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美少女、部活動に勧誘される①

第十六話 美少女、部活動に勧誘される①




 入学して三日目。家の前で良治を待つ僕の心は、かつてない程はずんでいた。

 何故ならば、スマートフォンを買ってもらったからだ! 昨日、良治たちとスマートフォンを見に家電量販店に行ったけど、その後家に帰ってからもう一回母さんと一緒にショップに出向き、購入に至った。

 何故こんなにスピーディな購入ができたのかというと、僕が女の子になった時に約束していたパソコンの購入が果たされていないことを突いたからだ。

 そもそもスカート履けばパソコン買ってくれるなんて約束自体、今となっては大した内容ではないのだけど…。結局春休み中は八割がたスカート履いてたし、高校なんて制服がスカートだし…。

 でも約束は約束だからね。それをスマートフォンを買ってもらうことにしたのだ! 代わりにパソコンは買ってもらえなくなってしまったけど、スマートフォンはインターネットに接続できるらしいし、パソコンがなくても問題ないかなっ! そもそもパソコン買ってもらって何をするかも決めてなかったし!

 「今時のスマホはパソコンより高いのよ」と、母さんはぶーたれていたけど、約束を放置していたのを悪いと思ったのか、買ってくれた。諭吉さんが出てきたのが、何故か父さんの予備財布だったけど、それは見なかったことにした。

 ともあれ、こうして僕はスマートフォンデビューを果たしたのだ。


 

 今日はそれをみんなに見せられると思うと、思わずわくわくしてしまう。


「今日はずいぶん機嫌がいいなぁ、歩」


 僕がニコニコして待ってると、良治が自転車でやってきた。


「今日はなんと、スマートフォンがあるのだっ!」


 僕はブレザーのポケットから、自慢のスマホを取り出し、良治に見せびらかす。

 ちなみに制服のプリーツスカートにもポケットはある。でもスカートを折りたたんでしまうと、ポケットが使えなくなってしまうのだ。なんて非効率的なポケットなのだろうか。

 

「おお、昨日の今日で買うなんてやるなあ。それじゃあメアドと電話番号交換しようぜ」


「いいよー!」


 僕は赤外線通信とやらを行う。これでいったいどうやってデータが送信されているのかよくわからなかったけど、何故かうまく行くから凄いものだ。

 

「ついに、ねんがんの、じょしのあどれすをげっとしたぞ!」


「女子つっても、殆ど男じゃん」


「ちがあああああう! 殆ど女だろうが!」


 あんまり関係ないような気がしたが、どちらにせよ中身は男なので、やっぱり女子ではない気がしてならない。

 僕が自転車の荷台に跨ると、良治はこぎ始める。ちなみに今日から、クッションみたいなのが括り付けられてて、すわり心地が向上していた。こういう気配りは流石だと思うぜ、イケメン。でもピンク色のクッションでちょっと恥ずかしいぞ。


「なあ、歩」


 荷台の上に座っている僕に良治が話しかける。


「何?」


「メールしていいか? 朝とか昼とか夕方とか」


「別にいいけど?」


「本当か? おやすみメールとかおはようメールとかしていいのか?」


「いや、いいけど…。なんか気色悪くないか?」


「できればハートとかつけて、女子っぽくしてくれると嬉しい」


「なんかそれって悲しくないか? 僕男だけど」


「そんなに柔らかボディの幼女が男だったら、全世界の紳士たちが血涙するわ」


 僕らはそんな適当な会話をしながら駅へと向かうのだった。




    ************

 

 パサパサ!

