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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
夏休みのできごと
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美少女、海へ④

第四十四話 美少女、海へ④




 眩しい太陽、抜けるような青い空、陽光を照り返し輝く海。

 昨日の雨が嘘のような晴天。絶好の海水浴日和だ。

 僕らもお昼前の早い時間から海に繰り出すことにした。昨日遊べなかった分、今日思いっきり遊ぶのだ。

 これだけの晴天だと、海水浴客もすごく多い。昨日は閑散としていたバス停も、下車するお客さんでいっぱいだし、自家用車で来た人も多いのか、駐車場もほぼ満車の状態だ。

 海水浴場の更衣室でちゃっちゃと着替えて、砂浜に降り立った僕らは、まず浮き輪やボートの類をレンタルする。

 そう、浮き輪大事! 僕泳げないし、流れるプールより海のが怖いからっ。波にのまれたときのことを考えると、浮き輪がないと波打ち際でぱちゃぱちゃやるか、砂山を作るくらいしかできない。

 店のおじさんに浮き輪をレンタルする旨を伝えたら、何故か朝にやってる女の子向けのアニメのキャラが描かれた凄く可愛らしい浮き輪を渡された。いくらなんでもこれは酷いんじゃないかなと僕は思うんだよ。藍香ちゃんに可愛いと言われたので、とりあえずそれを借りたけど……。

 ちなみに日焼け止めは更衣室で塗っちゃいました。砂浜でわざわざ塗ってるところを人に見られたくないしなあ。

 

 桜子ちゃんと萌香ちゃんはプールの時と同じ水着を着ている。即ち、桜子ちゃんはパステルカラーのボーダー柄のビキニで、萌香ちゃんは水色のタンキニを着用している。

 藍香ちゃんはピンク色のビキニと同色のスカートを付けている。トップスの方はフリルがついており、胸元に大きなリボンがあしらってあってとても可愛らしい。

 芳乃さんは白一色のビキニだ。シンプル故に素材の良さが引き立っていて、本人の雰囲気と相まって凄く清楚な感じがする。

 傍目に見て、この四人のグループって凄まじく目立つよね。萌香ちゃんや藍香ちゃんは可愛いから目立つし、桜子ちゃんは綺麗で大人っぽい魅力に溢れている。芳乃さんなんてそもそもファッションモデルだし、ビキニを着たプロポーションも凄い。いかにも男性が放っておかなそうなタイプの魅力あふれる四人組だと思うけど、むしろこれくらいの綺麗どころが固まっていると逆に声がかけられない気がする。

 僕はというとゴールデンウィークに藍香ちゃんが選んだ、ドット柄のビキニとパレオスカートを組み合わせた形になっている。

 みんなが似合ってるって言ってくれたのは嬉しいけど、やっぱり芳乃さんや桜子ちゃんに比べるとちんちくりんだしなあ……。いや、まあ負けたからってどうこうなるものでもないんだけどさっ、ルックスをよくしたいっていうのは悲願だと思うんだ。

 

 僕らは暫くは波打ち際で海水に触れたり、水を掛け合ったりして遊んでいた。

 しかし徐々にそれも飽きてきたので、ちょっと沖に出ようという話になった。はい、僕は無理しません。

 この海水浴場は結構遠浅で、岸から大分離れても割と浅い。

 僕は浮き輪をぱちゃぱちゃしながらみんなについていく。萌香ちゃんが足ついてるなら大丈夫だろう。殆ど身長変わらないしね。


「アユちゃんアユちゃん!」


 潜水して移動していた藍香ちゃんが、突如僕の真後ろに浮上し、僕の背中をぽんぽん叩く。


「どうしたの?」


「その水着、似合ってるよっ」


「ありがとう」


 僕はにっこりとほほ笑む。それを見て藍香ちゃんもにへらと笑う。

 実はこの会話、さっきので十回目を迎える。藍香ちゃんは、自分が選んだ水着を僕が着ているのが凄く嬉しいようだ。さっきからずっと上機嫌で僕の隣を泳いでいる。ま、まあ水着着るだけでこれだけ喜んでもらえれば僕もうれしい……のかな。


