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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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美少女、夏休みの宿題をして、お泊り会もする①

第五十九話 美少女、夏休みの宿題をして、お泊り会もする①




「アユミちゃん、消しゴム取ってくれない?」


 僕の真向かいに座る桜子ちゃんに、僕は消しゴムを渡す。

 僕の左にはふんふんと楽しそうに鼻歌を歌っている萌香ちゃん。丁度四角いテーブルを取り囲んで、料理同好会の五人が座っているのだ。四角いテーブルなので、当然辺は四つしかないわけだけど、小柄だからという理由で僕と萌香ちゃんが同一の辺に固められた。僕の真向かいには桜子ちゃん、左手の辺には良治が、右手の辺には東吾が座っている。

 皆がテーブルの上に開いているのは数学の問題集だ。

 そしてみんながいるのは僕の部屋だったりする。昔は何もない殺風景な部屋だったけど、今では薄いピンク色とクリーム色を主体にした温かみのある色調になっている。あちこちに転がっている可愛らしいぬいぐるみは僕が買ったものもそこそこあるけど、結構な割合が良治がクレーンゲームで取ってきたものだったりする。昔から少年漫画原作のキャラクターフィギュアを、原作を読んでもいないのに取ってきては自分の部屋に適当に積んでいた良治は。実はとることが楽しいだけで物自体にはあんまり興味がないらしい。前に一回ぬいぐるみを貰った時に、僕が大いに喜んでしまったがゆえに、ターゲットがよくわからない漫画のフィギュアからぬいぐるみに変更した。それ以降結構な頻度で持って来てくれている。ぬいぐるみの方が大物なので、落とすのが楽しいらしい。ただ、ゲーセンのぬいぐるみ主体だと、どうしてもキャラクターが被ってしまうのが、少しつまらないと僕は思ってる。

 何でみんながみんな僕の部屋にいるのか。それはメッセンジャーソフト上での良治の一言から始まった。




    ******


 自分の部屋のベッドでごろりと横になっている僕。

 今日はアルバイト先にみんながやってきて本当に疲れたなあ、でもちょっと楽しかったかも。なんて思ってると、ベッド脇に置いていたスマートフォンがぶるぶると震える。

 蒼井君かな、と僕は予想をしながら手を伸ばす。海に行ってから、夜になると蒼井君からメールが来ることが多い。多いというか毎日来てると思う。マメだなーと思いながらも、僕もどうせ暇なので遅いタイピングをしてメールを返している。

 今日もまたそれかなと思いつつ、スマートフォンの画面をつける。

 メッセンジャーソフトに新着メッセージ有りと表示される。ありゃ、良治からだ。どうしたんだろう。


りょうじ:アユミ、宿題教えてくれ!


 宿題? 一瞬ピンとこなかったけど、そう言えば夏休みの宿題があるんだったと思い出した。

 危ない危ない、今年の夏休みは色々あったからすっかり忘れてた。この様子じゃ良治もやってないんだろうし


あゆみ:僕に教えられるものならいいけど。何がわからないの?

 

りょうじ:数学。


 良治は間髪入れずに答えてきた。数学かあ。僕も教えられるほどできるわけじゃないんだけど、まあでも授業をまともに聞いてない良治よりはましか。


あゆみ:明日だよね。……どこでやる? 図書館とか?


りょうじ:お前んち行ってもいいか?


あゆみ:僕の家? いいけど。


 ちょっと意外だった。

 中学校の頃は結構来てたけど、最近は滅多なことでは家に上がらなくなってたのに。

 僕が「いいよ」と返事を返そうと、指で入力していると、ぴょこっとメッセージの割込が入った。


もえか:わたしもいくー!


さくらこ:わたしも!


とーご:俺も行く!


 いつもの面々が突如として全員集合してきた。

 どこから湧いてきたんだろう……。まあみんながいる会議チャットで普通に話していたのだから見られるのは当然なんだけど。それにしても反応が早いな。僕は画面を見ながら苦笑する。

 

もえか:ホントに行ってもいい?


 あ、そこはちゃんと訊くんだ。

 良治一人なら、元々結構来てたし問題はないと思うけど、ほかに三人も増えるとどうなるかなあ。


あゆみ:ちょっとお母さんに聞いてみるね。


 流石に突然四人も来るってなったら、うちのママもオッケーは出さないかもしれない。

 ……と思ったけど、聞いてみたら全然問題ないとのことだった。二つ返事でオッケーだった。


あゆみ:うん、大丈夫だよー。


 皆が口々に喜んでくれる。

 僕は僕で友達四人が家に来たことなんてないので、実は結構嬉しい。部屋の掃除して、お菓子作って、色々準備することあるかなあ。スマートフォン片手にベッドの上でごろごろ転がる僕。

 ふと冷静になると、我ながら子供っぽくて恥ずかしい。ついついはしゃいでしまった。一人で勝手にはしゃいで一人で恥ずかしがってる謎の行動。一人で何やってるんだろっ。

 ベッドの上でそんなよくわからない行動をしている僕の手の中で再びスマートフォンが震える。


もえか:ねえねえ、アユミちゃんの家に泊まってもいい?


