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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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美少女、山へ行く②

第五十話 美少女、山へ②




 お昼ご飯の後は川に降りることになった。

 僕ら女の子陣は準備のために一度コテージへ戻ると伝える。それに対して良治や東吾は先に川に行くと言って一度別れた。

 男の子は準備要らずでいいよなあ、などと思ってしまう僕。いや、まあ僕も割と最近まではそっちの方だったんだけどさ。

 ジーパンとかにしておけば、膝まで捲ったりして対応できたのかもなあ。タイツじゃ脱がないとどうにもこうにも、水には入れない。

 

「ねえねえ、アユミちゃん。アルバイト始めたんだよねっ! どこのお店?」


 着替え途中に萌香ちゃんが尋ねてくる。

 この流れは、お店に来ようとしているっ! ……とわかってはいるんだけど、黙っているわけにもいかず答えてしまう僕。


「あっ、そこ知ってる。前に一回雑誌に載ってたわね。今度行ってもいい?」


 桜子ちゃんも知っているようで、僕は驚いた。雑誌に載ったこともあるんだ。確かにあのプリンは凄く美味しかったし、良治の食べてたオムレツも美味しそうだったから有りうる。


「僕のシフトの時間じゃなければいいよっ」


「待って! 待って! アユミちゃんがいない時じゃ、あんまり意味がないじゃんっ」


 僕の答えに萌香ちゃんはふくれっ面になる。美味しいご飯食べるだけでも意味があると思うんだけどね。

 アルバイト中に知り合いとうっかり対面するのって、結構恥ずかしいんだよっ。この前良治と鉢合わせになった時も結構ドキドキしたんだから。


「僕もう準備終わったから行くねっ」


「あっ、待ってよー!」


 僕は先にコテージの外に出る。むっとする暑さに、少しめまいがする。うーん、やっぱり夏バテかな。

 もともとこの体は体力が著しく欠けているし、食も細い。夏休みに入ってから、海水浴、アルバイト、そして山と結構ハードなスケジュールだったので、少し疲れてしまったのかもしれない。

 僕は少しの間目を閉じる。

 耳に入るのは、蝉の声と木々のざわめき。そして時折聞こえる子供の甲高い声だけだ。

 都会にいては味わうことのできない、むせ返るような木と土の匂い。

 今僕は友達とキャンプ場にいるんだなあ。中学の頃はこんな経験はなかった。女の子になってしまったという一点を除けば、高校生になってからの方が充実している。きっと僕も心から楽しんでいるんだと思う。

 少しくらついていた頭も徐々に落ち着いてきたところでコテージの扉が開き、萌香ちゃんと桜子ちゃんが出てきた。


「あれ、ビーチボール?」


 僕は萌香ちゃんが手にバレーボール大のビーチボールを持っているのに気付いた。

 ちょっと時間がかかってるなと思ったら、これを膨らませていたのか。


「そうそう! この前海に行ったときは何もなかったから全部レンタルしちゃったけど、キャンプ場じゃそういうのもなさそうだから買ってきちゃった!」


 彼女はぽんぽんとボールを手のひらで跳ねさせる。

 川で水遊びって言っても、水に浸かるわけでもないから何か遊具がなければ遊べないよね。でも足場も悪いのにボールで遊べるのかという不安もある。


「じゃあそろそろ行こうか。あんまりあの二人を待たせるのもよくないわ」


 僕たちが川に降りると、良治たちは上半身裸で水を掛け合っていた。

 あーあ、ズボンも濡れちゃってるよ。

 この二人どっちも馬鹿なんだなあと思いつつ、涼しそうで少しだけ羨ましく思った。僕はほら、もう水にぬれたりできないからねー。濡れると色々と透けちゃうし……。


「おお、来たか! 水が超冷たいぞ!」


 はしゃいでる男連中に対し、女の子陣はそこまではしゃげないと言った様相だ。

 僕は水を掛け合っている二人をよそに、川べりにしゃがんで水に手を入れる。水はとても冷たく、透き通っている。

 

「どう、アユミちゃん」


 桜子ちゃんがいつの間にか僕の横にしゃがんでいた。


「うん。凄い冷たくて気持ちいよっ」


「そ、そう。そんなに眩しい笑顔を見せられると、川とか山なんてどうでもよくなってくるわね」


 いやいやいや、それらがどうでもよくなったら、ここに来た意味がないじゃん! そんなうっとりした顔で見ないで! 

