美少女、風呂に入る
第2話 美少女、風呂に入る
僕はリビングのソファーに座っていた。
洗面所での母さんの暴走を見て、逆に自分は冷静になってしまった。
結局のところ、僕は現在進行形で女の子になってしまっているようで、当然元に戻れる手立てもなかった。
お湯につかれば元に戻るとか、そういう話でもない。あれはフィクションだが、これは現実。
母さんはというと、何か思うところがあったのか、僕にリビングにいるようにとだけ言って、自分の部屋へ行ってしまった。
誰もいなくなったので、僕はもう一度自分の体を見下ろす。
寝間着がブカブカになっているあたりをみると、身長は大分低くなってしまったようだ。元が百六十センチあったかどうかというところだったけど、それより十センチくらい縮んでるように思う。
もともと筋肉質ではなかったけど、腕もほっそりとしていて、いかにも頼りない。
透き通るような白い肌をなでると、きめ細かい柔らかな感触が手のひらに伝わった。
やばい、どきどきしてきた。
自分の体に興奮する変態がどこの世界にいるんだよ!
僕は手のひらを開いてじっと見つめた。小さい。ぷにぷにしてそうな手だ。
ぷにぷにしてるといえば、胸。まさかこんなものが僕にあるとは。男の乳首って何のためにあるんだよと常々思っていたけど、まさかこんな形で必要になってくれるとはね。だけど、必要になって欲しかったわけじゃないんだよ……。
母さんは、この姿でも僕を僕と認識してくれて、拒絶はしなかった。ちょっと脳みそがバグってる感じはしたけど、拒絶されるよりはよほどましだ。
しかし、弟と父さんはどうだろうか。
ああ、あんなに可愛がってた弟の要に、「気持ち悪い」とでも言われた日には、お兄さんはもう生きていけないよ。
僕ら佐倉家の兄弟は、仲が良いことでご近所では有名らしい。家の前の路上でバドミントンしたりして遊んでいるからだろうか。まあ大体運動神経の良い弟が僕をぼっこぼこにする感じになってるけど。
弟と遊んでるのが何故って? べ、別に友達が少ないとかじゃないんだからねっ!!
嘘です、少ないです。知らない人に話しかけるの怖いじゃん。進級時の開幕で話しかけられなかったら、いつ友達になれるんだよ。というか、初めてクラスで顔を合わせたはずなのに、すでにグループが出来ているって何? 僕には理解できない。
父さんはというと、これがまた頑固オヤジを体現したかのような中年のおっさんだ。
僕や弟にはすごく厳しく、全然甘えさせてもくれない。物をねだっても買ってくれたことはない。結局見かねた母さんが、後でこっそり買ってくれたりしてただけだ。
この父さんに、「ごめーん、女の子になっちゃった(てへぺろ)」とか言った日には、ぶん殴られるだけじゃ済まなそうだ。
周りを取り巻く人のことを考えていると、不安になってきた。僕は、この姿で生きていけるのだろうか。
どうしてこんなことになったんだろう。やばい、泣きそうになってきた。
「歩くーん、おまたせ! って、えぇ!? 何その表情、萌え殺す気なの!?」
「母さん。僕……」
相変わらず能天気な母さんに、泣きそうになっていた僕は、思わずしがみついてしまった。
母さんは、僕の頭をやさしくなでてくれる。あ、これ気持ちいい…。
「歩君は、不安なのね。でも大丈夫! その外見ならどんな男でもイチコロよ!」
「……そういうことを悩んでるわけじゃないんだけど」
「あらそう? 男の子だった歩君も、素敵だったけど、女の子になった歩君はもっと素敵よ。素敵っていうか、もう無敵よ」
そうやって褒められる? と悪い気はしないし、母さんがいると不安も薄れる気がする。
「さて、行きましょうか!」
へ、どこに? と聞く前に、僕は背中を押されてリビングから連れ出されてしまった。
そしてそのまま、元いた洗面所まで連れて行かれた。
「あの、母さん? 何を?」
「ん? お風呂に入るのよ? 一緒に」
「はい?」
風呂? この年で母親と一緒とか、それだけでいじめの対象だよ! やめてくれよ! ノットマザコン!
っていうかオーケーも出してないのに、寝間着のボタン外すのやめてくれよ!
「ふふふ、ふふふふ」
不気味な笑いを浮かべながらも、母さんの指は正確に僕のボタンをはずしていく。
「ちょ、ちょっと待って。なんで、こんな時に風呂なんだよ! 風呂入ってる場合じゃないだろ!」
「あらやだ、歩君。貴女も元々はお風呂入りに来たんでしょう? 汗びっしょりだったし」
「それはそうだけど…」
「じゃあノンプロブレム!!」
そう言って母さんは僕の上半身をひん剥いた。
ほんのり桜色に染まった僕の上半身が鏡に映る。
「むっはー! こんな可愛い子が我が子なんて、思わず神様に感謝しちゃうわ!」
母さんは、鼻を抑えながら、鏡の中の僕を見て叫んだ。呼吸が荒く、「ヒッヒッフー」とか言ってる。それは違うだろ。
僕自身も、鏡の中の僕を見つめる。っていうか女の子の裸なんだけど! うわぁ、初めて見た裸がこんなかわいい子でラッキー。って僕だよ! 自分の裸みて顔を赤らめてどうするんだよ!
