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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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美少女、夏祭りに行く②

第六十四話 美少女、夏祭りに行く②




「ねえ、どうしたの?」


 僕は良治に話しかける。

 と言うのも、さっきからずっと黙ってるからだ。しかし良治は「ああ……」とかそんな反応しかしない。具合でも悪くなってしまったのかと思って聞いてみても、そういうわけじゃないと言う。


「もう! どうしちゃったのさ」


 何かしたつもりはないけど、無意識に機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか。ちょっと思い起こしてみたけど、特に思い当たる節がない。全く心当たりがないもので、僕の方も困ってしまう。

 そんな僕の様子を見て良治は、繋いでいない方の手で自分の頬を一回叩いた。


「どうしたの?」


「いや、悪い。ちょっと色々考えちゃってな」


 良治でも考え込むことってあるんだな、なんて失礼極まることを考えてしまう。

 しかし、同時になるほどとも思った。友人が考え込んでしまったり、悩んだりしていると、こうも歯がゆいものなんだ。僕が悩んでた時、良治もじれったい思いをしてたのかもしれない。


「そんじゃあまず、焼きそばでも食べるか? それとも、花火大会の時に奢りそこなった水あめでも食うか?」


「水あめのこと覚えてたの」


「まあな。食べ物の恨みは怖いってね」


 そう言うと良治はにやりと笑う。

 そんなに食い意地は張ってないつもりなんだけどなあ。でも水あめはしっかりともらっちゃおう。折角奢ってくれるんだから、断らないっ。

 

 水あめを売ってる屋台って実はメジャーじゃないのかな。なかなか見つからない。

 代わりにかき氷を食べたりはしたし、水あめにこだわるつもりはないんだけど、こう見つからないと見つけたくなるんだよなぁ。僕は良治と一緒に境内をゆっくりと歩いて回る。

 

「風船釣りやらないか?」


「えー。僕絶対取れないと思うんだけど……」


 一回百円とのことなので、店のおじさんに百円を払う。

 まずは一回目。

 

「そりゃっ」


 結果はNG。わっかに引っかかることには、釣り針のくっついている紐が既に風前の灯。切れかかっていたためにちょっと持ち上げただけで切れてしまった。

 しかし、僕は今ので何かを掴んだぞっ!

 テイクツー。

 結果はNG。

 何故っ。今度はうまくいったと思ったのに、やっぱりダメ。

 

「水に沈んでる風船じゃなくて、浮いてる奴を狙うんだよ」


 と、隣でやっている良治が助言をしてくれる。彼はもうすでに二個取っていた。ぐぬぬ、しかもワンプレイ目だ。

 気を取り直してテイクスリー。

 浮いている風船を探す。……あった! よし、今度こそ慎重に……。

 ぷつん。


「あーっ」


 何故か上手くいかない。三度目の正直だと思ったのに……。

 たかが風船。されど風船。一個も取れないせいで本当に涙目だ。いいもん、こんな風船なんてどうせ要らないやい。

 

「お嬢ちゃん、一個やろうか?」

 

「いっ、いいですっ。その、良治が……彼が余分に取ってますんでっ」


 店のおじさんが同情して一個くれるみたいだけど、慌てて断る。心の中で負け惜しみを言ってたものだから思わず慌ててしまったけど、そういう救済措置は小さい子が取れなかったときのためのものだしっ。

 僕もう高校生だしっ。それに良治が二個も三個も取ってるのにもらわなくてもいいしっ。


「おう。兄ちゃんが彼氏だったのか。羨ましいなあ」


「かっカレ!?」


 おじさんの誤解にさらに慌てる僕。


「ほら、風船ならやるから、行こうぜ」


 一方で全く動じてない良治は僕に風船を差し出してくる。思わず受け取っちゃったけど、何で全然気にしてないの!?

