表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/103

美少女、親友と会う

第八話 美少女、親友と会う




 部屋の中に甲高い電子音が鳴り響く。

 僕は目を覚ました。朝六時半だ。

 窓からはカーテン越しに春の暖かな光が差し込んでいる。

 起き上がって自分の体を眺めてみる。うっすら盛り上がった胸、小さな手、そして長い髪。夢ではなく、まだ僕は女の子だった。

 朝起きたらまた男の子に戻ってるなんてことはなかった。しっかり女の子です。

 

 さて、高校入学までのモラトリアム、春休み中の僕がなんでこんなに早く起きてるのかというと、単純に早寝早起きのいい子だからではない。

 朝ごはんを作るのだ。

 もとい、作らされるのだ。

 母さんは、僕に対して強力に家事・炊事を覚えさせようとしてくる。

 まあ料理は楽しいからいいんだけど、洗濯とかは本当に面倒くさい。

 なぜ他人のパンツを干してやらなければならないのか。この気持ちに負けずに、ずっと洗濯をしてきた母さんは偉大だ。

 ちなみに「えー、なんで父さんのパンツなんか干さなきゃいけないんだよー」と母さんに不服を言ってるところを、うっかり父さんに見られたときは悲惨だった。

 父さんは、目に見えて落ち込んで、ご飯も食べずに会社に行ってしまった。

 流石に可哀想に思えたので、夕ご飯を父さんの好きなものにして、ビールのお酌をしてあげたら、泣き出してしまって、それはそれで大変だった。

 

 さて、そんなことを考えていると時間だけが過ぎてしまう。

 僕はちゃっちゃと着替えて洗面所に向かう。髪の毛の寝癖とか、身だしなみは大事だよね。

 三日目にして、女の子が板についてきてしまったのが何とも残念だ。

 

 

 

 

 父さんが会社に行き、要は友達と遊ぶと言って外に出て行った。

 朝食の後片付けと洗い物をこなした僕は、リビングのソファでゴロゴロしていた。


「アユミちゃーん、良治君から電話よ」


「はーい」


 良治……多川(たがわ) 良治(りょうじ)とは、僕が中学時代唯一仲良くしてた男だ。

 中学一年の頃、ずっと一人ぼっちだった僕を見かねて話しかけてきたナイスなイケメンだ。

 なんでか話が合ったりするので、それ以降ずっとつるんでいる。


「もしもし、良治? 僕だけど」


「あれ? 歩か?」


 電話にそのまま出て、僕はやらかしてしまったことに気付いた。

 そうだった。僕は女の子になって、声も前より高くなったし、全然違う声なんだ。

 

「あ、うん。歩? だけど」


「なんでそこで疑問形なんだよ」


 本当はアユムなのだが、今の僕は公ではアユミになっているから、アユムで行っていいのかどうか悩んだ。

 ん……?


「良治、僕が男だったこと覚えてるの!?」


「何言ってんだ? って言いたいところだけど、俺以外みんなお前のこと女だと思ってんだよな。ってそんなこと聞くってことは、マジで女になってんの?」


「う、認めたくないけど、今は女になってるっぽい」


 でも良治は僕のこと覚えてるんだなー。なんか大分ほっとした。

 うちの家族はちょっと変だから、実は僕含めておかしくなって、男だと錯覚してた……とかそんな恐ろしいことを考えたりもしてた。

 でも良治が覚えてるんだから、ちゃんと男だった時もあったんだなあ。良かった良かった。何も解決してないけど。


「歩は元々女っぽい顔だったし、寝ぼけて間違えてるんじゃないのか?」


「三日間寝ぼけっぱなしだったら凄いわ」


「あー、三日前からなのか。そりゃさすがに、間違いようがないわな」


「そう。残念なことにね」


「残念か? もともと女顔でいじられてたり、ラブレターもらったりしたことあるんだろ? むしろすっきりしたんじゃ」


「あーもう、ラブレターの話はやめてって。あれはむしろトラウマだよ」


 中学時代に一度男子生徒からラブレターをもらったことがある。

 初めは何かの嫌がらせかと思ったけど、良治が仕入れた送り主の情報を聞くと、本当に本気だったようで、それはそれでむしろ恐怖だった。

 何とかお断りすることができたけど、あれはもう二度と経験したくない。


「悪い悪い。まあいいや、男でも女でも特に問題はない。そんなことより、これからゲーセンでも行かないか?」


「前から思ってたけど、良治ってホント気にしない性格してるよな」


 そのおかげで、ひとりぼっちだった僕にも話しかけてくれたし、今も普通に接してくれてるからありがたい。

 ゲーセンか。行きたいのはやまやまだけど、この姿であんまり外に出たくないんだよなあ……。

 今日は断るか。

 と思っていると、いつの間にか母さんが僕の横に立っており、メモ帳を僕に見せていた。

 

『折角だから遊んできなさい。異論は認めない』


 なんなんだよ。

 よくわからないけど、行けばいいんだろう。どうせ家にいても家事手伝いしかやることがないんだ。


「わかった。行くけど、何時に待ち合わせる?」


「うーん、俺んちと歩の家って近いし、これから歩の家行くわ。準備しといてくれ」


「はーい。じゃあ待ってるからねっ」


「……なんだろうな。声だけでもすげぇときめくことってあるんだな」


「は?」


「いや、なんでもない。俺も準備してから行くから、三十分後くらいにそっち行くわ」


「わかった」


 良治は「じゃあな」と言って電話を切った。


「で、ママ? なんで行かなきゃならないの?」


 僕は受話器を置くなり、隣にいる母さんに尋ねる。


「だって、外に出ることに慣れないと高校行くとき困るでしょ? それに良治君にお披露目するのも早い方がいいでしょうし」


 う……。まあ良治といつまでも顔を合わせないままいられないというのは、確かにそうだ。

 良治もこの春から同じ高校に通う。

 良治には僕が男だった時の記憶があるようだし、女になった僕を見せるなら早い方がいいだろう。

 新学期に登校したら、親友だと思ってた友人が女になってました! っていうのはさすがにサプライズすぎる。高校デビューにしても行きすぎだろ!

