美少女、新入生歓迎会にて②
第二十一話 美少女、新入生歓迎会にて②
旧体育館の裏手にやってきた僕ら四人。
ここは新入生には馴染みがない場所なので、人もほとんど来ていない。
「おー、やっぱり他の一年生はきてないね♪」
「萌香ちゃんよく思いついたね。僕らだってここは来たことないでしょ?」
「ふっふっふ♪ アユミちゃんへの告白で使われそうな場所は、こっそり見たいから全部調べておいたのだっ」
聞かなきゃよかった! 完全な出歯亀思考じゃん! その内盗撮とかしそうで怖いよ!
「萌香、アユミちゃん、滅茶苦茶引いてるけど」
「えっ!? あ、アユミちゃん、う、嘘だからねっ」
視線が泳いでるんだけどなぁ。
僕はじと目で萌香ちゃんを見つめる。
「ひょっとして、昨日の告白(※美少女、放課後を過ごす)の時見てたの?」
昨日の告白の場所は、ズバリここだァー!
「旧体育館の裏で」とか書かれてたので、どこだかわかんなくて迷いに迷って、三十分くらい探してたんだ。
多分昨日の男子は一時間以上待ったんじゃないかなあ。
「ウウン、ミテナイヨ♪」
「ねえ萌香ちゃん、僕の断り方ってまずかったかなあ」
「そうね♪ 友達からでもっていうのも無下に断ち切るアユミちゃんはかっこよかったよ!」
「見てんじゃん! そりゃもうばっちりと!」
この子の行動力が怖い。 下調べだけで、実際の告白の現場によく来られたもんだよ! 嗅覚がすごすぎる。
これが黙ってれば可愛いけど、動くと暴走する機関車ってことか。
「だ、だって。アユミちゃんが告白されて顔真っ赤にしてる様子が見たくて見たくて…」
僕はじっと萌香ちゃんの目を見続ける。
「ぐっ。そんなに綺麗な瞳で見続けるのは反則だよっ! 見てました! ごめんなさい! でも桜子ちゃんや良治君も見てましたっ! 連れてったのは私だけど」
「あ、こら! そこは黙ってる約束でしょ!」
「しょうがない奴だな」
ここでカミングアウト! 知られざる真実を公開。
あの場所に、今ここにいる全員がいたという…。しょうがないのは、良治、お前だァー!
「歩が告られるときは保護者同伴だな!」この良治のセリフがここに活きてくるとは思わなかったよ。
なんか猛烈に恥ずかしくなってきた。
「な、なんで見ちゃうのさあ」
僕は顔を手で覆う。恥ずかしすぎて声が消えそうだった。
ああ、これが恥ずか死ぬってことか。
「本当に可愛い…」
「うん。生きててよかったって思うよね」
もうかくれんぼとかどうでもいいかなあ、と思えてきた。
この三日間は本当に踏んだり蹴ったりだ。
「歩、あとで中村屋の水羊羹六個セットの買ってやるから、それでなんとか」
水羊羹…!
いや待って待って! 明らかに買収だから!
そ、そんなものじゃ許してあげないんだからね! 一瞬ときめいたけど。
買収で解決は良くないよ! 物につられる僕じゃないのだ。
「十個セットで、あと相川と皆瀬がクレープ奢ってくれるって」
「次はないからね」
まあ十個なら許してやろうかな。
まだ恥ずかしいけど、もう過ぎたことだし、寛大な心が必要ですよね。
「じゃ、じゃあ、気を取り直して隠れる場所を探そう!」
「なんかもう疲れたけどね…」
「ご、ごめんね、アユミちゃん」
桜子ちゃんが謝ってくる。謝るくらいなら、覗き見をしないでほしかったよ。
********
良治は旧体育館脇の体育倉庫の屋根の上に身を伏せた。
萌香ちゃん曰く、「ここなら下から見ただけじゃ絶対に見えない」とのこと。そのポイントをいつか使う気だったのだろうか。
それじゃあ僕もそこにしようかなと、よじ登ろうとしたら桜子ちゃんに止められた。
「アユミちゃんはダメ。そこに上ろうとすると…見えちゃうし」
そこまで言われて、ハッと気づく。そうだった、僕はスカートだった。
それじゃあどこに隠れようかな…。
「あれ、萌香ちゃんは?」
「いい場所を見つけたから隠れてるって。誰が一番初めに見つかるか競争しようって、チャットメッセージがきてるよ」
早いなあ。
どこに隠れたのか全然見当がつかないや。
「うーん。僕は何処に隠れようかな」
「あっ、あそこどう? 掃除用具入れがあるけど。あれくらいなら二人とも入れそうだし」
桜子ちゃんの指さす方向を見ると、確かに掃除用具入れがある。
旧体育館の掃除用具でも入ってるのかな。結構大きいし、中身を出せば二人くらいは入れそうだ。
僕と桜子ちゃんは、掃除用具入れの戸をあけて、急いで中身を出す。
出したものを周囲に置いておけば、中に別の物が入ってることが明らかなので、ちょっと離れた場所に置きに行く。
後で戻しておけばいいよね。
