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美少女、新入生歓迎会にて①

第二十話 美少女、新入生歓迎会にて①




「――ですので、私たち生徒会、在校生一同は新入生の皆様を歓迎いたします」


 体育館の舞台の上、演台で喋っている人物は一体誰なんだろう。

 僕は不思議な、というよりは複雑な気持ちでその人物を眺めていた。

 まあ、生徒会長なんだけどね。あれが入学二日目に、ホームルームサボって一年生の教室に押しかけてきて、土下座した挙句僕のパンツ見て帰った残念な人だとは信じられなかった。

 今の壇上にいる生徒会長、三井先輩は見た目も麗しいし雰囲気も優等生な感じがする。まさに生徒会長オブ生徒会長。同一人物だっていうのが信じられない。あれが外向きの顔なのか。女の子というのは恐ろしいものだなぁ。


「なんとなくアユミちゃんの考えてることがわかる気がする」


 ひそっと隣の萌香ちゃんが話しかけてきた。

 新入生歓迎会は、好きなところに座っていいので、僕ら四人はあいているスペースを見つけて固まって座っている。


「教室ではすごい変態っぷりをアピールしただけだったが、生徒会長はいろいろ結構有名らしいぞ」


「良治いつ聞いたの?」


「部活動勧誘の時に、三年生の先輩を捕まえて聞いてみたんだよ」

 

 なんでわざわざ生徒会長のことを聞いたのかな。

 あっ、そうか。綺麗な人だし気になるよね。良治はなんだかんだでエッチだからなあ。

 元男の僕でも平気そうだし。見境ないような気もする。

 良治は僕がそんなことを考えてるとは露とも知らず、話を続ける。


「なんでも全国模試で全教科すべて一位、総合も勿論一位らしい。ただし出席日数がギリギリのサボり魔。超いいとこのご令嬢らしくて、お金持ち。当初は男子からの告白はされてたみたいだけど、教室でもわかったと思うが、女の子のが好きらしい。」


 す、凄いなそれは…。全国模試一位って、なんでこんな公立高校にいるんだ。

 もっと有名な私立とかに入れば良かったのに。お嬢様ならなおさらだ。

 僕の彼女へのイメージは。今までは変な人というイメージしかなかったが、ここにきて天才的な変な人というイメージになった。

 いい進化なのかはよくわからない。

 まあでも、その成績と、あの容姿だ。普通にしていれば超優等生に見える。生徒会長になってもおかしくはないか。

 それに「クッソつまらない」と言っていた生徒会の仕事も、真面目にやってるみたいだし。

 

 新入生歓迎会自体は粛々と進んだ。

 生徒会長の歓迎の言葉から、吹奏楽部などの音楽系の部の演奏。みんな上手だった。音楽や楽器の上手い下手なんてわからないので、単純にすごいなあという小学生みたいな感想しか出てこなかったけど。

 高校生になってからこんなに平穏な時間を過ごしたことがなかったよ。賑やかなのはうれしいけど、それはそれで結構疲れるよなあ。

 

 僕らは今、新体育館にいる。

 新とわざわざつくということは、旧体育館もあるわけで、この美川高校には体育館が二つある。

 おかげで館内競技の部活動も結構盛んらしい。

 お昼ごはんを済ませた後、僕らはしばらく教室で時間をつぶしていた。

 スピーカーから新入生に対して新体育館に集まるよう放送が流れ、僕らは体育館にやってきたのだ。

 ちなみに吉川君は、お昼に友達グループの男子に廊下に連れ去られた後戻ってきていない。

 胸には入学式とは違う色の花が安全ピンでとまっている。体育館にやってきたところで、生徒会の人にもらったのだ。

 

 そしてその新入生歓迎会自体ももう少しで終わりを迎える。

 スマートフォンを見ると、まだ午後二時前だ。思った以上に早く終わるんだなあ。この後、料理同好会の部室を見せてもらえることになっているし、部室でゆっくりできそうだ。

 演台では生徒会の副会長と紹介された男の先輩が締めの挨拶を終えたところだった。

 終わったという解放感が、徐々に体育館の中に流れる。

 僕も立ち上がろうかと思ったところで「キーン」というハウリングが起きた。僕はびくっとして耳をふさいだ。


「えー、マイクテスト。新入生のみなさん、生徒会長の三井です。新入生歓迎行事はこれでは終わりません。私から皆さんへ、楽しいゲームをプレゼントします」


 ざわざわと新入生たちがざわめく。

 まーた始まったって思ってしまったけど、周りの生徒会役員とか演奏を終えた先輩たちを見る限り、全然驚いてない感じなので、これは既定路線なんだろうか。

 