 萌香ちゃんのメッセージに僕は思わずベッドの上で飛び起きる。そしてそのままベッドの上に正座をする。

 と、泊まる? 女の子が我が家に!? それは不純異性交遊にあたるんじゃ……って僕も女の子なんだし、女の子を泊めるのは問題ないんだった。

 お泊り会かあ。 十五年生きてきて初の試みですっ。我が家に友達が泊まるっていうのは初めての事なので、ちょっと楽しみだ。

 しかし、ここで僕は冷静に我が家の設備について思い返す。

 そもそも友達すらあまりいない僕と、基本外出して友達と遊ぶ弟の要という構成の我が家は、他の人が泊まるだけの準備がない。女の子を泊めるのにお布団すらないのはよくないと思う。大丈夫かなっ。

 ちなみに要自身は明後日まで家にはいない。

 あの子は今日から明後日までの三日間、臨海学校に出ているので家にいないのだ。

 仮にいたとしても、お客さんに対してはとてもいい子なので、問題はないんだけど……。それにお客さんがいるときに、僕に変に甘えてきたりとかはしないだろうし……。ただ、家にいるとちょっと心配なんだよね。だから外出している明日、明後日は実に都合がいい。みんなを呼ぶには丁度良すぎるシチュエーションだ。

 

あゆみ:僕の家、寝られる場所とかないけど……。


もえか:アユミちゃんと一緒に寝るから大丈夫っ。


 いやいやいや! このベッドはシングルベッドなんで、一緒に寝るとなると密着しないといけないわけでっ。

 女の子として生きると決めたとはいえ、女の子ビギナーの僕にはまだまだそのシチュエーションは重い。

 

さくらこ:萌香が泊まるなら私も泊まりたいな。


あゆみ:そうなると、ますます場所がないかも……。


さくらこ:私も萌香と一緒に、アユミちゃんのベッドでアユミちゃんと一緒に寝るわ。


 あのベッドで三人とか、どうやっても無理だと思うんだよね。

 そして何より、この夏場、しかも絶賛熱帯夜連続記録更新中の中で三人で密着して寝るとなると……。

 

あゆみ:それってすごい暑いよね。一緒にっていうのは無理かなあ。


さくらこ:汗びっしょりのアユミちゃん……。


もえか:待って! 待って! 桜子ちゃん! ちょっと頭冷やしてきてっ!


 萌香ちゃんのメッセージログが流れた後、桜子ちゃんは退席中表示になった。

 本当に頭冷やしに行ったのだろうか。


りょうじ:俺や東吾は泊りはないよなあ。


あゆみ:う、うん。ごめんねっ。


とーご:いやいや、普通に考えて男が女の子の家に泊まるってのはないっしょ。気にしないで。


 さて、とりあえず女の子二人が泊まることになってしまった。

 ママに聞いたところ、余ってる布団くらいならあるとのことなので、地べたで寝かせるなんてことにはならずに済みそうだ。そんな報告をしたところ、萌香ちゃんは何故か残念そうなメッセージを発信してきた。


もえか:アユミちゃんと一緒に寝たかったのにー。


 あはは。僕はスマートフォンの画面を見ながら、苦笑いをした。仲がいいのはいいけど、いきすぎなのも困るよね。

 そんなこんなで、今日はこうやって宿題を片付けようの会と、女の子だけのお泊り会を実施する運びとなったのだ。




 インターホンが鳴る。


「はいはーい」


 部屋の掃除を終えて、最終チェックをしていた僕は慌てて返事をして玄関へ向かう。

 玄関の外には人影が四つ。

 良治がみんなを駅前まで迎えに行くことになっており、駅から家まで案内してくれたのだ。

 扉を開けると、みんなが挨拶してくれる。


「アユミちゃん、こんにちはっ」


 口々に挨拶の言葉をするみんな。


「今日は来てくれてありがとう」


 僕もお礼を返す。

 そのままみんなを家の中に招き入れ、僕の部屋の前まで案内する。

 部屋が近づくにつれて、何だか緊張してきた。僕の部屋はみんなの目にはどう映るんだろうか。結構女の子っぽい部屋ににはなったと思うけど、変じゃないだろうか。

 ちょっとだけ部屋の前で躊躇してしまったけど、不審に思われたくもないので、決心して部屋のドアを開ける。

 