 すると、そんなうっとりしている桜子ちゃんの顔に水がかけられた。


「なっ! 萌香!」


「だって桜子ちゃんの顔危ないんだもん。ちょっとは頭冷やさないとダメだよっ」


 桜子ちゃんは水をかけられてちょっとばかり怒ったみたいだけど、すぐに気を取り直したようで何かを水につける。

 そしてそれを取り出し、萌香ちゃんに向ける。

 これは、水鉄砲だっ。銃口から噴出された水は一直線に萌香ちゃんのお腹に飛び、そして命中する。

 

「わっ! つめたっ。待って! 待って! 桜子ちゃん! 何でそんなもの持ってるの!?」


「地元のスーパーで買っといたわ」


「意外と準備いいんだね、桜子ちゃんって」

 

「えっ!? ええ」


 桜子ちゃんはちょっとだけ恥ずかしそうに頬を染めた。

 おお、なんかちょっと新鮮な感じだ。


「な、なんでそんなにニコニコしてみてるの?」


「桜子ちゃん可愛いなあと思って」


 桜子ちゃんはさらに照れてしまったみたいで、そっぽを向く。僕はそんな桜子ちゃんの顔をさらに覗き込む。

 

「ちょっ! アユミちゃん、どうしてそんなに見てくるのよ」


「いやぁ、いつものお返ししようかなと」


「もうっ。知らないんだから」


 桜子ちゃんは僕に背中を向けてしまう。うーん、普段自分がやられているわけがちょっとわかった。こういう仕草はちょっと可愛い。


「おーい、歩。ちょっと水の中に入ってみないか?」


 良治が川の中から僕に声をかけてくる。良治は既に濡れ鼠になっている。川自体はそんなに深くないようで、良治の膝くらいまでしか水がない。しかし、良治の履いているハーフパンツは水をしっかり吸い込んで色が変わってしまっている。傍にいる東吾も全く同じような状態だ。

 全くしょうがないなあと思い、僕は立ち上がろうとした。

 あれ――? と思った。視界が一瞬真っ白になった。そしてそのまま後ろに倒れそうになる。まずいと感じたけど、何もできない。


「アユミちゃん、危ないよっ」


 後ろから萌香ちゃんが支えてくれたおかげで、倒れずに済んだ。

 

「大丈夫!? 具合悪いの?」


「ううん。平気、ありがとう。ちょっと立ちくらみがしただけだから」


 内心ドキドキしていた。危なかった。視界が真っ白になって、目が開いているのに何も見えてない状態で、そのまま後ろに倒れ込むなんて。下手をすればそのまま怪我をしていたかもしれない。背中には嫌な汗をかいてしまった。

 夏バテも放置しておくと危ないな……。

 萌香ちゃんの手から離れる。足はもうしっかりしていた。ちょっとまだ心臓がどきどきしているけど、大丈夫そうだ。

 心配そうな顔をしている萌香ちゃん達に僕はにっこりとほほ笑む。

 彼女たちが少しホッとした顔をし他ので、僕も安心した。

 僕はゆっくりと靴を脱ぐ。日にあたって焼けた石が少し熱い。

 水に触れると、とても冷たくて気持ちがいい。


「アユミちゃん、滑るから気を付けてね」


 後ろから桜子ちゃんの声が聞こえる。


「アユミちゃん、待って! 私も行くから―」


 そして萌香ちゃんが慌ててついてくる。多分さっきふらついたから心配をかけてしまっているんだろう。

 彼女はすぐに追いついてきて、僕の手を握る。少し緊張する僕。

 二人でゆっくりと川の中を進んで、良治たちと合流する。

 

「大丈夫か? なんかよろけてたけど」


「うん、ちょっと立ちくらみしただけだから」


「アユちゃん、冷たい飲み物持ってきてあげるよ」


 そういうと東吾はばしゃばしゃと川の中を進んで荷物からペットボトルの飲み物を取ってきてくれた。そういえばあんまり飲み物を飲んでいなかったなあ。軽く熱中症になりかけていたのだろうか。

