレゼントくれたから、お返ししないといけないかなって思って」


 僕の返答を聞くと、矢崎さんは何故か落胆した表情を浮かべて、


「ああそう……」


 とだけぼやいた。

 何だかよくわからないけど、彼女の思っていた答えと違っていたようだ。

 

「ってことは、誕生日プレゼントって、りょーじが勝手に寄越してきたんでしょー? そんなの貰うだけもらってお返しなんていらないと思うけどなあ」


 そういうものなのかなあ。うん、確かに女の子が不用意にプレゼントしたら、男の子は勘違いしそうだ。僕が男の子の時に、誰か女の子にプレゼントをされていたら、絶対相手が好きだと勘違いしてしまう。

 うーん。でもそれって普通のクラスメイトとかの場合だよね。良治がそんな勘違いするとは思えないし。

 それに世の中がそういうものでも、僕は嫌だ。もらいっぱなしって言うのはなんだか気分が悪い。

 

「ふーむ。良治が喜びそうなものねー」


 僕がプレゼントを贈るのを諦めていない様子を見て、矢崎さんは少し考える様子を見せる。

 仕事中に手を止めさせてしまって、ちょっと申し訳ない。まだお客さんはいないとはいえ、ね。

 

「抱き着いてあげでもしたら、それだけで喜ぶんじゃない? お金かかんないし」


「それはちょっと……」


 矢崎さんはけらけら笑っている。どうやら聞く人を間違えたようだ。

 僕がふてくされた顔をしているのに気付いて、矢崎さんは「ごめんごめん」と苦笑する。

 謝るくらいなら、初めからちゃんと答えてほしいよっ。と言いたいところだけど、僕の方からいきなり聞いたことなので、その言葉を飲み込んだ。


「いやー、あたしもりょーじには何も贈ったことないからさー。それに何が好きかとか全然わからないんだわー。しいて言えばゲーム?」


「うーん」


 確かにゲームは好きだと思うけど、友達から誕生日に贈られるものでテレビゲームはどうなんだろう。

 実用的だからアリなのかな。全く要らない物を貰うよりは大分ましにも思える。

 しかしここで重大な問題があることに気付く。良治が何のソフトを持っているのか、僕にはわからないのだっ。確かに中学の頃は結構遊びに行ったし、反対に良治が僕の家に来ることも多かった。でも、高校に入って、というか僕が女の子になってからは、お互いの家への行き来はだいぶ減ってしまった。僕の方に至っては、良治の家に一回も行っていないというありさまだ。

 それじゃあ何のゲームを持ってるのかもわからない。

 いっそ良治に聞いてみるかな? いや、それじゃあサプライズって感じがしないなあ。


「あ、ごめーん、佐倉ちゃんっ。お客さん来たっぽいから、この話はあとでね」


 店の外に人影が見える。時刻を見ると午前十一時を回るところだ。いつもはもうちょっと早くお客さんが来始めるんだけど、今日は少しゆっくりのようだ。

 僕も慌ててお冷を準備し、お客さんの来店に備える。

 




    ******

    


「お先に失礼しますっ」


「はーい、おつかれさまー」「おつかれさん」


 店長と矢崎さんの声を背に、裏口から外へ出る。店の外で一回伸びをした。

 今日は本当に忙しかった。疲れた……。この時間帯、いつもはもうお客さんが捌けてしまって暇な時間のはずなのに、今日に限ってお客さんは途切れることがなかった。

 そのせいで、結局矢崎さんに朝の話の続きをすることができず、良治の誕生日プレゼントの件は白紙のままだ。


「どうしようかなあ」


 これからどうしたものかと、少し迷う。

 良治の誕生日までは、まだもうちょっと期間があるけど……。萌香ちゃんとかにも相談したほうがいいかなぁ。いや、萌香ちゃん達は良治との付き合いは僕より短いし、聞かれても困ってしまいそうだ。

 となると、こうなった以上自分で決めるしかない。……いや、それがわからないから人に聞こうとしてたんだよ、僕……。

 一人で盛り上がって、一人で落胆する僕。道すがらすれ違う人も、なんかおかしな子がいるなと思い振り返ってくる。

 僕はとりあえず駅の方に歩を進め、行きつけのゲーム屋に入ってみた。

 インターネットショッピングが隆盛を誇るこのご時世、町の小さなゲーム屋は、かなり苦しい営業をしていると思う。でもやっぱりゲームソフトが沢山おいてあるのを見るとわくわくするし、このゲーム屋さんには頑張ってほしいと思う。