からっぽになった掃除用具入れは、鉄臭いのだけ我慢すれば入れそうだ。中も思ったより汚くないし。用具入れ自体が結構新しいみたいで、そこが幸いしたようだ。
「じゃあ私から入るね」
桜子ちゃんが先に入る。おおー、まだ人が入れそうなスペースはあるかな。
桜子ちゃんがこちらを向いて、オッケーのマークを出したので、僕も中に入る。
僕が中に入ると戸がしめられた。
ちょっとだけ外の光が入ってくるけど、殆ど何も見えない。そしてやっぱり二人は狭い。
桜子ちゃんはスレンダーな体形だし、僕は僕で身長も低いし体も細い。これでもギリギリって感じだ。
不意に桜子ちゃんの手が僕の背中に回る。そしてそのままぎゅって抱きしめられた。
「わぷっ」
急なことだったので思わず声が出てしまう。
こ、これは…! 桜子ちゃんの胸の感触がダイレクトに伝わってくる。何という役得。
「アユミちゃんホントいい匂いするね。それに抱き心地もすごいいい。ふんわりした髪の毛と、柔らかい体。抱いたときに当たる太ももの感触が最高♪」
「あ、あの桜子ちゃん?」
桜子ちゃんは左手で僕を抱きとめながら、僕の頭を撫でる。そして僕の脚の間にするりと桜子ちゃんの脚が入ってきて…。
おかしくなりそう、おかしくなりそうと桜子ちゃんから何度か聞いた気がするけど、冗談じゃなかったっぽいです!
「桜子ちゃん! だ、だめだかっ」
ダメだから! と言おうとしたけど、僕の頭はぎゅっと桜子ちゃんの胸へ押し付けられてしまい、最後は言葉に出せなかった。
「しー。声を出すと見つかっちゃうわよ?」
おかしい。女の子の胸の感触を楽しんでいたはずが、いつの間にか僕が玩具にされていてそれどころじゃなくなっていた。
僕の顔は桜子ちゃんの左手で、彼女の胸に押し付けられている。ふんわりと漂う甘い匂いと、服の上からでもわかる胸の感触。
でもその感触を楽しむことには神経が回せなかった。なぜなら彼女が、僕の太ももから足の付け根の方へとゆっくりと右手を滑らせているからだ。
「むぐー」
僕の言葉は上手く出ない。
「アユミちゃんの肌ってホントすべすべなのね…。こんなにきめ細かいなんて、しかもそれが同い年なんて、嫉妬しちゃうわ」
彼女は僕の耳元で囁く。そのまま僕の太ももを撫でて遊ぶ。
ちょっとちょっと、そろそろやめてほしいんですけどっ! 手つきが優しいから、微妙に気持ち良かったりなんかしちゃって、色々と不味い気がする。
きっと今の僕の顔は真っ赤になってる。こんなに恥ずかしい目に合うとは思っても見なかったよ!
「あー、暗くて顔が見えないのが残念。今きっとすごい良い顔してるでしょ?」
暗くなくても、桜子ちゃんの胸に顔を押しつけられてるから見えないよっ。もう離して。
桜子ちゃんの手が僕の太ももから離れる。助かった。危うくわけが分からなくなりそうだったよ。
と安心していた矢先、僕のブレザーの内側に彼女の右手が侵入してきていた。
優しく背中を撫でる桜子ちゃんの手。流石にブラウスの中に、ってことはないけど、さっきまでと違って、より素肌に近いところを撫でられているのか、手の感触がはっきりと伝わってくる。
「ふ、ふがー! ふごむぐ」
僕は抗議の声を上げようするものの、そのたびにギュッと押し付けられてしまうので上手く言葉にならない。
「アユミちゃん、凄いあったかいね」
この空間の中はあったかいどころか、暑いよ!
桜子ちゃんの手は背中から、僕の腋の方へと動く。
やっ、ちょ。ちょっと待って! 皮膚が薄いところは敏感だから!
「撫でられると、ぴくって反応して可愛い♪」
桜子ちゃんが嘆息する。
もうどうにでもしてくれ。早く見つかってくれ。僕はもうあきらめムードだ。
きっとこれは、女の子に抱きしめられてラッキーとか思っちゃってた僕への罰か何かなのだろう。
彼女は、僕の腋やら腰やらを優しく撫でまわす。
これがまた、手つきが凄い優しいから、始末に負えない。手の感触がふわふわ伝わってきて、少し気持ちが良かったりなんかして…。
今どれくらい時間が経ったんだろ。
僕は心底疲れ切っていた。あれからもノンストップで桜子ちゃんは僕の体を弄び、僕は息も絶え絶えって感じだ。
もう一刻も早くここから出たい。
そう思っていた時に、
「あー見つかっちゃった! ざんねーん」
萌香ちゃんの声が外から聞こえてきた。
その声を聞いたとき、ちょっとだけ桜子ちゃんの手が緩んだ。
こ、ここがチャンス!
僕は一気に両腕に力を入れると、背中で掃除用具入れの戸に体当たりした。
鈍い音を立てて、戸が開く。勢いが殺しきれてない僕は、そのまま尻餅をついてしまった。
や、やった! 脱出成功したぞ!