 ああ、帽子を持ってくるべきだった。僕の髪の毛は真っ黒だから、本当に暑い。自殺行為みたいなものだ。

 

「ありがとう」


 東吾が渡してくれたペットボトルを開けて、一口飲む。冷たい麦茶が喉から順に体を冷やしていくように感じた。

 何か今日は皆に心配かけてばかりだ。もうちょっと体力をつけないといけないかな……。


「ところで歩」


「なに?」


「水着はないんですか?」


「ないよっ!」


 川で水着って、小さい子供とかならともかく、僕たちくらいの年じゃ殆どいないんじゃ……。

 本当に何でそんなに水着にこだわるんだよ。グラビア雑誌でも見てればいいじゃん。

 

「まあ仕方ないか。またプールにでも行こうぜっ」


「はいはい。また今度ねー」


「駄々をこねる子供と母ちゃんみたいな図になってるな」


「ほんとにねーっ。仲いいよねー」


 全く、萌香ちゃんも東吾も勝手なこと言ってっ! こんなに手のかかりそうな子供なんていらないよっ! ……じゃなかった、冷かさないでほしいよっ。


「みんな、そろそろ上がる? もうすぐバーベキューの準備の時間だよ」


 岸から桜子ちゃんが僕らを呼ぶ。僕らはぞろぞろと川の中を歩きはじめる。僕もそれについて歩く。

 足元の石の大きさがみんな違うので歩きにくい。

 歩きやすそうなところを探してゆっくり歩く僕。それを見た良治が声を上げる。


「あっ、待て歩。そこだけちょっと深くなってるから――」


 その忠告を最後まで聞くことなく、僕は急に深くなった場所に足を踏み入れ、あると思っていた場所に地面がなかったためにつんのめる。このパターン、どこかで見たような、なんて倒れ込む直前の一瞬に考えてしまった。

 しかし今回は受け止めてくれる人なんておらず、そのまま水面にダイブする。

 幸い水に打ち付けられただけで、痛みはさほどないし、溺れてしまうほどの深さでもなかった。とは言え上半身からかハーフパンツまでびしょびしょになってしまう。

 

「だっ、大丈夫!? アユミちゃん」


 岸からは桜子ちゃん、川の中からは萌香ちゃんが僕の方に慌ててやってくる。

 

「あはは……。着替え持ってきてよかったなぁ」


 僕は助け起こしてくれた萌香ちゃんに向けて誤魔化し笑いをする。いつもダメな僕だけど、今日は輪をかけてダメだなぁ……と内心結構しょんぼりしている。

 

「あ、アユミちゃん! 待って! こっち向いちゃダメ! 透けてるからっ!」


「透け……? あっ!」


 僕は自分の服を見る。

 上半身からダイブしたせいで、Tシャツの前面はぴっちり肌に張り付いてしまっていて、白いTシャツなのにほんのり肌色が見えてしまっている。当然そのまま下着にもぴっちりついてしまっているわけで……。もう透けてると言うか、殆どまんま見えている感じになっていた。僕はその場で声にならない様な悲鳴を上げる。

 うっかり萌香ちゃんの方を向いてしまったがゆえに、良治や東吾にもばっちりみられてしまったわけだ。あああ、もう恥ずかしい! しかも今回に限っては良治も東吾も全く悪くない上に、僕がバカやっただけっていうのが余計に恥ずかしい。

 桜子ちゃんがあわてて僕の上着の長そでシャツを持って来てくれたので、袖を通さないままそれを羽織る。

 

「着替え持ってるんだっけ?」


 桜子ちゃんの問いに僕は頷く。


「良かったぁ。じゃあシャワー浴びてから着替えなよ」


 萌香ちゃんと一緒に僕はコテージに戻ることになった。

 桜子ちゃんは、良治たちと一緒にキャンプ場の売店でバーベキューの食材を受け取りにいくらしい。

 はあ、今日は本当に全然だめだなあ……。厄日なんだろうか……。

 僕はコテージに戻りながらそんなことを考えていた。

 

いつの間にやら50回目を迎えてしまいました。

ずいぶんと長くやってきてしまいましたが、まだ続いてしまいそうです。


ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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