美少女、身体測定に挑む
第二十四話 美少女、身体測定に挑む
週明けの月曜日。今日から高校の授業がスタートする。
今は一時間目。国語の授業だ。
担当の男性の先生は、軽く自己紹介をすると、すぐに授業に入った。
僕は自分の席でノートを取る。昔から授業は真面目に聞くし、予習復習はちゃんとしているのだ。
授業を真面目に聞くのは偉いからとか勤勉だからという理由ではない。中学までの時は休み時間に良治が構ってくれないと寝てることにしていたので、結構な割合で休み時間は机に突っ伏していた。だから、授業くらいしか起きていられないという悲しい事象が発生してしまったのだ。
予習復習の方は、なんと言っても趣味がなかったからだ。
夜に家でやることがない。テレビもないし、ゲームはあるにはあるけど滅多に買ってもらえないから飽き気味。必然的に勉強でもしておいてやるか、となってしまったのだ。
まあおかげで成績はそこそこよかったし、公立の中では結構偏差値が高い美川高校に入れた。ただ、高校に入ってからは、クラスメイトが基本同じ程度の学力を持っているはずなので油断はできない。
そんなことを考えていると、突然教室の前方の扉がノックされる。
「しつれいしまーす」
入ってきたのは白衣を着たお姉…いやおばさん? だった。
見た目三十前後なのはどういえばいいんだろうか。
彼女は入った後に軽く自己紹介をし、自身が養護教諭であることを僕らに教える。
「一年A組はそろそろ身体測定があるので、男子から来てくださいね」
そう言うと彼女は教室から出て行った。
教室の中はもう授業終了な空気に包まれる。
国語の先生も諦めたようで、「はやくいってこーい」とか言ってる。
わらわらと男子生徒が出ていき、クラスの中には女子だけが残る。何だか少し不思議な印象を受ける。
女子だけになると、男の先生は若干気まずいのか「授業は終わり」とだけ言って職員室へ引き上げてしまった。
先生がいなくなるのを確認すると、クラスの中は一気に騒がしくなる。
「ねーねー、アユミちゃん! 今日の自信はいかほど!?」
「自信? 何が?」
「萌香、アユミちゃんは萌香みたいに朝ごはん抜かないよ」
ああ、なんだ。体重の話だったのか。
ぶっちゃけ、この体の体重って殆ど意識したことないんだよね。っていうかそもそも全然ご飯食べられないし。
男の時と比べて胃が小さくなってしまったのだろうか。
「萌香ちゃん、全然太ってないじゃん?」
僕は思ったままのことを言う。
「! そ、そうだよねっ! 私まだいけるよね!」
「萌香は脂肪率高そう」
「な、なんで私をデブキャラにしたいのかなっ!」
実際問題として、萌香ちゃんは全然太っていない。
一体何をどうしたくて、ダイエットに勤しむのだろうか。
いや、普段ダイエットしてる様子はないので、一日限りでロマンを追っているのか。
ちなみに僕的には、ご飯抜く=死ぬという印象しかない。
「まあ、アユミちゃんは体重とか全然気にしなくていいよね。可愛いし、肌白いし、すべすべだし」
「全然関係ない項目が三つ挙がってるんだけど」
「そうだよねー。アユミちゃんは細すぎずって感じのベストな位置! 私の理想形だよ! 本当にうらやましい!」
萌香ちゃんが恨めしそうに見る。
はぁ、女の子って言うのはいろいろ大変な生き物なんだな。
******
暫くして男子生徒がぽつぽつ戻ってきて、最後の一人が戻ってきたところで女子陣が保健室に移動を始める。
僕もその波についていくのだが、自分で自分を女子の方にカテゴライズしているのに何の違和感も感じなかったことに気付いて驚いた。アユミちゃん、心は男でしょ! イエス。僕は男のはずだ。
まだ一か月経ってないんだけど、この女の子への順応っぷりは…。やはり佐倉家の血は争えないか。
僕は萌香ちゃんらと保健室の中に入る。
…って入っちゃまずいでしょおお!
なんでちょっと前に心は男なんだって再確認しといて、数分で忘れてホイホイ女子の中に飛び込むかな!!
いやいやいや、待ちたまえ、アユミちゃん。男の時に身体計測しなかったんだから、もう女のとこでやるしかあるまい?
いやいやいや、それは違うだろう。アユミちゃん。これは倫理観の問題だよ。
まぁまあ、アユミちゃん、時に落ち着きたまえって。じゃあ君は男の中で服を脱ぐのか?
オウ、ジーザス。アユミちゃん、そんなご無体な。そもそもそんなことをしたら痴女ではないか!
