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美少女、学校裏を知る

第二十二話 美少女、学校裏を知る




 夕食後の僕はベッドでごろごろしていた。

 今日は疲れたなぁ。

 初めて午後まで学校にいたせいかな。

 するとコンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「あゆ姉ちゃん、入るよー」


 弟のかなめだ。僕の了承を得る前に部屋の扉はあいて、要は中に入ってくる。

 

「返事してないでしょ。ちゃんと待ってから入ってきてよ。着替えてたらどうすんの?」


「うーん。ラッキー?」


 僕は、はぁとため息をつくと、ベッドの上に座る。


「それで、何か用? 要」


「遊びに来たんだけど、だめだった?」


「そんなことはないけどさ」


 僕がそう返事をすると、要は僕の隣に座ってきた。

 要は僕が男の時から結構僕になついていたし、僕も結構かまってやっていた。

 しかし、僕が女の子になってからは懐き具合がおかしい。一緒にゲームをやろうとすれば、男の時よりも近い位置に座るし、僕の頭を撫でてくるし。春休み中も、事あるごとに僕と一緒に外出しようとするし。

 …まあ僕は大体は引きこもってたけど!

 男の時は僕はブラコンと母さんに言われたこともあったけど、女の子になってからは要が圧倒的にシスコンになってると思う。

 僕はというと、そんな要との距離感が掴めずにいた。


「よし、あゆ姉ちゃん! 一緒にお風呂に入ろう!」


「何が「よし!」なのっ! 一緒にお風呂はもう卒業したでしょ」


「また再入学しましたっ」


「なわけないでしょ!」


 僕は要を立ち上がらせると、部屋の外まで押し出した。

 そして勢いよく扉を閉めた。

 

「ひどいなあー。 あゆ姉ちゃんだって、昔みたいにお風呂で僕と遊びたいと思うときあるでしょ!?」


「えと、全然?」


「ガーン」


 口で「ガーン」とか言われても反応に困る。

 要は暫く部屋の外にいたようだけど、その後は自分の部屋に戻ったようだ。

 奴は時折発作的にこういうことをする。その都度、僕はどうやって対処するのか頭を悩ませるのだ。

 おそらく、異性に興味を持つお年頃なのだろう。突然男が女になったせいで、兄弟という感覚が薄いのかもしれない。可愛がってた分、要を無下には扱いたくないし、かといって要の要求は兄弟の範疇を超えてるような気がする。要も黙ってれば結構カッコイイ顔立ちしてるんだけどなあ。どうして僕の周りには黙ってればマシというのが多いのか。



 僕は再びベッドの上で仰向けになった。充電器の上に置いてあったスマートフォン手に取り、画面を点ける。

 メッセンジャーソフトに新着メッセージが大量に届いていた。

 スマートフォン、というか携帯電話自体初めて持った僕は、あんまりこまめに確認しないため、こういうことがままある。

 料理同好会に入った五人は、同じ会議チャットに登録されている。届いているメッセージは、全てその会議チャットの中のもので、内訳は殆どが萌香ちゃんや桜子ちゃんだった。

 そして大体は今日学校であった部活動の勧誘オリエンテーションと、新入生歓迎会の話題だった。

 あの部活はどうだったとか、あの先輩がどうとか、生徒会長がどうとか…そういうとりとめのない話が延々と続いていた。

 時々良治や吉川君が返事をしているものの、女の子連中の勢いは凄く、会話のほとんどを占有している。

 何とか全部読み切ったところで、一番下の発言を見た。


もえか:アユミちゃん、いるー?


 読んだことが相手にわかるのかな。

 ぼっちを長いことこじらせていた僕は、このアプリケーションソフトの事はよくわからない。

 でもいちいち既読、未読が相手に知られるのは面倒くさそうだな、と思った。


あゆみ:いる


 僕の返事は簡潔だった。

 だって、フリック操作? とか言うやつが難しすぎて、二文字打つだけでも精一杯なんだよね。

 萌香ちゃんや桜子ちゃん、良治に吉川君が「こんばんはー」と返してくれる。こうやって挨拶してもらえるのは地味に嬉しい。


さくらこ:アユミちゃん、料理同好会、一緒に頑張ろうね!