 下駄箱を開けると、既視感がある手紙が落ちてきた。

 解せぬ…。なぜまた入っているのか。しかも六通になっている。倍になってるな。

 これで全部会って断ってたら、僕の心が折れそう。昨日は一人断っただけで、結構精神的にきつかったぞ。

 

「もうそれ捨てようぜ」


 良治がスパっと言い放った。そうあっさり捨てられたら楽なんだけどなあ。

 とはいうものの、全部放課後とかだったらバッティングしすぎだし、どちらにせよ対面でのお断りは難しい。

 …やむを得ない。家のシュレッダーにかけようか…。中身見ると、罪悪感が凄そうだから、読まないで裁断しよう。ごめんなさい。

    ************

 

 教室に入ると、既に桜子ちゃん達は登校してきていた。


「あー、アユミちゃんおはよう!」


 萌香ちゃんが元気よく挨拶してくれる。僕も笑顔で挨拶を返す。

 ううむ、中学時代、殆ど背景の一部だった自分としては、大分嬉しい一日のスタートだ。果たして男のままの僕だったら、こうやって友達ができただろうか。そう思うと、少しは女になってしまってメリットがあったかなとも思う。

 おっと、そうだった。萌香ちゃんにスマートフォンを買ったことを報告せねば!


「あっ、萌香ちゃん。見てみて、スマホ買った!」

 

「おおお、アユミちゃんがついに携帯デビュー! メアド交換しようよ」


「萌香だけはずるいでしょ。私も私も」


 こうして僕は、萌香ちゃん、桜子ちゃんともメールアドレスを交換した。


「クラスの他の子とは交換しないの?」


 萌香ちゃんが僕に尋ねてくる。

 いや、交換したいのはやまやまなんだけど、話しかけるのが怖くてね。

 良く考えてみれば、僕は他者に自分から話しかけたことがない気がする。受け身すぎるんだよなあ。

 あ、そうだ。委員会同じになったし、吉川君とは交換しておいた方がいいかも。


「吉川君、吉川君」


 僕は、クラスの他の男子と話しかけてる吉川君のところに向かう。

 吉川君は、昨日、担任の山中先生のムチャ振りで司会をさせられた可哀想な人だ。司会をやらされただけでなく、委員会も入れられるという、厄介ごと押し付けられタイプの様子。

 ちなみに名前は吉川東吾きっかわ とうごという。

 短髪でツンツンした黒い髪の毛と、きりっとした眉、引き締まった口元と、わりと強そうなキャラの顔をしている。しかしその実、クラスメイトには早くもいじられている、いじられキャラなのだ。昨日も僕と委員会が同じになったら、クラスの男子に囲まれて散々いじられていた。というか、小突かれていた。痛そうなくらい。

 そんな吉川君は、僕が呼ぶと「ふぁい!?」と変な声を出した。

 

「あ、脅かしてごめん」


「いいいいい、いやいいっす! 大丈夫でっす」


 こんなキャラだったっけ、と僕は思った。

 どもりすぎだろ! と思ったら、周りの男子に同じように突っ込まれていた。


「それで、俺に何かよう? 佐倉さん」


 そんな急にきりっとした決め顔にならなくても。


「あ、えっと…同じ委員会だし、メアド教えとこうかなって思って…」


 やばい、なんでこんなに緊張するんだってくらいガッチガチだった。

 舌をかまないで言えたのが不思議なくらいだ。…言葉の後半は消えかけそうな声量になってしまったけど。


「えっ! まじで!? メアド教えてくれるの!?」


「うん。だ、だめですか」


「いや、いい! いい! なんなら住所氏名生年月日全部教える!」


 その情報はいらない…。本当に要らない。

 僕は吉川君とメアドを交換した。おおー、クラスメイトのアドレスが増えていく。

 もっとみんな教えてほしいけど、さほど仲良くもないのにいきなりアドレス教えてって言われたら引くか。やめておこう。


「おい、東吾! 裏切り者めー!」


「はっはっは、同じ委員会に入れなかったキミタチが負け犬なんだよお!」


「ああ、嫉妬で人を殺せたらと思ったのは今日で初めてだよ」


 吉川君は超ハイテンションのまま、教室の隅に連れて行かれた。人気者なんだな。というかこの男子グループはなんか面白い連中が多いんだな。

 僕は教室の隅へ連行された吉川君を見送ると、良治たちのもとに戻った。

 

「あの男子グループは面白いね」


「歩、お前、吉川とだけ交換したのか?」


「うん」


 良治は「Oh…ジーザス!」とか言い始めた。


「ナチュラルに優劣をつけるあたり、小悪魔な素質がありそうね」


「えっ」


「ひどいなーアユミちゃん! みんなメアド欲しいんだよ? なんでそうやって区別するの?」


「えっ? 僕が悪いの?」


 何故か僕が悪者にされて、そしてよくわからないままにホームルームに突入した。

 