 そして何より、僕はインターネットで物を買ったことがないから、よくわからないっていうのもある。

 店の中は、お客さんの姿がまばらだった。

 僕が欲しいゲームは結構あるんだけどなー。いくつかのパッケージを取って眺める。あ、これも欲しい。って、違う違う。僕が欲しいゲームを見に来たわけじゃないっ。

 良治の好きそうなので、持ってなさそうなのは……。

 僕は棚の端から端までをゆっくりと眺める。


「あれ、アユミじゃん」


 良治の声が聞こえた気がする。良治好みのソフトを探してる内に、幻聴でも聞こえたのだろうか。

 僕はそのままゲームソフトの物色に精を出す。

 すると今度は、何者かに頭をコツンと叩かれた。


「わっ」


 頭を押さえて周りをきょろきょろ見回すと、僕のすぐ後ろに良治が立っていた。

 

「りょ、良治!? 何でここにいるの? いつからいたの!?」


 僕の驚いた様子を見て、良治はにやりと笑う。


「アユミがボーイズラブのゲームを見て恍惚とした表情を浮かべていた時からいたぞ」


「そんなゲーム見てないからっ!」


 僕が見ていたのは、アクションゲームやパズルゲームなんかで、そもそも恋愛シミュレーションゲームのエリアには近づいてすらいないっ。


「まあそれは冗談なんだが、ついさっきアユミを見つけただけだ」


 勢い余って「何でここにいるの」とまで言ってしまったけど、良く考えてみれば休日にゲーム屋さんにいること自体は不思議じゃない。良治だってゲーム好きなわけだし、たまたま偶然で鉢合わせただけだろう。

 それならば、それとなく欲しいゲームとかやりたいゲームを聞いてしまえばいいのではないか。


「良治はどんなゲームが欲しくて来たの?」


「うーん、ぶっちゃけた話、今欲しいゲームってないんだけどな。つい最近出たモンスターを狩るゲームでずっと遊んでるし」


「そ、そうなんだ……」


 あっという間に僕の考えは打ち砕かれてしまった。今欲しい物がないんじゃ、プレゼントのしようがない。

 お店に来て、新品のソフトの値段が案外高価だったので、これをプレゼントすることがなくなったのは、お財布的には少し良かったけど……。しかし、プレゼントする物については振出しに戻ってしまった。


「アユミも俺の買ったゲーム買わないか? スマホで通話アプリ使いながら、インターネット通信で協力プレイすれば面白いぞっ」


 良治は傍にあったハンティングゲームを取り、僕に見せてくる。

 今年四作目がリリースされたそれは、中高生にとても人気があるようだ。学校帰りの電車の中でプレイしている学生もよく見かける。


「えー……僕ヘタクソだから、迷惑になるよ」


「身内でやれば、そういうのはあんまりきにしなくても大丈夫だぞ? 東吾もアユミが一緒って言ったら喜ぶだろうし」


 良治は何としても僕にそのゲームをやらせたいみたいだ。

 あれー、良治のプレゼントを選びに来たはずが、何故僕にゲームを薦める流れになっているのだろうか。確かに良治や東吾が昼休みに話しているのを聞くと面白そうに聞こえる。やってみたいなって思ったこともある。

 でも今は、ゲームにはまるより劇の練習しないとダメだし……。それに良治の誕生日プレゼント探しに来てるんだから、ここは上手く回避しないと。

 

「誘ってくれるのは嬉しいけど、今は劇の練習があるから」


「そうか? それじゃ何でアユミはゲーム屋でゲーム見てたんだ?」


 それもそうだ。劇の練習があるから買わないと言うなら、ここにいる意味がない。


「要が欲しがってたゲームってどんなのかなって思って」

 

 だから弟を引き合いに出して、上手く理由を付けることにした。ごめんね、要。


「良治こそ欲しいのがないなら、どうして来たの?」


「俺? 最近出たゲームがどんなのがあるかを見に冷かしに来ただけだよ」


 僕らはお互いに冷かしに来ただけという、ゲーム屋さんの店員にとっては全く嬉しくないお客さんなのであった。

 二人そろってお店から出る。良治が帰るかどうするのかを聞いてきたので、僕はスマートフォンで時刻を見る。もう夕方の五時前だ。ここからさらにうろついていると、夕ご飯に間に合わなくなってしまうので、今日のところは良治と一緒に帰ることにした。

