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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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美少女、夜の山にて

第五十一話 美少女、夜の山にて





 はあ……。

 バーベキューも終わり、みんなはコテージの中へ戻った。

 僕はというと、売店でジュースを買ってくるといい、一人外に出てこうしてため息をついている。

 何か今日は全然だめだなあ。夏バテのせいか、バーベキューも殆ど食べられなかったしなあ。

 売店でスポーツ飲料を買って、一口飲む。少しだけ頭がすっとした気がする。

 あぁ、バーベキュー楽しみだったのに。折角楽しいイベントごとなのに、体調的な問題で目いっぱい楽しめない時の苛立ちときたらっ!

 食欲はなかったけど、夜になり、涼しくなったおかげもあってか、昼間ふらついたりしていた体調も大分回復したようだ。まだまだ、夜を楽しめば挽回できる! 頑張ろう! ……何をだっ。

 などと一人で突っ込みを入れながら僕はコテージへ戻る。


「あっ、おかえりー。ねえねえ、後で肝試しに行こうよ!」


 コテージに入るなり、萌香ちゃんが僕に手を振る。


「肝試し?」


 僕は首をかしげる。

 そんなに肝を試せそうな雰囲気じゃないと思うんだけどなあ。普通のキャンプ場だし。


「ああ。夜にトランプやってるだけじゃ詰まらないだろうって話になってな。じゃあちょっと夜中に外を散歩がてら肝試しでもやろうかって」


 萌香ちゃんの代わりに良治が答える。

 確かに夜中に延々とトランプするのもつまらないかもしれない。うーん、とは言ってもなあ。


「キャンプ場の外に行くのって結構危ないと思うけど大丈夫?」


 主に僕が危ないんてすよっ。まさかけもの道とかには行かないと思うけどさ。僕は本当にどんくさいから、夜の山道を行くのだと転んでしまいそうだ。


「いや、キャンプ場の外にはいかないつもり。殆ど夜の散歩になんのかな。キャンプ場の中の散歩道も、人気がなくなると結構怖いかもよ?」


 東吾がキャンプ場のマップを広げて言う。


「うーん、キャンプ場の中ならいいかな」


 ただ、キャンプ場の中じゃ殆ど肝試しになんてならない気がする。でもキャンプ場の中なら、少なくとも危ない道はない……と思う。いや、僕の場合油断はできない。しっかり足元を見ないと。

 いや夜道じゃ足元見てても危ないかも……? 散歩道にはあんまり街灯がなかったような気がする。


「そういや懐中電灯はあるの?」


 いくらなんでも真っ暗の道は危ないよね。でもわざわざ、懐中電灯なんて……。


「こんなこともあろうかと、二つ持ってきたわ」


 あるんだぁ。

 桜子ちゃんが鞄からごそごそと懐中電灯を取り出す。

 昼間の水鉄砲といい、はしゃぐ気満々で来たみたいだ。モデルの芳乃さんをお姉さんに持つ桜子ちゃんは、雰囲気が大人っぽい。……時々すごい危ないオーラを出すけど、普段は大人っぽいんだよっ。そんな桜子ちゃんがこんな風に遊ぶ道具を持って来てると、ギャップが可愛い。実はトランプも桜子ちゃんが持ってきたものだ。

 懐中電灯まで用意されてたら、もう何も言うことはあるまい。


「そんなに準備してるならいこっか」


 僕が苦笑すると、みんなはわっと喜ぶ。そんなに肝試ししたいのかあ。なんでだ……。

 僕一人が頭に疑問符を浮かべていると、桜子ちゃんがにやりと笑う。


「このくじで、同じ色を引いた人とペアになっていくのよ!」


 桜子ちゃんが5枚の紙を手に持っている。


「ペアって、僕ら五人だけど。……まさか一人でっていうのもあり?」


 僕は桜子ちゃんを見る。まさか最後の人はソロだというのだろうか。

 夜にソロでキャンプの散歩道を徘徊とか、むしろその人の方が怖いよ! 出会いたくないでしょっ!


