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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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美少女、花火大会にて③

第五十六話 美少女、花火大会にて③




 コンビニから、良治や萌香ちゃんのいる場所へ戻る途中。

 前を歩く東吾、僕の横には桜子ちゃん。しかし僕はスマートフォンの画面とにらめっこしているため、歩くスピードが二人から遅れていく。

 どうしよう。

 僕が蒼井君からのメールを受け取った時、真っ先に思ったのがこの言葉だった。

 どう返すべきなのか。蒼井君は何を思ってこのメールを出したんだろうか。仮に僕が花火大会にいたとして、どうしたいんだろう。

 僕にはこのメールの意図が掴めない。

 返事を返したら、すぐさま「会いたい」となるのだろうか。……それはいくらなんでも性急すぎるし、ないかな。蒼井君もまさか一人で花火大会に来ているとは思えないし、友達とかを無視して会いには来ないだろう。

 では、ただ単に、ちょっとした好奇心から聞いてみただけなので、返事を返せばそれで終わりなんだろうか。どちらかというとこっちの意図だと思う。であれば、普通に返事をしても大丈夫のはず。

 僕はスマートフォンで「友達と来ています」とだけ文字を打つ。相変わらずフリック入力は苦手で、もたつく僕。打った内容も本当に女の子かよって感じの素っ気なさだ。それを送信したところで、僕が遅れていることに気付いて、桜子ちゃんが話しかけてきた。

 

「どうしたの? メール?」


「う、うん」


 桜子ちゃんは「ふーん」とだけ言う。そして僕の顔を少し見つめると、くすりと笑う。

 

「それって蒼井君から来たメールでしょ?」


「ふぇ!? なんでわかるの!?」


 僕の周辺の人間は本当に察しがいいというか、エスパーなの!? って思うことが多々ある。っていうかありすぎるよっ。

 うろたえる僕を見て、桜子ちゃんは口を押えて楽しそうに笑う。


「アユミちゃんの顔が、旅館で彼と対峙する前の時と全く同じだったんだもの。あー、これは何か考えてますなあ、困ってますなあってすぐわかるわよ」


「うう……そんなに僕って困った顔してた?」


「してたしてた」


 すぐに顔に出てしまうというクセを何とかしたいな、なんて僕は思ってしまう。

 

「ねえ、それで彼は何て? 花火大会に一緒に行こうとか?」


「ううん、僕が花火大会に来ているかどうか聞いてきた。蒼井君も来ているみたいだけど」


 前を歩く東吾が振り返る。

 そんなに反応しなくてもいいじゃんっ。良治といい、東吾といい、僕と蒼井君の話になると何故か食いつきがいい。そんなに蒼井君が気になるかなあ。


「アユちゃん、その蒼井君にこれから会いに行くの?」


「えっ? これから? 行かないけど」


 僕はとっさにそう答えた。東吾はほっとしたような顔をしている。


「そうなんだ。でもいいの? アユミちゃん」


 桜子ちゃんはそんな僕の答えに少し驚いた様子だった。

 僕は黙ってうなずく。だってそもそも、今日花火大会に行くっていうのは、皆と約束したほうが先だし。それを放り出して会いに行くっていうのもなんだかなーと思った。

 じゃあ仮に蒼井君が「今すぐ会いたい」と言ってきたとしたら? 今すぐって言われたら答えはNOとしか返せないかな……。

 

「そうなのねー。蒼井君もまだまだ頑張りが足りないってことね」


 桜子ちゃんは僕の様子を見てそんなことを言った。

 頑張りが足りないって、会った時間も殆どないし、彼にどうしろというんだろう。メールは結構来てたけど……。

 すると、また巾着の中でブルブルとスマートフォンが震える。

 慌てて取り出すと、メールがまた届いている。差出人は蒼井君。


『終わった後にちょっと話したりできないかな?』


「蒼井君から、なんだって?」


 桜子ちゃんが僕に聞いてくる。

 まあ、あの話の流れからだと、誰が送ってきたメールかなんて容易に想像がつくよね。

 東吾まで僕の顔を見ている。

 なんでみんな僕のことになると、興味津々なのだろうか。僕、桜子ちゃん達や良治達の料理同好会以外の交友関係とかほとんど知らないのに。


「終わったら会えないか? みたいな内容だったけど……」


「そうなんだ。私たちは終わった後の予定は特にないし、行って来たら?」


 うーん。僕は少し考える。花火終わった後にみんなでお喋りとかしたいなあと、ちょっと思ってたりもしたんだけど。

 蒼井君の事は嫌いじゃないけど、だからと言って特別好きというわけでもない。

 その気もないのに下手に期待を持たせるのはいけないと思うし、でもだからと言って折角好意を持ってくれた相手に対して、その相手を知る機会を完全に放棄するのももったいない……と思う。