 いや、待って落ち着こう。どうせこのおじさんとは、会う機会なんてないんだし、わざわざ誤解を解く必要もない。良治が気にしてないのは、そういうことなんだろう。

 うん。気を取り直そう。

 僕は風船をくれようとしてくれたおじさんにお礼を言って、にっこりほほ笑む。おじさんはぽかんとしていたが、僕と良治はそのまま風船釣りの屋台を後にした。

 

 

 風船釣りの屋台から再び境内の散策に戻ってから数分後、割り箸の先についた水あめを、舐める僕がいた。

 メロン味にしたんだけど、メロンっぽい風味がほとんどしない。殆ど水あめそのままの味だ。要はとてつもなく甘い。美味しいんだけど、この色といい、この甘さといい、体に良くなさそうで不安になる。

 良治は自分の分は買わず、僕が舐めてる様子をチラチラ見ている。欲しいなら買えばいいのに。


「なあ、アユミ」


「なに? あげないよ?」


 僕はさっと良治の視界から水あめを隠す。


「いや、そうじゃない。まあ食べかけをくれるなら、それはそれでもらうんだけど」


「絶対あげないからっ! ……それで何?」


 良治は少しの間沈黙する。

 お祭りの太鼓の音と、客引きの声、そして子供の甲高い声が聞こえる。

 

「なんていうか、久しぶりだなと思って。こうして二人で遊ぶのは」


「あー、そうだねー。高校入ってからは料理同好会のメンバーで遊ぶことのが多かったしね」


「そうだな。まあそれも楽しいからいいんだけど」


 高校に入ってから、僕は中学の頃には経験してないような色々なことを経験できた。友達っていいものだなって感じている。

 まあ初めは結構苦労したし、みんな時々暴走するから危ないんだけどね。

 でも確かに、中学時代に、こうして良治と遊ぶのも楽しかったと思う。

 ああ、だから今日、良治が誘ってきたのかな。不意に懐かしいことをやりたくなる気持ちは何となくわかる。

 あれこれ考えていたら、ソースの匂いがどこからか漂ってきて、そこで僕の思考は焼きそばへと移ってしまう。

 きょろきょろと辺りを見回すと、焼きそばの屋台を発見。ポツポツ人も並んでいるし、お値段も手ごろなようだ。


「良治。僕焼きそば食べたい」


 僕は屋台を指さす。


「えっ。それも俺の奢り!?」


 良治は少し嫌な顔をした。全く、これじゃ僕がたかってるみたいじゃん! そんなはしたないことはしないよ。

 だから僕は少し大げさに笑って、奢りを否定する。


「あはは。そんなことしないよ。一緒に並んで買おうよ」


 僕らは並んで焼きそばを買う。立って食べるのはちょっと難しそうだったので、座れそうな場所を探す。

 お祭りの間はいろんなところに人が座っている。鳥居の足もととか、境内にある大きな石とか。

 僕らもそんな他の人に習って、座るのに手頃そうな大きな石に腰掛ける。

 ソースの香りが空いたお腹を刺激する。具は全然入ってないけど美味しそうだ。

 割り箸を割って、そばを軽くすする。ちょっとソースが薄い気もしたけど、お腹が空いているので美味しかった。


「なあ、今度ゲーセンでもまた行かないか? 春休み以降、一緒に行ってないだろ?」


 良治が一口目の焼きそばを飲み込むなり、僕に告げる。

 そう言えば全然行ってなかったなあ。良治が取ってくる、イマイチ可愛くないぬいぐるみ以外に、もっと可愛いのがあるかもしれないし、覗きに行くのはありかな。

 それに久しぶりにレースゲームとかもやってみたいし。


「うん、いいよ。いつ行く? 最近結構バイト入ってるから、上手く合うかな」


「知ってる知ってる。俺もよく行ってるし」


 良治は本当に良く来る。というのも良治の家が共働きで、夏休み中のお昼御飯がないからだと矢崎さんに教えてもらった。そう言われてしまうと、来ないでとも言えないしで、結局良く顔を合わせることになった。慣れてしまえば余り気にならないからいいんだけどね。良治も僕が仕事してる時は話しかけてこないし。心なしか僕がバイトを始めたころよりお客さんも多くなったような気がするので、良治が来る遅めの時間でもお客さんがいることが多くなっているせいで、ほとんど話さずにシフト終了と言うことも多い。


