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美少女、プールを楽しむ?①

第二十九話 美少女、プールを楽しむ?①




 行動力がある子って怖いっ!

 僕は心底そう思っていた。

 なんと水着を買った翌日の今日、既にレジャー施設にやってきているのだった。

 思い立ったが吉日とは言うけど、いくらなんでも早すぎるでしょ。

 水着を買ったその日に、メッセンジャーソフトでその話題になり、「何なら明日行くか」という良治の一言で今日の予定が決定した。

 東吾に至っては、本当は今日は別の友達とゲーセンに行く予定だったらしいのに、先に予定していたほうをヘッドスライディング土下座して断り、プールの方にやってきたという始末。

 僕が言うのもなんだけど、もう少し友達は大事にしておこうよ。

 

 

 

「ここのプールは全部温水なんだよー」


 今は駅からレジャー施設への直行シャトルバスの中だ。

 隣に座っている萌香ちゃんが嬉しそうに笑う。

 しかし話しかけられた本人たる僕は、ぎこちなく笑って返すだけだった。

 ぶっちゃけた話、僕はめちゃめちゃに緊張していた! 軽くいってしまえばプールに入るだけなんだけど…。胃のあたりがプルプル痙攣しているような感覚がある。嫌なこととか、やりたくないことをする直前って凄く緊張するよね。今まさにそれです。

 泳げもしないからプールにはあまり入りたくないし、そもそも水着が嫌だし…。ああ、なんで行くことになった時に全力で拒否しなかったのか。今更に後悔の嵐だ。

 程なくしてバスはレジャー施設の敷地内に着いた。

 僕らはそのまま更衣室に向かう。

 途中でかでかと、飛び込み可能なプールだの、ウォータースライダーだの、流れるプールだのの宣伝の看板が掲げてあった。飛び込みはさておき、普通にパチャパチャ遊ぶだけなら僕だっていいんだよね。ウォータースライダーだって楽しそうだし。

 はあ、なんでプールって水着なんでしょうかねー。

 良く考えれば、ショートパンツっぽい水着もあったし、あっちにしておけばマシだったかもしれない。今となっては後の祭りだ。

 更衣室でそんなことをぼーっと考えていたら、萌香ちゃんや桜子ちゃんが寄ってきた。


「早く行こうよ」


「な、なんで脱いでるの?」


「脱いでるって、水着でしょ?」


 そ、そうですね。

 正直目のやり場に困るなあ。桜子ちゃんはパステルカラーのボーダー柄のビキニだ。いやもう豊満なボディがビキニ映えするというか、ええそりゃもう羨ましい限りで…。だから女の子のサイズ的なもので勝ち負けとかどうでもいいよっ!

 それで、萌香ちゃんはというと、水色のタンクトップビキニ! 体型が目立たないデザインの水着だね。しかも下はショートパンツみたいな感じになってる。あれ、人には執拗にビキニを推したくせに、自分は防衛線ですか…。


「萌香ちゃん、なんで僕に普通のビキニを勧めたの? そういうタイプのがいいじゃんっ! 同じような体形なのにー! 僕を陥れたの!?」


「待って! 待って! アユミちゃん。そんなつもりはないからっ」


「そうよ、アユミちゃん。萌香は単純にくびれがないから目立たないのにしてるだけよ。アユミちゃんは腰も細いし、脚も長いし、萌香とは全然違うから大丈夫よっ♪」


「うわーん、全部本当の事だけど人から言われると辛い…」


 ごめん…。なんか何も言えなくなっちゃったよ。

 彼女の名誉のために断っておくけど、萌香ちゃんは太ってもないし、短足でもない。ただ、ちょっと幼児体型なだけなのだ。

 自分のこと棚に上げてるけど、僕も人に自慢できる体型じゃないんだけどね…。

 あーもう、だから女の子の体型はどうでもいいんだよっ! なんで中身男の子なのに、そんなルックス的なこと気にしてるんだ僕は。

 そして女子更衣室で着替えてても何も感じなくなってきてるのは、男としていいのか。


「ささ、早く脱いでいきましょう?」


 桜子ちゃんが僕をせかす。

 ふふふ、今日の僕は下に水着を着てきたので、とりあえず行きの着替えは恥ずかしい思いをしなくて済むのだ!

 ちなみに、帰りの下着を忘れたとかそういうこともないので、ばっちり安心なのだ。

 僕は手早く着ている服を脱いで水着になると、その上からパーカーを着こむ。

 