「待って! 待って! アユミちゃん。二人組と、三人組だからっ。普通に考えて一人はないよっ」


 ですよねー。一人でってなったらコテージに待機の方がましだよね。


「では早速引かせてもらうか」


 良治、東吾、萌香ちゃん、そして僕の順に桜子ちゃんの手からくじを引き抜く。

 僕の引いたくじの先は蛍光ペンで黄色に塗られていた。


 


    ******


 僕と東吾は二人で散歩道を歩いていた。

 僕の引いたくじの先端と同じ色を持っていたのは東吾だったのだ。僕と違う色を引いた萌香ちゃんや桜子ちゃんは何故かがっかりしていた。


「結構暗いんだね。アユちゃん大丈夫?」


「うん。平気かな」


 懐中電灯で足元を照らしてくれる東吾。

 肝試しと言っていたけど、流石にキャンプ場内じゃ全く怖くない。このままただの夜の散歩で終わりそうだ。

 暗くて静かで、木々のざわめきだけが聞こえる。ひょっとすると怖がる人もいるかもしれないシチュエーションだけど、生憎と僕は平気だった。

 夜の山の空気はひんやりとして気持ちいいなぁ、とか考えていた。


「アユちゃんってさ、全然怖くなさそうだね」


「あはは。僕ってそんなに怖がりに見えるかなっ」


 僕はくすくす笑いながら東吾の顔を見る。


「うん」


 うわおう。即答なんだね。

 でも僕は暗いところとか怖くはないんだよねっ。暗いところより、凄い身長の高い大きな男の人とかのが怖いです。あと人ごみとか。暗いところは暗いだけで何かしてくるわけじゃないからねっ。


「そ、そんなに怖がりに見えるかなぁ」


「うーん、なんていうんだろう。怖がりの方がアユちゃんっぽい雰囲気があるというか」


「むー」


 僕は少し頬を膨らませせる。どうせその理由も、ちんちくりんだとか、子供っぽいからとかそういうものなんだろうなあ。まあそりゃ芳乃さんみたいに大人の雰囲気はないけどさっ。


「悪気があったわけじゃないんだわ。ごめんな」


 東吾が気まずそうに頭を掻く。


「ふふっ、わかってるよ」


 あんまり虐めても可哀想なので、僕は東吾に向けて少し微笑む。

 東吾はそんな僕の様子を眺めて立ち止まる。


「どうしたの?」


「いや、いいくじ引いたなあと思って」


 くじと言えば、良治たちは今どの辺にいるんだろう。

 散歩道自体は円を描くようにしてキャンプ場をぐるりと回っているから、すれ違うことはないんだろうけど。


「あ、東吾君。そこ段差あるよ」


「えっ? おわっ!」


 足で地面を滑る音がして、東吾はその場で尻餅をつく。


「いってぇ……」


「大丈夫?」


 僕は東吾に手を差し出す。結構な勢いで尻餅をついていたので、大分痛そうだ。

 東吾は僕の差し出した手をじっと見つめている。女の子に助け起こされるのが嫌だったのかな。


「アユちゃん、ごめん。俺の手、今土で汚れちゃったから」


「なんだ、そんなの気にしなくていいのに」


 僕は東吾の手を取る。

 一瞬びくっと東吾の体が震える。


「えっ! いっいいよ」


 東吾が何か焦ったような声を出している。痛い思いしてるんだから、あんまり遠慮しなくてもいいのに。


「アユちゃん! いいって!」


 僕は東吾の手を引っ張って起こそうとする。しかし東吾はそれから逃れるように手を引く。不意に引っ張られる僕の上体。


「わわっ!」


 手を握りっぱなしにしていたのがまずかった。

 手を引こうとする東吾の力に負けて、僕はバランスを崩す。

 しまった――。そう思った時にはもうすでに後の祭り。一度崩したバランスを立て直すこともかなわず、僕は東吾の方へ倒れ込んでしまった。

 これじゃあ本当に何もしない方が良かった。結局余計なことをした形になってしまった。


「あ、アユちゃん!?」


 東吾は僕の胸の下でもがいている。

 あれ……胸の下? 僕は今の状態を思い浮かべる。立ち上がろうとした東吾の引っ張る力に負けて、そのまま東吾に覆いかぶさって……つまるところはたから見れば押し倒したように見えるわけでっ。で、さらに東吾の顔は僕の胸の……っ。


「わあああああーっ」


 僕は物凄い勢いで飛びのく。多分今の僕は耳元まで真っ赤だよっ。ホント暗いから見られなくて良かったっ。じゃなくてっ!