あゆみ:そうだぬ


 遅い返事の上に、思いっきり打ち間違えてしまった。

 これは恥ずかしい。でも、みんな特に何も言わなかった。優しいね!

 折角今日の部活動の勧誘オリエンテーションの話になってるんだし、気になってたことを聞いてみよう。

 

あゆみ:ところで、マイコン部の先輩がいってた姫君ってなに?


とーご:ざわ…ざわ…


 いや、そんな擬音書かなくてもいいから。

 今までワイワイと流れていたチャットの会話が止まる。

 なんだろうね。わからないことを聞いただけなのに、このやらかした感は…。

 たかが文字チャット、されども人との会話だ。自分の発言で会話が止まると凄い気まずい。


りょうじ:知りたいのか?


あゆみ:そんなに知ったらまずいことだった?


さくらこ:知ったらまずいっていうか、インパクト強そう


あゆみ:?


 何だかよくわからないけど、僕以外みんな知ってるようだし教えてほしいな。

 「教えてほしい」と文字を打つ前に良治からURLが送られてきた。

 僕はそのURLをタッチしてインターネットブラウザを起動する。

 ページが開くと、そこには「美川高校非公式Web」と書かれていた。

 なんだこれ? 非公式Webってことは、学校自体は運営に絡んでないんだろうか。

 画面の上部にこのウェブサイトのコンテンツがいろいろ出ている。

 「行事のお知らせ」「部活動の宣伝」「テストの出題傾向(過去問)」「非公式掲示板」「校内特集」等など。非公式と言いつつ、意外とまともなコンテンツが多い。

 学校の公式のウェブサイトが外部の人向けだとすれば、こっちは結構内向きな印象がある。

 特にテストの過去の問題とかは役に立つような気もする。全く同じ問題は出ないにしろ、模擬試験って感じで使えそう。

 …で、このウェブサイトが在校生には役に立ちそうなことはわかったし、教えてもらえたのはありがたいけど、なんでここで僕をここに誘導したのか。まあ確かに、ここのウェブサイトを知ってるか知っていないかで、学校生活でも大きく差が出そうな気もする。

 僕は、再びメッセンジャーソフトを開きなおす。

 

あゆみ:非公式サイトがひらいたけど、あれなに?


りょうじ:特集のページを開いてみるんだ。


 成程、「校内特集」か。僕は再びインターネットブラウザを開きなおして、美川高校非公式Webを開く。

 いちいち開きなおすのがかったるいんだけど。この辺の使いにくさは画面の小ささから仕方ないのかな。

 僕は「校内特集」と書かれたところをタッチする。

 余談だけど、本当は画面をタッチすることを「タップ」というらしい。スマートフォン向けの用語はよくわからないので、僕は全部ひとまとめに「タッチする」と言っている。カタカナ語ばっかりで難しいんだよ…。

 校内特集のページは、ホットな情報が一番上にくる掲示板形式になっている。

 僕は適当にその情報を上から見ていく。

 すると、「今年の新入生に姫がいた件」というトピックがあった。

 これかな、と思い僕はそのトピックを開く。

 入学式の待機列の写真が添付されている。赤く丸が付けてあるけど、僕のスマートフォンの画面じゃ上手く見えない。指で広げるようにして画像を確出してみると…そこには小さめの身長と、長い黒髪をした少女の姿が…。


「って僕じゃーん!」


 なーんだ、お姫様って僕のことかー。

 

 …ちょ、ちょっと待って! 意味がよくわからないんだけど。

 そのトピックをスクロールしていく。

 匿名の掲示板形式で、誰が書きこでいるのかはわからない。当然トピックを立てた人もハンドルネームで、誰だかは不明。

 別の人間が「詳しく」とか書いている。いやいやいや、詳しくじゃないから!

 さらに数分後には、顔をアップで撮られていた。目に黒い線が入ってるけど、どうみても僕です。

 黒い線引かれると、悪いことしてる人間のようじゃないかっ!

 そんな問題じゃないか。

 アップの写真が貼られてからのトピックの盛り上がりはすさまじかった。

 「可愛い」「お人形みたい」」「クラス特定はよ」「タイトル把握。これは本当にお姫様みたい」といったコメントが数秒おきに寄せられている。さらに数分後には、「話題のお姫様は1A」という情報が投稿され、さらに盛り上がりを見せている。

 あれれー、個人情報ってなんだっけ? 