    ********

 

「今日は、部活動の勧誘行事だ。部活動が校内の様々な場所にブースを作って勧誘する行事だ。ちなみに午後からは、体育館で軽い催しもある。こっちの行事は残念なことに生徒会主催だ」


 生徒会というと、あの残念系美女の三井会長の生徒会か…。いやな予感しかしないけど…、でもおかしいのはあの人だけって、わずかな希望に僕は賭けるよ。

 生徒会は置いといて、部活動の方は気になる。

 何故なら、友達を作るということに対して、部活動は重要なファクターを占めるからだ。今は桜子ちゃんや萌香ちゃん、良治が仲良くしてくれてるけど、彼女らが部活に入ってしまえば、そこで交友関係を広げていくだろう。結果、僕の方は疎遠になる、ということもありうる。一番いいのは一緒の部活に入って仲良くって感じなんだけど…。良治と桜子ちゃん達は当然違う部活だろうし、難しいところ。

 そしてそもそも、僕は運動が苦手だ。

 運動系の部活に入ろうものなら、一瞬で幽霊部員になるだろう。昔から運動はイマイチで体力もなかったけど、女の子になってしまってる今現在は、さらに悪化しているに違いない。自分の体のことだし、はっきりわかるんだね!

 …それに体育会系の部活はちょっと怖い。

 となると、文化系の部活になるわけだけど…僕は殆ど無趣味状態で中学時代を過ごしてきたので、何か得意となるものがあるわけでもない。何か特別好きなわけでもない。

 うわぁ…、本当に僕ってなんなんだろうな…。

 と、とにかく! 新しいことにチャレンジするべきだっ!

 僕は先生の話を聞きながら、ぐっとこぶしを握る。


「よーし、ホームルーム終わり。昼休み明けまでは外で勧誘やってるから、適当に冷かしてこーい。昼休み終わりには教室にいろよー」


 そう言って、山中先生は教室を去って行った。


「歩、一緒に回ろうぜ」


「うん、いいよ」


 良治が声をかけてきたので、僕も頷く。

 その一連の流れを見て、クラスがざわめく。

 

「なんて自然に誘える奴だ…!」「くそ、あんな風になりたい!」


 みんな良治と一緒に周りたかったのかな。


「私たちも行くー。いいよね?」


 萌香ちゃん達も当然のようにまじってきた。うーん、でもパッと見、男一人、女三人だと良治がいづらそうだ。

 男子系の部活回るのも遠慮させてしまいそうだし、それもよくないかな。ホントは僕も男子系の部活…だったんだけどなあ。流石にこの体じゃ無理だよね。

 そうだ、折角だし吉川君も誘おう。そうすれば、男二人になってバランスが取れそう。


「吉川君! 一緒に周らない?」


「ふ、ふぁい! 是非ともご一緒させていただきますっ!」


 ビシィ! と音がしそうなくらい完璧な敬礼をしてきた吉川君。

 その様子が少しおかしくて笑ってしまった。


「おい、吉川、ずるいぞ!」「調子にのるなよおおお」


 ざわつく吉川グループの面々。ちなみにこのグループ名は今適当につけましたっ。

 なんなら一緒に周ろうか…と言おうとしたんだけど、吉川君にさえぎられてしまった。


「悪いな、お前たち。俺は佐倉さんの忠実なしもべとして生きていくんだ。お前たちとは共に歩めない」


「くそおおお!」「ああ、嫉妬で人が呪えたら…!」


 しもべとして生きられても困るんだけど、そんなこと言えるような雰囲気でもなかった。

 冗談だろうし、放っておいても問題ないだろう。問題ないよね…?


 こうして僕らは、桜子ちゃん、萌香ちゃん、良治、吉川君、そして僕の五人で、部活動の勧誘イベントに出向くことになったのだった。


勧誘イベントに関しては、次から本題という感じです。

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