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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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美少女、親友と誕生日を過ごす②

第七十一話 美少女、親友と誕生日を過ごす②





 玄関のインターホンが鳴り、僕は良治を出迎える。


「おっす」


 玄関の扉を開けると、良治は軽く手を挙げて挨拶をする。


「あれ、アユミ。ネックレスなんてつけてたか?」


 僕の方を見た良治が聞いてくる。気づいてくれたのがちょっと嬉しかった。


「ふふふ、プレゼントなんだよっ」


 僕は嬉しくなってしまって、ついつい自慢げに喋ってしまう。ネックレスを付けてみたいという欲求と、いつもと違う自分に気付いてもらいたいという欲求が満たされて大層ご満悦なのだ。

 しかしそんな上機嫌な僕と裏腹に、良治の顔は少し険しい。


「プレゼントって、例の蒼井っていう人からか?」


「へ? ううん、違うよ。萌香ちゃん達からのだよ」


「そ、そうか」


 良治はふうとため息をつく。

 会って早々ため息つかれちゃ、僕としても少し寂しい。

 良治は蒼井君のことを気にするよね。確かに旅先で出会った男の人の部活の応援に行ったり、一緒に映画見たりしたっていうのは警戒心が薄いと思われてもおかしくないのかもしれないけど。

 それを心配してくれるのは嬉しい。でも、うーん……蒼井君はそんなに悪い人じゃないと思うんだけどなあ。良治も一回会ってみれば印象が変わるかも。

 

「悪い、変なこと聞いたな。良く似合ってるぜ?」


 良治はそう言ってにやりと笑う。


「あ、うん。ありがとう」


 お礼を言う僕。でもホントは先に褒めてほしかったなあ。

 少しだけ微妙な空気が流れる。おかしいな。何でか今日は良治との距離感が掴めないや……。昨日の漠然とした不安は、今は鳴りを潜めている。でも何故だろう、ぎこちなくなってしまう。

 こんなんじゃダメだっ。折角遊びに行くんだから、もっと元気にしていないと。また無用な心配をかけちゃうし。


「おっと、そろそろ行こうぜ」


 良治の方も気を取り直したのか、自分が乗ってきた自転車を指さす。

 お決まりの後部座席に乗るべしということなのだろうけど、今日の僕は一味違うのだ。


「新しい自転車買ったから大丈夫だよ! 今まで本当にありがとう」


 僕が庭の奥からピカピカの自転車を押し出す僕。

 この前、ママにお金を借りて買いに行った代物だ。本当はバイト代が出てからにしたかったんだけど、そうすると二学期に間に合わない。だから後でお金を返す約束をして、この前買ってきたのだ。今日初めて乗るのでちょっぴり楽しみだったりもする。

 しかし、そんな僕の自転車を眺めている良治は、微妙な顔で固まっていた。


「ど、どうしたの?」


「ぬああああああ! なんでだあああ!」


 突如として雄たけびをあげる良治。久しぶりに吼えてるところを見たっ! っていうか何が起きたの!?

 

「あ、ごめん。お礼だけじゃだめだよね、何か奢るから……」


 僕は恐る恐る良治の様子を伺う。

 そりゃそうだ。一学期の間からずっと乗せてもらっておいて、口でお礼を言うだけじゃ足りないよね。何か埋め合わせをしないと……。

 

「いや、そういうのじゃないんだ。後ろに女の子を乗せてるっていうのが良かったんだぁあ」


「あ、そう……」


 相変わらずぶれない良治が少しおかしくて笑ってしまう。ちょっとぎこちないけど、やっぱり良治は良治のままだなぁ。

 でもそこまでショックを受けなくてもいいじゃん。折角僕も新品の自転車を買ったのにっ。


「なあ、今日も後ろに乗らないか?」


 挙句の果てにこんなことまで言ってくる良治。そりゃ後ろに乗ってたほうが楽かもしれないけど、折角買ったのに……。


「なんでよーっ。いつまでも後ろに乗ってたら悪いよ」


「俺が悪くない、むしろ良いと思ってるから気にするなよ」


 むむ……。良治も何故か頑なになってしまい、一歩も引かない。

 ただ単に自転車に二人乗りするか、別々の自転車で行くかってだけで議論の余地すらないと思うのに……。大体二人乗りと、それぞれの自転車に乗るっていうのじゃ、どちらが正しいかなんて一目瞭然じゃん。なんでわざわざ荷台に荷物を乗せたがるのさ。

 

