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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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美少女、夏祭りに行く①

第六十三話 美少女、夏祭りに行く①




 湯気が立ち上る我が家のお風呂。僕はその湯船の中にいる。

 肩までお湯につかり、ふうと一つため息を漏らす。水面にうっすら映る自分の顔を眺める。

 最近流されすぎな気がする……! 僕は最近の出来事を思い出す。

 今まではそのまま流されてても楽しく過ごせてたと思うけど、最近は意図していない方向に行ってしまいそうになっているのが気にかかる。

 僕はゆっくりと湯船のへりにうつ伏せに寄りかかる。

 結局蒼井君とスイーツの食べ放題に行くことになってしまった。男女ペアのキャンペーンだし、今回は二人きりになってしまう。桜子ちゃんは深い意味がないように装えばいいと言っているし、それなら何とかなるし別にいいかなあんて思っちゃったりもしたけど……。よく考えてみれば、そもそもスイーツ食べ放題に行きたいってわけじゃないんだよね。

 その場のノリで流されちゃうのは良くないっ。もっと自分の言葉でハッキリと言いたいな……。これで元々男の子だったっていうんだから、女々しいものだ。

 押しに弱いとかガードが緩いとか言われて、そんなことはないだろうと思ってたけど、そんなことありました! 僕より周りの子の方が僕のことわかってるんだねっ! なんか悔しい。

 はぁ……どうしようかな。来週の食べ放題……。

 僕は前髪を手でつまみ、指の腹でよじる。一人で何かを考えてると、どうも手持無沙汰になって髪の毛をいじったりしてしまう。

 行くことになっちゃったからには仕方ない。甘いものだって好きだし、行くなら行くで楽しんで来よう。自分の意思ではないにしろ、蒼井君まで巻き込んでしまっているのだから、つまらなそうにしてたらダメだ。

 ……でもこれからはもうちょっとはっきりした態度を取れるようにしよう。

 僕は湯船から上がり、お風呂場の鏡に向かって立つ。そこに映る自分の姿には、さすがにもう慣れた。僕は鏡に向かってぐっと拳を突き立てる。よし、これからはもっと頑張ろう。

 

 お風呂から上がり、髪の毛をドライヤーで乾かしていると、スマートフォンがぶるぶる震える。

 蒼井君かな? 良治からの電話の着信だった。


「もしもし? どうしたの?」


「ああ、今大丈夫だったか?」


「うん。お風呂から上がったところだし、大丈夫だけど」


「お風呂上りっていう表現だけで、なんか萌えるよなっ」


 電話切ろうかな……。

 そんな僕の息遣いを察したのか、良治はすぐに本題を切り出す。


「明日神社のお祭りいかないか?」


「神社って、中学校のそばの?」


「そうそう」


 僕が昔通っていた中学校のそばに、あまり大きくはないけど神社がある。公園が多くない美川市において、小学生とかが遊ぶことができる数少ないスポットの一つだ。休日には、バドミントンとかボール遊びをしてる子供が良く見かけられる。最近じゃ何故か携帯ゲーム機で遊んでる小学生もいる。

 しかしお祭りをやるなんて全然知らなかった。

 

「まあ、あんまり規模は大きくないし、ちょっと出店があるくらいなんだけどな」


「そうなんだ」


「それで、一緒に行かないか?」

 

 うーん、どうしようかな。

 お祭りは小学生のころ以来行ってないから、ちょっと行ってみたい気もする。しかしあんまり規模の大きくない、悪い言い方をすればしょぼいお祭りにわざわざ行かなくてもという気もしなくもない。

 でも折角誘ってくれたし、どうせ暇なんだから行こうかな。花火大会の時に水あめ奢ってもらってないし、お祭りに行って奢ってもらおう。

 ただ中学の時には、こんな地元のお祭りなんて良治も行ってなかったと思うし、なんでまた高校になってから急に? とはちょっと思う。

 

「一緒に行くのはいいけど、なんでまた急に行きたくなったの?」


「へ? いやまあなんだ、久しぶりに行きたくなったというか……。アユミの浴衣姿も、この夏でもう一回くらい見たかったしなっ」

「えーっ」


「あの、アユミさん。俺と行くのそんなに嫌ですかね?」


 スマートフォン越しに、良治が少し慌てている様子がわかる。

 なんか変な誤解を与えてしまったようだ。


「そうじゃないんだけどさ。浴衣着るの面倒くさいなーって思っちゃって」


 そう、別に良治と行くのが嫌なわけじゃないのだ。

 浴衣が問題なんだよね……。

 動きにくいし……。髪の毛のセットも大変だし。そして何より実は暑い。

 浴衣って何となく涼しげなイメージがあったんだよね、僕の中で。風鈴とか涼しそうな感じの絵が思い浮かぶというか……。でも実際着てみると凄い暑い。そりゃキャミソールとかTシャツとかと比べたら暑いのは理解できるけどさ、思った以上に暑いの。驚いちゃったよ。おかげで花火大会の時は本当に結構つらかったよ。

