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美少女、部活動に勧誘される②

第十七話 美少女、部活動に勧誘される②




 僕達五人は昇降口で靴を履き替え、外に出た。

 さまざまな部活の部員が、各々のユニフォームを着てビラを配ったりしている。

 山中先生は、さも勧誘だけの行事っぽく言ってたけど、実際は勧誘プラス見学、おまけで体験というイベントだ。

 興味のある部活は、勧誘をきっかけに部室などに案内され詳しい説明を受けられる。備品や設備の説明、弓道部の場合は弓とかをちょっと触らせてもらえたりもするらしい。

 勧誘をスルーして、いきなり部室に説明を求めに行くのも有りらしい。入学前から決めてたり、中学から引き続きやっていきたい何かがあるなら、そうやると早い。

 ちなみにこのイベント中に入部も可能とのこと。

 


「うわー、すっごいねえ! アユミちゃんは、入りたい部活とかあるの?」


 萌香ちゃんが辺りを見回す。僕もつられて辺りを見回す。

 さまざまなユニフォームやコスプレをした先輩方が、昇降口から出てきた新入生を勧誘している。

 美川高校は、昇降口の前に広いスペースがある。

 綺麗なタイルで舗装された広場の中央には、大きな広葉樹が植えてある。また、その周りにはベンチが設置してある。

 今は、その昇降口前の広場が人でごった返していた。

 中庭や体育館方面にも部活の勧誘スペースは用意されているけど、昇降口前が一番人が多いようだ。

 大部分の人が入ると思われる運動部の部室には、下足でしか行けないため、昇降口から靴に履き替えて出てくる新入生が多いのだ。

 それで、人が集まるから文化系の部の人も結構このエリアに勧誘に来るという寸法で、人が多くなっている。


「うーん、僕は特に決まってないんだよね。何かやりたいなーとは思ってるけど」


「そっかー。私も特に決まってないよっ! いい部活あったら一緒に入ろうね」


 そう言って、萌香ちゃんは僕の手を握る。

 

「萌香ー、なんでナチュラルにアユミちゃんの手を握ってるの? 羨ましいじゃない!」


「待って、待って! 桜子ちゃん! こんなに人が多いんだし、アユミちゃんが迷子になったら大変だよ!」


「じゃあ私も手を握るわ!」


 今度は桜子ちゃんが反対側の手を握る。

 これじゃあ捕えられた宇宙人みたいだよ。そもそも迷子って、もう高校生なんだけど。

 萌香ちゃん達と同い年なんだけどっ!


「はぁ…これやばいわ。なんで手を握っただけで興奮してしまうの、私は…。小さい可愛い手! すべすべしてる肌! ぷにっとしてる手のひら! どうかしてしまいそうよ」


「あー、桜子ちゃん、いよいよダメかもね。でも、一度壁を超えると一回り大きくなれるよっ!」


 何の壁を超えるんだろう? と思ったが、桜子ちゃんが指を絡めてきたりするのが気になって、言葉に出せなかった。

 滑らかなに指を絡ませたり、緩めたり、なんてテクニックだ。手をつないでるだけなのに何だか気持ちがいい。

 だ、だめだって、そんなステディな握り方!


「なあ、多川よ」


「どうした吉川」


「俺らってマジで勝ち組じゃね?」


 後ろで男二人が何やら話している。


「いや、まだまだ負け組だ」


「なぜ!? 佐倉さんは、恐らくこの学校で一番可愛い。もう息を吹きかけられるだけで惚れちゃうってレベル。ちょっとロリだけど、そこもまた愛くるしい! さらに皆瀬さんや相沢さんも女子の中じゃレベル高いだろ! 綺麗どころ三人と一緒なんだぞ! 男連中に呪い殺されてもおかしくないと思うんだが」