最早当初の目的のかくれんぼとか、遠い記憶の彼方に行ってしまっていた。
「あっ! アユミちゃん!」
桜子ちゃんはちょっと残念そうな顔を浮かべていたが、何かに気付いたようにはっとする。
「アユミちゃん! 立って! 見えてる見えてる!」
三重TEL? ミエテル…見えてる! 僕は自分の現状を確認した。
スカートで尻もちついてるってことは、それつまり…。
慌てて立ち上がる。
「最後にいい物見せてもらっちゃったわ」
桜子ちゃんはご満悦だった。
「桜子ちゃん! 桜子ちゃん! そこに二人で入ってたの!?」
「あ、萌香。そうだよー。もうね、なんかイケナイ感じになっちゃって、すっごい堪能しちゃった♪」
うっとりした様子で語る桜子ちゃん。イケナイ感じになってたのは、主にあんただァー!
「ず、ずるい! 何で二人でそんなにイイコトしてるのっ! 次、私とアユミちゃんが入ろ!」
いやいやいや、その用具入れは順番待ちするアトラクションじゃないからっ!
この二人、なんで仲がいいのかよくわかった気がする。類は友を呼ぶ、つまりはこういうことか。
ぼ、僕はこの二人と同類じゃないんだけど!
あ、僕と桜子ちゃんは、萌香ちゃんを見つけた先輩に当然見つかって、花を取られてしまった。
結果的に、僕ら三人でその先輩に貢献してしまった形になっちゃった。
スマートフォンで時間を確認すると、まだ探すのをスタートしてから三十分しか経っていなかった。あと三十分もあの中にいたら、僕おかしくなってたかも。
「ねえねえ! アユミちゃん! 中に入ろうよー」
「は、入らないよ!」
「むー、その顔! 中でどんなことをしてたのー! ずるいー!」
やたらと食い下がる萌香ちゃん。
もう勘弁してください。生徒会長じゃないけど、土下座したいくらいの勢いで勘弁してほしい。
「中に入ってくれないなら、ここで抱きしめちゃお♪」
そういうと萌香ちゃんは僕に飛びついてきた。
む、胸の感触が! …あんまりない?
萌香ちゃんは、僕と同じくらいしかなさそうだ。ってなんで、ちょっと安心しちゃってるんだよ僕は!
男なら胸より大胸筋だろ! いやそれも違うか。
「い、今桜子ちゃんと胸の大きさで比べたでしょ! 顔でわかるんだよー! ひどいー」
「ご、ごめん」
あれ、何でも僕が謝ってるんだろう。
かくれんぼで見つかってしまった僕ら三人は、新体育館へと歩みを進める。
僕は両サイドに桜子ちゃんと萌香ちゃんという状況。そしてなぜか腕を組まれている。
これじゃ、連行されてる宇宙人だよ…。
かくれんぼの結果。まず上級生で十人見つけたって人はゼロ人だった。
これは元々条件が厳しいよね。一年生の一クラスは四十人で、A組からE組までの五クラスしかない。不参加者も結構いたみたいだし、百五十人くらいが最大の人数だったんじゃないかな。
百五十人中十人見つけるっていうのは、結構難易度が高いと思う。
ちなみに新入生側で見つからなかったのは、良治と吉川君という…。完全に身内でした。
吉川君は、歓迎会の開始ギリギリのところで参加したらしい。屋上への階段の踊り場で目をさまし、猛ダッシュで滑り込んだと。屋上での階段で目を覚ましたというあたりは気になったけど、あえて聞かなかった。知らぬが仏というしね。
じゃんけんで勝負し、六十五回目のあいこで、良治が吉川君を倒し、フォークダンスで指名する権利を得たのだった。
まあ、結果としては、良かったかな…。
本当は今日部室を見に行く予定だったけど、精神的にも肉体的にも疲れてしまった僕は、皆に謝って今日のところは帰宅することを選択するのであった。
後編です。
ロッカーの中で二人っていうのはロマンですよね。
ぶっちゃけこれがやりたいが故にかくれんぼにしました。
良治か、桜子か、萌香の誰と一緒にしようかと悩みました。女の子と二人か、男の子と二人かで違った色と美味しさがあるように思うので、本当に悩んでました(笑)。
当初はこんな感じで3パターン考えてました。
①良治と二人→セクハラされまくる歩さん。ちょっと怒るけど、さらりとイケメン()ぶりを発揮する良治に騙されて許してしまう感じの話。
②萌香と二人→何故か結構いい雰囲気で、お互い触りっこしたりする感じの話。
③桜子と二人→一方的にやられまくる話。ある意味一番セクハラ度が高い。
因みに、もう一人いる彼はお弁当もらえたりとかで、おいしい目に会っているので今回は初めから除外してました。
あるとしたら、
④吉川と二人→歩さんの無自覚な色気に惑わされてドキドキする吉川君
という、また違った色が出てたかもしれません。皆名前忘れてると思いますが、吉川君は名前が東吾です。