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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
70/103

美少女、親友と誕生日を過ごす①

第七十話 美少女、親友と誕生日を過ごす①





 自分の部屋でみんなにもらったクマさんをどこに置こうか悩んで、早三十分が経過していた。

 棚の上、机の上など様々な場所に置いてみたけれどイマイチしっくりこない。折角友達がくれたものなのだから、目立つ場所に置きたいと思う。そう思ってはいるんだけど、今一つ目立つ場所がないのだ。

 それに良治が時々補充していくゲーセンのプライズのぬいぐるみが案外大きい上に量も多いので、二十センチくらいの高さしかないクマさんは埋もれてしまう。しかし、プライズのぬいぐるみも好きなので邪魔に扱うこともできない。

 僕は途方に暮れて、クマさんを抱きかかえたままベッドに座り込んでいた。もうこうなったら一緒に寝ちゃおうか……。

 とそんなことを考えていると、スマートフォンから電話着信の電子音が聞こえてきた。

 着信メロディくらい設定すればいいのに、と萌香ちゃんにも言われたことがあるんだけど、流行の音楽に疎い僕は何を設定したらいいのかわからず結局デフォルト設定のままになっている。どうせ外出先ではマナーモードなんだし、いいじゃないか。

 そんな誰に言うわけでもない言い訳を一人ごちると、電話の相手を見る。

 何だ良治か。


「もしもし、どうしたの?」


「おー、アユミか。今大丈夫か?」


「うん、大丈夫だけど」


 僕の返事を聞いて、良治は少し間を開けた。

 電話の先で深呼吸をしているかのような息遣いが聞こえる。どことなく緊張しているようだけど、一体何を言うつもりなんだろう。

 

「明日もし暇ならゲーセンにでも行かないか?」


 しかし出てきた言葉は普通のお誘いだった。今まで普通に誘ってくれてたのに何でまた良治は緊張してるんだろう。あっ、そうか。前に蒼井君と約束があるからって断ってしまったからか……。あの時は悪いことをしちゃったなあ。

 でも明日か……。明日は僕の誕生日なんだよね。だからと言って何かあるわけでもないんだけど。家でゴロゴロしているよりは遊びに行ったほうがいいかな。折角のお誘いだしねっ。


「うん。いいよ」

 

 僕がオッケーを出すと、待ち合わせの時間を決める良治。ちなみに待ち合わせ場所は我が家なので決めるまでもない。

 駅前のゲームセンターに行く際は中学のころからこうなっているので、今更変更はない。

 

「そういや、明日ってお前の誕生日だよな」


「うん、そうだよ。覚えてたんだね」


「ん、ああ。まあ忘れたことはなかったけどな」


 さらっと言った良治の言葉が少し嬉しかった。去年まで男の子だったから、毎年これと言ってお祝いというお祝いはしなかったけど、覚えていてくれたのは少し嬉しい。


「それじゃあ、何かプレゼントも買いに行くか」


「えっ。いいよいいよ、そんなの。今までと同じで」


 女の子になったから突然プレゼントとかもらうっていうのもおかしな話だと思う。僕は良治がいつも通り遊んでくれればそれで満足だ。


「いやいや、誕生日という特別な時間をいただくわけだからなっ。プレゼントって言うと大げさだけど、何かあげるさ」


「そ、そう。でも誕生日にプレゼント選ぶって、なんかデートみたいじゃん」


 良治は良治で引く気はないみたいだけど、僕は僕でその特別な日に一緒にプレゼントを選んで買うという行為が引っ掛かってしまう。

 良治だからそんな気はないんだろうけど、僕の方は意識してしまう。相手は良治なのに、なんでこんな風に感じてしまうんだろう。今まで良治と遊んだりすることに、男女としての意識なんてなかったのに。

 ……きっとこれは蒼井君と二人で映画を見たりしたからかもしれない。あの時を境に男の子と遊ぶという意味合いが変わってしまった。周りの子がみんなデートって言うから、変に意識してしまっている。

 でもそれは僕の意識の話で、良治にとってはきっと違うんじゃ――、


「ああ、デートだけど?」


「えっ?」


 予想していなかった良治の言葉に僕は一瞬理解できずに変な声を出してしまう。

 一刻の間をおいて言葉の意味を理解する。

 

「えええええ!? それ本気?」


 なんで? どうして急に?

 そんな思いが頭の中を駆け巡る。僕はどうすればいいんだろうか。


「……冗談だよ。まああんまり気にするなって」


 電話の向こうで良治が笑う。

 なんだ冗談か……。僕はほっと安堵の息を吐く。

 未だに早足で駆ける鼓動を感じる。冗談にしては心臓に悪いよ、ほんとに。

 良治が「デート」という言葉を用いたことの何が悪いかはわからない。ただ何となくどきりとしてしまった。嫌とかそういうのではなく、ただ漠然とした不安があった。


「それじゃあ、また明日な」


「う、うん」

 

 電話を切る。

 僕はベッドの上でごろりと横になった。胸に手を当ててみると、まだ心臓はドキドキしている。僕は抱えたままのクマさんをぎゅっと抱きしめる。

 そうか……良治と二人で遊ぶことも、考えてみれば男女二人きりで遊んでいることになるんだよね。

 中学のころからずっと遊んでたから、お互いの性別とか特に意識したことなんてなかった。僕が女になってからも、どこかで良治とは同性って思っていたのかもしれない。

 でも周りから見ればそんなことはなくて。

 例えばこの前夏祭りに一緒に行ったときも、僕と良治は二人きりだった。考えてみればあれもデートだったのでは……? そう考え始めると一気に恥ずかしさが増してしまう。

 良治とは友達でいたい。でも性別が異なればそれも難しい? いやそんなはずは……。

 良治は冗談だって言ってたけど……本当はどうなんだろうか。僕は今まで、「良治が僕のことを異性として意識することはない」と考えていた。そして、だからこそ良治とは友達として二人で遊んだりできていたんだと思う。

 ではもしその前提が崩れたら? 僕や良治がお互いを意識してしまったら?

