美少女、プールを楽しむ?②
第三十話 美少女、プールを楽しむ?②
写真を撮り終えた僕らは、コインロッカーに財布や鞄などを預ける。
「そろそろパーカー脱がないと、持っていけないよ?」
と、これは萌香ちゃん。
そんなことはわかってるんだけどね。やっぱりなんていうか、肌をさらすのが嫌なんですよ。むしろ何で堂々と水着一枚でいられるのか僕にはわからない。
と言いつつも、だれも荷物番とかしないからコインロッカーを使うわけで、ここでパーカーを持って行ってしまうと邪魔になってしまうのもわかっている。覚悟を決めるしかないのか…。
僕はぐっと、パーカーを持つ手に力を籠め、一気に袖から腕を引き抜く。
「おおお! 脱ぐ様子がエロイ…」
「ああ、隠れていたものが徐々に露わになっていく、コンマ一秒ずつが既に奇跡だ…」
だから男連中は視線に気をつけろって! あと良治は相変わらず恥ずかしい解説するなっ。
「桜子ちゃん、男連中がいやらしいんだけど…」
「だから、初めから脱いでおけばよかったのに。そうすれば二重で見られることにならなくて済んだのよ?」
あれー? なんで僕がたしなめられているんだろう。
普通の女の子というのは、見られても平気な生き物なのだろうか。あ、平気だからこそ水着売り場にはビキニが山ほどあるのか。
となると、女の子としてはいちいち恥ずかしがっている方が逆に変なのかな。
あれ? 僕が女の子としてどうするかとか考える必要あるのかな。僕ってそもそも女の子じゃなかったよね。
「アユミちゃん、パーカーしまうよ?」
「あ、うん」
考え事をしていた僕は、うっかり抱きかかえるようにして持っていたパーカーを桜子ちゃんに渡してしまった。
しまった、隠すものがない!
「おおー、アユちゃん、それが新しく買った水着?」
「そ、そうだけど」
今日の僕の水着は、昨日萌香ちゃん達と買った水着の内、白いビキニとスカートの方を着ている。
萌香ちゃん曰く、「ビキニの上下だけでも超絶可愛いし眩しいくらいだけど、このスカートがあるとアユミちゃんのロリロリな感じが際立って最強。ホントに最強♪」だそうだ。その発言をした後に、桜子ちゃんとハグし合っていた。女の子同士のノリは、僕にはまだよくわからないなあ。
「へー、アユちゃんよく似合ってるじゃん」
「あ、ありがとう」
東吾に水着を褒められて、照れてしまう僕。不意に顔が熱くなるのを感じた。
ま、まあ褒められて嬉しくない子はいないよね。いくら女の子の水着に抵抗があるとは言えども、仮に面と向かって「似合ってねー! だせぇ」とか言われたらイラっとくるという複雑な心境なんだよ。
「歩、良く似合ってるぞ」
「あ、うん。ども」
「なんで、俺の時はそんなドライな反応なんだよ…」
良治はあからさまにガックリしていた。
ごめん、二度目はなんか新鮮さがなくて…。そんな哀愁漂う背中を見せないでよ。あーもう、あるわけないのに石をけるような真似しないでよ。なんでそんなにガックリきてんだよ。
「りょ、良治! ありがと! ウレシイヨ」
「いやいや、どういたしまして! みなぎってきたぜ!」
最後はわざとらしい棒読みになってたけど、良治が元気になったのでよかった。男の子って結構単純なんだなぁ…あ、むしろ良治が単純なだけか。
僕が男の子だったときは違うぞ! きっと…多分…おそらく…?
僕ら一行は流れるプールのプールサイドにやってきている。
五月ということもあって、人の入りもまばらだ。
「アユミちゃん、水の中に入れる?」
萌香ちゃんがさり気なく聞いてくる。
入れますよっ。僕は水が怖いわけじゃないのだ。単純に泳げない、息継ぎもできない、水の中で目が開けられないだけなのだ。つまるところ水泳の授業が嫌なのだ。
「歩、浮き輪借りてきたぞ」
良治に浮き輪をかぶせられる。
おおー、ありがたい! 流れるプールに来ておいて、泳げないで歩くだけってどうなのかなと実は思ってたんだ!
