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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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番外編 夕立、雨宿り

番外編 夕立、雨宿り




「東吾ー! ちょっと降りてきて―」


 ベッドで寝ながら漫画を読んでいたところを、母さんが大声で呼ぶ。

 もう何度も読んだ漫画だが、今が一番アツイところだ。寝たふりをして無視を決め込もう。

 一度上げた顔を元に戻して、再び目で漫画のコマを追う。


「ゴラアアア。どうせ漫画読んでごろごろしてんでしょ! 降りて来いって言ってんだから、とっとと来なさい」


 流石は俺を生んだ人間だ。まるで見ているかのように、俺の行動を当ててくる。


「あいよー」


 力なく返事をすると、俺はもそもそと起き上がる。母さんに呼ばれて良かったためしがない。どうせ面倒なことをお願いされるのだ。

 俺の両親は共働き。今は夏真っ盛りの八月だが、会社勤めの二人には暑い以外に特に何もない。仕事の関係でお盆休みすらないため、ほとんど家にいることがない。一方高校生で、しかも料理同好会というインドア文化系の部の俺は、日中でも家にいることが多い。

 そのせいか俺に家の仕事を押し付けていくことが多いのだ。ついこの間も、クソ暑い中庭の草むしりを強要されて、炎天下の中汗だくになりながら働くという拷問を受けたところだ。

 今日は休日で、母さんも家にいるんだが、その分色々とお願いをされた。そして恐らくこれからもそうなるだろう。

 

「それじゃ、洗剤買って来て。あとシャンプーとコンディショナーね。全部詰め替え用ので、二個ずつね」


「明日でよくない?」


 今日嫌なことは明日に回す。例えそれが何もプラスにならなかったとしても、今日の俺が面倒なことは、今日やりたくないのだ。

 しかし、俺の申し出は無下にも断られる事になる。


「今日が安いの! それに今日はポイント十倍だから」


「はいはい……」


 心底面倒くさいと思ったが、逆らったところで不利な条件が増えるだけなので、俺は諦めた。金とポイントカードを受け取って、そのまま外に出る。

 目的の物が手に入るドラッグストアは、自転車で十五分というところだ。絶妙に面倒くさい距離である。

 家の外に出ると、むっとした空気が俺に襲い掛かる。


「あっついな……」


 扉を開けて閉めただけなのに、もう汗が出てきている。時刻は十五時。まだまだ暑い時間帯だ。

 さんさんと輝く憎たらしい太陽を見て、もう一、二時間ずらすべきだったかと考える。しかし、今家に帰ると、もう二度と外に出る気が起きないだろうと思い、自転車置き場へ向かった。

 



 首尾よくお買い得品を購入し、再び自転車に跨る。目的は達した。このまま家まで一気に帰って、再び漫画を読んでだらだらしよう。俺はそう決意すると、すペダルを漕ぎ始める。

 しかし、運は俺に味方していなかったようだ。丁度駅前に差し掛かったところで、不意に水滴が額に落ちてきた。雨だ。

 本来であればこのまま一気に突っ走って家まで行くところだが、今日の雨は一味違った。ぽつぽつと降り始めたと思ったら、次の瞬間物凄い勢いで降りはじめたのだ。

 アスファルトに当たって跳ねる水しぶきのせいで、地面が真っ白に見える。これがバケツをひっくり返したような雨というやつか、などと変なところで感心してしまった。まあ、そのせいでずぶ濡れの状態になったわけだが。

 流石にこの土砂降りの中を自転車で進むのは厳しいと思い、俺は近くのスポーツ用品店の軒先に自転車を止める。髪からぽたぽたと水滴が零れ落ちる。着ていたシャツもぐっしょりだし、下半身はトランクスまでぐっちょりだ。

 おつかいに出された上に、夕立に巻き込まれ、びしょびしょとか最悪にもほどがある。ついてねえ……。早く止んでくれ。

 店の窓ガラスに自分の姿を映す。


「うわー、やばいなこれ」


 余りの悲惨な状態に思わず苦笑いする。水も滴る良い男と言いたいところだが、生憎と自分の顔に自信はない。

 一先ずシャツを絞ったりなんだりしていると、後ろからばしゃばしゃと駆け寄ってくる音が聞こえてくる。その足音は俺のすぐそばで止まる。

 ああ、雨宿りがもう一人か。そんな風に思って新たな来客を見ると、そこには見知った顔がいた。

 