「待って! 待って! アユミちゃん! 何でパーカー着ちゃうの? 見せようよ、見せつけようよっ」


「だ、だって恥ずかしいし…」


 僕はパーカーの襟元をぎゅっと掴む。どうせ入るときは脱ぐのはわかってるんだよ。

 でも心の準備って言うかね、そういうのが必要なの。


「うっ。このナチュラルな恥じらい…。こんなの見せられたら、ナンパされまくりよね」


「うんうん♪ だから男子連中連れてきてよかったよねー。私たち三人だと、アユミちゃんが凄い目立つからナンパされそうで面倒だし」


 あー良治と、東吾はナンパ避けですかー。

 水着買いに行く話では微塵も一緒に行こうという選択肢を出さなかった割に、プールの方では一緒に行く話になってて、どうしたんだろうと思ったよ。

 どちらかというと、スタイル的な面で桜子ちゃんのが目立つと思うけど、誰がナンパされても面倒くさそうなのは確かだ。


「そう言えば、アユミちゃん日焼け止め塗った?」


「うん…来る前に塗ってきた」


 着いてから塗ると、時間かけて迷惑になりそうなので予め塗っておいたのだ。

 イマイチ塗り方がわからなかったり、塗りきれないところはママに塗ってもらったのだ。…ママじゃねー。母さんだよ。もう家でママ呼称を強いられてるから、段々そっちに寄ってきちゃってるよ。


「ちぇー。折角アユミちゃんの柔肌に触れるチャンスだと思ったのに…」


 桜子ちゃんに塗られるのは勘弁してほしいな…。

 新入生歓迎会の時といい、彼女のスイッチが入ると本当に危ない。うん、塗ってきてよかったよ。


「じゃあ男子連中も待ってるだろうし、とりあえず行きましょ」


 桜子ちゃんが僕の手を引く。

 仕方ない腹を決めるか…。

 僕は桜子ちゃんと萌香ちゃんと一緒に更衣室から外へと踏み出した。

 


「お待たせー」


 萌香ちゃんが外にいる良治と東吾に話しかける。


「お、来た来た。やっぱゲーセン行きなしにしてよかったなあ…」


「ん? 歩はどうした?」


 はい、います。桜子ちゃんの後ろに隠れて同化しています。


「私の後ろにいるんだけどね。恥ずかしがっちゃって」


「アユミちゃん、出ておいでー」


 ぐ…。そんなに急かさないでいいじゃないか。顔だけ出して、良治や東吾を見ると、期待の表情が見て取れる。

 いやいやいや、東吾はまだしも、良治は僕が男だったの知ってるだろっ! そんな期待してないで桜子ちゃんや萌香ちゃん見ててよ。


「出てこないとパーカー脱がしちゃうぞ♪」


 萌香ちゃんが僕の後ろに回ってぐいぐいとパーカーの襟元を引っ張る。ホントに脱げる! っていうか一緒に水着ごと脱げそう!


「わ、わかったから! 引っ張らないでよぅ」


「待って! 待って! な、なんて可愛い目で見るの! 今、私すごいきゅんときたよっ」


 とりあえず手を離してくれた萌香ちゃん。

 僕は仕方なく桜子ちゃんの横に出て並んだ。


「おおおおお、どうですか多川さん」


「いや、いいですねー。吉川さん。堂々たるスタイルの相川に比べて、スタイルの数値自体は負けてるかもしれませんが、あの恥じらい、白い肌、太陽の光で美しい艶を出す髪、全てが合わさることによって、表面的な数字を軽く凌駕するパワーがありますね」


「そ、そんなにまじまじ見ないで! 後その解説もいらないから!」


 これが男の視線か…! 自分が男の時だと全然気づかないけど、見られてる感じって結構わかるもんなんだね。視線がどこにいってるのかも何となくわかってしまう。このエロスどもがっ!

 すみません…僕が男の子の時も同じような感じだったかも…。

 こういう視線に対して桜子ちゃんや萌香ちゃんはケロッとしている。しかし、女の子一年目の僕はやはり慣れない。

 普段の私服や制服の時の視線はもう慣れた。でもやっぱりこういうのはまだ無理かな。うー、みないでよ…。


「ほらほらー、アユミちゃんが恥ずかしがっちゃってるじゃん♪ もっと見てあげてっ」


「そ、そこは止めるところでしょっ!」


 なんという無慈悲な萌香ちゃん。話のつながりがおかしいよ。


「えー。だって恥ずかしがってるアユミちゃん凄い可愛いもん。ずっと見ていたいもん」


「そ、それじゃあ日が暮れちゃうでしょっ!」


「しょうがないわね。ほらー、あんまりジロジロ見ないの。セクハラになるわよ!」


「あ、相川! お前自分が今まで何やってきたかを棚に上げて…!」


 いやほんと、東吾君のこの意見には賛成だよ。桜子ちゃんなんて、二人きりになったら本当にやりたい放題だからねっ。

 それに比べたら視線の一つや二つ…。いや、やっぱりNGでお願いっ。


「まあ、まて吉川。あいつと俺らじゃ超えられない性別の壁がある」


「ち、ちくしょう…! あっ、折角だから写真いいかな」


「だ、だめっ!」


「いや、歩。折角みんなできたんだから、写真くらい撮ろうぜ?」


 ぐっ、なんでそんな下心ありませーん的なキラキラした顔で見られるんだよ…。

 そして気づけばみんながじっと見つめてるし。なんか僕だけ悪者みたいな流れ…! 無駄にいい連携するよね、キミタチ!

