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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
二学期の始まり、変化の始まり
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美少女、文化祭へ向けて動き出す②

第八十二話 美少女、文化祭へ向けて動き出す②




 くじ引きは粛々と行われた。

 一人一枚、番号の書かれたくじを引く。最後に文化祭実行委員の高木君がアタリの番号を読みあげて、当選者を発表するとのことだ。無駄に大げさなので、僕まで緊張してしまう。

 全員に番号を書いた紙がいきわたったところで、高木君が一つ咳払いをする。

 クラスメイトの視線が一斉に彼に向かう。中には両手を合わせて神に祈ってる子までいる。一体何の宗教なのだろうか……。


「それでは、当選者を発表します」


 どこからともなくドラムロールの音が流れる。わざわざ着メロか何かでならしているようだけど、何でこんなに演出が凝ってるのっ。


「当選者は十二番っ!」


 一瞬静まるクラス。そして上がる雄叫び。


「よっしゃああああ!」


 僕はちらりと良治の方を見る。どうやら彼ではないようだ。やはり世の中そう上手くはいかないようだ。今度は東吾の方を見てみる。こっちはこっちで真っ白に燃え尽きたと言わんばかりの恰好でぐったりしていた。

 じゃあ誰が当たったのか。当たった人物の席には既にクラスメイトが集まっていて良く見えない。窓際の真ん中あたり、あの辺に座ってる男子と言えばクラスの男子の中でも中心にいることが多い須藤君だったかな。

 サッカー部の彼は人当たりのいい性格と、その話の面白さで、クラスの男女問わず好かれている。器量よし、性格良しときて、女子の間でも結構人気があるんじゃないかな。

 そんな彼が僕の相手になるなんて気が引けてしまう。彼の事を好いている女子だって少なからずいるはずだし、それに僕にはもったいない相手だ。

 須藤君は、人だかりを見ながらボーっとしている僕に気付くと、軽快な足取りで僕の方に近づいてくる。

 そんな彼の後ろには好奇心旺盛な目を寄せるクラスメイト達。


「よろしくね、佐倉さん」


 きらりと光る歯を見せ、にこやかに笑う須藤君。ああ、これがテレビでよく言うイケメンってやつなのかなっ。

 昼休みや放課後を部室で過ごすようになって久しい僕は、あまり須藤君達のグループと話すことはなかった。勿論クラスメイトなので、話したことがないってことはないけど、こうして彼と二人で話した機会はなかったと思う。

 クラスメイト相手なのに緊張してきたぁ……。と、とにかく、挨拶を返さないとっ。


「よ、よろしくっおねがいしましゅ」

 

「噛んだ……」「かわいい」「やっぱりいいなあ」「くそ、俺の番号一つ違うだけだったのに」


 どもった上に、盛大に噛んで、さらにそれがクラスメイトの視線すべてを浴びている状態でやらかすという大失態に、僕は彼の顔を直視できずに俯く。

 クラスメイトと話すだけなのに、なんでこうなるんだろう。こんなんで劇なんて先が思いやられるよっ。


「大丈夫?」


「へ? あ、うん。大丈夫っ」


 彼が優しいトーンで聞いてくるので、慌てて返事をする。

 彼の後ろからは「ひゅーひゅー」とか聞こえてくる。人の気も知らないでっ! そもそも彼くらいカッコイイ顔立ちなら、僕なんか相手にしなくても可愛い女子がいくらでも来るでしょ。

 ざわつくクラスを高木君が一旦鎮める。まだ役はある。今日は一気に役を決めるつもりのようだ。みんなのメインディッシュたる幼馴染の男の子の配役が決まり、クラスの殺伐とした雰囲気も薄れていく。

 残りの役は決まるのかなぁ。目玉が決まってしまったことで、興味が薄れちゃったんじゃないかなと思っていたけど、そんなことはなかった。

 案外他の役もすんなり決まっていく。僕をさらっていく異国の王子様役は東吾に決まった。パッと見王子様と言いつつ、物語の最後まで進むと、余り良いキャラではないこの役。あんまり人気がでないかなーって思うんだけど、何故か人気があった。


「東吾君、役が取れてよかったね」


 僕は喜びんで小躍りした挙句に、周りのクラスメイトから小突かれまくっている東吾に話しかけた。そんなに劇に出たかったんだなぁ、東吾。まあ劇をやるなら、役として重要なポジションをやってみたいものなのかも? 僕みたいな小心者にはあまり理解できない世界ではあるけど。