「アユミちゃん、泳ぐ練習する?」


 前を歩いている桜子ちゃんが僕の方を振り返る。


「うーん……どうしよ――」


 僕が返事をしようとしている最中に、急に大きな波のうねりが僕を飲み込む。

 真正面から並を受けて僕はその場で咳き込む。

 うう……鼻から海水がっ。目にも入って凄く痛い。余りの痛さに僕は涙ぐんでしまう。


「アユミちゃん、大丈夫?」


「う、うん」


 僕は桜子ちゃんを見上げる。

 すると桜子ちゃんが顔を真っ赤にして、鼻を押さえながら物凄い勢いで後退していく。


「なっ、なんで離れるのっ!?」


「お、落ち着くのよ私。アユミちゃんには昨日抱きしめたりしないって約束したでしょ……。涙目で上目使いとか、危うく落ちるところだったわ」


 ぶつぶつと呪詛のような言葉をつぶやき続けている桜子ちゃん。

 一体彼女は何と戦っているんだろうか。

 僕が桜子ちゃんを眺めていると、後ろから芳乃さんに引っ張られたボートがやってきた。上には萌香ちゃんが乗っている。


「アユミさんもボードに乗ってみる?」


「アユミちゃん、一緒に乗ろうよ」


 折角だからボートに乗ってみると、ボートの上はなかなかに快適だった。

 まず波にさらわれる心配がないのがいい。海の中にいると、浮き輪持ってても流されそうになるからねー。本物は流れるプールなんか目じゃないよね。

 ボートの上で一息つく僕。すると不意にお腹が「きゅーっ」と鳴る。


「アユミちゃん、おなか減ったの?」


 萌香ちゃんがニコニコしながら聞いてくる。


「そっ、そんなことない」


 と否定している時にもう一回鳴るという、僕のお腹の空気の読めなさ。

 萌香ちゃんは「可愛いー」なんて言って終始ニコニコ笑って、頭を撫でてくるけど、鳴ってしまった僕はというと恥ずかしくて死にそうだった。水の中で動いてるんだもん。お腹だってすくよっ!

 あ、僕的に頭を撫でられるのは実は結構嬉しいのでオッケーなのだ。優しく撫でられると、なんかほっとするんだよね。あんまりぐしゃぐしゃ撫でられるのは嫌なんだけどね。昨日お風呂場で何が大丈夫なのか聞かれたから、頭を撫でるくらいならいいと答えて以来、みんな何かあると僕の頭を撫でるようになった。

 それはそれで子ども扱いされてるようで、どうなのかとちょっと思わなくもないけど、みんな優しく撫でてくれるのでついつい嬉しくなってしまう僕なのであった。


「確かにそろそろお昼時ね。一旦浜に戻りましょうか」


 芳乃さんがそのままボートを引いて、Uターンする。桜子ちゃんも自分との戦いが終わったようで、僕らと合流して浜へ向かう。

 藍香ちゃんもいつの間にかボートの横にくっついていた。潜って移動しているようで、彼女は神出鬼没なのだ。



 砂浜に戻ると、僕らは海の家に向かう。

 あおい旅館のやってる海の家がいいかなっ。旅館の出るときにフロントのおばさんからサービス券をもらったので、焼きそばが半額になるのだっ。

 蒼井君の自転車についていたのと同じのぼりがあちこちに立っていたので、目的の海の家はすぐに見つかった。

 お昼時なので、中は結構混雑している。家族連れやカップルが多く、とても賑わっている。

 海の家の中に入ると、僕はきょろきょろと中を見回す。そんな僕を見て、桜子ちゃんは不思議そうな顔をする。

 

「どうしたの?」


「蒼井君いたら、ちょっとお話できないかなーって思って探してた」


 僕の答えに、桜子ちゃんは少し驚いた様子で目を丸くした。


「へぇ……。珍しいわね」


「何が珍しいの?」


 僕の問いに、彼女は少しどう答えようか迷ったようだ。

 いや、そもそも答えるかどうかを迷っているように見えたけど、やがて彼女はゆっくりと答えてくれる。


「うーん、自分じゃ気づかないものなのね。人見知りのアユミちゃんが、そうやって男の子と話したいって言うのってなかなかなかったわよ?」


 そうだっけ? と僕は今までの自分を振り返る。

 そう言われると、料理同好会の仲のいい四人以外は、クラスメイトでもあんまり積極的に話に行ったりしなかったかもしれない。超受け身スタンスが基本の僕だし、そもそも人に自分から話しかけること自体あんまりなかったような気すらする。

