美少女、親友と誕生日を過ごす③
第七十二話 美少女、親友と誕生日を過ごす③
ゲームセンターで楽しく遊んだ僕らは、今は駅前をぶらついている。
正直なところ、ゲームセンターで遊ぶ以外にお互い何も考えていなかった。駅前の駐輪場に自転車を停め直した後は、行き場所もなくさまよっている……というのが今の僕らの現状だ。
「ねえ良治、どうする?」
「うーん。この辺で他に遊べるところなあ……」
そんなものはないと思う。僕らの住んでいる美川市は規模は大きいが、地域によって発展しているかそうでないかの差が大きい。僕らの住んでいる地域は住宅もオフィスもそこそこあって発展はしているものの、娯楽に関してはあんまりなかった。
「何もなさそうだし、もう帰っちゃう?」
このままぶらついていても何もないと思うので僕は半ばあきらめムードだ。
いっそ家に帰ってゲームでもやっていたほうがいいんじゃないかなぁ。
「いや、まだだ! まだ何かあるはず……!」
何で今日に限ってそんなにやる気があるんだろう。いつもよりちょっぴり頑固な良治に少し呆れてしまう。
「アユミ、あの店でも入ってみるか?」
しばらく歩いたところで、良治がふと少し先の店を指さす。
看板にはファンシーショップと書いてある。イマイチ何を売っているのか想像できなかったので、店内を覗いてみる。中に色とりどりの商品が並んでおり、とても色鮮やかだ。と言うかもう日本とは思えない様な色彩だよっ!
ぬいぐるみやら、可愛らしい小物やらが沢山並んでる。
地元にこんなお店があったんだぁ……。そりゃ男の子だった時は、こんなお店あってもいかないだろうし、見つけようともしないか。
店内には様々なぬいぐるみや、マスコットキャラのフィギュアなどが置いてある。
僕がふと店の奥を見ると、少し大きなサイズのクマのぬいぐるみを発見した。角度的に、僕の方を見つめているように見える。あのつぶらな瞳で見られたら、僕もどうにかなっちゃうよ。それに桜子ちゃん達がプレゼントでくれたクマのぬいぐるみより一回り大きいので、二つ置くと兄弟みたいになりそうだ。
お店には入りたい……けど、入ったら欲しくなっちゃいそうだしなぁ。お金もあんまりないし……。うう……。
それにこのお店に入ったところで、良治には面白くもないだろうし。あっ、でもでも良治が入らないかって言ってきたんだし、いいのかな。
よし、見るだけ……。見るだけだ。
「……良治、入ってもいい?」
僕はおずおずと良治に聞いてみる。
「ああ、いいぞ」
僕の心の葛藤を見透かしていたようで、良治は苦笑している。
お店の扉を開けると、可愛らしい鈴の音が鳴り響く。お客さんは僕たちだけのようだ。
僕と良治は店内をゆっくりと見て回る。こじんまりとした店舗なので、すぐまわり終わるかと思ったけど、所狭しと品物が陳列されているので見て回るのには時間がかかる。
そして何より、僕自身がちょっとしたものを見つけるたびに止まるものだから、歩みは遅々として進まない。
「ねっ、これ可愛いよね。オルゴールだって!」
「ああ、カワイインジャナイカ」
いかにも気のなさそうな声で答える良治。
「もーっ、なんで棒読みなのっ!」
「だって、この会話何回目だよ」