 

「……そうしようかなっ」


 ちょっと迷ったけど、僕はそう答える。

 

「えーっ。花火終ったら感想とか喋りたくなるじゃん? アユちゃんだけいなくなっちゃうのもなあ」


 うっ……決めたと思ったけど、東吾の言葉を聞いて、ちょっと考えてしまう。

 確かに花火終ってすぐ皆とバイバイするっていうのも、つまらないよね。きっと花火を見てテンションも上がるだろうし、お喋りもしたくなるだろうなあ。


「う、うーん」

 

 僕は迷ってしまう。

 ど、どうしようかな。今の僕は、皆と一緒に遊びたいっていうのが一番大きい。蒼井君と会うっていう優先度は、彼には申し訳ないけどそんなに高くない。


「あら、行って来たら? 蒼井君と話す機会ってあんまりないんじゃない?」


 それもそうなんだよね。距離自体はそんなにないけど、行くとなると結構面倒な時間がかかるのだ。こういった機会じゃなければ、殆ど会うことはなくなってしまう。

 僕はどうするか決めかねてしまう。

 よしっ。悩んでても仕方ない。どちらか決められないなら両方取ってしまおうっ!


「ごめん東吾君。ちょっとだけ話してすぐ戻ってくるようにするねっ」


 僕は東吾に向かって軽く微笑む。

 東吾は「お? おう」と微妙なイントネーションだったけど、頷いてくれた。何もみんなとバイバイして蒼井君に専念する必要はないんじゃないかなっと勝手に考えた。蒼井君だって、僕が友達と来てるのは知ってるんだし、無理に時間を割いてほしいとまでは思ってないはず……。


「アユミちゃん、無理しなくてもいいけど大丈夫なの?」


 桜子ちゃんが心配そうな顔をしている。

 

「僕もみんなとお喋りしたいし。蒼井君にはちょっと挨拶するくらいでいいかなって」


「アユミちゃんがそれでいいならいいわ。私もホントはお喋りしたいしね」


 桜子ちゃんはそう言って照れた感じで笑う。

 なんだ、みんな一緒にお喋りしたいんじゃん。その「みんな」という枠の中に僕の居場所があって、僕がお喋りしたいのと同じようにみんながお喋りしたいという気持ちを持っている、それだけで今は満足しちゃうんだよね。


『友達もいるので、少しだけで良ければ』


 とメールを返す。するとすぐ返事が来た。

 

『急に言ったのにありがとう。じゃあ終わったらまた連絡するね』


 僕がメールを確認したのを見て、桜子ちゃんが視線を送ってくる。多分「どうだった?」と聞きたいんだろう。

 

「それでいいって。終わった後ちょっとだけ行ってくるね」


「ぐぐぐ……。やっぱりなんか腑に落ちねえ」


 東吾はそんなことを言っていた。


「もうすぐ花火が始まっちゃうし、早く戻りましょ」


 桜子ちゃんが僕たちをせかす。

 浴衣なのであんまり急げないんだけど、僕は下駄を響かせながらちょっとだけ急ぐ。

 

 


 僕たちが合流したのとほぼ同時に、花火の一発目が空へと打ちあがった。ぎりぎりセーフというところだ。でも結局良治に水あめをおごってもらえなかった。ぐぬぬ、残念。

 大きな音を立てて夜空に咲く大きな花。家の中から見るのとは全然違う迫力。その美しさにただただ見惚れてしまう。


「すっごいねー。アユミちゃん」


 隣に座った萌香ちゃんが空を指さす。僕も頷く。

 次々と打ちあがる花火を、お菓子をつまみながら見る僕ら。蒼井君もどこかで花火を見ているんだろうなあ。

 

「綺麗だね」


 僕は空を見上げて呟く。

 

「アユミの方が綺麗だけどな」


 良治が僕の方を見て呟く。

 それを聞いて思わず吹き出す僕。


「あははっ。何それ。いきなり冗談挟むのやめてよ」


「なっ! 一度言ってみたいセリフだったんだよっ」


 言ってみたいからって、とりあえず言ってみればいいってもんじゃないでしょっ。

 気づけば桜子ちゃんや萌香ちゃんも笑っている。東吾は何か頷いている。まったく、男達ときたらっ!

 連続で打ち上げられる花火。

 夜なのに花火大会の会場は凄く明るく輝いている。そんな中僕は僕を見つめる視線に気づく。


「良治、どうしたの?」


「いや? なんでもない」


 良治はちょっととだけ慌てた様子だった。そう言うと、僕から眼を逸らして再び空を見上げた。

 何だったんだろうと、ちょっとだけ気になった。

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