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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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美少女、母と二人

第五十三話 美少女、母と二人




 目が覚めると、既に日が傾いていた。

 頭の中は凄く爽やかだ。熱もだいぶ下がったみたいで気分もすっきりしている。こんなに良い目覚めなのは久しぶりかもしれない。

 良治が相談に乗ってくれたおかげで、僕の中に溜っていたもやもやが消えたと思う。

 僕は自分が男だの女だのに固執し、どちらかを選べばどちらかが消えるとしか思っていなかった。どっちも僕なのに、別人のように考えていた。性別こそ変わったけど、僕は僕だし、生きていく上で人の性格が変わっていくのもまた当然のことだ。

 その変化を恐れてはいけないわけじゃないけど、でも僕は自然に変化していたんだ。そして変化に対してネガティブな印象もなかった。だったらその変化を無理に止めるよりは、自然な形で女の子になっていく方が良かったんだと思う。

 こんなに簡単なことだったのに、一人で悩んでいたらずっと悩みっぱなしだったかもしれない。良治には本当に感謝している。

 うん、まあ、だからと言って恋してしまうとかはないんだけどさっ。良治だって冗談で言ったんだと思うけどね。

 あとは……。

 ママに話さないといけないんだと思う。勿論父さんや要にもだ。でも一番に話すのはママに、だと思う。

 女の子になってしまってから、男の子だった時よりむしろ可愛がってくれたけど……。というかうちの家族みんなそうだったよ! なんかちょっと複雑な気分だよっ!

 でも、本心はどうだったんだろうな。息子がいきなり娘になって、何も思わないはずもない。実は本当は男の子に戻ることを切に望んでいて、僕がだした結論は真っ向から否定されてしまうかもしれない。でも僕はやっぱり想いを伝えなきゃいけないんだと思う。

 家族だから猶更僕の生き方を知ってほしい。そしてできれば認めてほしい。

 

 僕はベッドから立ち上がる。

 昼間はあんなに辛かったけど、今はもう足もしっかりしている。僕は姿見に向かう。少し乱れた髪の毛と、パジャマを整える。

 自分の部屋を出て廊下に出る。むっとした暑い空気が廊下に充満している。

 階段を一歩ずつ降り、居間への扉の前に立つ。

 高鳴る鼓動、緊張する胸。何か悪いことをしているかのような、そんな緊張感。実はママを裏切ってしまうのではないか、そんな不安感が僕を襲う。

 居間の扉に手をかけ、中に入る。

 ママはソファに座ってクロスワードパズルをしている。僕が部屋に入った気配に気づいたようで、僕の方を向きなおす。

 

「あらアユミちゃん。もう大丈夫なの?」


「うん」


 僕の返事は短い。緊張して上手く喋れないかも……。

 そんなガチガチな僕にママは優しく微笑んでいる。

 

「なんだか、言いたいことがあるみたいね」


 僕がもじもじしていると、少し様子が違うのに気付いたのか、ママはそう言った。


「う、うん」


 返事はするものの、どうやって話を切り出そうか迷う僕。

 だ、だめだっ。やっぱり言えない! 逃げたい! そう思う僕と、頑張ろうとする僕のせめぎ合いが続く。

 いや、ここで逃げちゃってどうするんだっ。


「ママ! 大事な話がありましゅ」


 舌が上手く回らずに思いっきり噛んだ。しかしママはそんな僕を笑うことなく、僕の目を見つめていた。


「そう。それは多分とても大事な話なんでしょうね」

 

「うん。僕のこれからのこと……なんだ」


 二人の間に流れる沈黙。

 どうやって話せばいいんだろう。いや、もう直球勝負しかないっ。下手に誤魔化したり、遠回りする意味なんてない。


「僕は……、僕は女の子として生きていこうと思う」


 もうずばっと本当に本題から切り込んでいく。


「あらそう♪ ママもそれでいいと思うわっ♪」

 

 渾身の思いで語った僕に対して、ママはあっけらかんとして答える。


「……へ?」


 満面の笑みを浮かべるママに僕はあっけにとられてしまう。

 もう少しなんかあるだろっ! 否定とかされない方が嬉しいのに、それで終わりなのっ! なんて思っちゃったりもする。


「あの……ママはそれでいいの?」


 僕は恐る恐る尋ねてみる。

 するとママはいかにも「何が?」っていう感じで首をかしげる。


「アユミちゃんの生き方はママが決めるものじゃないわ。だからあなたが一番いいと思った生き方を選んだのなら、ママはそれを否定する気なんてないの」


「で、でも――」


 何かを否定しようとする僕。しかし喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

 ママが僕の体を優しく抱きしめてくれていた。

 

「ママだって、息子が娘になっちゃってがっかりしたでしょ?」


「うーん、そうねえ。確かにびっくりはしたけど、がっかりはしなかったわよ。だってアユミちゃんこんなに可愛いんですもの♪」


 ぎゅーっと抱きしめてくれるママ。

 すみません、そろそろ苦しいですっ。

 

「冗談はさておきっ、確かにアユミちゃんになっちゃったのを知った時はびっくりしたし、アユム君の痕跡が消えて行ってしまったのは悲しかったわ」


 僕はママを見つめる。

 

「でもね、ママが一番心配だったのは貴女が幸せになれるか、だったの」


「僕が?」


「そうねー。いきなり女の子になっちゃったら、鬱になっちゃったりしてもおかしくないわ。だからそれが凄く心配だった。でもアユミちゃんはどんどん可愛くなっていって、楽しそうに生活してたわ。だからママもほっとしてたのよ」


