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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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美少女、花火大会にて②

第五十五話 美少女、花火大会にて②




 駅の外に出ても人の数が凄い。

 良治の袖を掴んでいるからはぐれないと思うけど、ちょっとでも離れてしまえばもう会うことは難しそうだ。


「えーと。東吾や相川達は……」


 良治は一旦花火大会の会場への道から外れ路地裏に入る。外はまだまだ暑く、人の数のせいもあって湿度も凄い。浴衣を着ている僕の顔にも汗がにじむ。

 良治が電話をかけているが、なかなかつながらないようだ。


「あっ、いたいたっ! アユミちゃーん」


 萌香ちゃんと桜子ちゃんが駅前のとおりから僕らの前に現れる。よく見たら後ろに東吾もついてきていた。


「よくわかったねっ。こんな人ごみなのに」


「んっふっふー。アユミちゃんの匂いを嗅ぎ当てましたっ」


「萌香、犬じゃあるまいし……」


 嘘だとは思うけど、萌香ちゃんならひょっとするとひょっとするんじゃないかと思ってしまう僕。いや、本人にそんな能力ないんだけどさ。なんでかそういう不思議なことができちゃうかなって。

 

「アユミちゃん、今私のことを不思議系電波とか思ったでしょっ」


 そして妙なところで察しもいい。

 僕は「あはは」と軽く笑ってごまかす。鋭すぎてちょっと背筋が冷たくなったよ。

 

「それにしても、今日は特に可愛いわね」


 桜子ちゃんが僕の頭を撫でる。


「黒い髪に浴衣が凄い映えるわね。こんなに可愛いのに色っぽいなんて、私を萌え殺してしまう気なの……」


 息遣いも心なしか荒い。目もぎらついている気がする。

 そして一歩また一歩と僕に近づく。あの目は捕食者の目だっ。身の危険すら感じる。ああ、なんで芳乃さんは今日来なかったんだろう、悔やんでやまない。


「桜子ちゃん、桜子ちゃん! ちょっと正気に戻ってっ」


 萌香ちゃんが持っていたジュースのペットボトルを桜子ちゃんの首筋に押し当てる。

 

「ひゃぁっ! 萌香!」


 ジュースの冷たさに驚いて正気に戻ったようだ。桜子ちゃんは両手を合わせてゴメンネのポーズをする。

 毎回萌香ちゃんがいないと危なくてかなわないよっ。もう少し自制の心を持ってほしいよっ。


「とりあえず、そろそろ行かない? 花火を見られそうな場所だけ押さえておかないと」


 そんな騒動を暖かい目で見ていた東吾が話を切り出す。

 あんまり暖かく見守るような内容じゃないんだけどねっ。

 東吾の言葉で、僕らは自分たちの目的を思い出す。そうだった、こんな路地裏でコントみたいなことをしにきたわけじゃない。

 僕らは人の波の中に再び混じり、ゆっくりと順路を進んでいく。

 

「今日は萌香ちゃんも桜子ちゃんも浴衣なんだねっ」

 

 桜子ちゃんは深い藍色に染まった風鈴の柄の浴衣を着ている。本人の身長も高いし、スタイルもいいので凄く大人っぽく見える。

 一方で萌香ちゃんはピンク色の浴衣に朝顔が描かれているという、僕と殆ど同じ浴衣を着ている。違うのと言えば、朝顔に使われている色くらい? 桜子ちゃんと並んでいると、雰囲気的には姉妹に見えてしまう。

 ……うん、僕が桜子ちゃんと並んでも同じですよっ! 

