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美少女、お弁当を披露する

第十九話 美少女、お弁当を披露する




 なんだかんだあったけど、無事に良い部活を見つけられてよかった。

 結局身内の五人しかいない部…というか同好会だけど、それでも僕は良かったと思う。

 

 さて、部活を決めた僕らは教室に戻ってきていた。


「ねーねー、佐倉さんは何部にしたの?」「佐倉さん、何部?」「どこに入ったのー?」

 クラスメイトが次々に聞いてくる。

 

「えっと、料理同好会だけど」


「俺も入ろうかなあ」「私も入っちゃおうかな」「兼部できないんだよなあ、残念!」


 みんなそんなに料理好きなの? 珍しい高校生だと思うな。

 

「佐倉さんのエプロン姿…はぁはぁ」「手料理が食える…!」「包丁で切った指をなめてほしい…」


 いやいやいや! なんか方向性がおかしいよ!

 あと、僕は血が嫌いなので、指はなめません! っていうか他人になめられるとか気持ち悪くない? 無理無理。


「ふっふっふ、残念だな諸君。料理同好会はすでに好評につき入部締切だ!」


「「「な、なんだってー!?」」」


 無駄にいい顔をした吉川君が、集まっていたクラスメイトに言い放つ。

 は、初耳なんだけど! もしかして僕らって運がいい?


「おい、吉川! 俺ら友達だろ?」「入部させてくれよ!」


 あ、吉川君とつるんでる男子だ。


「友情とは、時に残酷なものなのだよボーイズ」


「ちくしょおおおおお! なんだその勝ち誇った顔は!」「吉川と俺らでどこで差がついた…。委員会かちくしょおおお」


 やはりあのグループはノリがいいなあ。


「でも、本当にラッキーだったよ。まさかすぐ入部締めきっちゃうなんてね」


「え…。そ、そうね。そうかもしれないわね」


 桜子ちゃんが何故か目を合わせてくれない。

 遠い目をして素数を数えている。


「桜子ちゃん?」


「あ、アユミちゃん。そのキラキラした目で見るのはやめて…」


「歩。まあぶっちゃけていうと、入部締切は嘘だ」


 良治がしれっとした口調で言う。

 う、嘘!? これまた意味のない嘘をつくものだね。

 そういや料理同好会が大人気だったら、先輩五人やめたくらいで部員ゼロになってないって話だった。よく考えたらわかることだった。


「なんで嘘つくのさー。入りたい人は入ればいいんじゃない?」


「そうすると、多分クラスのほとんどが入部すると思うんだけど…」


「ないない。いくらなんでもそんなにみんな料理に熱中してないでしょ」


 そんな馬鹿なと言って僕は笑う。


「佐倉さん、みんな料理より、佐倉さんと一緒にいたいんだよ」

 

 そんな風にクラスメイトに好かれているのであれば嬉しいなあ。

 なんといっても、中学時代は机で寝てる人代表だったからね。

 ……だが待ってほしい。

 良く考えるんだ。女の子になったとはいえ、基本的に性格は受け身のまま。

 今までクラスメイトに何かやったわけでもないし、そもそもまだ入学三日目。

 ここから導き出される解は…つまりこれも嘘! 流石の僕でも二回目は引っかからないぜっ!


「また嘘なんでしょー。騙しやすくっても、二回目はないよ」


「待って! 待って! アユミちゃん! 今度は全力で本当だからっ!」


「ほんとに? みんな僕と一緒にいたいの?」


 なんか信じられないな。散々いじられてるしなあー。


「佐倉さん、マジだって! キュウリに蜂蜜かけるとメロンの味になるってくらい、マジな話だって!」


 なっ、なるほど。

 いや、それって別にメロンにならないよ! 普通にまずいよ! やっぱり嘘じゃん!


「あーもう、吉川君は黙ってて! アユミちゃんが混乱するでしょ! 今度はほんとだから、ね?」


 桜子ちゃんが僕の目を見ていう。

 うわー。そんなに顔が近いと緊張するよ。桜子ちゃんは綺麗だから、見つめられると上手くしゃべれない。

 さっきと違ってきっちり目を合わせてくるから、きっと本当? なのかな。

 でも本当ってことは、つまりみんな僕と一緒にいたいってことで…。


「うわあ、なんか照れるなあ。えへへへ、嬉しいなあ」


 僕は思わずにやけてしまった。

 

「「「!!!」」」


 クラスが一気にざわつく。

 し、しまった。思わず顔だけじゃなくて声も出てた。

 僕は慌てて口をふさぐ。

 

「も、萌香。私もうだめかも…。こんなに可愛い生き物がこの世にいるなんて…。もう性別とかいいよね、どうでも」


「こ、これはす、すごい! アユミちゃん、今期の最大瞬間風速でました!! 私もう立ってられないよ!」


「佐倉さんのためなら死ねる! いや、むしろ今死にそう!」


 クラスメイト達も、みんな倒れていく。

 何があったというの。


「ちょ、みんな! どうしたの」

 