 ……あんまり深く考えることはやめよう。

 僕はがばっとベッドの上から飛び起きる。良治は冗談だって言ってたし、その言葉の真偽は僕にはわからない。あんまり不確定なことを真剣に考えても仕方ないし、明日は昔通りにゲームセンターに遊びに行くだけなんだ。

 半ば強引に思考を断ち切ると、僕は自分の部屋から出て居間へ向かう。

 掃除とかして、頭を切り替えよう。

 

 そしてその目論見通り、家事に没頭しているうちに頭の中はすっきりしていった。

 

 

 

    ******

 

 翌日、僕は姿見の前で自分の姿を確認していた。

 白い薄手のブラウス、それに下はブラウンのフレアスカートにしている。首元が少し空いているので、この前萌香ちゃん達にもらったネックレスもつけている。ちょっと地味かもしれないけど、目立ちたいわけでもないのでこんな服装になっている。

 良治と遊びに行くだけだし、服装に気合を入れる必要もない。それはわかってるんだけどね。ただ、ネックレスがしてみたかっただけなんです。

 ネックレスを付けてみた自分の姿を鏡に映す。似合っているかどうかは自分ではよくわからないけど、何となく自分のレベルが上がったような気分になった。

 誰かに見せたいし、褒めてもらえたらうれしいなあ。良治は気づくかな。

 そんなことを考えていると、自然と顔がにやけてしまう。

 いけないいけない、だらしない顔をしちゃだめだっ。

 アクセサリーもいいなあ。全然気にしたことなかったけど、つけてみると結構違って見える気がする。女の子らしく着飾るのはまだまだ奥が深い。こうなってくると、お化粧とかも覚えたほうがいいのかもしれない。今度芳乃さんに聞いてみようかな……。

 僕は時計をちらっと見る。まだ良治が来るまでは時間があるかな。

 ちょっと跳ねていた髪の毛を手で直していると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「アユねーちゃん、入るよ」


「うん、いいよー」


 弟の要が部屋に入ってくる。

 ちょっと前まではさんざんやりたい放題触りたい放題だった要は、ちょっと前に父さんに大分厳しくしつけられていた。ママに聞いた話では、僕が女の子として生きていくと決めてから、父さんは要に女の人との接し方を教え込んだらしい。

 家族と言えども、女性に対してやりたい放題なのは良くないし、何よりよそで同じことをされたらたまらないからだろう。おかげで今の要は大分普通になっている。ちょっと、いや結構シスコンだけど。


「うわっ、アユねーちゃんが乙女だっ!」


「その反応は何なのっ」


「いやー、でも良治さんと遊びに行くんでしょ? そんな本気で行くの?」


「う……やっぱりネックレスとかまでしてたら引かれるかな」


 要は僕の頭の上からつま先までを眺める。

 そんなに品定めみたいなことしないで欲しいところなんだけど。


「いや-、引かれはしないんじゃない?」


「そうかな」


「うんうん。むしろ喜んでくれるかもよ」


「そ、そうかな……」


 要も良治との付き合いは長い。というのも中学のころに、よく良治がうちに遊びにきていたからだ。

 そんな要が、良治が喜んでくれるというのだから、多分そうなんじゃないかなと思うし、喜んでもらえるなら何よりだ。

 いや……どうなんだろう。僕は結局どこを目指しているんだろうか。良治を喜ばせてどうしたいんだ?

 何か漠然とした不安が心の中にはびこっている。

 しかし何が不安なのかよくわかっていない。気にしたらダメかな……。


「どしたの? なんか不安?」


「え? ううん、なんでもないっ」


 流石、弟なだけあって鋭い。

 しかし僕はぶんぶんと首を振ってそれを否定する。


「ゲーセン行くんでしょ? 今度俺も連れていってほしいなあ」


「あはは、要がゲーセンに行ったら、もともと少ないお小遣いがなくなっちゃうよ」


「ちぇっ」


 要は不満そうな表情をしている。

 まだ小学生の要は月のお小遣いも少ない。ワンプレイ百円じゃ済まなくなっている最近のゲームセンターでは、瞬く間にお金を吸い上げられてしまうだろう。


「それで、要は何しに来たの?」


「あっ、そうだった。漫画を借りに来たんだった」


 そう言って要は僕の部屋の漫画の棚をごぞごそと探す。

 最近は萌香ちゃんの薦めとかで、少女漫画も買ったりしているけど、以前から読んでいる少年漫画とかは継続して買っている。要もそれが目当てなのだ。


「ちゃんと返しておいてねー」


「わかってるよ」


 僕はもう一回時間を確認する。

 そろそろ、良治が来そうな頃合いだ。


「それじゃあ、僕はそろそろ行くから」


「はーい、いってらっしゃい」


 要を自分の部屋に残し、僕はバッグを持って玄関へ向かう。


体調はあれなんですが、投稿はできました。

危ういバランスです(笑)。

夏休みで主人公の内面も大きく変わり、ちょっとずつ周りの環境も変わってきました(多分)。

二学期は大きなイベントをじっくり進めていく形を考えています。考えているだけで、書いてもいないので結局は行き当たりばったりなのですが(笑)


夏休みだけで30回分。全体ですでに70回を迎えました。

予想より長くなってしまっていますが、ここまで読んでくださった方ありがとうございます。まだもうしばらく続きますので、引き続き読んで頂けると幸甚です。

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