えーと……五回くらいかなあ……なんて思ってると、
「十七回目だ」
まったく、嫌な男だよっ! 数えてなくたっていいじゃん。
でも、うん、十七回か……。流石に良治でなくてもうんざりしてしまうのも無理はないかも。
「それにしても、まさかこんなに大はしゃぎするとは思わなかったな」
ついつい浮かれてしまって、あんまり周りが見えてなかったみたいだ。
元々男だった僕は、当然初めは可愛いものが好きだったわけじゃない。ただ、桜子ちゃんの家や萌香ちゃんの家に何度か遊びに行ったときに、女の子の部屋という物を初めて体験し、可愛く纏まっている部屋はいいなと感じた。そしてその当時の自分の部屋の余りの殺風景さに、何とかしてみようと思って色々小物とかを探し始めたのがきっかけだ。それ以降ぬいぐるみ等の可愛いが好きになっていった。
そして今に至るというわけだ。
狭い店内なのに、散々引っ張りまわしてしまったせいで良治も若干疲れているように見えるし、一人ではしゃいじゃって迷惑をかけちゃったかな。
「……ごめんね」
「悪い、なんか言い方が悪かったな。謝んなくていいぞ。入ろうって言ったのも俺だし。」
良治は項垂れている僕の頭をポンポンと叩く。
良かった、怒ってないみたいだ。
僕がほっと安堵していると良治はさらに言葉を続ける。
「大分店内を見て回ったし、よさそうなものも沢山見つけたみたいだけど、なんか欲しいものはあったのか?」
良治の言葉に僕は少し考える。
さっきのオルゴールも可愛かったし、ちょっと前にみた文房具類もいいと思った。色々買ってみたいのはあるけど、実は結構お値段が張ってるのでおいそれと買えないんだよね……。
それにやっぱり一番欲しいと思ったのは、お店の中を覗いた時に見えたクマのぬいぐるみかなあ。
僕は店の奥に進む。良治も僕についてきた。
「これかなっ」
僕はクマのぬいぐるみを指さす。
そのぬいぐるみは、イマイチ目立たない棚にぽつんと置いてあった。目立たない棚なのに店の外から見えるのは、棚の高さが高いおかげだ。遠くから見る分には案外見えるものだけど、雑多な商品に埋もれている店内に入ってしまえば殆ど視界に入らない。こんなに可愛いのに売れ残ってるのはそういう理由からなんだろう。
「またぬいぐるみか。さっきの三毛猫センセイじゃ足りないのか?」
良治はそう言って少し笑う。
「足りないとかそういうのじゃないよっ! ただ可愛いなあって思って」
欲張りみたいな感じに思われちゃったかな。
でも多分クマのぬいぐるみを今日買うことはないと思う。ぬいぐるみって結構高いし、大きいものになればさらにお値段も上がる。自転車の購入代も払うことを考えると、あんまり大きな買い物はできない。
だから今日は、お店の中でクマさんを撫でるくらいで終わらせよう……。
良治は僕の言葉を聞いて「ふーん」とだけ言って、何かを考えている。良治はぬいぐるみに興味があるわけでもないし、こういう反応なのも仕方ない。
「すみませーん、これください」
良治は、手でそのクマのぬいぐるみをひょいと掴むと、店員さんを呼ぶ。
「え……?」
僕は突然の事で呆然としてしまう。
「良治も欲しいの?」
まさか良治にもぬいぐるみの趣味があったの!?