「アユちゃん!?」


「えっ?」


 声をかけると、驚いた様子で僕の方に顔を向けるアユちゃん。きょとんとした顔が何とも可愛い。背中にかかるくらいの黒い髪は濡れに濡れて艶々しているし、おでこに張り付いちゃってるところも愛らしい。

 やばい、休日に偶然出会っちゃうとか、マジで運命では!? 柄にもなくテンションあがってきた。おつかいに行かせてくれた母さんマジグッジョブ。

 雨やまなきゃずっとこのままいられる。さっきまでとは一転して、雨がやまないことを願っている自分の厚かましさに人知れず苦笑してしまう。


「東吾は、おつかい?」


 アユちゃんは、俺の持ってるビニール袋を眺めて言う。


「ああ」


 俺はそれに頷く。


「東吾も凄いびしょびしょだね。こんなにいきなり土砂降りになるなんて、ホント嫌になるよね」


 そういって、微笑みかけてくるアユちゃん。はっきり言って直視できない威力がある。普通に笑っただけで、こんなに心を抉るくらいの威力を持つ女の子なんていない。

 アユちゃんは、びっしょりになった髪の毛が目にかからないように手で髪をかき分ける。

 と、ここで俺は凄いことに気付いてしまった。

 そう、彼女の着ているシャツがぴったり張り付いているのだ! それはつまり、シャツの下に着ている物が透けているということを指す。しかしガードの緩いアユちゃんも、最近女子連中が入れ知恵をしているせいか、キャミソールを着ている。

 だが、今日の雨はそれすらも凌駕する。そう、下に着ているキャミソールまでびっしょりピッタリという具合で、ブラジャーが透けているのだ。

 こんなこと多川じゃないから、口には出せないが、やはり下着が透けているのは男としてぐっとくるものがある。どこに来るのかは敢えて言えないが。

 今日のアユちゃんのブラは、薄いピンクの水玉かー。なんて思いながらも、そんな不埒なことを考えている様子は極力押し殺す。ほら、よく言うじゃないか。女子は自分の胸とかへの視線に気づいていると。

 ……こう言っちゃ悪いかもしれないが、アユちゃんは気づいてなさそうな気がする。

 この透けている下着の下は当然あれがコレなわけで……。やばい、色々想像し始めてきた! エンドレスに脳内を駆け巡る悶々とした画像。やばい。うおおお落ち着け、もし万が一こんなこと考えているって気づかれたら、ドン引きだぞ。まずは素数を数えて落ち着くんだ。

 あれ、素数って一含むんだっけ……。やべえ! いきなりわかんなくて数えはじめられねえ!

 

「コホン……ところでアユちゃんは、どうしてこんなところに?」


 このままでは脳内のピンク色が耳から漏れてきそうだったので、俺は何とか話題をひねり出した。


「僕? 僕は、服を買いに来たんだけど。丁度帰るところで土砂降りに合っちゃって」


「へー、いい服買えたの?」


 新しい服か。見たいなあ。女子連中と違って、男の俺は休みの日にアユちゃんと遊ぶ機会が少ない。いや、学校で話すことができるポジションにいるだけで恵まれているんだろう。同好会に入ってなければ、それこそ話す機会すらなかったかもしれない。

 ……多川の奴は休日もよく会ってるらしいけどな。幼馴染というわけではないらしいが、やはり中学からの友達というアドバンテージは凄いもんだ。

 俺は疑問に思う。男女で一緒に遊ぶとか、そういう関わりが薄くなる中学生という時勢で、どうやってアユちゃんとあんなに親しくなったのか……。付き合ってたとか、今現在付き合ってるってことはなさそうだけど。

 正直な話、俺はあいつが羨ましい。でも俺はあんまり積極的に喋ったりできないからなー。多川のような変態でもアクティブな方が女受けはするのか?

 

「うん。結構可愛いのが買えたかな。まあ僕のセンスだから微妙かもだけど」

 

 アユちゃんはちょっと困った表情を浮かべている。どんな表情でも可愛いから困る。

 

「いやいや、アユちゃんならどんな服でも似合うんじゃないか」


「そうかなぁ……」


 今度はちょっと照れているようだ。濡れた毛先を指でくるくるよじっている。

 彼女はあんなに可愛いのに、褒められ慣れてないのか、ちょっと褒められるとすぐ照れちゃうんだよね。そこがまた可愛いと言うか、擦れてない感じがしていい。

 ちなみに、さっきの俺の言葉は俺の全力を振り絞って出した言葉だ。女子と話すことなんて滅多になかった俺は、なかなか上手く喋れないし、褒めるっていうのは難易度が高いのだ。

 俺がアユちゃんと付き合うなんて夢のまた夢だ。今のポジションだって出来すぎなくらいなんだ。これ以上贅沢は言うまい。いや、本当ならこれ以上の関係になりたいんだが……。よくわかんないが、何か諦めちゃってるんだよなあ。これが草食系男子って言うやつなのだろうか。

 ああくそ、煮え切らねえな!