 

「ふふふ、今日はアユミちゃんとお揃いなのだっ」


「ホントだねー。柄も色もお揃いみたい」


 僕と萌香ちゃんは二人して笑いあう。

 

「おかしいわ……何故か負けた気分になるわ……。同じ浴衣を着ているだけなのに。こんなに萌香の幼児体型が羨ましくなったときはないわっ」


「待って! 待って! 桜子ちゃん! なんで私の体型の話がでるのっ? アユミちゃんだって殆ど変わらないんだよ!?」


「アユミちゃんはほら、天使だし……」


「そうだな」「ああ」


 桜子ちゃんに何故か同調する男達。


「じゃあ私は?」


「電波?」


「そうだな」「ああ」


 またしても同調する男達。

 

「なんで突然電波扱いなのーっ!」


 萌香ちゃんは色々いじられて大変だなあ。なんて他人事のように考えている僕。

 

「アユミちゃんっ! 私普通だよねっ」


 対岸の火事だったはずなのに、延焼してきましたっ。

 どう答える?

 正直ベースに答えると、わりと不思議な感じはすると思う。僕が言うのもなんだけど、小動物系の可愛らしい女の子で時々不思議ちゃんだと思う。

 まあかといって普通じゃないわけではないんだけど。

 

「うん、普通だよ。可愛いし向日葵みたいだよ?」


 僕がにっこりとほほ笑んでそう言うと、萌香ちゃんはぱぁっと明るくなって照れたように笑う。


「流石ね、アユミちゃん。女の子でもいともたやすく籠絡するなんて」


「ああ」「俺も籠絡されたい……」


 籠絡なんてしてないっ! まるで人が悪いオンナみたいな感じに言うね。

 僕はぷいと三人から眼を逸らし、萌香ちゃんと手をつなぐ。

 ……ちなみに萌香ちゃんと似たような浴衣になったのは偶然だよ。


「ご、ごめんアユミちゃん。怒らないで?」


 桜子ちゃんがまたしてもゴメンネのポーズをするので、僕は軽く微笑む。


「冗談だよっ」


「最近アユミはいじりとかに強くなったな……ちょっとつまんないぞっ」


「あのねぇ……。僕は良治の玩具じゃないの」


 僕はやれやれとため息を吐く。


「そういえば、東吾君も浴衣じゃないんだね。良治も普通の私服だし」


 東吾はTシャツにハーフパンツ、それにサンダルという超ラフな恰好だった。

 良治も似たような感じで、どちらも浴衣は着ていない。


「ああ。まあ男で浴衣って結構少ないしな。っていうか男の浴衣は別にみたい奴いないし」


 それは偏見な気がするんだけどなー。


「着たら結構恰好いいと思うのにね。二人とも」

 

 僕がぽろっとそう言うと、二人は共に空を仰いだ。

 

「おお……。選択肢を誤ったようだ。この選択肢を間違える辺りが男子力の足りなさなのか」


「ああ、全くだ……。カッコイイって言ってもらえるチャンスを失うとは……」


 大げさだよっ。

 

「まあ良治君や東吾君が着て格好よくなっても、アユミちゃんのオーラの前に掻き消えちゃうと思うけどね」


「それもそうだな」「ああ」


 桜子ちゃんと同調すること多いなっ。そもそも僕にオーラなんてないって何度も言ってるのに。

 ……何度も言ってるのに、周りからの視線を凄い感じるんだよね。なんでなんだろう。

 お面でも売ってないかなー。もし売ってたら、それをかぶって周りの視線をシャットアウトするのにっ。

 