 二人並んで歩いている最中も、何かいいプレゼントはないか考えていた。

 しかし、まったく思いつかない。もういっそ良治に聞いてしまおう。悩んだ末にサプライズで要らない物をあげるより、必要としている物を上げたほうが最終的に喜ばれるはずっ。

 

「そういや、もうすぐ良治の誕生日だよね。何か欲しい物ある?」


「覚えていたのか」


 良治は目を丸くしている。

 僕はそんな様子を見て、少し笑ってしまう。男の子の時は、お互いの誕生日なんて大して意識してなかったからね。驚くのは無理がないかも。


「欲しい物を言えば、アユミがプレゼントしてくれたりするのか?」


「まー、僕にできることならね」


 僕の言葉を聞いた良治は、歩道で立ち止まり、アゴに手を当てて真剣に悩み始めた。

 真剣に考えてくれるのはありがたいけど、少し大げさすぎないかなっ。高価なものを言われたら困っちゃうし……。


「あの、あんまり高価なものは無理だからねっ」


 ちょっと不安になってしまった僕は、情けないのは承知で但し書きを述べた。


「ははは、わかってるって。そもそも、物を買ってもらうっていうのは、あんまり考えてない」


 僕の言葉に、良治は軽く笑う。


「どっちかって言うと、アユミが何か作ってくれたりする方が嬉しいんだけどなー」


「何かって……」


 定番中の定番のマフラーとか? いや、それは恋人の話か。僕が良治に贈るものとしては不適当だと思う。そもそも編み物はできないし。 

 となると何だろうか。不器用な僕が作れるものなんて、本当にたかがしれている。

 

「手料理とか、かなあ」


 良治は少し間をおいて、そう答えた。


「料理って言っても、僕の料理よりバイト先の「たまご銀座」の方が美味しいし……そんなんでいいの?」


「わかってないな! 味とかじゃないんだよ! 俺のためにわざわざ作ってくれるって言うところが、いいんだよ!」


「そ、そう……」


 あまりの気迫に、僕は無理やりにでも納得するしかなかった。

 まあ料理作るだけでいいなら、そんなにお金もかからないし、僕ができる範疇なので問題ない。むしろ、それで良治が満足するならありがたい話だ。


「良治がそれでいいなら、作りに行ってあげるよ」


「マジ? マジで?」


「うん」


 良治は、信じられないといった風に何度も聞き返す。その都度、僕は「うん」と頷き返すのだった。


「マジかー。メイド服でお願いします」


「やっぱりやめよう」


 どこからメイド服が出てきたんだよっ。

 全然関係ないでしょっ!


「待ってくれ! 折角の誕生日なんだから、もう一声お願いします!」


「えー……。何でそんな恥ずかしい恰好しなきゃならないのさ……。そもそもメイド服なんて持ってないもの」


「いやいや、持ってるだろ! 覚えてるぞっ。体育祭の時に着たメイド服、貰って帰っただろう? アユミのことだから、なんだかんだで捨ててないんだろ?」


「何でそんなこと覚えてるの……」


 障害物競走で着る羽目になったメイド服。僕は体育祭終了後に、実行委員の本部で返そうと思った。しかしながら、何故かみんながくれるというので、結局持って帰ることになったのだ。

 着るつもりなんか全くなかったけど、みんながくれると言ったものだし捨てるのもアレなんで、ずっとクローゼットの中に残っているのだ。

 誕生日では、それを着てほしいという。


「やっぱダメか?」


「うーん……。まあいいけど……」


 体育祭と違って、見せる相手が良治だけならまあいいか……。体育祭の時に良治には見られてるわけだし、今更感もある。


「本当にか? すっごい期待してるからなっ」


「そんなに期待したって、元が大したことないから、当日がっかりすることになるよ」


「いやいやいや、大したことないわけないだろ! 誕生日すごい楽しみになったわ」


 やっぱり恥ずかしいけど、楽しみにしてくれてるし、良しとしようか……。


少し間を置いた投稿になりました。

活動報告でもあげましたが、ちょっと病気になってしまったので、しばらく更新が難しそうです('A`)まさかリアルに作者急病のため……になるとは。

今回のは、病気にかかる前に書いてたのを、一話分完成させて出したものです。

復帰まで少々お待ちくださいm(_ _)m

安静にしていろという命令なので、安静にした状態で書くかもしれませんが(笑)

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