美少女、近づく誕生日にそわそわする
第六十八話 美少女、近づく誕生日にそわそわする
八月ももうすぐ終わりだ。まだまだ凄い暑さだけど暦の上ではとっくに秋に入っている。
夏休みの終わりももうすぐで、それはつまり学校の始まりを意味している。中学生のころは学校があんまり楽しくなかったので、夏休みが終わるのが心底残念だったけど、今は学校がまた始まるのがちょっと嬉しい。
でも学校が始まると、蒼井君とはメールくらいしかできなくなるかな。休みの日はバイトしちゃうだろうし……。それがちょっと残念……? な感じがする。
さて、そんな時期に、ちょっとしたイベントがある。それが僕の誕生日なのだ。
……まあ結局家族に祝ってもらうくらいしかないんだけどね。
さ、寂しくなんかないっ。
スマートフォンでゲームを起動していると、メッセンジャーアプリにメッセージが届いていた。
『アユミちゃん、もうすぐ誕生日だよねっ。明日お誕生日会しようよ』
『どうして誕生日わかったの?』
萌香ちゃんからのメッセージには本当に驚いた。、いつの間に誕生日なんて知ったんだろう。
でもなんか凄く嬉しくなってしまった。お誕生日会なんて幼稚園以来なんじゃないかな。
僕が返事をすると結構前に送られてきたメッセージだったのにもかかわらず、即座に返事が来た。
『ふふふ、それはねー。アユミちゃん、このアプリのプロフィールに誕生日登録してたからだよっ』
……プロフィール?
萌香ちゃんに言われてもなかなかぴんと来ない。
『初めに登録したでしょ? 公開とか非公開とか』
わかってなさそうなのをスマートフォンの向こう側でも察したのか、さらに教えてくれる。
成程、確かにそんな設定をしたような気がする。そう言えば公開、非公開とか選べたような気がする。誕生日はどうでもよさそうだったから公開にしてたかも。
『それで、どうする? お誕生日会したいんだけど、いいかなっ』
話に聞けば、お誕生日会は桜子ちゃんや芳乃さんや藍香ちゃんも誘って女の子だけで、どこかに遊びに行こうという話らしい。
何かのイベントに合わせて、女の子みんなで騒ぎたいというノリっぽい。
だけど、いつも家族としか誕生日のお祝いをしてない僕にとっては、みんなで遊べるだけでも新鮮だし嬉しいものだ。家族みんなで祝ってくれるのも、それはそれで実は嬉しいんだけどね。
良治は誕生日知ってるんだけど、今まで特別にお祝いをしたことはなかったかな。そもそも去年まで僕は男だったし、男二人の時に誕生日を祝うって言うのは心情的にないかなーと思う。
じゃあ……僕が女の子になった今年はどうなんだろう。と考えてしまう。何か変わるのだろうか。
女の子になったって言っても、良治の中の僕が果たして女の子として認識されているのかよくわからないんだよね。いくら自分が女の子として生きていこうと思っても、人の心までは動かせないから。
蒼井君は……誕生日を知らないかな。メッセンジャーアプリで登録しているわけでもないから萌香ちゃんと同じような方法も使えないし……。知ってたらお祝いしてくれたのかなあ。
……っと、考えてばっかりで、萌香ちゃんのメッセージに返事をしていなかった。
『是非行かせてっ』
素直な気持ちを返す。
『それじゃあまた明日ねっ』
集合場所と時間を聞き、僕はスマートフォンの画面をオフにする。
まさかみんなに誕生日のお祝いをしてもらえるなんて思わなかった。予想してなかった展開に嬉しくなった僕はベッドの上に転がっていたぬいぐるみを抱きしめてごろごろと転がる。
明日は僕の誕生日のお祝いだけど、できればみんなの誕生日の時もお祝いしたいなあ。
そう言えばみんなの誕生日はいつなんだろう。既に八月。年度単位の区切りでも、一年の三分の一を過ぎている。実はもう誕生日を迎えてたってことも有りうるかな。
良治の誕生日は知ってる。丁度来月なんだよね。でも他の子の誕生日は知らない。
萌香ちゃんが僕の誕生日を知った方法で、逆に萌香ちゃん達の誕生日もわからないかと思って調べてみることにした。
あ、みんな公開設定してる。
桜子ちゃんも萌香ちゃんもまだ先か、よかったぁ。これで二人の時もお祝いできるかな。……ああっ、東吾はもう終わってた……。誰かの時に一緒にお祝いしてあげよう。良治と一緒でいいかな……。
******
「アユねーちゃん、今日はやけに機嫌がいいね」
僕の部屋に遊びに来た要が不思議そうな顔をして言う。
「わかる? 明日みんなが誕生日をお祝いしてくれるんだって♪」
「なっ! 今まで家族とお祝いするだけだったのにっ! あーあ、折角アユねーちゃんの誕生日を独り占めできると思ったのにー」
そもそも父さんやママがいるので、独り占めにはならないと思う。
まあ小学生が言うことだから、余り気に留めなくてもいいかっ。
「も、もしかして、また男子と二人きりでデートとかないよねっ! 俺はどこの馬の骨とも知れない男なんて認めないぞっ」
「要は僕のなんなのさ……」
父さんが言うならまだしも、まさか実の弟にいわれるとは思わなかった。
「大体、蒼井君とはそういうのじゃないからっ! ただの友達だからっ!」
「そこまできっぱり言われると、ちょっと相手の男に同情したくなってくるよ」
いやいやいや! さっきどこぞの男なんて認めないとか言ってたのに、今度は男の方の味方になるのっ?
要は僕の方を見て頭を振る。
なんだよっ、その「しょーがないなっ」って顔は! 小学生の弟に完全に舐められている姉。威厳とかそういうものがまるで仕事をしていない。
「まあ、アユねーちゃんがそう言うならいいんだけどさ。いっぱい遊んでくれれば、それでいいし!」
「はいはい」
「だから、デートとかはあんまりしないでねっ」
「……デートじゃないって!」
やっぱり客観的に見たら、前に蒼井君と遊びに行ったのはデートになるのだろうか。
そうだよね……。二人きりで食事に行って、映画まで見ちゃったわけだし。楽しかったには楽しかったけど、今思い出すと結構恥ずかしいことも色々してしまったし、だらしないところも見せてしまった。気づかずに手を握っちゃったりもしたし……。
次行くときは、もうちょっと余裕を持てればいいなっ。
「アユねーちゃん! 乙女モードになってないで遊ぼうよっ!」
「えっ!? あ、うん」
僕はどんな顔してたんだろうか。
要に急かされてゲーム機の電源をオンにして、彼の横に座る。
「家族でも誕生日のお祝いしようね」
要は少しだけ寂しそうな顔をして、そう呟いた。
みんなと遊んだりするようになって、要と二人で遊ぶ時間は減っちゃったかもしれない。だから要は少し寂しく感じているのかも。
だから僕は笑顔でこう答えた。
「うん。勿論」
ちょっと短いですが、きりがいいのでここまでにします。
これから女の子と遊ぶ話→そして男の子と遊ぶ話とつながる……つもりです。
夏休み最後のイベントになる予定です。
//2013/10/27 話数を修正。