「アユちゃん、ごめんっ!」


 東吾が体を起こして僕に謝る。

 えっと、東吾が謝る必要はないんだけどっ。

 東吾が嫌がってるのに、無理に立ち上がるのを手伝おうとして失敗して。余計なことをした僕が全部悪い。

 本当に今日の僕は失敗ばかりだっ。本当に何やってるんだっ。


「その、全然気にしてないからっ! 東吾君も気にしないでっ」


 よりにもよってあんな恰好になっちゃうなんて恥ずかしいっ。顔が熱すぎて、今ならお湯も沸かせちゃいそうなくらいだ。


「ほんと、ごめん」


「本当にいいからっ! もう忘れてぇっ」


 何故か謝り続ける東吾に、もうできれば忘れてほしい僕。

 二人の間に気まずい雰囲気が流れる。はあ……。どうしてこうなるんだろう。

 まずは呼吸を整えよう。深呼吸して……よし少し落ち着いてきた。

 東吾が謝る必要はないと思う。

 むしろ余計なことをした僕がちゃんと謝らなきゃ。


「ごめん。余計なことしたみたいで」


「えっ!? いや、えーと……。アユちゃんが助けてくれようとしたのは嬉しかったし、全然余計なことじゃないよっ。ただその、恥ずかしかっただけで……。アユちゃんに手握られたら緊張しちゃって。嬉しかったんだけど、なんか恥ずかしくって、つい手を引込めちゃって」


 驚いた顔をして返答をする東吾。

 差し伸べた手が嬉しかったって言ってくれたのは、僕としても嬉しい。

 僕だって男の子だったときに、女の子に手を握られたら緊張する。それに気づかないなんて軽率だった。


「ごめんね。服にいっぱい土ついちゃったよね」


 結局自力で立ち上がった東吾に僕は謝る。

 ホントはお尻だけ汚れただけで済むはずだったのに、きっと背中まで土がついてしまったんじゃないだろうか。


「大丈夫。土も乾いてるし、払えばいいからさ」


 東吾はぽんぽんと自分のお尻や背中を叩いて土を払う。払い終わった後には、伸びをして少しストレッチをしている。

 その様子を眺める僕。

 そういえば蒼井君と話した夜も、こんな感じに失敗したな。あの時転んだのは僕だったけど。


「そういやアユちゃん。蒼井君ってどんな人だったんだい?」


「ふぇ!?」


 丁度その人物の事を考えていたので、いきなり話を振られて変な声が出てしまった。


「……またその話なの。みんなそんなに気になるものなの?」


「そ、そりゃあ」



 東吾は少し頬をかく。

 蒼井君の事を話すのは少し辛い。

 その辛いっていう思いは、殆ど僕が中途半端さに起因することで、彼自身が何かしたわけではない。

 のど元過ぎれば熱さを忘れる。僕は蒼井君と話した夜の事を余り考えたくない思い出として、深く考えないようにしていた。結局そのことを考えれば、僕自身がどう生きていきたいのかということになってしまうからだ。

 あの時はあんなに決めなきゃって思ったのに、またなあなあで済まそうとしている。結局蒼井君のメールも返事こそしているけど、自分から何か彼に対してアクションを起こすことはなかった。

 僕はどうやって生きていきたいんだろうな。自分の中では答えが出てると思う。ただ誰かに後押ししてほしいだけなのかもしれない。でも東吾にそれを話しても、僕の気がくるってしまったとしか思わないだろう。

 ……だからだめなんだっ、この話は。悩むなら自分一人の時に悩むべきで、他の人のいる前ではそんなの放り投げておくべきだ。


「ごめん、アユちゃん。聞いといてなんだけど、やっぱいいや」


「えっ?」


 東吾は唐突に自分が振った話を撤回する。

 内心ちょっとだけほっとしてしまったけど、どうしたんだろうか。


「何か悩んでるみたいだったし。いつだったか、委員会の帰りに寄ったハンバーガー屋の時と同じ顔してる」


 そんな前のことを覚えてるんだ。

 僕は不意に心の中が暖かくなったような気がした。


「よく覚えてるんだね」


 僕がそう言うと、東吾は「まあね」とだけ答えた。


「あんまり聞いてほしくない話みたいだし、変に掘り起こしてごめんな」


 そう言って謝ってくれる東吾。

 気を遣わせてしまった。僕の方こそ、謝りたいくらいだった。


「でも、俺でも愚痴くらいは聞けるし、なんかあったら言ってくれて構わないから」


「……うん、ありがとう」


 東吾は普段、僕や女の子の会話にはあまり混じらないし、僕との会話も少ない。少し遠慮しているのか、ちょっと距離を置いているように思える。良治とつるんでいることは多いんだけどね。もっと話しかけてくれてもいいんだけどな。


「東吾君って、思ったよりずっとやさしいんだね」


「なっ! 俺ってそんなに冷酷に見えるかなぁ」


「あはは、冗談だよっ」


 僕らの声は山の中に小さく響く。

 すっかり肝試しではなくなってしまったけど、これはこれでいい夜の散歩になったかもしれない。

珍しい東吾と歩のツーショットの回でした。


この回を予約投稿している十月七日現在、あまり体調がよくない関係で、明日はひょっとしたら本当に投稿がないかもしれません。

今までないかもといいつつ全部投稿してきましたが、ちょっと今回は怪しいです('A`)

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