「来週の水曜あたりどうだ? シフト入ってなかったろ?」


「よく覚えてるね」


 良治は当たり前と言わんばかりの顔だ。

 でもその日は用事があるのだ。


「ごめん、その日はちょっと用事があって」


「あれ、そうなのか? 珍しいな」


 珍しいとは失敬なっ! 確かにバイトもないし、桜子ちゃん達に誘われてもいない時は家でゴロゴロしてるけどっ!


「ちょっと蒼井君とスイーツ食べ放題に行くことになっちゃって」


 ムキになってしまった僕。口を滑らせた後に、しまったなあと思った。

 良治も東吾も蒼井君の話題を出すと結構食いついてくるからだ。

 そしてその予想はぴたりと当たる。

 

「マジで!? え、それって何? 聞いてないんだけど」


「言う必要ってないでしょ……」


「いや、まあそれはそうなんだが」


 僕の返答に良治はごにょごにょと口ごもる。

 

「でもそれって、まさか二人きりじゃないよな?」


 そのまさかなんだよね……。僕にとっても「まさか」の展開だったんだけどね。

 僕が答えずにいると、良治の顔が少し引きつる。そんなに驚かなくてもいいじゃん。まあ僕だってびっくりだけど。


「アユミ。お前、その蒼井って人とつ、付き合うのか?」


「やだな。そんなのわかんないよ。今はそうじゃないけど、先なんてわからないし」


 悪い人じゃないとは思うし、友達のまま遊んだりしてれば、ひょっとするとそういうこともあるかもしれない。

 単純に今は彼氏彼女とかそういうものにしたい、なりたいっていう思いがないだけ。だからこそ、二人きりって言うのは避けたかったんだけどね。


「ま、マジか……。そうか……。でもそれってデートだと思うけど、いいのか?」


「うっ……。やっぱりそうなっちゃうかな……。あんまりそういう気持ちはないんだけど」


 僕は手の上で割り箸を転がす。

 やっぱり男女二人きりでってなると、そう考えちゃうよね。はぁ、蒼井君に変な誤解を与えてなければいいけど。


「じゃ、じゃあ断っちゃえばっ!」


「あはは、それはちょっとね……」


 あの場では僕の方から誘ったような形になっていたし、誘った側がやっぱり行きませんって言うのもないかなって思っている。

 それに、ちょっとだけスイーツは楽しみだったりもするし……。どうせ行くんだからって、お店のページを見てたら存外に美味しそうで。


「で、でも二人きりって言うのは、何かされたらどうするんだ?」


「良治じゃないんだから、変なことしないでしょっ」


 付き合いこそ短いけど、蒼井君はそういうことはしないと思う。その点は安心しているんだよね。


「ぐっ、このジェントルマンの俺に……っ」


 ジェントルマンに謝るべきだよっ。いや、最近は結構優しいし、体を触ってきたりもなくなったけどっ。でもそれは結構当たり前な話なわけで、言うなれば激しいマイナスからゼロに戻っただけ。そこにプラスがないとジェントルマンじゃないと思うんだよね。

 僕の冷ややかな目をに気付いたのか、良治はがっくりと頭を垂れる。


「それに二人きりって言ったって、今の僕と良治だってそうじゃんっ。でもこれってデートじゃないでしょ?」


「え? ええと……そ、そうだなっ」


「じゃあこれと同じってことで」


「お、おう……」


 良治はまだ何か言いたそうだったけど、それでもこの話題を終わらせてくれた。


「さてと、焼きそばも食べ終わったし、ゴミ箱さがそ?」


「お、おう」


 僕は座っていた石から立ち上がる。良治は落としてしまった箸を拾ってから、のろのろと立ち上がった。

 全く、心配してくれるのは嬉しいけど、過保護すぎるよ。良治は心配性だなあ。ちょっと行って食べ放題行って帰ってくるだけだよ。

 僕は良治を置いていくくらいの勢いで、歩き始める。……つもりだった。

 歩き出したところで、下駄の鼻緒がぷつりと切れてしまい、僕はバランスを崩してその場でよろけてしまう。


「おいおい、大丈夫か?」


 よろけたところを後ろから良治に支えられる。

 