 ……とは言っても、俺がガツガツ行くことなんてないしな。


「東吾はおつかい終わった感じ?」


 俺のフクザツな心中なぞ知る由もない彼女は、話題を戻した。


「ああ……一応頼まれたものは買い終わったかな」


「そっかぁ。でも、こんなに暑いのに、おつかいなんて偉いよね」


「高校生の息子をおつかいに出すなよって思うけどなー」


 とか言いつつも、アユちゃんに褒められて、ちょっと嬉しくなる俺。単純そのものだ。


「どうせ暇してたんでしょ?」


「うっ……」


 おつかいに出されるまで、ごろごろしながら漫画を読んでいた俺としては、何も言い返せない。

 そんな俺の様子を見て、彼女はくすくすと笑みを零す。彼女の邪気のない微笑をみて、俺は少しだけ安心した。夏休み前半、山に行った時の彼女は少しおかしかった。おかしいという表現が合っているのかわからない。少し暗かったとでも言えばいいのか。

 今の彼女を見る限り、陰りは微塵もない。恐らく何かがあったのだろう。そして、その何かは俺の与り知らぬ場所、時間に発生し、俺の知らぬ間に何かを解決してしまったのだろう。

 そう言う部分から見ても、俺は彼女の友人以上という枠の中に入れる土俵にいないことがわかる。

 はー……凹むなあ。まあ、今は土砂降りの中、アユちゃんと会えたってだけでもツイてる方だよな。ほら、透けブラだって見られたわけだし。

 俺は気を取り直して、彼女の方に視線を向ける。

 そして彼女に釘付けになった。

 だってしょうがないだろ! アユちゃんがシャツとキャミソールの裾を掴んで絞ってるんだもの! つまるところあれだよ! 可愛らしいおへそのラインが見えてるわけで……。水着で見た時とはまた違う良さがあるよなっ。

 白い肌、全体的にほっそりしてるのに、不思議と柔らかそうな腰回り。ずぶ濡れになったせいか、水滴が肌を伝っている。いかんでしょ! 健全な高校生の俺には刺激が強い。そりゃエロいウェブページとかを見たりとかしたことだってあるし、ヘソくらい漫画雑誌のグラビアでも見られる。だけど、同級生のを生で見るっていうのはまた違う。しかも目の前の女の子は紛うことなき百パーセント美少女と来ている。素晴らしいとしか言いようがない。

 ……なんでアユちゃんはこんなに無防備なんだろうか。

 ピンク脳を駄々漏れにした後、不思議と冷静になる俺。

 他人事ながら、中学の時に大丈夫だったのかと心配してしまう。

 男の俺から見れば良いもの見せてもらってるし、ありがとうございますとしか言えないが。むしろこのままでいてくれと土下座したいくらいだ。

 出来れば俺だけに無防備な姿を見せてほしい……。

 なんてな! こういうことをすらっと言えるイケメンになりたい……。俺が言っても、顔面が既に冗談だしなぁ。顔の偏差値も生まれついての素質だし、どうにもならん。


「あ、雨やんだよ」


 アユちゃんは表を指さしてニコニコしている。

 もう雨宿りも終わりか。長く続かないのはわかっていたし、雨が長引くと俺も困る。しかし少し残念だ。


「アユちゃんはこれからどうするの?」


「うーん。もうちょっとここで待ってるかな」


 さっきまでの豪雨が嘘のような、強い日差しが路面に降り注いでいる。

 今ならちょっと立ってるだけで服も乾きそうだ。アユちゃんの家は、ここから電車に乗らないといけないだろうし、流石にびしょ濡れのままともいかないだろう。

 あれ、これって俺が家からタオルとか取ってきてあげるべきじゃね? そうと決まれば……!