「とはいえ、皆さんは制服ですし、派手な運動はできませんね。いえ、女子生徒の皆さんには存分にパンチラして欲しいところですけれど。ああ、でも私はどうせ見るならパンチラよりも、恥ずかしがりながらスカートをたくし上げて頂いたほうが余程嬉しいですわ」

 生徒会長は徐々に壊れ始めているようです。

 なんか僕のほうを見ている気がするのが怖い。


「明日から体操着の短パンでも履いておこうかな…」


 僕がぼそっと言うと、良治と萌香ちゃんと桜子ちゃんの三人に肩をつかまれ、首を横に振られた。

 良治に至っては涙まで出ている。

 そんなに重要なことだったか…。母さんもスカートの下にジャージとか絶対履くなって言ってたし、ひょっとするとめちゃくちゃ行儀が悪いことなのかもしれない。

 僕女の子のマナーとかわかんないからなあ。

 そういや、スカートの下にジャージ履いてる女の子って、不良みたいになっちゃってる子もよく見かけるしなあ。

 やめたほうがよさそうだな…。


「さて、具体的に何のゲームをするかというと、ズバリ、かくれんぼをしようと思っていますわ」


 かくれんぼ…?

 体育館の新入生は大いにざわめいた。

 高校生にもなってかくれんぼなんて…、と思う反面、なんだかちょっとわくわくしている自分がいる。


「ルールの説明をいたします。まずエリアですが、学校敷地内であればどこでも隠れてよいです。ただし、校舎内は禁止です」


 校舎内禁止って、中庭とかを除けば、ほぼ外しかない。

 外にそんなに隠れる場所はないような気がするよ。


「あっ、ちなみに参加されない方は下校していただいて構いません。出口で花を返していってくださいね」


 この花は、ゲーム参加者の見極めの用途の花なのか。

 僕はどうしようかな。みんなを見ると、まだ決めかねてる様子。

 みんなが参加するなら参加しようかな。


「さて、ゲームをするということは、何かしら報酬がなければやる気が出ないでしょう? 男子諸君は女子のパンツでももらえれば満足しそうですが、それでは女子が男子のパンツという産廃を引き取る羽目になるので…」


「会長! パンツから離れてください」


 副会長の先輩が三井会長を止める。

 あの人パンツしか頭にないんじゃないかな…。日常生活でも、凄くやらかしてそうなんだけど、今までよく捕まらなかったな。


「コホン。ということで最後まで、見つからなかった人への報酬は、体育祭のフォークダンスで好きな異性と踊る権利としましょう」


 体育館の中がざわめく。中には「よっしゃあああ」とか雄たけびをあげている人もいる。

 僕にとっては「ふーん」という感じだ。好きな異性とって、今の僕だと男と踊る羽目になるんでしょ。僕にはいらない権利だな…。

 見た目だけ見れば男女のペアなんだけど、僕の心のイメージでは、人数の都合上男で女子の方に入らざるを得なかった可哀想な生徒そのものである。

 

「ちなみに不参加で帰宅された方も、相手に選ばれることはありますので、ご留意してくださいね」」

 