良治の持ってきた浮き輪は、一日レンタル式の浮き輪だ。うーん、さりげなく持ってくるあたり、いいやつだなあ。
「ありがとう!」
僕は良治に向かってほほ笑む。顔そらすなよ、お礼言ってるんだから。
「あ、でも浮き輪使っちゃったら泳ぎの練習にならないような?」
「なんだ、アユちゃん泳げないの?」
「そ、そうだよっ。悪かったね」
「ふむふむ。それで、歩は泳ぎの練習に来たのか? 今まで全然練習とかしなかったのに、急にどうしたんだ?」
そうなのだ。中学校では水泳の授業はなかったので、結局小学校から一度も泳ぎの練習はしていない。
中学校で水泳の授業がないと知った時は、神様に感謝したものだよ。ああ、多分人生で一番感謝した時だったかもしれない。
それがまさか高校の授業で水泳する羽目になるとは思わなかったよ。
「だって桜子ちゃん達が水泳の授業があるっていうから…」
「ん? うちの学校のプールって水泳部しか使わないけど?」
「へ?」
ぽかんとしてしまう僕。
「あーちょっと、良治君、しーっ!」
そして慌てた様子の桜子ちゃん。
まさか、謀られた!?
まぁ、なんということでしょうか。まさか水着を買うところの前提から全て嘘という…。散々着せ替えさせられて弄ばれた水着ショップでの出来事が走馬灯のように僕の頭を駆け巡る。
「桜子ちゃん、水泳の授業って嘘なの?」
「ウ、ウソジャナイヨ、ネ? 萌香」
「ソウダネ」
完全に棒読みなんだけど。うろたえる二人をじっと見る僕。
「だ、だって、アユミちゃんと一緒にプールに来たかったんだもん!」
必死の顔で主張する萌香ちゃん。桜子ちゃんもウンウンと頷いている。
はぁ…。今更言っても仕方ないかあ。もうプール来ちゃったし…。まあいいかあ、体育の成績が下がらずに済んだと思えば…。
「今回は許してあげるけど、嘘つくのはやめてよね」
「ごめんね」「ごめんなさい」
二人とも謝ってくれたし、もういいか。…それに正直にプールに誘われたとしても、僕は絶対来なかっただろうし…。
折角来たんだし、とりあえずプールに入ろう。泳げるようにならなきゃっていう強迫観念がなくなったから、ちょっとは気が楽になったしね。
気づけば良治や東吾は既に水の中にいる。
僕ら女の子三人も水の中へ。
手すりに捕まり、足先をちょっとだけ水につける。あっ、あったかい。そういえばここは温水プールだった。お風呂とまでは言わないまでも、暖かいお湯になっていて気持ちがいい。僕はそのままゆっくりと水…お湯の中に入る。
大体腰よりちょっと上くらいの水深かな。いい天気なのも相まって水はきらきらとしており、水底まで透き通っている。
この深さなら溺れない…? と思ったけど、結構流れが速い…! 足で踏ん張らないと流されちゃいそうだよ。っていうか既に片足離れてる…やば、バランスが!
っと、倒れそうになるところで誰かに腰を支えられる。
「歩、大丈夫か? お前慣れてないんだから気をつけろよ」
「ありがとう…っひ」
腰を撫でまわされる。人が抵抗できないのをいいようにするなんてっ! 後ろの良治をぎろりと睨む。
しかし当の本人はニヤリと笑って僕の頭をくしゃくしゃと撫でるだけだった。有耶無耶にされてしまったけど、むむむ、なんか釈然としない。よく考えたら浮き輪持ってるんだし、わざわざ受け止めてもらわなくても転ぶってことはなかったかも。
…はっ、これじゃ触られ損じゃん! 良治を睨みつけようと思ったけど、既にどこにもいなくなっていた。何という神出鬼没さ…。
体勢を立て直した僕は、流れに身を任せながらゆっくり進む。
「アユミちゃん、私もつかまらせてー」
すいーっと泳いできた萌香ちゃんが僕の浮き輪に捕まる。
顔が近いって! 浮き輪越しとはいえ、ほとんど目の前に彼女の顔があるよ。
「あれ、アユミちゃん、顔赤いけど大丈夫? そんな熱くないよね」
「あ、うん。別に温水が熱いわけじゃなくてねっ。なんでもないから、気にしないで」
最近になってみんなにボロクソに言われてるけど、萌香ちゃんは十分に魅力的な女の子なのだ。
僕だってもとは男の子なので、こんなに至近距離に来られるとドキッとしてしまう。これでも最近では余裕が出たほうなんだけどね。女の子に慣れるなんて、モテる男みたいに感じるんだけど、慣れさせる方法がえげつないと思うんだ。女子トイレ、女子更衣室、下着売り場、水着売り場とスパルタ過ぎる。そりゃだれでも慣れるよっ。
不思議そうな顔をする萌香ちゃんに、僕はにこりと笑ってごまかす。今度は萌香ちゃんの顔が赤くなっている。
にっこり笑えば、わりと状況を打開できると最近感じている。笑顔って大事だよねっ。
…まあ有体に言えば、ただの誤魔化し笑いなんだけどね。