「確かに、それはそうだ。そんな可愛い歩や女子を見ているだけっていうのは、いかにも負けではないかね。男子たる者、女子を見ているだけというのは情けないと思わんかね」


「ぐっ! お前、そんな高みを見ていたのか…。傍にいられるだけで幸せだと思ってしまった俺がゴミクズのようだ…」


 男は男で盛り上がってて楽しそうだなあ。

 僕も男連中と話して盛り上がりたいなあ。

 桜子ちゃん達と話すのは全然問題ないというか、素直に嬉しいんだけど、やっぱり男友達とくだらない話をする仲っていうのも憧れてたんだよね。


「みんなは何か部活決めてないの?」


 僕は、両サイドの二人と、後ろの二人の様子をうかがう。


「私は決めてないなー。強いて言えばアユミちゃんと一緒がいい♪」


 これは萌香ちゃん。一緒の部活に入ってくれるなら、僕としては大助かりっ! 新しい部活で完全にゼロから新しい人間関係を築くなんて難易度が高いよ。


「私も特に。中学ではバレーしてたけど、高校ではやりたくないかな。アユミちゃんと一緒のに入れたら嬉しいかな」


 こっちは桜子ちゃん。中学ではバレー部だったのかあ。身長も結構あるし、言われてみるとなるほどって感じだ。


「俺も別にないかな」


「俺もでっす!」


 なんということでしょう。ここにいる全員が、特に目当ての部活もない状態です。

 はてさて、どうやって見学する部活動を決めようかと迷うね、これは。

 先輩陣は、ちょっと前から昇降口前から動かない僕ら五人の様子を伺っている。

 よく見れば、徐々に近づいてきていた。


「あの子すげーいい」「キャー見て! すっごい可愛い」「お人形さんみたい!」「待ち受けにしたいな」「あれが噂の子か」


 どんどんと人が集まってくる。

 

「なんか凄いいっぱい来たよ…?」


「アユミちゃん、大人気だね!」


 暫くは遠巻きにざわついているだけだったけど、ついに一人の男子生徒がやってきた。


「ねえ、一年生だよね! バスケ部どうですか!? 女子バスケもあるよ!」


「バスケだって。どうする?」


 桜子ちゃんは僕の方を見て尋ねる。


「えっと、僕は運動あんまりできないから、バスケは無理かな…」


「じゃ、じゃあ、マネージャーとかどうかな! というか是非なってください!」


 マネージャーって何をするんだ…? ユニフォームのクリーニングとか? 備品の片づけとか?

 それはあんまりおもしろくなさそう。マネージャーって言ったら男子バスケ部の方のだよね。

 男だらけの中に行くのってどうなんだろう。あ、僕的にはあんまり問題ないのか…。でもなんかアウェー感あるよなあ。

 そもそも僕って、大体のスポーツのルール知らないんだよね…。


「ごめんなさい。ルールもよく知らないから、マネージャーも無理です」


 というわけで僕はきっぱりと断った。


「ルールは手取り足取り教えるから!」


 …が、ダメでした! 肩を掴まれ、びくっとしてしまう。

 何でこんなにしつこいの! って言うか僕だけ見つめて話さないでよ。


「おいおい、断ってるんだから、もうターンは終わりだろ? 次は俺たちサッカー部が勧誘するぞ!」


「ちょっと待ってよ! 女の子なんだから、女子バレー部でしょ!」


「いやいや、かるた部にぜひぜひ!」


 うわっ。めちゃめちゃ勧誘が増えてきた! って言うか、人多すぎ!

 そしてどんどん僕に迫ってくる。

 ま、まだ増える!

 人が壁のようになって三百六十度から迫ってくる。こ、怖い。

 いつの間にか僕を中心にして、様々な部活の先輩が入り乱れる事態に発展している。

 最早先輩たちは、遠慮もないようで、我こそは勧誘をするぞと、ぎゅうぎゅう詰めの状態。

 さっきまで桜子ちゃんや萌香ちゃんと手をつないでいたのに、人が群れすぎてて、その手も離れてしまった。

 み、みんなどこに…! お、押しつぶされそう。

 高校の先輩たちは、みんな僕より背が高くて周りが全然見えない。みんな好き勝手に喋ってるから何言ってるのかもわからない。

 うわっ、誰かにおしり触られた!? ちょっ、体触らないでって!

 って、それどころじゃない。服が引っ張られる! うわわ、顔が近いって。

 痛っ! 足踏まれた。何でこんなことになってるの…。

 このままだと、つ、潰されちゃう。

 突然僕の腕がぎゅっと掴まれる。そしてそのまま強引に引っ張られる。いたたた!