 僕はメッセンジャーソフトに画面を戻した。


あゆみ:なんか僕の写真がいっぱいはられてた。


さくらこ:わ、私じゃないからね!


もえか:私でもないよっ!


 うん、まあ疑ってはいない…よ?

 普段の行いから何となくやりそうとか思ってはないよ?

 あのウェブサイトでは、僕以外の四人が写ってる写真もあったし、ここの会議チャットにいる人じゃないよなー。


りょうじ:大人気だな(笑っている顔アイコン)


あゆみ:笑い事じゃなーい! あれを消してもらわないと!


りょうじ:まあいいんじゃないか? 今のところ害はないし。


あゆみ:だって気色悪いじゃん。知らないところで写真撮られてるなんて。


もえか:アユミちゃんの場合、街中を歩いてても撮られそうだけど。


あゆみ:なんで!?


さくらこ:なんか凄いオーラが出てるもん。すごい育ちがいいんだろうなあって雰囲気を醸し出してる可愛さで、なんか清純?


とーご:推しが弱そうで控えめなところとか。


もえか:あのウェブサイトの「お姫様」って言いえて妙だよねっ。


 勘弁してほしいです。

 その後もみんなは、あーだこーだ言っている。写真の目線なしのが欲しいとか言っている。

 っていうか、みんな文字打つの早いよ! 僕一言もしゃべれないよ!


あゆみ:じゃああのトピックはあのままなの?

 

りょうじ:トピック立てた人か、ウェブサイトの管理者しか消せないしな。


さくらこ:今はあのトピで盛り上がってるだけだし、ほっとけばいいよ。なんかあったら先生に相談しよう。


 はあ。写真を勝手にインターネットに載せるのは良くないと思うだけどなー。

 一応目線いれてあるし、名前は出てないからいいのかなぁ。最近じゃ結構みんな自分の写真とかをソーシャルネットワークサービスとやらで公開してるけど、それが原因で問題にっていうのはあんまりないよね。

 じゃあもういいかあ。遠い世界の話と思っておこう。


あゆみ:みなかったことにする。


とーご:まあいいんじゃね? 騒いでるやつは騒がしとけばいいのさ。


もえか:生のアユミちゃんをいじれるのは、私たちのクラスだけだもんね!


 当の本人たる僕は、いじらないで欲しいと強く思ってるんだけどね!

 でも、入学三日目にして、言っても無駄だってわかったから、もうあきらめたけどね!


「アユミちゃーん。そろそろお風呂はいりなさい」


 階下から母さんの声が聞こえる。


あゆみ:そろそろお風呂入るので一旦はなれるね。


りょうじ:お風呂から実況よろしく。今どこを洗ってるとか、できるだけ詳しく。


あゆみ:しないからっ!


もえか:えー。


さくらこ:えー。


とーご:えー。


あゆみ:なんで三人もその反応なの!


もえか:写真でもいいよ!


あゆみ:尚のこと無理でしょ!


りょうじ:じゃあ俺は歩が風呂に入っているところを、細かく想像していることにする。


あゆみ:それもできればやめてほしいんだけど…。


 みんなが「いってらっしゃい」と発言するのを確認した僕は、スマートフォンの画面をオフにしようとする。

 しかし、その前に再び非公式ウェブサイトに画面を移す。

 うわー。こんなにコメントがついてるなんて、みんなどうかしてるんじゃないか。

 でも可愛いと言われてるのを見ると、なんだか少しほっこりした。

 いや、う、嬉しくはないよ? 僕は男だし、可愛いとか舐められてるとしか思えないし。

 画面をさらにスクロールさせる。なになに?「今年のミスコンは熱くなりそうだ」? 出ないから、絶対出ないから! というかそんな行事あるのか…。

 ほかには、えーと「ちゅっちゅしてぺろぺろしたい」…。

 …ま、まぁ気にしたら負けだよね。もうこのウェブサイトの事は忘れよう。

 

 あ、過去問あるし、テストの時だけ思い出そう。

 僕はスマートフォンの画面を消して充電器に乗せた。

ほぼ内容なしの話(いつもか。

ほかのキャラを掘り下げたいかなぁとは考えています。

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