 ママ曰く、その暑いところを暑くないように見せてこそ乙女……らしいけど、そんなこと言われても暑いものは暑い。

 だからあんまり着たくはないんだけど……。


「いや、浴衣がいいっ。前に見た浴衣姿は最高だったからっ! お願いしますお願いしますううう」


「あはは。必死すぎるでしょっ」


 良治は電話の向こうでそれこそ土下座でもしてそうな勢いだ。

 それに浴衣姿が良かったと褒められるのは嬉しい。暑い思いを我慢しただけのことはあったというものだ。良治に言われたとはいえまんざらではない。


「浴衣はとりあえず置いといて、明日の何時にどこに行けばいいかな」


 ちゃっちゃと場所と時間を決める僕ら二人。良治はまだ浴衣にこだわっていたけど。そんなにいいものかなあと半ば疑問に感じはしたけど、期待されたからには着てあげようかなとも思う僕。甘いのかなあ……。

 お互い「おやすみ」と挨拶をし、通話を終える。

 良治とくらいだなー、僕がちゃんと自分の思ってることを言えたりするのは。

 僕はベッドに腰掛け、イマイチ可愛くないぬいぐるみを抱きかかえる。ゲーセンのぬいぐるみは時々よくわからないキャラが混じってる。今抱きかかえてるのがまさにそれだ。

 このぬいぐるみも良治が勝手に取ってきたやつで、もらった当初は何でよりにもよってこんなのをと思ったものだ。目は片目が白で、もう片方は黒、口は避けているし、手の爪には血がついているような感じになってる。お世辞にも可愛らしいとは言えない。しかし見慣れてくると割と愛嬌があるようにも見えてきて、暇な時にいじって遊んでいる。あんまり可愛くないから、ぞんざいな扱いをしても心が痛まないというのもある。むしゃくしゃした時は、思いっきり抱きしめたり、頭をポカポカ叩いたりする。おかげで少しくたびれてきているようだけど……。

 しばらく遊んでいたが、浴衣をママに出してもらわないといけないことに気付き、僕は居間に向かうのだった。

 

 

 

    ******


 翌日の夕方、僕は浴衣姿で玄関にスタンバイしていた。

 前の時は慌てて玄関に出たけど、今回はそうはならないように、あらかじめ玄関で待つことにしたのだ。

 しかし、ものの数分で後悔し始めた。暑い。玄関は当然冷房なんて入っていないので、暑さが凄い。単純に気温が高いのもあるけど、風通しが悪く熱がこもっているせいで、さらにムシムシしている。やっぱり冷房の効いた居間で待とうかなと思った矢先に、インターホンが鳴った。

 いいタイミングだよ、ほんとに。


「はいはい」


 玄関のドアを開けると、良治が立っていた。心なしか機嫌がよさそうに見える。

 良治は浴衣姿の僕を見ると、ぐっと親指を立てた。


「やっぱり浴衣はいいなっ! でも昨日の渋り方だと、着てくれるとは思わなかったけど、着てくれるとは嬉しいな」


「ご期待に添えられたようで何よりです」


 良治があんまりにも喜んでくれるので、つられて嬉しくなる僕。やっぱりイベントごとには、それに合った衣装がいいのかも。


「コホン。それじゃ行くか」


 良治は一つ咳払いをすると、僕を外へ促す。玄関から外へ出ると、強烈な西日が差していて室内よりさらに暑かった。

 うう、浴衣を褒めてもらえるのは嬉しいけど、やっぱり暑いよ。

 僕たちは二人並んで道路を歩く。

 中学校のそばにある神社に行くには、必然的に中学校への通学路を歩くことになる。駅への道とは丁度反対方向なので、高校に入ってからは殆ど通ることがない。


「久しぶりだね。この道を歩くのも」


「そうだなー。中学の卒業式以来か」


 良治は感慨深そうにウンウンと頷いている。


「あの時は、まさかアユミがこんなに可愛い女の子になるとは思わなかったけどな」


「僕だって女になるとは思ってなかったよ」


「違いないなっ」


 良治と僕はお互い顔を見合わせて笑う。


「もともと女に間違えられてもおかしくない顔だったし、整った顔立ちはしてたから可愛くなったのには納得だけどな。まあちょっとばかり予想を超える可愛さになってたけど」


「それはそれは」


 僕は彼の言葉を軽く受け流す。


「アユミさん、最近俺の言葉を軽く流しすぎじゃありません?」


「だって良治はいつも冗談言ってからかってばかりなんだもの。まともに取り合ってられないよ」


 真に受けて照れたりしたりしたなら、またそこをからかわれるし。


「いやいや、別にからかってるわけじゃないぞ。俺は本当に――」


「本当に?」


 聞き返したけど、良治はそれ以降の言葉を言わなかった。

 なんだかわからないけど、そっぽを向いて頬を掻いている。少し気になったものの、お祭りの太鼓の音が近づいてきたので、僕の意識も自然とお祭りに向かう。


「結構人が来てるんだね」


 中学校の前を過ぎると、お祭りの会場はもうすぐだ。地元の小さいお祭りだと侮っていたけど、思った以上の人が来ているようだ。家族連れや小学生、中学生をメインに多くの人が来ている。行動範囲が広がる高校生くらいになると地元のお祭りには余り顔を出さなくなるみたいで、高校生や大学生くらいの年齢の人は少ないようだ。