「それに……いいのか?」


 良治は真剣な顔をしている。

 何が良くないの? と僕は首をかしげる。良治はそんな僕から少し目を逸らして言葉を続ける。


「アユミ、お前今日ミニスカートだろ? パンツ見えるぞ」


「もーっ! ばか!」


 僕はさっとスカートの裾を掴む。

 全く! 最近は全然変なこと言ったりしてきたりしないと思ったらっ! 本質は変わらないんだから。

 

「お前、その反応めちゃくちゃ可愛いな。ここに来て一段と磨きがかかっている」


「いや、いいから! そんなの言わなくていいからっ!」


 良治の奴、絶対からかってる! 恥ずかしがってるのを可愛いって言われても、全然嬉しくないんだからね。


「それで、どうするんだ? 後ろに乗るか?」


「う……」


 ちょっとためらってしまう僕。

 確かにスカートで自転車を乗るのはきつい……? いや待って、でも学校には普通にスカートで行くし、自転車乗ってる子も多いし……。あれは下に見せても平気なのを着てるの? それも違うかな。むしろ見られても気にしてない? いやいや、さすがに女子たる者、そんなはしたない真似は……。

 散々迷った挙句、僕が出した答えは、


「うん……。後ろに乗せて」


 良治に負けてしまったのだった。だってほら、見られたくないもの、仕方ないじゃんっ!

 学校行くまでに、上手く乗れるように練習しよう……。もうあとわずかしかないけど。


「よしきたっ! 二学期もそのままでもいいぜ!」


「それじゃあ自転車買った意味がないよぅ」


 あーあ、結局こうなっちゃうのか。折角買った自転車も、また庭の隅に置かれることとなった。

 僕が良治の自転車に跨り、捕まったのを確認すると、良治は自転車をこぎ始める。

 こんな暑い日にわざわざ二人乗りしたがるなんて、変わってるなあ。

 

 

 

 しばらく走って、駅前のゲームセンターの前に自転車を停める。

 ここしばらく来てなかったけど、パッと見は変わっていない。春休み以来なんだよね。そういやあの時は女の子になったばっかりで右も左もよくわかってなかったなあ。それで自転車に乗る際に良治に抱き着いちゃったりして……。今思うと恥ずかしい真似をしたなあ。


「今日は何するか。レースゲームでもするか?」


 騒がしい店内をぐるっと見回す良治。


「うーん。レースゲームは微妙かなっ。良治が僕を見る目がアヤシイし」


「なっ! この紳士オブ紳士の俺に何たる侮辱っ!」


 本当の紳士は、パンツ見えるとか言わないと思うんだよね。でも久しぶりにこんなノリの良治を見た。夏休み入ってから、色々あってあんまり良治っぽいところが出てなかった? ような気がするし。


「クレーンゲーム見ようよ。いいぬいぐるみがあるかも」


 僕がクレーンゲームを指さすと、良治はポリポリと頭を掻く。


「本当に可愛いものが好きになったなあ。まあそっちの方がアユミも可愛いからいいけどな」


「そ、そうかな」


「ああ、いいと思うぞ」


 ふーん……。可愛いのかなあ。そう言ってくれると良治でも嬉しいな。

 でも、ぬいぐるみが好きだっていうのは我ながら子供っぽいと思うし、あんまり人には知られたくないかも……。ってもうほとんどの友達が知ってた。わざわざぬいぐるみをプレゼントでくれるくらいだし……。部室でぬいぐるみをいじりすぎてたかっ。

 あと知らないのは蒼井君くらいかな。よし、蒼井君の前では大人の女性を目指そう……! 

 良治がクレーンゲームを物色している最中、人知れず拳を握る僕。しかし、自分の体型やら何やらを見て、ぬいぐるみ好きを隠したところで子供にしか見えなくて絶望した。うう、牛乳飲むべきかな……。

 

「おーい、これなんかどうだ?」


 良治がとあるクレーンゲームの前で僕を手招きする。

 筐体の中を見ると、大きな三毛猫のぬいぐるみがたくさん入っている。ちょっとずるそうな顔をしているけど、そこがまた愛嬌があって可愛い。大きさも程よいし、抱き心地もよさそうだ。