そんなことしたらマ…母さんに怒られるじゃないか! 大体、いつもお風呂で自分の裸見てるんだから、今更女の子の下着姿程度見たって別に平気でしょ?
そうは言うがな、アユミちゃん。自分と他人じゃ下着姿の意味合いも違うもんだよ。
「おーい、アユミちゃん?」
「はっ、ちょっと考え事してた」
萌香ちゃんの声で、僕は意識を取り戻す。一体何人のアユミちゃんが僕の頭の中で会話していたのか。
気が動転しすぎてたようだ。
僕は保健室の中を見渡す。
うわぁ…肌色分がいっぱいだあ。男なら誰もが夢見る光景がそこにある。
や、やばい。なんか凄い罪悪感が…。これは…やっぱり見ちゃダメだ! そ、そうだ、目をふさごう。ってちょっと待った、こんなあからさまな反応してたら明らかにおかしいじゃん!
いいこと思いついた! 風邪ひいたことにして保健室に行こう!
ってここが保健室じゃーん!
そうだ、みんな終わるまで後ろ向いていよう。
うーん、この人体模型いい体してますね。
「アユミちゃん、どうしたの? さっきから」
「ひっ、えっと」
桜子ちゃんに後ろから話しかけられてびくっとなる僕。
僕は彼女の方を振り返る。
「! あの、なんで脱いでるのっ」
桜子ちゃんは、既に下着一枚だ。
桜子ちゃんはスタイルもいいし、目のやり場に困る。いや、見てないです!
「なんでって、身体測定でしょ?」
「そ、そうだね」
「アユミちゃん脱がないの?」
よく見ると何故か注目を浴びている僕。なんとなく女子陣の目が輝いている気がする。
そ、そうか。僕がちんたらしてると、いつまでたってもA組が終んないから、暗に早くしろと言いたいわけだねっ。
「ねーねー! 脱がないなら、脱がしちゃえばいいよっ♪」
えっ!? と反応する前に、がっしとスカートを掴まれていた。何という高速な手の動き。
一瞬でベルトを外されると、一気にスカートを下される。
ブレザーとブラウスを着たまま、下だけパンツ一丁という恥ずかしい恰好になってしまい、思わず僕はその場にへたり込んでしまう。
「いまだー! 脱がせー」
獣のような眼をした女子陣が僕に群がろうとしてくる。
みんな下着姿なので、あんなのに群がられた日には、意識を失ってしまいそうだ。
「ま、待って! 脱ぐから、脱ぐから!」
僕は一年A組女子陣を手でけん制しながら叫んだ。
何とかみんなの動きは止まったようだけど、代わりにクラスの女子全員に見つめられているこの状況で服を脱ぐ羽目に。
うう、なんでこうなったんだろう。
僕はまずブレザーを脱ぐ。
脱いだブレザーをきれいに畳んだあと、ブラウスに手をかける。
「ごくり」
生唾を飲む音をしゃべった子はだれだよっ!
そういう演出いいから!
僕はブラウスのボタンをはずしていき、袖から腕を抜く。
白い肌が蛍光灯の下に露わになる。ミルキーピンクの水玉模様のブラジャーを隠すように僕は体の前面腕をやる。
「ほぅ…」
ため息が聞こえる。
な、なんだよ! 貧相で悪かったな!
何でこんな衆人環視の中、脱がなきゃいけないのか。
「なんで綺麗なの…」「まさか脱ぐだけでこんなに絵になるなんて」
女の子たちはざわざわしている。
「アユミちゃん! 胸! 隠さない! 隠さない!」
「だ、だって恥ずかしいし!」
なんでみんな平気でいられるんだよ。恥ずかしくないの?
耳まで熱くなってきてる。もう無理だって、これ以上熱くなるとホントに顔から火が出そうだよ。
「うっはぁ♪ 顔真っ赤でホント可愛い! いじりたい! 抱き着きたい」
萌香ちゃんの息が荒い。この感じ、母さんと似たものを感じる…!
僕はゆっくり後ずさる。
すると後ろで何かにぶつかった。
「逃がさないぞー」
「さ、桜子ちゃん!?」
がばっと抱き着かれた僕は、一瞬で動きを封じられてしまう。
桜子ちゃんが抱き着くと、背中に柔らかいものがあたる! しかもなんかいい匂いするし!
「うわー、手も手もすべすべだったけど、体もすごいわー」
「ひゃあ、だめだって!」
桜子ちゃんの手が僕のおへそあたりをなぞる。敏感な部分はそんな風に触っちゃダメだって!