 浴衣の人もそこそこにいるようで、ちょっと安心した。地元のお祭りに浴衣まで着てくる人がいるのかどうか、実はちょっと不安だったりした。小さな子供や中学生くらいでも浴衣を着て来てる子がいるので、僕も浮いたりはしないんじゃないかな……。ほら、僕は高校生だけど、中学生っぽく見えるっていうし……。

 会場が近づくにつれて太鼓の音も大きくなってくる。

 神社の鳥居の前までやってくると、かなりの賑わいになっていた。丁度日も暮れて、提灯の灯りが幻想的に辺りを照らしている。


「アユミ、迷子になるなよ?」


 良治が僕の頭をぽんぽんと軽く叩く。


「迷子って、子供じゃあるまいし。携帯だって持ってるんだから……」


 僕はそんな良治にむっとした表情を返す。同い年なのに、なんで子ども扱いされるのか。そんなに僕ってフラフラしてるように見えるかなあ。


「それじゃ、行きますか」


 良治がにっと笑って、鳥居をくぐる。僕も遅れないようにそれを追いかける。

 中に入ると、焼き鳥や焼きそばのいい匂いが辺りに立ち込めている。夕ご飯時なので、お腹もすいているし、凄い食欲をそそる。


「何か食べるか?」


「うん。お腹空いてるし、食べたいな」


 よさそうな店を探すことになり、僕と良治は横並びに歩く。しかし二人並んで歩いているのも束の間、すぐに僕は少し彼に遅れて歩く形になってしまった。境内はかなり人で、向かってくる人の波もあり、並んで歩くのも結構難しい。良治は普通の運動靴を履いているので、サクサク歩けるみたいだけど、僕の方は下駄を履いているのでそんなに器用には歩けない。

 これは本当に迷子になっちゃいそうだな……。なんて思っていると、良治が手を差し出してきた。

 握れってことかな? どうしようかな。良治とは言え、手を握るのは何となく緊張するし、恥ずかしい。まあ一度フォークダンス踊ってるし、今更でもあるんだけど。

 ちょっどどうしようか迷っていると、後ろから何かにぶつかられてしまい、その拍子に僕はちょっとよろけてしまう。

 

「アユミ、危ないぞ」


 良治が僕の手首をつかんで、僕を引き寄せる。

 

「うん。ごめん」


 道の真ん中で考えたりしなきゃよかった。こんなに混んでるんだから、ぼやぼやと突っ立ってたらぶつかるのも仕方ないことだ。

 僕は手首を少し捻って、僕の手首を持つ良治の手を離してもらう。そしてもう一度、今度は良治の手を握り直す。

 良治は照れてしまったみたいで、顔をそっぽに向けた。

 なんだよっ、自分で手を差し出しておきながら、いざ握ったらその反応なのっ? 心の中で僕は突っ込む。っていうか、変に照れられると、握った僕の方も恥ずかしいから、いつも通り飄々としていてほしいよ。

 

「ま、迷子になりそうだからね。気にしないでね」


「あ、ああ」


 なんか会話もぎこちなくなってしまう。

 おかしいな。フォークダンスの時も握ってるし、そもそもおんぶだってされたことあるのに、なんでたかが手を繋いだだけでこんなにぎこちなくなっちゃうのか。

 良治だったらフォークダンスの時みたいに何かセクハラでもしてきそうなのになあ。ああ、一応セクハラはしない発言はしてたっけ。矢崎さんにも怒られたみたいだし。なくなったならそれで全然問題ないんだけど、なんでこんな微妙な空気になるのか。

 確かに、フォークダンスとかの時と少し雰囲気が違うのはあるけど……。


「ねえ良治、早くお店探そうよ」


 良治が硬直しているので、今度は僕が前に出る形で彼を引っ張る。

 すると彼はのろのろと引っ張る僕についてきた。

 まったく、今日の良治はなんかおかしいよ。 いつもみたいなノリもキレもないし。手を繋いだくらいで、どうしちゃったんだろう。

 境内を歩く中、僕は良治の様子に少し違和感を感じた。

前回は蒼井君との絡み+次へのつなぎでしたが、今回は良治との絡みになりました。

蒼井君との話も良治との話も進展していきますが、やっぱりこれ、どこかでぶつかるんでしょうね('A`)書くの難しそうです。

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