「歩、お前はもう少し自分の可愛さをわかったほうがいいぞ」


 か、可愛いって…。良治は僕が男だったこと知ってるくせに、そんなこと言うなよ。

 そりゃあ女の子だったら可愛いって言ってもらえれば嬉しいかもしれないけど、僕にそんなこと言われてもな。

 

 まあ僕の顔とかそういう話は置いておいて、このままクラスメイト達がなし崩し的なノリで料理同好会に来てしまっても仕方がない。

 みんな、本当はやりたい部活もあるんだろうし。一緒にいたいって言ってくれるのは、元ぼっち的には超嬉しいんだけど、ここはやはりちゃんというべきだよね。


「みんなが友達になってくれるのは嬉しいけど、料理同好会には料理したい人が来てほしいなあ。その、一緒にいるだけで楽しいのもいいけど、やっぱり部活だから、みんなはみんながやりたいスポーツとかをやってほしいな」


 僕がそういうと、僕のクラスメイト達は頷いてくれた。

 

「佐倉さんがそういうなら仕方ないな」「部活で試合に出るときは応援してよ!」「たまには料理食べさせてね!」


 これで丸く収まったかな!

 僕も頑張りました!

 


   ********

 

 クラスが落ち着いてきたので、僕も席に戻る。

 なんかいろいろあったらお腹もすいてきちゃったよ。

 今日は午後から新入生歓迎の催しがあるようなので、今のうちにお弁当を食べておかなければいけない。

 …その新入生歓迎会的な催しの主催が生徒会って言うのが、俄かに不安を覚えるのだけれど。

 ま、まあ生徒会長がアレなだけで、生徒会はまともなんじゃないかなあっていう可能性がわずかにある…?

 僕はカバンからお弁当の包みを取り出して、机の上に置く。

 ふっふっふー。僕はお弁当は自作なのだっ! 母さんにしごかれて、入学式までの間で結構料理は上達したのだ。そりゃまだ切ったものが不揃いとか、そういうのはあるけど、味は結構おいしくなったんだ。

 その実力の成果が今日のお弁当に集約されている! はず。

 まあ誰かに食べてもらったほうが張り合いはあるんだけど、ね。

 

「あー、アユミちゃん、一人で食べようとしないでよー」


 萌香ちゃんが隣の席から机を借りて、僕の机にくっつける。


「そうそう、一緒に食べようよ」


 桜子ちゃんが椅子を二脚持ってきて、二人で僕の傍に座る。

 おお、なんか凄い友達って感じの雰囲気。

 ガタガタと音がして、良治と吉川君がさらに椅子と机を持ってきた。


「歩、俺らも一緒でいいか?」


「うん、いいよ」


「多川、俺お前と友達になって良かったわ」


 吉川君が良治と握手をしている。何だかよくわからないけど、あの二人仲いいよね。

 みんなが席についたのを確認して僕はお弁当のふたを開ける。

 今日は唐揚げと卵焼き、ほうれん草とベーコンを炒めたものとポテトサラダ。ごはんは俵型のおにぎりにして海苔を巻いてある。


「うわ! アユミちゃんのお弁当、みんな手作り? アユミちゃんが娘だったら、お母さんががんばるのも無理もないかー」


「凄いねー。わたしのお母さんなんて殆ど冷凍食品じゃないかなあ」


「えっと、これ僕が作ったんだけど」


 僕がおずおずしながら告白すると、二人とも目が点になった。


「ほ、ほんと? アユミちゃん本当に料理できるんだ!」


「ぐっ! いつもポワポワしてたりするのに、なんでこんなに女子力高いの!?」


「ぽわぽわしてない!」


 僕は萌香ちゃんから顔をそむける。

 ぽわぽわって、まるで頭軽い子みたいじゃないか!


「でもすげえなあ。これ手作りだろ? 朝どれくらいに起きてるの?」


 吉川君が僕のお弁当と僕を交互に見ながら言う。


「今日は五時に起きたよ」


「ごっ、五時起き! 私はまだまだベッドの中だよ…その時間。アユミちゃんよく起きられるね」


「お弁当だけならそんなに早く起きなくてもいいんだけど、朝ごはんも僕が担当だから」


「待って! 待って! 私たち同じ女の子だよね! 一体どうしてここまで差がついたの…」


 厳密に言えば同じ女の子ではないんだけどね…。

 

「皆瀬なんかは、お菓子とか作ってそうなんだけどなー。顔だけ見れば」


 良治が横から口をはさむ。

 顔だけ見ればって、酷い男だね全く。まあ確かに萌香ちゃんは顔だけ見れば可愛い系だし、人懐っこいところもあるし、お菓子とか作っててもおかしくないファンシーな雰囲気はある。


「よく言われるよ。黙ってれば可愛いって。喋れば暴走機関車ともいわれるけどねっ♪」


 そう言って萌香ちゃんは笑う。

 うーん、暴走機関車って言うほど暴走してない気もするけど。

 

「佐倉さん、その卵焼きとかすっごい綺麗だし、うまそー」


 吉川君が僕のお弁当箱を覗きこんで言う。

 そういう吉川君はというと、コンビニの袋から焼きそばパンを取り出している。

 