「可愛いなぁ……」


 僕は筐体に顔を近づける。


「可愛いのはアユミの方だと思うけどな」


「えっ!? もー、またからかって!」


「え……、そんなつもりはないんだけど」


 全く良治は懲りないなあ。何度もからかわれれば僕だって耐性くらいはつくさっ。恥ずかしがったところをさらに攻め込むつもりだったんだろうけど、そうはいかない。

 それに、女の子に可愛い可愛い言ってれば喜ぶと思わない方がいいよっ! そりゃ言われれば嬉しいけど、何度も適当な感じで言われれば、聞き流しちゃうようになるんだからね。

 イマイチ腑に落ちないと言った感じで、うんうん考えている良治を尻目に、僕はクレーンゲームのコイン投入口を見る。


「ワンプレイ二百円かー。取れるまで辛そう」


 ワンプレイ二百円、五百円で三回できる。お得だけど五百円じゃ済まないだろうし。やっぱり大きいサイズのぬいぐるみの筐体は高い。


「取ってやるよ」


「いや、いいよっ。これってなかなか取れないでしょ」


 大きなサイズのぬいぐるみが落下口に引っかかってる形で置かれているタイプのクレーンだ。

 パッと見簡単に取れそうに見えるけど、実は滑り止めがついてたり、アームが弱かったりで難易度が高い。


「まあ見てなって」


 良治は元々半袖のくせに、腕まくりをするようなそぶりを見せる。

 ガチャンという音を立てて、コインが投入される。鳴り響くクレーンの音。ゆっくりとぬいぐるみを掴……まないで良治はクレーンでぬいぐるみを下に押し込める。いや、おしこめているだけじゃなく。アームの片端を上手くぬいぐるみの下に潜り込ませている。

 そしてクレーンが上に上がると、押し込んだアームが猫のぬいぐるみをぐっと持ち上げる。しかし、ちょっと動いてバランスを崩しただけで、猫のぬいぐるみは取れない。まだ猫のお尻が落下口に引っかかってるようだ。

 すかさずもう二百円を入れる良治。クレーンが初期位置に戻ってから、すぐに二プレイ目を開始する。

 同じように猫のぬいぐるみの下にクレーンを入れ込む。今度は猫のお尻、丁度落下口に引っかかってるあたりに潜り込ませた。

 そして一気に持ち上げると、猫のぬいぐるみのお尻がぐいぐいと持ち上げられる。しかし、そのままクレーンで落下口まで持っていけるわけもなく、お尻は再び落ちていく。

 ああ……残念! と思った僕だったけど、良治はガッツポーズをしている。

 筐体の中に目を戻すと、お尻を持ち上げられてバランスを崩したぬいぐるみが、ごろんと一回転がりそのまま落下口へ……。

 ガコンという音がする。良治が受け取り口からぬいぐるみを取り出す。


「すごいっ! ほんとにクレーンゲーム上手だね!」


 わずか四百円でぬいぐるみを取られてしまっては、店も損かもしれない。

 良治はそのままぬいぐるみを僕に手渡してくれる。


「いいの?」


「いいのって、アユミのためにとったんだし」


 僕はぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめてみる。柔らかな毛並みがとても気持ちいい。ぬいぐるみの猫と顔を合わせてみる。うーん可愛い。

 良治にはいっぱいぬいぐるみを貰ってきたけど、今日のが一番嬉しい。いつもでも嬉しかったには嬉しかったけど、「攻略するついでにとっちゃったからやるよ」って感じで渡してきたから、あんまりプレゼントっぽくなかったし……。今回は僕のためにわざわざやってくれたのが嬉しかった。


「ありがとう。大切にするね」


 僕は良治に向かってにっこりと笑う。

 

「あ、ああ。まあプライズ品だし、そんなにお礼を言わなくてもいいぞ」


 良治は少し照れた顔をして、頬を掻いた。

 ゲームセンター備え付けのビニール袋にぬいぐるみを入れると、僕らは再び店内を物色する。

 他のぬいぐるみは、そんなにいいのがなかった。良治のチョイスは、今日のお店の中ではベストのものだったようだ。


「なあ、プリクラでもとらないか?」


「だーめっ」


 店内を一通り物色した後、良治は数分おきにプリクラを撮ろうと言ってくる。

 それに対しての僕の答えは決まってNOだ。


「なんでだ……」


「だって恥ずかしいし。それにあれって、恋人とかが撮るんじゃないの?」


「友達でも撮ってるぞおおおお!」


「でもだーめっ。恥ずかしいし、良治の場合変なところに貼りそうだし……。待ち受けとかにされてからかわれそうだし……」


 良治は目を見開いて僕を見る。図星なの……。

 撮らなくてよかったと僕は心の底から思うのだった。


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