「アユミちゃん、最近笑ってること多くなったよね。いいと思うよっ」
「へ? そうかな」
「うんうん。入学したてのころは結構困った顔してること多かったから、ちょっと心配だったんだよね。でも最近よく笑うようになってると思うよっ」
入学したての頃は…本当にいろいろ困ってた。慣れない生活だったし、戸惑うことも多かった。でもそれはあくまで自分自身の生活や環境の話で、それがみんなに心配をかけてしまってたのなら申し訳ないなと思うけど…でも心配してくれるのは凄くうれしかった。
今は笑えているのであれば、僕個人の主観ではなく、客観的に見ても馴染んできてるということなのだろう。
「心配してくれてありがっひゃう!」
萌香ちゃんにお礼を言おうと思ったのに、突如腰に抱き着かれて、またしても変な声が出てしまった。
今日はこうやって不意打ちを食らうことが多いな…。毎回驚かされてしまう僕も僕だし、同じような反応しちゃうのも相手を面白がらせてしまうんだろうけど、いきなり抱きつかれたり、つつかれたりすれば誰でもびっくりはするよね。つまり、やられる側としては防御不能なわけだ。
結論としては、やる方が自重すべきっ!
その抱き着いてきた張本人たる桜子ちゃんは、大きな水しぶきを上げて水面に顔をだし、ポニーテールを左右に振り水を切る。
「なんか私を差し置いていい雰囲気だったので、悔しくて邪魔しにきました。私もイチャイチャさせてください」
「い、イチャイチャ!?」
「ふふふ、そういう困った顔も可愛いから捨てがたいのよね。笑顔も好きだけど、ね」
「からかわないでよっ」
桜子ちゃんと萌香ちゃんは僕の浮き輪に捕まったままだ。
こ、こんな至近距離に、水着姿の可愛いアンド綺麗な女の子が二人! いくら免疫ついてきたとはいえ、息遣いすら聞こえる距離で密着とか流石にドキドキするよっ。あああ、また顔赤くなってそう。
すると、そんな風にプチパニックになりかけてる僕の傍を、マットの上に寝そべった良治と、そのマットにくっついてる東吾が流れて行った。
「良治君! 良治君! それいいなあ!」
萌香ちゃんも桜子ちゃんも興味がマットと良治の方に向く。
顔が赤くなってるところ見られなくてよかったあ。見られたらまたからかわれるのは目に見えてるからね。本当に良治はいいタイミングできたよ。
「これもレンタルしてたから、借りてみたんだ。歩、使うか?」
「へ? 僕? 僕は浮き輪でいいけど。桜子ちゃん達使ったら?」
「私はいいかなー。アユミちゃん、あれに寝そべってみて!」
何故桜子ちゃんも僕に振るのか。
この流れに従って、いいことになった試しがないのは僕でもはっきりわかるんだからね!
ここは、頑なに拒否をするのがハッピーエンドを迎える唯一の選択肢。
かくなる上は萌香ちゃんを何としても乗せる。
「じゃあ萌香ちゃん乗ってみたら?」
「うーん、ここはアユミちゃんかなっ♪」
何故なのか。一番体重が軽いからなのかな?
いや、それだと今マットの上に乗っかってる良治はどうなのって話になるか。
萌香ちゃんなんて、さっき「いいなぁ」とか言ってたじゃん。乗ればいいのに。
「アユミちゃんが乗ってくれないなら、浮き輪とっちゃえ!」
桜子ちゃんが浮き輪を一気に持ち上げると、それは僕からすっぽり抜けてしまう。
僕は、浮き輪をなくして浮力がなくなったのと、急に抱き着いていたものがなくなってしまったのとで、一瞬どうしたらいいのかわからなくなってしまった。
「はい、アユちゃん。どうぞー」
いつの間にか良治が上からどいていて、主がいなくなった浮きマットを東吾が差し出してくれる。
僕は差し出されたマットに掴まる。渡されたから何も考えずに掴んでしまった。
この一連の流れは、罠なんじゃないだろうか。散々騙された僕だけど、この流れはおかしいって気づいたよ。
「じゃあアユミちゃん、乗って乗って♪」
萌香ちゃんが楽しそうに笑う。
これはつまり、上に乗ってからの、ひっくり返しが来るのではないか。あー、あるある。若者がよくやってそうだよね。いや、若者って言っても僕も十五歳なんだけどさ。
僕泳げないし、ひっくり返されるのはシャレにならないよ。
落とされるのが嫌だからと、みんなに断りを入れる。しかし、みんなは落とすつもりなんてないと首を振るだけだった。
うーん。何が目的なのかわからない。
落とされないなら乗ってもいいかな。みんなを信じよう。
ぐぐっと体を持ち上げて、マットの上に寝そべる。マットは一時的にちょっと沈んだけど、すぐに浮き上がる。
おおっ、これはなかなか楽かも。何もしなくても流れていくし、浮き輪より楽ちんだね。
浮き輪マットの上でまったりしていると、水の中から手がいっぱい出てきた!