 それに水着を人に見せるのにあんなに抵抗をしていたのに、あんまり恥ずかしさは感じていないんだよね。むしろ褒めてくれるかもと少し期待してしまっている自分がいる。

 成程、不思議な話だなぁ。僕は自分でもどうしてそんな気になったのか、よくわからなかった。

 話していてつまらない相手じゃないのは確かだけど……。だめだぁ、わからないや。

 僕はぶんぶんと首を振る。


「アユミさん、席に行くわよ?」


 芳乃さんの声に、僕はまたしても周りが見えなくなっていたことに気付く。

 皆は先に席についているようで、いつまでたっても動かない僕を心配した芳乃さんが声をかけてくれたようだ。

 席は四人席のようだ。元々片側に二脚ずつしか椅子が置かれていない席だけど、五人ということで無理やり三脚置いてある形になっている。桜子ちゃんと芳乃さんが反対側に座り、萌香ちゃん姉妹と僕は一緒に座る。小柄な僕らでも少し狭い。

 焼きそばやチャーハンを適当に頼んで食べる。海の家のメニューって具がない焼きそばとか、あんまりおいしくないイメージだったけど、ここの焼きそばはちゃんと具が入っていてとても美味しかった。

 食べ終わったところで、僕はトイレに立つ。萌香ちゃんと藍香ちゃんも一緒に行くと言ってついてきた。

 

 先にトイレを済ませて、萌香ちゃん達を待っていると、店のカウンター席でラーメンをすすっている蒼井君を発見した。

 急いですすっているところを見ると、忙しいんだろうなあと推測できる。


「話しかけてきたらっ?」


 いつの間にか後ろにいた萌香ちゃんが僕の耳元で囁く。


「えっ!? いや、なんか急いでるみたいだし、いいんじゃないかな……」


「私たち、明日はもう帰っちゃうんだし、話したいなら話しておかないとダメだよっ」


 萌香ちゃんは真面目な顔をしている。

 うーん。確かにそれはそうなんだけど、ご飯の邪魔してまで話しかけるのはどうなんだろうか。

 桜子ちゃんに言われて、ちょっと意識しすぎてしまっている感がある。よく考えれば昨日初めて会っただけなのだ。もうちょっと話してみたいと思ったのは事実だけど、是が非でもというわけではないと思う。

 話せなかったら話せなかったで、それもやむなし。今まで話した時間も、きっかけはすべて偶然だったのだから。


「やっぱり、席に戻ろう? 邪魔しちゃ悪いし」


 僕がそういうと、萌香ちゃんは「そう」とだけ口にした。ちょっと詰まらなそうに見えるのは気のせいだろうか。

 席に戻る前に、もう一度彼の様子を伺うと……あれ、こっち見てる? っていうか、何故か一緒にトイレに行ったはずの藍香ちゃんが蒼井君のところにいて、ニコニコしながらこっちを指さして手を振っている。藍香ちゃんなんてコンビニで一回しか彼と会ってないのに、よく覚えてたね。


「アユミちゃん、ごめんっ。藍香が勝手に突撃してたっ」


 ぺろっと舌を出して謝る萌香ちゃん。

 いや、それは見ればわかるよっ! あーもう、手招きしてるし。

 僕はため息を一つつくと、藍香ちゃんと蒼井君のいる場所へ向かうのだった。どうしてこうなったのやら。


「アユちゃん、アユちゃん! 見つけてあげたよっ! 探してたんでしょー?」


 探してたというのは嘘ではないけど、予想の斜め上の展開になってはいる。僕はあいまいな表情を浮かべる。


「蒼井君ね、今お昼休みなんだって! 折角だからちょっとお話していったら?」


「う、うん」


 少し歯切れの悪い返事をする。いいのかなぁ、お昼休憩なのに邪魔して。


「それじゃ、私とおねーちゃんは先に席に戻ってるねっ」


 そう言って彼女は萌香ちゃんを後ろから押すようにして退散しようとする。

 僕は慌ててそんな彼女らを引き留める。


「ええー、なんでなんで!?」


「邪魔しちゃ悪いでしょ? ねっおねーちゃん」「そうだねっ。アユミちゃん頑張ってねっ」


 だから何を頑張るというのか。邪魔するという意味では、僕らがこうして押しかけた時点で既に邪魔だと思うんだけど……。

 って言うか本当に席に戻っちゃってるしっ! 何でここで僕がソロになるのさっ。

 