 僕は、はぁとため息をつく。


「わ、わかったよ…」


「よっしゃー! じゃあそこに並んでくれ!」


 ガッツポーズをする東吾。あれ、本人は写真に入る気ないのかな。


「あ、俺はあとで他の人に撮ってもらうから、とりあえず一枚撮らせてくれ」


 初めから五人で撮ってもらえばいいんじゃないかと思ったけど、とりあえず東吾の言うとおり僕たちは並ぶ。


「よし、じゃあ撮るぞー」


 あんまり写真撮るの好きじゃないんだけどな…。特にこの体になってからは猶更なんだけど。

 とは言えみんなで撮る写真で仏頂面というのもよくないので、ぎこちない作り笑いを浮かべる僕。

 そんな僕の腰を何かがつついた。


「ひゃん。だ、だれっ!」


 いきなりのことだったので、思わず変な声が出てしまった。

 隣に並んでいる良治や桜子ちゃんを見ても素知らぬ顔をしている。ぐぐぐ…。

 

「おーい、撮るぞー」


「ご、ごめん」


 気にしないようにして僕は再びカメラの方を向く。

 すると今度はパーカー越しに背中を指ですっとなぞられる。


「ふゎっ! 誰なの? さっきから!」


 僕はキッと良治を睨みつける。しかし良治は素知らぬ顔をしている。

 良治じゃないのか。ならばと思って桜子ちゃんを睨みつける。しかし彼女も知らん顔している。なんというポーカーフェイスたち。

 まさか大穴の萌香ちゃんかと思って、見つめてみる。ちょっと、何顔を赤らめてるの! 全然違うからっ!


「まあ俺だけどな」


 結局良治かよ!


「全く、俺がいない中で楽しまないでくれよ。写真今度こそ撮るからなー」


 僕は気を取り直して並ぶ。

 なんだか硬くなってた顔も少しほぐれたみたいだ。

 はっ、まさか良治はこれを狙って…。だとしたら僕は誤解をしていた…。

 良治を「ごめん」という目で見つめると、良治の視線は僕の胸元に一直線だった。ダメだ。今のこの男はそんなファインプレイする気じゃなかった。完全に下心で触りに来ただけだこりゃ。

 「ハイ、チーズ」の合図で写真を撮る。上手く撮れなかったのか何度か撮り直すことにはなったけど…。

 最後に東吾を入れて、ちょうど居合わせたカップルに写真を撮ってもらい、撮影会は終了した。

 僕は、なんだかもうすでに疲れてきていた。初めから東吾も入れて撮ってもらえば、こんな苦労はしなかったのに。


「なあ、東吾、上手く撮れたのか?」


「ばっちりだぜ相棒」


 東吾と良治がひそひそ話しているのが聞こえる。そんなに上手く撮れたのかぁ。

 写真嫌いとは言え、後でちょっと見せてもらおうかな。


「ねえねえ、上手く撮れたの? みせてー」


 その様子を見た萌香ちゃんが東吾にデジカメをせびる。


「あ、ああ。撮れてるよ、後で送るから楽しみにしといて!」


「えー、今見せてよー」


「えっ。いや…えーと?」


 一瞬の隙をついて萌香ちゃんが東吾の手からデジカメを奪う。

 なんという早業。忘れかけてたけど、柔道やってただけはあるのかっ! いや全然関係ないか。

 東吾はいかにも「しまった」という顔をしている。そしてその後ろにいた良治も何故か顔に手をやって「あちゃー」というポーズをしている。


「あーっ! 前半撮り直しした部分、全部アユミちゃんだけアップになってるじゃん!」


「えっ!?」


 僕も萌香ちゃんの持っているデジカメを覗き込む。

 五回くらい撮り直した内、三回分くらいは僕がアップになっていた。しかもその前の腰とか背中とかつつかれて、変な反応をしているところから全部撮られていた。わぁーよく撮れてますねえ。

 

「これ、どういうこと?」


「い、いやーアユちゃん。悪気はないんだ。強いて言えばアユちゃんが可愛すぎるから出来心で…」


「そうだぞ歩。歩が可愛いからこんなことになるんだっ!」


「そうね、アユミちゃんが可愛いのもよくないわね」


「そうだねー。その可愛さにこの写真の中での反応、仕方ないかもねっ。それによく撮れてるし、私ももらっていいかなっ♪」


 いやいやいや! なんで僕が悪者扱いになってるの!? 違うでしょ!? 何でそんなところでチームワーク発揮しちゃうかなっ!

 しかも早速東吾がスマホにデータ写してるし! 準備良すぎるよ! そしてみんなにメールで送信してるし! っていうか拡散しないで! 萌香ちゃん、ドヤ顔で壁紙に設定しないで!

 あー、もう何でこうなるのかなぁ。

 まだプールにも入っていないのに、僕は本当にくたびれてしまっていた。

作中の季節ではちょっと早いですがプールに行ってみました。

もうすぐ一か月連続更新になりますっ。ちょっと毎日更新は疲れてきたかなーと思いつつ、頑張ってますっ。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!

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