「それにしてもアユミちゃんが髪の毛を纏めて首を出しているのって、エロイわねー」


 桜子ちゃん、発想が良治と同じだよ。

 良治、その「ほら見たことか」って顔で僕を見ないでよ。僕にどうしろっていうのさ。

 東吾は無言で僕の首筋を見ないでねっ。見てるの分かるんだよ、案外。恥ずかしいからやめてって。

 萌香ちゃんはうんうん頷いている。それも違うだろって言いたいんだけど、相対的に一番ましに見えちゃうよ。

 そんな話をしていたら、ようやく河原の土手が見えてきた。太鼓の音も聞こえる。よく考えたら、花火大会ってだけで夏祭りじゃないんだよね。水あめとか売ってるのかな……。

 買ってくれると聞いて飛びついてしまったけど、売ってなかったらそもそも買えない。まさか良治はこれを想定していったのかっ。酷い男だなぁ。

 なんて真偽のほどもわからないことで、心の中で良治を責めたてる僕。

 定番中の定番の焼き鳥とかはのぼりが見えるんだけど……。この際綿あめでもいいんだけどっ。甘いものなら割と何でもいいよっ。

「あっ! アユミちゃん。コンビニで水羊羹買っておいたから後で食べようねっ」


 萌香ちゃんがコンビニのビニール袋を僕の前に見せる。

 うん、もう水あめはいいかなっ。どうせお祭り価格で高いんでしょ? 良治の気遣いは嬉しいけど、僕は水羊羹を萌香ちゃんと食べますっ。

 

 土手の上に上がると、河原は既に人で埋め尽くされていた。シートの上は殆ど満員状態で落ち着ける場所なんてほとんどない。

 一方で土手から河原に降りる坂の部分は結構空いていた。でもシートの上じゃないと草の汁とかのシミがついちゃいそうだし……。

 僕がきょろきょろしていると、東吾がすっと僕の前に出てきた。


「俺ビニールシート持ってきたから、適当なところに座ろうよ」


 なんという万全の準備。遅刻してきたうえに何も持って来ていない僕と良治とは大違いだよっ。

 東吾が坂にビニールシートを敷く。

 

「それじゃあ、私とアユミちゃんと東吾君でお菓子とか買ってくるから、良治君と萌香は留守番お願いね」


 桜子ちゃんが指揮を執る。

 萌香ちゃんは「一緒に行きたいなー」とか言っていたけど、わがままを通すことはなかった。

 萌香ちゃんがジュースとか水羊羹とか持ってたし、もう買ったものだと思ってたんだけど、あれは実は地元で買ってきた萌香ちゃん個人のおやつで、皆で食べるものは現地で買おうという話になってたらしい。

 まあ確かに皆でつまむだけの物があるとは思えないくらい小さなコンビニ袋だったしね。でも自分用と言いながら、僕の好きな水羊羹を買ってくれる辺り、天使のような女の子だよ。


 コンビニでペットボトルを選んだり、お菓子を選んでカゴにいれる。

 コンビニの中も人でごった返している。皆考えることは同じかあ。一度はぐれてしまったら、もう会えないかもしれないので僕はしっかりと桜子ちゃんの後ろについていく。

 東吾は人ごみをするするとかき分けてジュースやお菓子を棚から取って戻ってきている。なんて軽いフットワークなんだろう。東吾を連れてきて大正解だったかもしれない。

 お会計を済ませてビニール袋を持つ。今回は軽い袋だよっ。重い袋は東吾が気を利かせて先に持ってくれていた。

 ……なんだかつい最近もこんな感じのシチュエーションあったなあ。僕は不意に既視感を覚える。

 とその時、巾着に入れているスマートフォンがぶるぶると震えているのに気付いた。

 慌てて取り出して確認する僕。

 一軒の新着メールが着信している。

 

『今、美川市の花火大会に来てるんだけど、ひょっとして佐倉さんも来てたりする?』


 メールの差出人は、蒼井君だった。

休む休む詐欺でした。

今日明日はとても書ききる時間がないから無理だと思っていたんですが、たまたま空いた時間にちょっと書いてたら、思ったよりサクサク書けてしまいました。

その分ちょっと短いんですがキリがいいところ、と言うかいい引きで終わる感じになったのでここまでにしました。

海に行く話以降全く本人の登場はなかった蒼井君ですが、ここら辺でもう一度絡ませたかったりします。……花火始まってないorz

男たちの熱い戦いがはじま…らないかもしれません……。


//2013/10/12 誤字及び、一部間違いを修正

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