表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
45/103

美少女、夜の海にて①

第四十五話 美少女、夜の海にて①




 海への旅行も二日目も日が沈み終わりが近づく。

 明日はチェックアウト後に帰路につくだけなので、僕らの旅行も終わりが近い。


「ねえねえ、アユミちゃん。お姉の化粧品使っておめかししたら?」


 時刻は午後七時を回ったところだ。約束している時間まであと一時間足らずというところ。

 桜子ちゃんはごそごそ芳乃さんのポーチを漁っている。

 

「なんで?」

 

 八時にちょっと会って、その後どうせお風呂に入らないといけないのに、何故わざわざ化粧をするというのか。

 三十分以上かけてお化粧した挙句に、五分十分会って、お風呂前に落とすってことになりかねない。どう見ても時間がもったいないんだよね。

 まあ、うちのママの前で同じことは言えないんだけど。


「折角のデートのお誘いなんだから、気合入れていかないとっ」


「でっ、デート!?」


「そりゃあ、好意もないのに誘いはしないでしょ?」


「う、うん……」


 まさかそんな、ねえ? 会って一日二日でデートはないと思うんだよね。

 僕としては、ちょっと喋り足りないので、もうちょっと喋ろう的なノリだと思ってましたっ。

 でもよく考えたら、僕って女の子だったよ。女の子相手に二人きりで話そうなんて、なかなか難易度が高いよね。まあまず誘う段階で僕は無理だ。蒼井君もなかなか難しいことを平気でこなしてくるね。

 ……となると、やはりデートなの?

 僕はデートという言葉を反芻する。

 ええええ! なんで僕なの!? 彼女ができないまま高校生になったら、男の子にデートに誘われましたって、どういう星の廻りあわせなのか。

 顔がどんどん熱くなる。多分ゆでたこみたいに真っ赤になっている。ああ、どうしよう。

 変に意識したせいで、緊張してきた。手のひらは汗でびっしょりになってしまっている。とても身だしなみどころじゃない。

 僕は一旦深く息を吐き出した。

 落ち着こう。まだデートなんて決まったわけじゃない。デートって言うのはきちんと待ち合わせをして、どこかに遊びにいくことだよね。待ち合わせはしたものの、旅館内でなんてデートっぽくない。。

 そもそも蒼井君だって会って二日目じゃないか。

 それなのに下手に意識する方がおかしいし、もしこっちの意識してた内容が相手と違ったら、悪いよなあ。


「会ったばかりなのに、デートはないんじゃないかなあ」


 僕は至極当たり前のことを言ったと思ったんだけど、桜子ちゃんはやれやれというジェスチャーをする。


「さっきも言ったけど、好きじゃなかったらわざわざ呼び出さないからね? それに一目ぼれっていうこともあるわ」


 一目ぼれなんてロマンス、現実で起こるなんて思わなかったよっ。

 うう……僕はどうすればいいんだろう。大体なんで僕なんだ?

 一回目に会った時は棚に手が届かない子供っぽいところを見られ、二回目はコンビニでペットボトルの入ったビニール袋すら持てない非力さを晒し、三回目はお風呂上りに暇そうにしてるところを目撃され、四回目は休憩時間を邪魔して、かき氷食べただけ……。どこにもポジティブな要素がない気がする。


「はぁ……なんで僕なのかなあ」


 ぼそりと呟く僕。

 桜子ちゃんが目を丸くする。


「なんでって、可愛いからじゃないかしら。初めは外見で惹かれて、話せば中身が外見以上に可愛くてって感じだと思うわよ? もうね、アユミちゃん可愛くて可愛くて可愛くて……ってこれは私の感想だから、本人がどう思ってるかわからないけど」


 中身が可愛くてって言われるのは嬉しいような、残念なような。

 「そっかー、照れるなぁ」では済まないのが、女の子になりきれない僕の心情だ。

 部屋の奥の洗面所から芳乃さんが部屋に戻ってきた。あとで行くお風呂のためにメイクを落としていたのだ。


「とっ、とにかく、お化粧はいいからっ。昼間だってお化粧してないんだし、夜会う時だけって変に意識してるみたいでやだよ」


「そう? アユミちゃんの最終形態はまだ見せないってことねっ」


 桜子ちゃんがにやりとする。芳乃さんのポーチから、あれこれ化粧品を出していた桜子ちゃんは残念そうにして動きを止める。

 最終形態って何なんだ……。僕が化粧をするとどうなるというのか。

 