「あ、ありがと」


 恥ずかしいところを見られてしまったなあ。それにしても運がない。


「まったく。こういう絶妙な運の悪さやドジがあるから心配なんだよ」


「うう、そんなに言わなくてもいいじゃん」


「まあしょうがないな。こうなっちゃ、碌に歩けないだろうし、帰るか」


 良治にそう言われて、僕は小さく頷く。

 はあ、まだ全部見てないのにな……、本当に運が悪い。

 僕が立ち上がろうとすると、良治は僕の目の前で、僕に背を向けてかがんでいた。

 

「どうしたの?」


「いや、おんぶが必要かなと思って」


「えっと、どうしようかな……」


 こんな人前でおんぶなんて恥ずかしすぎるよ……。

 でもこのまま片足で帰れるわけもないし。ああーもうどうすればいいのっ。要に電話して家から靴を持って来てもらおうか……。でも結構遠いしなあ。それに弟とは言え、使い走りにするのは気が引けてしまう。

 悩んだ挙句に僕が取った行動は……、

 

「おじゃまします」


 結局おぶられることだった。

 恥ずかしくて神社にいる人に顔を見られたくないから、僕は良治の背中に顔を当てて隠すようにする。


「お、おいおい。そんなにしがみつかれると……」


「ご、ごめん。早く帰ろう」


 うう、恥ずかしい。周りに見られてるっ。そりゃ高校生にもなっておんぶじゃ……。

 良治は、ゆっくりと歩きはじめ、神社の中を抜けていく。人にぶつからないようにしながら、鳥居をくぐり神社を後にする。

 しばらく歩いて、ようやく人気も少なくなる。


「ふう。もうあんまり人も歩いてないし、大丈夫だぞ」


「うん」


「来週はゲーセン行けなくて残念だけど、また今度行こうな」


「うん」


「俺もがんばらないとな……」


「へ? 何を?」


「い、いや、なんでもない」


 変なの。僕は心の中でつぶやく。

 なんだかんだで、良治は僕の面倒をよく見てくれる。

 頼りっぱなしなのが申し訳ないな……。

 良治の背中から空を見上げると、雲一つない夜空が広がっていた。街の光のせいで星は殆ど見えないけど、月がとてもきれいだった。


ちょっと長いあとがきになります。

良治回でした。

歩を女の子として意識し始めて、そして、いきなり取られそうになっているという……。

歩本人の昔からの友達枠なので、頼られたりもしますし、遊びの誘いもホイホイ行えますし二人きりになろうと思えばなれますが、いかんせん友達枠という囲いが硬すぎるので、彼は彼で大変です。


一方、蒼井の方は歩本人から見ると、初めて異性として男の子を認識した相手なので、二人で何かするということに警戒しています。彼の場合、学校も違うので、ただでさえ接点が少ないのが厳しいです。加えて奥手なので、こちらはこちらで大変です。


東吾の参戦は……。違う色は出せると思うのですが、なかなか難しいかもしれません。


歩視点での話(になりきれてるかは微妙)になってるので、男の子との絡みが難しくて難しくて難しくて。

64部まできて、つまり64日間書いてきたわけですが、いつ終わるんでしょうね('A`)フフフ。

ただ、二学期中には決着をつけたいと思ってます。二学期にはクリスマスっていう良いイベントもありますので(´ω`*) そこで駄目だったらバレンタインとかまで伸びちゃいそうですが。引き延ばしたくないなあ。バレンタインくらいでは、エピローグ的なイチャイチャ書いて終わりたいんですが(笑)。

正直ベースで言いますと、何も考えていないのでどうなるかわかりませんorz


因みに夏休みはもうすぐ終わります。多分。

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