「異性限定なのかなぁ。私アユミちゃんと踊りたいなあ」


「私もそっちのほうがいいかも」


 萌香ちゃんと桜子ちゃんはあまりやる気がない様子。この二人が異性と仲良くしてるところって、あんまり想像したくないかな。

 ただの友達だけど、独占したいというよくわからない気持ち。うん、わがままです。


「俺は超燃えてきた」


「へぇ、良治って踊りたい女の子とかいるんだ」


 まだ入学して三日目だというのに、もうお目当てがいるとはね。なかなか隅には置けない男だ。

 ふと桜子ちゃんや萌香ちゃんがじっとこっちを見ているのに気付いた。


「どうしたの?」


「私たちも良治君に協力しようかな…」


「そーねー。どこの馬の骨ともしれない男と踊ってる様子を見たら、私爆発しちゃうかも♪」


 なんだかよくわからないけど、みんなが良治に協力するというのなら、僕も協力しておこうかな。

 ちなみに三井会長がほかにルールとして挙げたのは以下の項目だ。

 ①校舎内は入らないこと

 ②見つかったら花を外して見つけた人に渡すこと

 ③新入生は全員隠れる側、上級生の参加者は全員探す側。上級生のほうが人数多いけど気にしないこと。

 ④制限時間は一時間。この間見つからなければ、報酬を受け取る権利を獲得

 ⑤上級生が花を十個以上集めた場合は、④と同じ権利を獲得

 ⑥相手がかぶったらじゃんけんすること


 正真正銘ただのかくれんぼのようだ。

 初めに隠れる時間を三十分ほどくれるというので、僕らは昇降口へ向かう。


「ねー、どこに隠れる?」


 萌香ちゃんが上履きを靴に履き替えながら聞いてきた。


「うーん。協力って言ってもさ、多い人数で固まってれば固まってるほど、見つかりやすいよね」


「そうなのよね。それに三人同時に見つかると、上級生的には⑤の条件に入りやすくなってお得! …とデメリットだらけで既に計画は破たんしてるわ」


「上級生が好きな人と踊るくらい別にいいんじゃないの? 僕らが困ることってなくない?」


 僕は思ったことを思ったままに言った。

 別に上級生が上級生同士で誰と踊っても、僕らが得もしないし困りもしない。

 まあ、だからと言って、僕の花を簡単にあげる気はないけどね。

 せっかくゲームに出るんだし、負けたくはないよね。


「歩、お前もう少し自分の人気を知ったほうがいいぞ? 今のお前は入学三日目にして、既に校内知名度は百パーセントに近い。容姿と合わせてな。お前と踊りたい奴は腐るほどいるぞ?」


「そうなの? なんか僕の知らないところで、名前知られてるっていうのはちょっと怖いんだけど…」


 とは言え、部活動の勧誘の時にあれだけ激しい勧誘があったあたり、良治の言ってることは正しいんだろう。


「あっ! ひょっとして良治も僕と踊ろうとしてたりして」

 

 僕はふと思ったことをそのまま冗談半分で言ってみた。

 言っておいて僕は頭の中ですぐに否定していた。そもそも僕は元男だし、その事を知ってる良治が僕と踊りたいってことはないんじゃないかな。


「なんだ、珍しくわかったのか。どうせわかってないだろうから、サプライズにしようと思ったんだけどな」


「なんで僕なんかと?」


「他人と踊ってるのを見たくないから、いっそのこと俺がって感じかな」


「なんかよくわかんないや。まあ僕も良治なら別に踊ってもいいけど」


 全然知らない男に手握られて踊ったり、不特定多数の人と踊るよりは、良治のほうが百倍はましに思える。

 聞けば体育祭のフォークダンスは、恋人のような特定の相手がいない場合は、相手を一定時間で交代させつつ踊るようだ。相手がいない連中は、外側に円を描くようにしてならんで踊って、カップルの場合はそれよりも内側に円を作って踊る。

 ぶっちゃけて言うと、カップル側は晒し者で、今回の報酬の場合もその晒し者エリアに行くことになる。

 とは言え、外側でたくさんの男に手をつながれて踊るよりは、良治一人のほうが気は楽だ。

 まず手を握るってのが無理だよね。男同士手をつなぐのってどうなの。アリかナシかでいえばナシでしょ?


「……良治君はまだ友達を取られたくないって感じで、アユミちゃんは、全然その気はないと…。まだ私にも勝ち目はあるわね」


 桜子ちゃんがぶつぶつ言っている。何の勝ち目なんだろう。

 友達を取られたくないか。フォークダンス踊っただけで友達になれたら、中学の僕はぼっちじゃなかったよ。

 大事な友達としてカウントしてくれてるのは嬉しいけど、良治は思ったより心配性だなあ。

 それに僕が誰と友達になっても、良治には直接は影響しないような気がする。

 良治なら僕が新しく友達を作っても、すぐその友達と仲良くなるだろうし。

 

「ところでアユミちゃんは誰かと踊りたい? というか相手いるのっ? いないよね、いないよね?」


「僕に相手? いないいない。本音言うと踊りたくないし」

 

 萌香ちゃんのすごい勢いの問いに、僕は笑いながら答える。

 男とは踊りたくないと言おうとしたけど、外見が女なのに男を完全に拒絶っていうのもまずいかなと思って、単純に踊りたくないってことにした。

 女の子のが好き! とか噂が流れると、三井会長が喜び勇んでやってきそうだし。

 僕の答えを聞いた萌香ちゃんは、嬉しそうに笑っていた。笑っている顔は本当に可愛いと思う。

 萌香ちゃんや桜子ちゃんと踊りたかったなあ。 

 僕みたいな中途半端な女の子もどきより、よっぽど魅力的だと思うんだけどなあ。


 僕らは昇降口から、広場に出る。

 隠れる場所を求めた新入生があちこちでうろうろしている。

 この辺はあんまり隠れる場所がなさそうだなぁ。

 

「あっちの旧体育館の裏手側にでも行かない?」


 萌香ちゃんの意見に僕らは頷いた。

 なんだかんだで、少しわくわくしている僕がいる。

 隠れる時間はあと二十分弱。早く見つけないとねっ。

前編です。

盛り上がり的なのは後編に期待したいところです(まだ書いてない)。

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