 とは言うものの、実際この姿を見せるというのは、結構緊張する。

 僕は良治が来るまでの三十分間、ずっとソワソワしているのだった。

 

 

 

 三十分後。

 良治はやってきた。

 玄関のインターホンが鳴った。

 ここにきて姿を見せるのをやめたくなってきたけど、母さんが「早く出なさい」と促すので、仕方なしに玄関に向かった。

 

「良治、おはよう」


 玄関の扉を開けて、僕はあいさつする。

 良治はポカンとした顔をして僕を見つめる。


「え、歩?」


「そうだけど、変かな?」


 ちなみに今日の僕の服装は、白いワンピースタイプのロングスリーブシャツと、ホットパンツ、そしてひざ上までの黒いオーバーニーソックスだ。アクセントにチェックのストールを巻いている。

 このシャツを着た時、やたらでかいからサイズ間違えてるのかと思ったけど、こういうものらしい。

 太もものあたりまで丈があるなんて驚きだ。おかげでホットパンツがほとんど見えないので、履いてないようにすら見える。


「変っていうか、ど真ん中ストライクっていうか」


「なんだよそれ」


「いやいやいや! もともと可愛い顔立ちだったとはいえ、可愛くなりすぎだろ! なんだよこれ、反則じゃん!」


「なんでそこで逆切れするかな」


「すまん。とりあえず、歩でいいんだよな?」


 僕はこくりと頷く。

 良治はなぜか僕の頭を撫でている。


「なに?」


「ああ、いや、なんかちょうどいいところに頭があるから撫でてみたくなった」


 良治の身長は百七十センチ丁度くらいだったから、今の僕とはかなりの身長差がある。

 あー、なんか撫でられてると気持ちいかも。


「おっと、夢中になってた。撫でられてる時の顔やばいぞ」


「え、変だった?」


「いや、俺が変になりそ」


「はい?」


 今日の良治は、ノリがなんだかよくわからない。


 ゲーセンは駅前にあるので、行くとするなら自転車が必要だ。

 良治を外で待たせておいて、僕は家の裏から自転車を持ってきた。

 自転車でか! 重!

 

「歩さぁ、それ乗れるの?」


 やっとのことで自転車を持ってきた僕に良治は言った。


「の、乗れるんじゃないかな。サドル下げれば」


 僕はサドルを最大まで下げる。うん、何とか足はつくんじゃない……かな。

 軽くまたがってみる。足はいいとして、腕がつらい。ハンドルまでの長さが身長と合ってないせいで、かなりつらい。


「これ、腕つるかも」

 

「ムリそうだな」


 うーん。まさか自転車に乗れないとは。思わぬところに伏兵がいたものだ。

 これに乗れないと高校行くのも大変だなあ。

 どうしたもんかと考えていると、良治が自分の自転車の荷台をポンポンと叩いている。


「え、乗っていいの?」


「いい、いい! むしろ全然オッケー。むしろ憧れてた的な感じだから、早く乗ってくれ」


 どう乗ればいいんだろう。サドルに腰かけるようにするのかな? それとも跨っちゃう感じ?

 跨る感じの方が安定しそうかな。

 僕は、良治の荷台に跨って座った。

 足がプラプラしてしまうので、どうにも安定しない。

 どこに捕まればいいのかわからないので、とりあえず良治にしがみつくことにした。

 

「うひょおおお! マジですか、そこで手を回してきますか! ありがとうございます! ありがとうございます!」


「な、なんだそれ! ちょっと引くぞ」


「柔らかいし、いい匂いするし、もう最高じゃないか! 今日なら世界記録狙えそうだ!」


「安全運転でお願いします」


「任せとけって。それじゃ行くぞ!」


 良治は自転車をこぎ始める。

 良治の体が結構ぐらぐら揺れるので、僕は振り落とされないように尚のことしがみついた。


「あの、歩さん?」


「なに?」


「抱き着いてくれるのは超嬉しいんだけど、あんまり抱き着かれると、胸の感触とかで俺もその……大変なことになるので……」


「何が?」


「いや、いいわ。お前がわかってないなら、あんまり気にしないことにする。わかってしまっても、男の子だなあと思って見逃してくれ」


「男の子だなあって、良治は男だろ?」


 本当に今日の良治はよくわからないノリだな。

 

 僕はそのまま良治に連れられて、駅前のゲーセンまで向かうのだった。

 道中やたらと注目を集めてしまったところで、二人乗りは失敗したかなと少し後悔した。


ようやく新キャラを出せました。

今回はちょっと短いですが、キリがいい(?)のでここまでにしました。

…毎日更新してると、これ以上に分量が厳しいというのが本音。

今回は話の中でヤマ場がなかったので、次回爆発できる! といいなあと思っています。

次回はゲーセンでの話となります。


//2013/9/10 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