「アユミちゃんが一回うちに来たとき、お姉にお化粧してもらったでしょ? あの時の可愛さはやばかったからねー。あれを使ったら百パーセント男の子落ちるわよ」


「そうね。あの時のアユミさんは本当に可愛かったわ」


 芳乃さんは自分の荷物の傍にかがむと、桜子ちゃんが出してしまった化粧品を丁寧にポーチの中にしまっていく。

 蒼井君が仮に僕に好意を持ってくれているとして、果たして僕なんかでいいのだろうか。

 桜子ちゃんや芳乃さんと違ってちんちくりんだし、可愛らしい萌香ちゃんや藍香ちゃんと比べると、そもそも女の子にすらなりきれていない。そんな僕で果たしていいのだろうか。


「アユミさん」


 いつの間にか芳乃さんが僕の目の前に立っていた。

 彼女の目はまっすぐ僕を見つめている。


「アユミさんは今、『僕なんかでいいのか』って考えていたでしょう?」


「ど、どうしてわかるの!?」


 ずばり言い当てられた僕は慌ててしまう。

 芳乃さんはそんな僕の様子を見て優しく微笑む。


「そういう顔をしてたわ。自信がなさそうな、不安そうな、ね」


 彼女は一旦息をつくと、さらに言葉を続ける。

 

「でも勘違いしないこと。貴女でいいか悪いかなんて、アユミさん本人が決めることじゃないのよ? それは相手が決めること。貴女がいいと思ったからお誘いをしたのよ?」


 僕は芳乃さんの目を見る。

 とても真剣な眼差しをしている。ああ、芳乃さんは本当に僕のことを思って言ってくれているんだろう。そう感じとれた。

 肝心なのは、相手が何故僕を選んだのかじゃなくて、選ばれた結果として僕がどう考えるかだ。

 蒼井君の本意はわからないけど、仮に違ったとしても、これから先の未来でも起こりうる可能性として考えておく必要はある。

 僕はその時どうするんだろう。。

 もし今後僕を好きになる人がいたとして、それが男の子だったらどうするのだろうか。逆に相手がもし相手が女の子だったら……?

 仮に蒼井君が本当に、万が一、万が一僕のことを好きだったとして、僕はそれにどう答えるのだろうか。答えられるのだろうか。

 入学して間もない時期、呼び出されたときにあっさり振ったような、そんなことができるのだろうか。

 出会ってからの時間はどちらも僅かだけど、蒼井君には同じことができないと思う。まだそういう話になると決まったわけじゃないけどさっ。

 男の子と付き合うことがそもそもダメなのか。それもある。やっぱりどこか引っかかってしまう。

 今までなあなあで済ませてきているけど、僕は男の子としてありたいのか、女の子としてありたいのか、どうしたいのだろうか。

 女の子として生きてきてしまって、何となく女の子っぽくなっている気はする。でもそれが本心からそうしたいと思っているのかな……。

 逆に男の子と強く意識して生きれば、今の女の子っぽさはなくせるかもしれない。体は元に戻らないだろうけど、それもそれで僕の生き方としてはありだと思う。

 もう男になんて戻れないんだから捨てちゃえ、なんて簡単に思えないのが難しい。確かに男の時は、今と比べて面白い人生ではなかったかもしれない。良治が友達になってなかったら完全に一人ぼっちだったし……。でもだからと言って、それを捨てられるかというと、そうもできないんだ。

 結論が出せない。本当に優柔不断だな僕は……。

 人を好きになる前に、僕の中がぐちゃぐちゃだ。今のままでは誰かを好きになるなんてとても出来ない。

 蒼井君は確かに良い人そうだ。人として好感は持てる。

 でも僕は――。


「アユミさん――」


 芳乃さんに名前を呼ばれ、僕は彼女を見上げる。


「今はそんなに泣きそうなくらいにまで深刻に悩まなくても大丈夫よ」


「そ、そうかな……」


 彼女は僕の頭を優しく撫でてくれる。

 僕はそんなに不安な顔をしてたのかな……。

 彼女は僕の顔を見てにっこりと笑いかける。


「ちょっと気になる子ができたから、仲良くなりたいなって思っているのよ。桜子が浮ついちゃってるから変に意識しちゃったかもしれないけど、無理に結論は急がなくていいと思うわ」