「むっはー! 顔赤くしちゃって可愛い!」
無意識のうちに、母さんにさらにダメージを与えていた。
5分後…。
「はぁはぁ、まさか上を脱がすだけでここまで萌えるとは…。歩君の攻撃は、ダイレクトにメンタルポイントを削ってくるわね…」
母さんは息も絶え絶えになりながら、そう言った。
僕はというと、まだ鏡の中の僕を見ると恥ずかしいのは変わらないが、それでもなんとか落ち着きを取り戻していた。
「さてと、それじゃ最後は」
ずるっ!
「へ?」
下半身がすーすーする。僕はすっぽんぽんになっていた。
「どえええええええ!」
「お風呂に入るんだから当たり前でしょう? 洗濯物は洗濯籠に入れておくから、歩君は、先にお風呂場に行きなさい」
さっきまであれだけ興奮してた母さんは、突然どこか冷静になって、僕を促した。
僕は言われるがまま風呂場へ向かう。
ガラッと風呂場の引き戸を開けると、湯気で僕の視界は真白くなった。
どうも、僕がリビングにいる間に、湯船にお湯を張ったようだ。
風呂場にある椅子に腰かけた僕は、桶でお湯をすくい、頭からかけた。
汗でびっしょりだった体が、少しさっぱりする。肌を伝うお湯が、不安な気持ちも流してくれるようだ。
すると、自分の後ろで引き戸が開く音がした。
「まあ、歩君せっかちねえ。母さんが行くまで待っててくれてもよかったのに」
そう言うと、母さんは、もう一つの椅子に腰かけ、僕の後ろに陣取る。
そして僕にシャンプーやトリートメントの説明を始める。どうも、今まで使ってたシャンプーではダメらしい。
母さんに言われるがままに、シャンプーをして、シャワーでそれを洗い流す。そして、トリートメントをし、またお湯で流す。
「うんうん、素晴らしい髪質ね。シャンプーとかのコマーシャルに出てもおかしくないわ」
母さんは満足げだ。
「次はからだを洗うわよ? 女の子の肌は傷つきやすいんだから丁寧に洗いなさい」
そう言って母さんは僕に柔らかいスポンジを見せてきた。
しかし、見せてきただけで渡してはくれなかった。
「これからはこのスポンジを使いなさい。今日は洗ってあげるからね? ふふふ」
何か嫌な微笑を浮かべながら、母さんはボディーソープをスポンジにとり、泡立てている。
そして、背中をスポンジでひとなで。
「ひゃん」
柔らかな感触に思わず変な声がでて、体がびくっとなる。
「ああ、もう。最高よ。今母さんが死んだら、死因は萌え死よ」
そう言いながら母さんは優しく背中を洗う。くすぐったいけど、なんか気持ちがいい。
「さて、後ろは終わったから前を洗うわよ~」
母さんの腕がにゅっと僕の前にでてくる。
そしてそのまま、僕の体に触れる。
「ふわっ! スポンジは!?」
「あらー、いいじゃない。スポンジもいいけど手で洗うのもいいわよ! っていうか我慢できない、触らせなさい!」
母さんの手が僕の体をなでまわす。
「や、やめっ母さん、くすぐったい」
「ふふーん、これはすごいわ! こんなすべすべの肌見たことないわ! ああーいいわぁ」
も、もうだめだ、母さんは混乱している! 引きはがそうにも全然力も入らないし、何より足の裏まで泡だらけなせいで、つるつるすべって踏ん張りも効かない。
完全になすがままにされている。
「ああー、これが歩君のおっぱいね。うわーなにこれえ、マシュマロみたいよ。予想通りBくらいあるかしらね。うーんそれにしても、これは病み付きになるわ」
や、やめ…。
母さんの手が僕の肢体を這うようになでまくる。腰や腋の下など、肌が敏感なところもお構いなしだ。
「や、母さん、もうわかったから! 自分で洗えるから!」
しかし、一匹の野獣とかした変態、もとい母さんには人語が既に通じなかった。
僕は、そのまま母さんにもみくちゃにされ続けた。母さんはやりきったような顔をしていた。
一方の僕は、泡だらけの体をシャワーで流した時には、ぐったりとしてしまっていた。
なんで風呂に入るだけで、こんなに疲れなきゃならないんだ……。
しかし、バカ騒ぎをしたおかげで、不安な気持ちは大分薄れていた。
昨日、第一話を投稿したところ、100人以上の方が見に来てくださったということで、驚きました。掲載したものが読んでいただけるというのは、大変うれしいことですね。
この話独自の勢いを出していけるように頑張りますので今後ともよろしくお願いします。
転生初日はかなり盛りだくさんな予定で、まだしばらく続きます。登場人物も少しずつ増やしていく予定ですので、楽しんでいただけたら幸いです。