 

「悪いな」


 人ごみから強引に引っ張り出されたそこには良治がいた。

 僕がいた人ごみの方はというと、何故か喧嘩が始まっていて、さらにカオスになっていた。


「よし、逃げんぞ!」


 と言って、良治は背を向けて走ろうとした。

 僕もついていこうと思ったが、そこで違和感に気付く。

 

「あっ、靴が…」


 もみくちゃにされてるところで、靴が脱げてしまったようだ。


「しょうがないな!」


 そういうと良治はその場で背を向けたまましゃがんで僕を手招きする。

 乗れってこと?

 とっさのことでどうしようか迷った。

 後ろを振り返ると、喧嘩になってた先輩たちが徐々に沈静化してきている。このままだとまた勧誘の波に押しつぶされる!? あんな痛い目はもうごめんだよ。

 僕は良治の背中におぶさった。

 良治は僕を背負っているのに、全然苦も無く立ちあがり、そしてそのまま昇降口の中に走った。



    ************


 昇降口から少し中に入ったところの、一階から二階への階段に僕は降ろされた。


「! 歩、お前泣いてるのか?」


「えっ?」


 僕は慌てて目を拭う。拭った手の甲が濡れていた。

 拭ったのに、何故かどんどん涙が出てきた。


「歩はあんまり人に慣れてないからな。しかも体も小さくなって。あんなに大人数に囲まれて揉みくちゃにされたんだから、怖かったんだな」


 そう言って良治は僕の頭を撫でた。

 心なしか、今までで一番気持ちよかった気がした。

 僕は不意に体が熱くなるのを感じた。

 そ、それによくよく考えたら、おんぶもされてしまった。しかも公衆の面前で。は、恥ずかしい。高校生にもなっておんぶで、しかも泣きべそかくなんて!

 頭を撫でていた良治が、その手をはなし、ふうとため息をつく。


「こんなしんみりした雰囲気じゃ、折角おんぶして歩のおっぱいの感触を感じられたのに、その感想も言えやしない」


 台無しだよ! なんでそこでオチをつけるんだよ!

 っていうか、思ってても言わなくてもいいよ! そんな感想。普通言わないだろ!


「いやあ、歩のちっぱいは最高だったな! 絶妙な暖かさと、ブレザーごしでもわかってしまう柔らかさ! 是非とも生で見てみたいぜ!」


 結局感想言うのかよ! しかも本人の前で言うなよ!


「あ、ちなみに今日はおっぱいだけじゃなくて、太ももの感触も堪能しました!」


「良治の馬鹿! そんな邪な気分で助けてくれたのかよ!」


「いや? 純粋に歩を助けたかっただけだけど?」


「なんで、オチつけまくった後にかっこいいこと言うんだよ!」


「ははは、元気でたか? 上履き持ってきてやるから、ちょっと待ってろ。あと、みんなも呼んでやるよ」


 そういうと良治は、昇降口のほうへ歩きながら、ズボンのポケットからスマートフォンを取り出し操作を始めた。メールでも打っているんだろうか。

 おーい、歩きながらの携帯電話の使用はやめようよー。

 なんてね…。



    ************


「アユミちゃん! 大丈夫!?」


 良治が上履きを持ってきてから暫くすると、萌香ちゃんが泣きそうになりながら走ってきた。

 

「ごめんね、私が手を放しちゃったから!」


「いやいや、あの人ごみじゃ無理だよ。気にしないで」


 実際僕も驚いたし。どうしてああなったのか未だにわからない。

 身長も小さい僕にとっては、自分より大きい人ばかりの中でぎゅうぎゅうにされるだけで、殆どリンチに近かった。ひょっとして何か恨みでも買ってるのだろうか。


「! アユミちゃん、泣いてた?」


「えっ!? なななな泣いてないでしゅよ!?」


 萌香ちゃんに見透かされてドキっとした上に、舌まで噛んで散々だった。当然バレバレである。

 