 

「じゃあ、家からタオルでも取ってきてあげるよ」


「えっ。いいよ、わざわざ」


 買い物袋をカゴに乗せ、サドルについた水滴を適当に払うと、俺は自転車に跨りペダルを漕ぐ。ここから全速力なら家まで十分弱。本気出せば往復で二十分切れる! 俺は出来る子だ。

 

 

 家に着き、おつかいの品々を母さんに押し付ける。箪笥からタオルを漁って、再び自転車で元いた場所へ。

 彼女はそこにいた。ひょっとしたら帰ってしまっているかもと思っていたが、そこにいてくれた。


「あ、東吾君じゃん」


「ほんとだー」


 何故か相沢と皆瀬がいた。

 どこからわいて出たのかはわからないが、とりあえずアユちゃんにタオルを渡す。


「わざわざありがとう。ごめんね」


 アユちゃんは少し困った顔をする。


「へー……。いいことするね」


 相沢のにやけ顔がなんかムカつく。

 聞いたところによると、そもそも三人で買い物に来ていたとのこと。一通り買い物が終わったところで、各々見てみたいところがあったのでバラけたところ、先の豪雨に見舞われたらしい。

 相川も皆瀬も屋内にいたため、濡れることはなかったが、アユちゃんは運が悪かったようだ。

 雨が止んだのでメッセンジャーアプリで連絡を取り合って合流という流れだったらしい。

 

「ねえねえ! 東吾君!」


 アユちゃんが濡れた髪の毛を拭くのに専念していると、アユちゃんの隣にいた皆瀬がつつつっと俺に近寄ってくる。


「アユミちゃんに変なことしてないよね?」


「し、してないって」


 紳士たるもの、無理やりという選択は絶対に取らないのだ。決して、そんな勇気がないとかそういう情けない理由ではないのだ。


「ふーん。東吾君って、案外ヘタレ?」


 あー、ぐさっときた。小動物っぽい皆瀬のくせに、クリティカルでHPを削りにきやがる。


「ヘタレで結構。そもそも俺がアユちゃんに何かしてたら、二人がかりでボコボコにされるんだろ?」


「そうね。明日の朝日は見られなかったかもね」


 皆瀬の後ろからいきなり出てきて、さらっとトンデモナイことを言う相川。やはり何もしなくて正解だったようだ。もっとも、俺に何かできたわけじゃないが。


「まったく……。俺はそろそろ帰るからな」


「あ、東吾! タオルありがとう」


 自転車に跨る俺に、アユミちゃんがタオルを渡してくれる。

 このタオルでアユミちゃんが色々拭いたんだよな……。

 ごくり。

 って何考えてんだ俺はーっ! 変に意識してるんじゃねー。変態か!? リコーダーしゃぶっちゃうような変態か俺は。そうじゃないだろ。戻ってこい俺の理性。

 

「お、おう。気にしないでいいよ」


 俺はそう言って、適当に片手をあげて挨拶する。そしてそのまま、一気に自転車を走らせた。

 おつかいとかやってられないと思ったし、土砂降りに見舞われてクソみたいな日だったけど、アユちゃんにも会えたし結構楽しい一日だったな。

 再び家に着いて玄関のドアを開ける。するとそこには、母さんの姿が。

 

「東吾、一個買い忘れてる。やりなおし」


 やっぱりクソみたいな一日だよ畜生……。

2018/6/23 

もともと番外編置き場の章が一番下にあったので、割り込みで次話投稿したのですが……。物語の最終部の最終更新日がこの話を投稿した2014年から更新されなかったので、番外編置き場の章を潰して、この話を夏休みの中に入れました。そしたら章構成がずれるし、七転八倒して何とか直しました。

更新通知が何回も出ていたら申し訳ないです。。

いまだに、なろうのシステムがよくわかってないです。。なお、入れなおしで投稿し直しになっているだけで、話の内容は変わっていません。



スランプ状態で煮詰まったので、ちょっと趣向を変えてみました。

あくまで番外編です。


本編はあくまでアユミ視点でしか進めないので、ほかは番外編と言う感じに。

内容も割とどうでもいい感じで、時系列も気にせず書いたのを入れてく感じにしたいなと……。つまり、良治や蒼井君の視点は書けないし(どうしても本編に絡みそうだし)、本編がまだ二学期半ば(93話現在)なので夏休み中かそれより前の話になりそうです。

今回は時系列的には夏休み後半付近。


お気に入り登録1000を超えました。皆さんのおかげです。ありがとうございます。

なかなか更新できなくて申し訳ないですが、今後ともよろしくお願いいたします。

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