「わー。これがアユミちゃんの部屋かあ。可愛いっ」


「いっぱいぬいぐるみがあるのね」


「お、おじゃまします……」


 萌香ちゃんや桜子ちゃんは中に入ってぐるりと部屋を見回している。

 良治は良治で勝手知ったる他人の部屋という感じで、部屋のテーブルの前まで進んで荷物を置いて、クッションを一つ確保していた。

 東吾は入口付近で棒立ちになっている。やっぱり女子の部屋って入りづらいよねー。僕も萌香ちゃんの家とか桜子ちゃんの家に初めて行ったときは結構緊張しちゃったし、わからなくはない。

 

「東吾君、座って座って」


 だから僕は、そんな東吾をテーブルの前まで案内して座るように促した。


「さーて、それじゃあアユミちゃんの部屋にもついたことだし……」


 桜子ちゃんが荷物を置いて、みんなに話しかける。


「アユミちゃんの部屋を物色しますかっ」


「へっ?」


 予期せぬ言葉に僕はぽかんとしてしまう。

 萌香ちゃんは凄い乗り気で「おーっ」とか言って拳を上にあげている。

 ま、まあ部屋に置いちゃまずいものとかはないんだけどさっ。男の子だった時は、荷物そのものが殆どなかったので、部屋にあるのは女の子になってから増えたものばかりだ。漁られてまずいものなんて何もない……はず。部屋の物色はちょっと困るけど、家に招き入れた際の醍醐味でもあるんだろうか。僕の部屋を漁っても面白い物が出てこないんだけどねー。

 桜子ちゃんや萌香ちゃんはベッドの下を覗いたりしている。東吾や良治は、まさか自分たちが女子の部屋を物色できるわけもないと言った顔で、テーブルの前に座ったまま、女の子二人の様子を伺っている。

 桜子ちゃん達はベッドの下に何もないのにちょっとがっかりした様子。そのまま箪笥の方に向かう。

 ……箪笥? 中に入ってるものは衣類とか……。はっ! 僕は良治と東吾を素早く交互に見やる。まずい。


「わあああああああ!」


 箪笥を開けようとした桜子ちゃん達を止める僕。


「だっ、だめっ! ここはだめっ」


「あれあれ、何かお宝の匂いがっ!」


 桜子ちゃんは、そんな僕の様子に益々好奇心を膨らませてしまったようだ。

 僕は萌香ちゃんに「助けて」と視線を送る。気づいてくれるだろうかっ。

 

「アユミちゃん、どうしたの?」


 きょとんとした顔で僕の顔を眺める萌香ちゃん。

 ダメだ、全然気づいてくれないっ。芳乃さんみたいにはいかないかっ。

 

「と、とにかく! ここはダメだからっ」


「どうして?」


 桜子ちゃんは首をかしげる。

 うう、本当なら察してくれてもいいのに……。部屋を物色するっていう目的が頭の中を占有していて、他のことに頭が回ってないんだきっと。


「だってその……」


 僕はちらりと良治や東吾の方に目をやる。二人ともよくわかっていないような顔をしている。

 うう……。


「だってその、この中には下着とかも入ってるから……」


 僕は恥ずかしくなって俯く。

 体温が急上昇している。耳まで真っ赤になってそうだ。ああ、なんでこんなことを男の子もいる前で言わなきゃならないんだよっ。


「あ……ごめん」

 

 桜子ちゃんも気づいたようで、ばつの悪い顔をしている。

 本人も男の子のいる前で下着物色とかするつもりはなかったようで、失念していたことを素直に謝ってくれた。同じように萌香ちゃんも「ごめんねっ」と言ってくれる。

 できればもうちょっと早めに気づいてほしかったよ……。

 みんながテーブルの前に座った時、僕は既にひしひしと疲労を感じていた。こりゃあ男の子連中が帰った後のお泊り会って、思った以上に大変そうだなあ。なんて思っていたりした。

 

 

 

 

    ******


 みんなが部屋に来て一時間ちょっとが経過し、今に至る。

 初めはどうなることかと思ったけど、今は順調に宿題を消化している。席順的に、良治は桜子ちゃん達が教えて、東吾は主に僕が教えている。

 良治達は夕ご飯前には帰ってしまうので、できる限り宿題は終わらせておきたいな。

 時計と進み具合を見て、そんな風に僕は考えるのだった。

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