「いやいや、何言ってんだよ。アユミに買ってやるよ」
「えーっ! それはダメだよっ!」
「どうしてだ? もらえるものはもらっといたほうがいいぞ」
「だ、だってそのぬいぐるみ結構高いし……買ってもらうなんて悪いよ」
勿論買ってくれるって言ってくれたのは凄い嬉しいし、内心やったあって思わなかったかというとそんなことはない。
でも、このぬいぐるみは、きっと結構値段も張る。それを良治に買ってもらうのは良くないと思う。良治だってそんなにお金あるわけじゃないんだろうし。
「いいからいいから。誕生日なんだし、プレゼントと思ってくれよ」
良治はそう言ってやめようとしない。
プレゼントって言っても、高い物を貰うつもりなんて僕はない。大体去年まではプレゼントとか貰ったことすらないんだし、女の子になったからって良治からプレゼントをいっぱい貰う訳には……。
「クレーンゲームでぬいぐるみもらったし、プレゼントはそれで十分だよ」
「あれは、いつも通りあげただけだしなぁ。誕生日プレゼントってわけじゃなかったんだよ」
「うー……なんでそんなに誕生日プレゼントにこだわるの?」
一向に引こうとしない良治。それに対して僕は疑問を投げる。
何だか今日の良治はおかしい気がする。自転車は二人乗りにこだわるし、ゲームセンターから出ても帰ろうとしないし、プレゼントにもこだわるし……。どうしちゃったんだろう。
「……そりゃあ、女子がみんなプレゼントあげてるのに、俺は何もなしっていうのも良くないだろ。昔からの友達なのに」
「そうかなぁ……。僕は遊んでもらえただけでも良かったんだけど」
それに……二人でゲームセンターまで来て、その後にこうしてお店を冷かして、さらにプレゼントまでもらうって、いくら相手が良治とは言え完全にデートコースだよね。
普通は男女でゲームセンターに二人で来ている時点でデートだと言えばそうだ。ただ、良治とは男の子だった時から来てたりしたので、ゲームセンターに来るだけだったらいつも通りって感じだった。
昨日の良治は「デートだけど」と言って、後で冗談だって言っていた。あんまり考えないようにしてたけど、やっぱりこれはデートなのかもしれない。そして、良治自身もそれを認識している……?
良治とデート……なんだか不思議な気分だ。今まで何度も二人で行動してたのに、ちょっと意識を変えるだけで気恥ずかしくなってしまう。
デートに来て、もしこのままプレゼントを受け取ってしまったら、良治との関係は変化してしまうのではないか。
ひょっとしたら、プレゼントを拒否しても僕と良治の今までの関係は変化してしまうかもしれない。ここまで来てしまったら、何か変わることは避けられないかもしれない。
うう……これじゃあ、もう良治と二人で遊びになんていけないよ。変に意識しちゃうし。良治がどういうつもりなのかわからないけど、僕の方が一方的に意識してぎくしゃくしちゃいそう。
「はい、これ」
良治が綺麗にラッピングされた袋を僕に差し出す。
考えているうちにお会計を済まされてしまった。なんて失敗……。
ここまで来て受け取らないわけにもいかない。可愛いラッピングまでしてもらって、要らないなんて言ったら、いくらなんでも良治が可哀想だ。
「うん……。ごめんね」
僕は包みを受け取る。そしてついつい謝ってしまう。
「なんで謝るんだよ。あんまり気にするなって、ただの誕生日プレゼントなんだから」
「うん」
本当に良治は、ただ単に誕生日プレゼントを渡したかっただけなのかな。僕が考えすぎてただけなのかな。
良治は変にこだわるところもあるし、ちょっとエッチだけど何だかんだでよく気が付くし優しい。ひょっとすると良治自身はいつも通りだったのかもしれない。
僕だけで考えても答えはわからない。今悩んだところで仕方ないのかもしれない。
僕の勘違いとか、勝手に一人だけ先走ってしまっても仕方がない。
折角遊びに来てるのに考え込んだりしては、良治を不安にさせてしまうかもしれない。笑顔だ、笑顔! 頑張れ僕。
「ありがとう。大切にするね」
僕は良治に向かって、頑張って微笑む。きっとうまく笑顔を作れたはず!
良治は照れくさそうに「ああ」とだけ言ってそっぽを向いた。
ファンシーショップを出たところで帰路につく。
夜は夜で家族との誕生日のお祝いをするので、あんまり遅くはなれない。
それを良治に告げると、彼は少し残念そうな顔をした。
良治は僕のことをどう思ってるのかな……。
風邪が治ったかと思ったら、治ってませんでした('A`)
突然お休みすることになったら、活動報告に出します。
夏休みがの話が終わったら、今更ながら登場人物でもまとめようかなと思っていますが、今までも何度か試みてやめているので、今回もないかもしれません(笑)。