 僕はその言葉で少し安心してしまう。

 結論はまだ出せない。でも、結局はいつか出さなければならないのかもしれない。

 それが蒼井君となのか、他の誰かなのかはわからないけど。


「でもね――」


 彼女はさらに言葉を続ける。

 

「折角お誘いを受けたのだから、ちゃんと笑って、ちゃんと楽しんでいらっしゃい。貴女が人を誘った時、誘った人が悲しい顔をしていたらどう思う?」


「う、うん。こうかなっ」


 僕はちょっとひきつってしまったけど、頑張って笑ってみる。


「そうそう。その調子よ」


 芳乃さんも僕に合わせて笑ってくれる。

 僕の笑顔もあんな風に素敵だったらいいのに。

 

「アユミさん。もし万が一告白までされて困ったら、『お友達から始めましょう』で逃げちゃいなさい」


 芳乃さんがウインクする。

 便利な言葉だなあ。

 そうだね。今の僕に答える言葉がないのであれば、お互いを知ることができればいいのかもね。


「あー、お姉にいいところ全部もっていかれた気がするー」


 隣で桜子ちゃんが不満顔だ。ふくれっ面の彼女の様子がおかしくて笑ってしまう。

 おかげで緊張はほぐれた気がする。


「でもそうね。お姉の言うとおりコイバナになりそうで先走っちゃったかも。ごめんね、なんだか無駄に悩ませちゃって」


 桜子ちゃんもぺろっと舌を出して謝る。

 今の僕の悩みは、これからも必ずぶつかる問題だ。

 でも、思い立ってすぐ片づければいい問題でもない。今は、今は逃げちゃう形になるけど、でも必ず解決する。


「ただいまー!」


 お土産を買いに行っていた萌香ちゃん姉妹が戻ってきた。

 部屋の扉が突然開いたので、ちょっと驚いてしまった。


「アユミちゃんもうすぐだよねっ。頑張ってね!」」


 部屋に入るなり僕の前でこぶしを握る萌香ちゃん。


「何かされそうになったら、おねーちゃんを呼べば投げ飛ばしてくれるからっ」


 それはそれで大変なことになりそうだ。

 ま、まあ、蒼井君は何もしないと思うけど。

 

「よっし、それじゃあ景気づけにお土産を食べようっ」


 萌香ちゃんは買ってきたおまんじゅうをごそごそと取り出す。

 今食べたらお土産にならないじゃんっ。


「ふっふーん。持って帰る用と、今食べる用で二個買ってきたのだっ」


「萌香ー。また太るわよ?」


「まっまたって、太ってないからっ! 四月から一キロも増えてないからっ!」


「そっかあ、おねーちゃんは四月の時点でデブだったかぁ……」


「違うからっ! なんでデブキャラにするのよー!」


 萌香ちゃんは太ってるわけじゃないんだけど、なんかいじられるんだよねー。


 さて、そうこうしている間に時刻は八時の十分前だ。

 やっぱりちょっと緊張してしまう。

 僕は小心者なので、できれば何もなく普通にお喋りして終わりたいな。なんて思いながら、僕は部屋を後にする。


今回の話について。

あまり変化がない感じになっちゃいました。

なかなか女の子になれないのがもどかしいかもしれませんが、まだひっぱります、多分。


今後の話の展開について。

どうしようかとちょっと迷ってるところもあるので、次回更新までひょっとすると少しお時間いただくかもしれません。

主人公も可愛くしつつ、ほかの男どもを更生しつつ、女友達と結束を深めつつ、日常も描いて、恋愛模様もごった煮にしつつ最後に整理してきれいに終わる終わり方をする流れを考えながら、その場の勢いで書いていきたいです('A`)無謀すぎますか……orz

第一話を書く前に書きたいなと思っていたイベントは、ぶっちゃけ殆ど日常イベント的なキャッキャウフフ話だったので、話の本筋をどうしようかなと……(笑)

日常も恋愛も入れつつとなると、むやみに話が長くなりそうです。

ただ当初の目的がTSで書きたいイベントをすべて消化する高校のお話にしたいというところからなので、長くなろうがやりたいことは全部やりたいです(汗)。

どういう展開に行っても最終的には、アユミちゃん可愛いで終わりたいんですけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