「いいじゃん、いいじゃん減るもんじゃないし」
「あーっ桜子ちゃんずるい! 私も触る!」
「あぅ…やぁっ」
「桜子ちゃん! 桜子ちゃん! すごい良い反応だよ!」
「んっ…や、やめ。ダメだって!」
腰やおへそ、太ももへの攻撃は暫く続く。
「うーん! おへそとかでこの柔らかさなら、ここはどうなのかなっ!」
「はぅ…や、やだ…」
萌香ちゃんの手が僕の胸に触れる。そしてそのまま優しく包み込むように揉む。
「桜子ちゃん! 桜子ちゃん! これ凄いよ! 桜子ちゃんのでかいだけのより柔らかい!」
「さりげなく人の胸をディスらないでほしいんだけど。でもどれどれ、私に片方かして。うわーなにこれ! マシュマロみたい! 萌香とサイズあんまり変わらないと思うんだけど、これは別格のさわり心地よ! これと比べたら萌香のなんて三日くらい放置したメロンパンね…」
「ぐぐぐ…! あんまりな例えなのに言い返せない…。 まさか同じようなサイズでもこんなに格差があるなんてっ! 悔しいからもっと揉んじゃおう♪」
「ちょ、ちょっと…。二人ともやめて…って」
「まだまだー!」
*******
「もうやめてよう…」
二人がようやく止めてくれた時は、僕が涙目になった時だった。
僕は肩で息をしながら、その場にぺたんと座り込む。心なしか、周りのクラスメイトの顔も赤くなっているような気がする。
「ごめんねー、アユミちゃん」「調子に乗りました」
二人が揃って謝る。そして立ち上がれなくなってた僕に手を貸してくれた。
もう少し前にやめてほしかったね…。
「もう、本当にやめてよねっ」
僕は二人からプイと顔をそむける。
「あぁ、こんな可愛い反応されるならまたやっちゃってもいいかなって思っちゃった」
「ま、待って! もうだめだから…」
「あはは、冗談だよ! 十中八九、多分、恐らく、ひょっとすると、万が一?」
段々確率的に低くなってるよ!
「おーい、早く身長と体重はかってー。後ろがつかえちゃうでしょー」
保健の先生が奥から声を出す。
ごもっともな話だ。僕はこんなセクハラを受けるためにここに来たんじゃない。
僕ら三人もそそくさと列に並ぶ。
「相川桜子は…百六十四センチっと…。次、皆瀬萌香…えーっと? 百五十三センチ。はい次」
僕は言われたとおり、身長計に背を付けて立つ。
男の時は百六十センチ。今は…!?
「佐倉歩は、うーん。百五十一センチ」
ま、まあそうだとは思ってましたよ?
縮んでることはわかってたし…。萌香ちゃんよりも低いよなーってのもわかってたし。弟の要よりも小さいし。まああいつは五年生のくせに大きいから…。
く、悔しくなんかないやい。
でも内心はわかっててもショックだった。もともと男の中では小さかった方だったけど…。さらに縮んだ上に女の子でも小さい方っていうのはね…。
ちなみに体重も計りましたがそこは秘密らしい。
僕の体重は見てきたのに、この二人ときたら!
「流石に軽いわね。朝ごはん抜かないだけあるわ! こんなに安心して見られる体重もないわね」
「わ、私デブキャラじゃないからー!」
僕よりちょっと重かった萌香ちゃんは悲鳴を上げている。
いや、僕より身長高いし別に普通のことなんじゃないかな…。女の子というのはわからないもんだね。
身長、体重と終わって、最後は座高だった。
「ガーン」
萌香ちゃんが凹んでしまった。
保健室の隅でしゃがんでいじけている。
「アユミちゃん、萌香より身長低い分より座高低いんだぁ」
それはタブーだよ桜子ちゃん。
ちなみに桜子ちゃんもさすがのスタイルで、身長の割に座高は低い。だからこそこの余裕っぷりである。
「アユミちゃんの脚が長いんだもん…。私短足じゃないよ!」
「な、なんかゴメンね?」
「うわーん! 謝られるとさらに切ない! なんかもう今日は踏んだり蹴ったりだよー!」
それはこっちのセリフなんだけどねっ!
僕も今日は最悪だったよ! 酷い目にあったよ、ほんとに。
こうしてちっちゃい二人がボロボロになった身体測定は終わったのだった…。
日間PV10000いきましたっ。
話数が多いからPV増えやすいとはいえ、たくさんの人に読んでもらえてるようで、嬉しいですヾ(*´∇`)ノ
評価、感想等いただけると励みになります。気が向いたら、よろしくお願いいたしますm(_ _)m
2013/9/11
一部ミスを修正しました。