「佐倉さん、ごめんね。なんか相手させちゃったみたいで」


 いやいやいや、勝手に押しかけたのこっちだからっ。そうやって謝られると、僕の方が申し訳なくなってくるよ。


「そうだ。かき氷食べる? 折角来てくれたんだし、奢るよ」


「いや、いいよっ。勝手に席に押しかけちゃったのに、悪いよ」


 断る僕に彼は「まあまあ」とだけ言うと、他の店員にかき氷を頼んでしまった。


「佐倉さん、水着可愛いね。よく似合ってると思うよ」


「へ? あぅ、その。アリガトウゴザイマス」


「なんでカタコトなの」


 彼はくすくすと笑う。僕は恥ずかしさで小さい身長がさらに小さくなる。

 ……うるさいなっ。

 そういう爽やかな顔で、直球を投げられると逆に困るんだよっ。そりゃまあ、褒められると嬉しいけどさ。


「ご飯美味しかった?」


「うん」


「そっかあ、良かった」


 かき氷が運ばれてくる。

 苺シロップの上に、さらに練乳がかけてあるかき氷だ。ひんやりとした冷気を放っていて、冷たくておいしそうだ。

 一さじすくって口に運ぶ。冷たい氷と、甘くて濃厚な苺と練乳の甘味がマッチしていてとても美味しくて、思わず顔から笑みが零れる。

 ふと視線を感じたので、僕は蒼井君の方を伺う。

 すると彼はふいと視線を逸らす。昨日からこのやり取りが多い気がする。「どうしたの?」と聞いても「なんでもない」としか返ってこないのだが。

 僕がかき氷を食べ終わるのを見ると、彼は時計に目をやった。

 

「ごめん、そろそろ昼休み終わりみたいだ」


「またお手伝い?」


「まあね。ただ昼からは片づけをちょっと手伝ったら、部活に行かないといけないんだけどね」


 本当に忙しいんだなあ。もとぼっちで、今は文化系の部に在籍、バイト経験なしの僕としては、この忙しさは凄く大変そうに見える。

 お昼くらいしか休めないのに、旅館の客と同席しなくちゃいけないなんて、本当に悪いことをしてしまった。

 藍香ちゃんが暴走した結果とはいえ、やっぱりあの時遠慮しておくべきだったかもしれない。

 

「それでさ、佐倉さん」


 席を立ち声をかける彼を僕は見上げる。

 

「また夕方にでも話しできないかな」


「え? いいけど」


 僕の答えに彼は嬉しそうに頷く。ガッツポーズでもしそうな勢いだ。


「ほんと? じゃあまた八時くらいに浴場のロビーで」


「うん」


 そんなアバウトな約束するなら、いっそ携帯かなんかに連絡してくれても……と思ったけど、僕のスマートフォンは今コインロッカーの中でしたっ。

 ちなみに自分のメールアドレスを覚えていないという超初心者なのです。あんまり自分のメールアドレスって見る機会ないからっ。

 

「それじゃ、またね」


 彼は軽く片手をあげて、店の奥にと入っていく。僕も萌香ちゃん達の席に戻ることにする。

 席に戻ると、萌香ちゃん達がしきりに「どうだった?」と聞いてきて大変だった。

 どうだったってどうもしないよっ。本当にそのまま答えると「えーっ」と不満顔の面々。何がどうなってればご満足いただけたのでしょうか。芳乃さんだけはくすくす笑っていたけど。

 八時くらいに約束をしたって言ったら、また急に目を輝かせる女の子一同。本当になんなんだ……。


「彼もやるわね」


 桜子ちゃんがぼそっと呟く。

 また僕一人だけ何なのかわかってない状況になっているよっ。


「桜子ちゃん! 桜子ちゃん! 良治君にメールしてあげようよっ」


「そうねっ。反応があったら面白いかもしれないわね。ロッカーの鍵かしてっ」


「うわー。おねーちゃん外道だねっ!」


 なんで良治が出てくるのさっ。恥ずかしいからやめてー。あとロッカー開けちゃったら、またしまう時お金かかるからっ! こんなくだらないことでお金無駄にすることないからっ。

 走り出した女の子たちは止まることなく、猛威を振るうのだった。

 僕は久しぶりにぐったりと疲れを感じる羽目になった。

もうすぐ海編も終わりです。

海だというのに、海らしさが殆どないまま終わりそうです。

サブタイトルは毎回適当につけているのですが、その適当さが仇となった気がします。


//2013.10.01 一部記述を変更しました。

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