「いやー、ホント嬉しいっ。一番美味しい役は取れなかったけど、これはこれで満足のいく結果だし」


「そんなに劇出たかったんだ」


「いやいや、俺は"アユちゃんと"劇に出たかったんだよ」


「あはは、そうなんだ。ありがとう」


 僕が笑っていると、何故か東吾は少しショックを受けていた。しかしすぐに立ち直ると、劇のセリフを読み始める。

 やたらと芝居がかった読み方がおかしくて思わず吹き出してしまう。しかも気に入ったセリフがあったみたいで、それを何度も繰り返して言う。

 ……この場合、実際にお芝居をやるわけだから芝居がかっててもいいのかな。

 

「そんなにその役が気に入ったんだ。凄いやる気だね」


「いやぁ、アユちゃんを略奪する感じがたまらないぜっ」


「えっ……うん、そうなんだ」


 東吾が真顔で返すものだから、微妙な反応をしてしまった。正直に言うと引いてしまった。

 東吾って意外な趣味があるんだなぁ……。 僕はみんな仲良くしているのがいいな。


「あ、いや……冗談だからね?」


 僕の心を表情から察したようで、東吾は慌てて言い繕う。

 確かに東吾は略奪するっていうよりは、周りで傍観してるタイプな気がする。意外に押しも弱いし。あれ、そうなってくると、この役って上手くはまっていないんじゃ……。まあくじ引きだししょうがないかな。そもそもヒロインが僕なんだし。

 ふと後ろに気配を感じて振り返ってみると、そこには良治が沈んだ顔で立っていた。

 

「良治、どうしたの?」


「どうしたって……役が一個もとれなかったんだぁぁああ」


 良治の叫びがクラスに響く。

 役なんてかなり少ないんだし、とれない人の方が多いのだから仕方ないんじゃないかな。

 でもちょっぴり残念だったかも。良治と一緒に役をやれたら楽しそうだったし。


「多川、悪いな。俺が美味しいところ貰ってくぜ」


「お前……仲間だと思っていたのに裏切りやがって……」


 余裕の表情を見せる東吾に対し、ぎりぎりと歯ぎしりをする良治。


「すべては前日に運を使ってしまったせいだろう」


「うおおおお! いつもは出ないくせに、スーパーレアなんて出やがってぇぇええ」


 良治のやっているスマートフォン向けのソーシャルゲームで、たまたまレアアイテムが取れたらしい。それが劇の配役のくじと何ら関係がないのはわかっているけど、いいことって何回も連続で起きないしねっ。何も出ないよりましと思えば少しは救われるというものだよ。


「ふふふ、放課後俺とアユちゃんが仲良く練習している脇で、お前は段ボールで草でも作っているがいい」


「なんだこの圧倒的敗北感……っ。お前草を馬鹿にすんなよっ」


 この二人の争いは見ていて飽きないなあ。

 なんていうか、凄い平和で見ていて安心する。

 できれば全部身内で固めたいっていうのが本音だ。確率的にありえないとは思うけど、そっちの方がやりやすかったなあ。別に良治とキスシーンしたいわけじゃないんだけどさ……。

 ただ、須藤君とはあんまり話したことないから、ちょっと緊張する。話しかけるのが怖いのかもしれない。だって高校一年生なのに、もう百八十センチ近くあるんだよ。僕の頭の上に三十センチ定規を当ててようやく勝てるくらいの身長差だ。

 良治もそこそこ身長がある方だけど、それよりもさらに高いなんて……。しかも運動部だから筋肉もあるし。前に蒼井君と遊びに行ったときに、絡まれちゃったのもあって、体が大きい人って結構怖いんだよね。同級生相手でもなんだか硬直しちゃう。

 大丈夫なのかなあ……。

 僕がそんなことを考えている間も、役は決まっていき、最後の一人まで選出が終わった。結局、料理同好会のメンツでは、東吾が役を得たくらいだった。

 そもそも桜子ちゃんや萌香ちゃんは劇の役に立候補すらしていなかったみたいだ。

 劇の方の配役が一通り完了すると、今度は劇に参加しないクラスメイト達の役割を分担し始める。大道具や小道具、衣装、照明、音響と様々だ。劇に出演しなかったとして、不器用な僕がどれに混じれただろうか……。

 うん、無理っ。僕、結構不器用だからなぁ。料理だってママにつきっきりで教えてもらえなければ、全ての料理が血みどろになっていただろうし……。

 血みどろになったまな板を想像すると、背筋がぞっとする。

 一方、僕の後ろではどんどんと仕事の分担が進んでいた。大道具は割とすぐ人が集まったようだ。驚いたことに良治もそこに入っていた。

 

「じゃあ次、衣装の係になりたい人いる?」


 高木君が次の役割を分担し始める。

 衣装って結構難しいよね。高校生の技術じゃ作ることも難しいし、だからと言って貸衣装って言うのもどう借りたらいいのか見当がつかないし……。


「はい、はいっ!」「はい」


 と思っていたら、見知った声が名乗りを上げていた。

 ひときわ元気なのは萌香ちゃんで、静かなトーンでありながら強い意志を含んだ声で返事をしたのが桜子ちゃんだ。どちらも凄いやる気満々な様子。

 立候補した二人はあっさりと衣装係に決まる。他にも女子数名が衣装担当へとなっていく。


「萌香ちゃんに桜子ちゃんも、凄いやる気だね」


「そりゃもうっ! アユミちゃんにすっごい綺麗な衣装用意するんだからねっ」


 いやいや、僕以外にも出演者いるからっ。

 僕の役って町外れのに住んでる女の子だからっ。どう見てもそんなに綺麗な衣装着ている身分じゃないから。むしろ東吾とかの方が衣装的には綺麗だからっ!