そしてそれらは、僕の背中や脇、太ももを撫で始めた。
「ちょっと! いたずらしないって言ったじゃん!」
「ひっくり返さないとは言ったが、イタズラしないと言った覚えはないぜ」
水の中から手だけじゃなく顔も出した良治がしれっとした口調で言う。 男のお前が触ったらセクハラ通り越して痴漢だろっ! 僕がひと月ちょっと前まで男だったからって遠慮なさすぎるんじゃないかな!?
あと男だからNGってわけじゃなくて、女の子でもイタズラはNGだけどさっ! だから萌香ちゃんと桜子ちゃんでもダメなんだってば!
そんな言葉にならない悲鳴をあげてる僕の反応が面白かったのか、良治、桜子ちゃん、萌香ちゃんの三人はより一層激しく僕を攻める。三人とも水面に顔を出しており、僕の体を弄ぶのを楽しんでいる。ああ、東吾…そこで見てないで助けてよ。あ、だめだ。完全に目と思考が釘付けで他のことに頭回ってないぞ、あの顔は。
「わっ! ちょっと待って待って! む、胸とかわきとかはだめだからっ!」
ついに僕の敏感な部分を触り始めたけしからん人たち。
本当に行き過ぎだって! む、胸とかはまずいよっ! 水着ずれるって。
それにくすぐったいよ!
僕はマットの上で、いやらしい手から逃れようと丸くなる。…そしてそれがいけなかった。マットの上で体勢を急に変え、体重がかかる部分が変わったせいで、マット自体のバランスが崩れてしまい、マットは上に乗せた僕ごと一気に傾く。
あっ、やばい! と思った矢先にマットは転覆。
僕も水の中へ引き込まれ溺れ…はしなかった。水の中に投げ出されるところで、良治が後ろから抱きとめてくれたのだ。
「危なかったな、大丈夫か?」
ニヤリと笑う良治。白く輝く歯が眩しい。
「助かったよ、ありが…って言うわけあるかー! そもそもこんな目にあったのは良治たちが好き勝手セクハラしたからじゃないかっ!」
僕は手を大きく振りかぶって、そのまま良治の頬を手のひらではたく。
「ばかっ!」
「な、なぜ俺だけ」
セクハラするような奴は知らないよ!
いつもみたいに水羊羹くれても許さないんだから。
「あ、アユミちゃん。ごめんね、怒ってる?」
萌香ちゃんが僕の様子を見て、恐々と聞いてくる。
「うん、怒ってる」
だから僕は気持ちをそのままに言うとともに、顔をそっぽにそむけて怒ってますアピールをする。
今日はひどいよ! 好き勝手にして、しかも結局水に落とされて。結構怖かったんだから!
「うー…。ごめん、調子のり過ぎっちゃった。…あとアユミちゃん、水着ずれてるよ…」
「えっ!?」
僕は慌てて自分の体を見る。ビキニのトップスのカップがずれて、あんまり言いたくない感じの恥ずかしい形になってる!
僕自身の名誉のために言っておくけど、見えてはないから! 見えてはないからセーフですっ! 見えてないだけとも言える…。限りなくアウトに近いよ!
しかもよく見ると、周りの人達からの注目も浴びてるっ! こ、こんな恥ずかしい恰好を他の人にまで見られるなんてっ!
顔が凄い勢いで熱くなっていく。あーもう、恥ずかしいよ。僕は胸元を抑えて、プールから外に出ると、そのまま物陰に走るのだった。
やっぱりプールなんて来なければよかったよ…。
また続きます。中途半端なところですが今回で30回目になりました。
プールの話が長いですって? ええ、そりゃもう大好きですから。
いつもイベントごとはザックリ書いて終わらせてしまっている部分があるので、今回はバッチリ書きたいです。
…プールでも書きたいところいっぱいあったはずなんですけど、何故か毎回難産してます;;
感想コメントや評価もしていただいて、大変うれしいです。感謝感謝ですm(_ _)m