 確かに、余りにも大きく環境が変わりすぎた。

 自分でもよく平気だったなと思う。ははは、案外僕も図太いのかもなあ。佐倉家の面々はみんな図太いからなぁ。良治にもよく順応してるって言われたことがあったっけ。


「最近ちょっと不安な顔を見せるようになって、心配してたの。でもそれもちゃんと乗り越えてきたのね」


「良治のおかげだよ」


 ママは僕の頭を撫ででくれた。

 

「いい友達をもったわね♪」


 確かに良治はイイヤツだと思う。

 女の子になってからも変わらずいてくれるし、なんだかんだで僕が弱音を吐いても聞いてくれるし。まあ一部困ったこともあるけどさ。


「うん……。時々セクハラがひどいけどね」


「それはアユミちゃん、貴女がびしっと言わないとだめよ?」


「えっ!? う、うん」


 び、びしっとかあ。言ったような言ってないような。いや全然言ってないなあ。

 一応、体を触ったりはしないって言ってくれたけど、三歩歩いて忘れてたらどうしよう。何かされたら今度はちゃんと言わないとダメだなッ。うん。

 僕は拳をぐっと握る。

 

「女の子として生きるなら、そうやって自分を守ることも大事なんだから」


 そんな僕の様子を眺めながら、ママはを見て頷く。


「でもアユミちゃんが本当にちゃんとした娘になってくれるなんて、嬉しいわ♪ ママが前に娘が欲しいって言ったのも本当のことなのよ」


 僕の前でニコニコしているママ。

 本当に嬉しそうに見える。あれ、それじゃあ……。


「え、じゃあ僕がここで男の子になりますって言ってたら、逆にがっかりしてた?」

 

「……そ、そんなことないわよ!?」


 えっ何なのその間は!

 うわぁ。それは何か酷いなあ。結果オーライだっただけってことなの!?


「ふふっ、冗談よ♪」


 僕の呆れた顔を見て、ママはイタズラっぽく微笑む。

 

「アユミちゃんが、仮にその姿でもアユム君として生きていきたいと願ったなら、ママは応援したわよ」


 ゆっくりと僕に言い聞かせるように話すママ。

 彼女の顔はいつになく穏やかだ。本当慈しむような顔を僕に向ける。


「ホントに?」


「ええ♪ アユミちゃんが幸せになれるように願ってるから」


 そう言って彼女は僕を再び抱き寄せる。

 とても暖かく、そして優しく感じる。

 どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。どうして僕の言うことをすべて受け止めて、そして認めてくれるんだろう。


「不思議そうな顔をするのね」


 そんな僕の心を見透かしたような、そんな言葉を言う。


「あのね、アユミちゃん。貴女はママがお腹を痛めて生んだ大切な子どもなの。だからママは貴女が幸せになれるように、精いっぱい応援するわ。だから貴女は貴女が決めた生き方で幸せになりなさい。ママはそれだけで満足なの」


「うん」


 そう答えて見上げた彼女の顔は、にじんでいてよく見えなかった。

 何で――と思った瞬間、頬を伝う水滴の感覚が感じられる。いつの間にか僕は涙を流していた。 ただ、なんだかすごくほっとして、気づいたら零れ落ちていた。なんで泣いてるのか自分でもわからなかったけど、それを止めることはできなかった。


 

「あらあら♪」


 ママはそう言って僕の頬や顔をハンカチでぬぐってくれる。



 暫く泣いて、ようやく涙が止まった僕。

 ママは泣いている間ずっと抱きしめてくれていた。


「……これで我が家の息子は要だけになっちゃったね」


「そうねぇ。あの子もアユム君みたいに可愛ければねー。ただのマセガキの大馬鹿者になっちゃって」


 いや、あの……。なんか大分辛辣な発言が出てきたんですけどっ。

 

「あ、あの。要のことも愛してるんだよ……ね?」


「えっ!? も、勿論よっ」


 ほんとかよっ! 目が泳出るんだけど。目と目で話そうよ! ちょっとお姉ちゃん可哀想になってきたぞっ。

 僕の目を見てないよママン!

 ママはふうとため息をつく。


「あの子反抗期になって、ママやパパの言うことあんまり聞いてくれないのよー。アユミちゃんがママの言うことを聞くように言ってくれたら、多分色々修正できるんだろうけどねー。」


「あー、そうなんだ」


 僕の部屋にはよく遊びに来るし、やたらと甘えてくるからそういうのには全然気づかなかった。

 今度ためしに言ってみようかなっ。ママが大変なら僕が助けるくらいな勢いで頑張ろうっ。

 僕がそんなことを考えていると、何かに気づいたようにママはぽんと手を叩いた。

 

「あっ、そうだ。女の子になるなら、ママの修行もスペシャルハードコースになるからねっ♪ がんばってね!」


 そう言って彼女はウィンクする。

 え……。

 今も料理に洗濯に掃除にって色々しごかれてるのに、まだ上があるのか……。それも大体全部できるようになってきて、もう卒業も近いななんて思ってたんですけど……。

 

「……ちなみに今までの修行はどれくらいのコースなの?」


 僕は恐る恐る聞いてみる。


「ビギナー向けのスペシャルベリーイージーって感じねっ♪」


 僕は女の子になろうと思ったことを早速後悔するのだった。


女の子になるかならないかで悩む部分は、ある程度主人公の中で区切りが付けられたんじゃないかなと思います。

となると、いよいよ誰とどうくっつくかというところに向かっていくのですが、正直全くなんも考えてないので誰とでもくっつく可能性があります('A`)

海(蒼井君)→キャンプ(東吾)→前回(良治)で、イベント規模の大小はあれ、一応通ってきたので、次はどうしようかなと考えています。

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