「ふふふ、あか抜けない感じの町娘の衣装も可愛く仕上げ、王宮でのシーンでは華麗な衣装を作るわよっ」


「でもそれって難しいんじゃ……。二人ともそんな衣装作れるの?」


「藍香に手伝わせるからだいじょーぶっ!」


 藍香ちゃん中学生なのに、そんなに上手に衣装作れるんだ……。前にも聞いたけど、なかなか信じがたいなっ。

 でも編み物とかお裁縫ができるっていうのは、ちょっぴり憧れちゃうかもしれない。今度教えてもらおうかな……。


「あれ……藍香ちゃんって中学三年生だよね……。この時期そろそろ受験勉強が忙しくなってくるんじゃ?」


「大丈夫大丈夫! アユミちゃんに着せる服を作るって言ったら、浪人してでもつくるからっ」


「全然大丈夫じゃないじゃんっ! 高校浪人はやめてあげてよっ!」


 僕が萌香ちゃんに突っ込みを入れていると、急に桜子ちゃんにガシっと肩を掴まれた。

 突然の事だったので、びくっとしてしまう。

 彼女は僕の顔を自分の方に向けさせると、僕の瞳をじっと見てくる。いつになく真剣な顔だ。


「そのためにはアユミちゃんのサイズを測るわよ……。そう、これは必要なことなのよ。いいわよね?」


「へ?」


「スリーサイズはもとより、股下も腕の長さも、首回りも全て余すところなく測るわっ! いいわよねっ?」


「えっと、その……桜子ちゃん、目が怖い」


 そして息遣いも荒い。そして顔が近いですっ。久しぶりに周りが見えないくらいに突っ走ってるよ。

 僕は萌香ちゃんに視線を送る。いつもなら止めてくれるはずだっ!


「待って! 待って! 桜子ちゃんっ」


 願位は通じたみたいだ。萌香ちゃん、なんていい子なんだっ。

 

「測るときは私も呼んでねっ! 二人で一緒に測ろうよっ」


 全然ダメだったっ! 萌香ちゃん、なんてダメな子なんだっ。

 

「待ってよ、相川さんに皆瀬さんっ!」


 おお、他の衣装係の女の子達がとめてくれるみたいだ。流石にほかの子の制止を振り切ってまで暴走はしないはず。


「私たちも、アユミちゃんを測りたいわっ! いいえ、測るだけじゃ足りないわっ! いっそ撫でまわしたいっ」


 何言ってんの!? このクラス、大丈夫なのかなっ。桜子ちゃんも萌香ちゃんも何で頷いてるの? やっぱり芳乃さんがいないとダメかもっ。

 萌香ちゃん達、前に海で変なことしないって言ったよねっ。一か月しかもってないよっ!


「大丈夫よ、アユミちゃん。変なことはしないから、私たちを信じて」


 そんな薄ら笑いを浮かべた状態で言われても、まるで信じられないよ。劇の練習よりむしろこっちの方が大変かもしれない。

 衣装係の女子に囲まれて僕はそう思った。


 劇の配役も決まり、役割分担も終わった。

 今日のところはこれでお開きとなるようで、本格的に文化祭に向けて動き出すのは明日からのようだ。

 劇の出演者は、まずは衣装のための採寸だってさ……。さっきのやり取りで不安しかない。

 そしてその後は劇の練習に入るのかぁ。台本はしっかり読んでおこう。まだ覚えられてはいないけど、早い段階で覚えられるようにしたいな。

 いよいよ本格的に動き出すと思うと、わくわくする反面不安な気持ちでいっぱいだ。本当言うと逃げ出したいくらい不安だけど、みんなと一緒に頑張って何かを成し遂げるなんて、一生の思い出になるかもしれないし、ここは何とかしてやり切りたい。

 僕は心の中で「ファイトっ」と呟くのだった。


帰宅する時間が平均で2~3時間くらい遅くなってしまったので、さすがに毎日の投稿は厳しかったです('A`)

何時まで忙しいのが続くのかわかりませんが、2日に1回の投稿で頑張りたいです。

登場人物もここにきて増えてきたので、次あたりで一回登場人物の整理をします。

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