「ふふふ♪ そうか、私のアユミちゃんを泣かしたか。そうか…そうか…」


 萌香ちゃんは指をポキポキならせている。か、顔が笑ってない。


「も、萌香ちゃん?」


「萌香ー、落ち着けー」


 いつの間にかやってきていた桜子ちゃんのチョップが萌香ちゃんの脳天に炸裂した。

 萌香ちゃんは「みゅ゛っ」という表現しづらい声を出してうずくまった。


「全く萌香ったら。その行き過ぎる癖は危ないから気をつけなよ?」


「だ、だってー」


「だってじゃないでしょ。本当に物理的に危ないんだから」


「ぶ、物理的って…?」


 僕は恐る恐る桜子ちゃんに聞いてみる。


「あー、萌香は昔柔道やっててねー。結構強いんだよ。こんなナリしてても」


 そ、そうなんだ。ちょっと意外だった。

 桜子ちゃんと違って、幼い印象があったんだけど、その実かなりの猛者だったわけだ。


「おお、佐倉さん大丈夫だったか?」


 昇降口の方から、吉川君がやってきた。


「ごめんね、大丈夫」


 って! なんか吉川君のがボロボロなんだけど!


「き、吉川君の方こそ大丈夫…なの? それ」


「あーいや、大丈夫大丈夫。佐倉さん潰してた連中を蹴り飛ばしたら喧嘩になっちゃってさー」


 僕が抜けだした人ごみで、突如として喧嘩が始まったのはあんたが原因かい。


「だってよ、佐倉さんが「痛い」って言ってるの聞こえたし、もう殺るしかないでしょ!」


「あ、ありがとう」


 その気持ちは純粋に嬉しいけど、その漢字を当てるのはどうかと思うんだ。

 いや、その漢字を当てるようなニュアンスの言い方だったんですよ。

 入学してまだ三日目だけど、僕はいい友達ができたのかもしれないと感じた。


「僕もうちょっと休んでるから、みんなは部活見にいってきていいよ?」


「えー、アユミちゃんと一緒にまわりたいなー」


 桜子ちゃん達も頷く。

 なんかじーんと来ちゃって、僕の目からはまた涙が出てきた。

 あー、この体になって泣きやすくなっちゃったのかなあ。


「まずい! まずいよ! 桜子ちゃん! アユミちゃんが泣いてると、なんか無性に庇護欲をそそられるよ!」


「そ、そうね。私やっぱり目覚めちゃいそう」


「多川よ、やっぱ俺らって勝ち組じゃね?」


「そうかもな」


 僕はいい友達をもったなあ。もう部活とかいいんじゃないかな。

 ってダメだ。僕が満足してても、みんなは部活やりたいだろうし。

 でも部活かあ。あんなにガツガツしたところ入っても、なんか楽しそうじゃないな。友達出来そうにない。

 中学時代に帰宅部ぼっちで憧れてたものとはかけ離れていたな。所詮憧れは憧れだったってことかあ。

 ま、まあ高校デビューみたいな感じで勝手に夢見てたのは僕ですけど! 勝手に夢見て勝手に夢壊して勝手に諦めてるんだから世話ないな。

 僕はもう帰宅部でいいから、みんなには良い部活に入ってもらおう。


「それじゃあ、僕も部活の見学にはいこうかな…」


「見学には? ってことは歩、部活は入らないのか?」


「ええー! 折角だからどっか入ろうよ。とりあえず、さっき勧誘してきたのは、萌香ブラックリストに載せたから除外できるよ!」


 その萌香ブラックリストってなんですか! 何が書いてあるのか怖いよ。


「まあまあ。確かにアユミちゃんが可愛くて可愛くて仕方ないのはわかるけど、マスコットみたいにチヤホヤするだけの部活じゃ面白くないわよね」


「そうそう、佐倉さんはいじって反応見てナンボだよな!」


「わかってるわね、吉川君」


 いや、そこを分かられても困るんだけど。

 でも、とりあえず僕らは仕切りなおして、部活動の見学に向かうことにした。

 昇降口はNG――僕もいやだし、それよりなにより萌香ちゃんが暴れそうなので――、中庭の方に向かうことにしました。

まだ部活動勧誘行事は続きます。

うまく歩本人の可愛さが引き出せればいいなあと思っています。

それと同時に、主人公周辺人物のいい人さをプッシュできればなと考えています。


1回分で大体5000文字前後を目安にしています。

書きだめ全然してないせいで、いつも行き当たりばったりなのが申し訳ないです。

①とか②とかに分けないで、3日後くらいに1個にまとめて出すべきだったかな、と今更ながらに思ってたりもします...。


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