「吉川君、コンビニのパンなの?」


「ああー、うちの親は共働きでさぁ。弁当作るほど朝に体力ないんだって。だからしょうがないって感じ」


 共働きか。母さんは専業主婦だから、あんなに時間作れるんだろうなあ。共働きで家事もして仕事もしてってなると、朝お弁当を作るっていのは大変そうだ。


「そっか。じゃあ僕の卵焼き食べる?」


「えっ! マジですか? いいんですか!? ほんとに?」


「う、うん」


 なんか物凄い勢いで話に食いつかれたので、僕は面食らってしまった。

 そんなに卵焼き好きなのかなあ。っていうかなんで敬語になってんの。

 僕は「取っていいよ」と言おうと思ったけど、よく考えたらパンを買った人に、コンビニでお箸をつけてくれるわけがない。かといって弁当箱に手を突っ込んでとってもらうのも見た目としてどうなの? と思う。


「うーん。じゃあ取ってあげるから、食べて」


 僕はお箸で卵焼きを取ってやる。

 後はこれをそのまま口に放り込めばミッションコンプリートだ。


「お、おおおお! これは夢のシチュエーション!」


 吉川君が口を開ける。なんだか餌を待つ雛鳥みたいで面白い。

 しかしどうしてか、なかなか食べに来ない。


「あ、僕のお箸だって気にしてる? まだ使ってないから大丈夫だよ」


「い、いや。むしろ使っててほしかったけど! じゃ、じゃあいただきます」


 吉川君の口の中に上手く放り込めた。


「うひょおおおお、うめえ! 俺今が人生で一番輝いてるぜ!」


 吉川君が喜んでくれてるので、僕も少しうれしかった。

 やはり「美味しい」と言ってくれると、作る側としては嬉しいものだ。 


「おい、歩! サービスしすぎだろ! 俺にサービスしてくれたことないじゃん!」

 

 良治はお弁当持ってるじゃん。ちゃんと作ってくれる人がいるんだから感謝して食べるべきでしょ。

 というか、なんでサービスしないといけないのか。友達ってサービス業じゃないでしょ。

 ちなみに吉川君の方を見ると、席からいなくなっていた。いつの間にか吉川君の友人たちに担がれて廊下に運ばれていた。


「アユミちゃん! そういう不公平は良くないと思います!」


 萌香ちゃんがずずいと僕の方に顔を寄せる。


「萌香ちゃんも卵焼き好きなの? 取っていいよ?」


「うあああああ! アユミちゃんの手作り卵焼きってだけでもすごいんだけど、自分で取って食べるのがいいんじゃないんだよお、アユミちゃん」


「ダメよ、萌香。アユミちゃんは絶対気づいてないから」


 なんだかわからないけど、いらないならそれはそれで、僕が食べるからいいんだけどね♪

 卵焼きが綺麗にできる率って、僕の中じゃまだまだ高くない。だから今日みたいに上手くできたのは、結構嬉しいのだ。

 

「それじゃあ、いただきます」


「あ、歩。お前それ吉川と間接キスになるんじゃね?」


「ごちそうさまでした」


「待って! 待って! アユミちゃん、まだ何も食べてないでしょ! いくらなんでもお腹すくよ」


 いや、そうは言ってもね。

 成程、間接キスか。その発想はなかった。厳密に言えば、箸が吉川君の口とかに触れてないから、例えこの箸で食べたとしても間接キスにはならないはず…。

 しかし一度意識させられてしまうと、どうしてもその言葉がぬぐえない。おのれ良治め…。余計なことを…。


「俺の割り箸をやるよ。コンビニでおまけの総菜かったら、割り箸もらえたから」


 僕は良治から割り箸をもらう。

 良治の方は、弁当箱に付属してる箸を使うようだ。

 べ、別に吉川君が汚いとか嫌いとかそういうんじゃないんだからね。ただ男との間接キスイメージは、僕には強烈過ぎた。男とってのは僕には無理だ。

 …将来的にこの気持ちはどうなるんだろうか。女の子になってから二週間は経過した。わずかな期間ではあるものの、僕は確実に女の子に慣れてきている。

 今後僕はどうなってしまうんだろうか。


 そんなことを考えながら、僕は良治からもらった箸でから揚げをつまみ、口に運ぶ。

 うん、おいしくできてる。僕はまた少し嬉しくなった。

どこかで登場人物の紹介をしないと、読むのがつらいかもしれないかなと思っています。

いずれシリーズでくくって、別の場所に置くかもしれません。

女の子のお弁当はロマンですよね。まだ入学三日目が続きます。

入学して間もないころは、いろいろ書いてみたいイベントが多いのです。

もっといいイベントを、もっとニヤニヤできるように頑張って考えたいなあ。


ユニークアクセスが1万を超えました。多くの方に読んでもらえて嬉しいです(´∀`*)

せっかくなので、何か記念に番外編か何かができればなあとも思っていますが、特にネタも考えていない(これは今までもそうでしたけど(笑))ので、粛々と今まで通り話を書いていくかもしれません。


9/6 矛盾があったので修正。

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