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美少女、放課後を過ごす

第十五話 美少女、放課後を過ごす




 入学してから二日目の放課後。

 僕は、今家電量販店の一角の携帯電話コーナーにいる。

 桜子ちゃん、萌香ちゃん、そして良治と一緒に来ている。

 

 なぜ僕がここにいるのか。それは今日の委員会決めが終わったころくらいに遡る。

 今日は、ホームルームが終わってからも色々あったのだ。



    ****************


 ホームルームでの委員会決めが終わると、僕はぐったりして机に突っ伏していた。

 今日の学校での催しはこれだけだそうで、下校の時間となる。

 

「ねーねー、アユミちゃん。メアドとか教えてよー」


 萌香ちゃんが僕の前にやってきて、携帯電話を取り出す。数字キーがないからスマートフォンだ!

 果たしてこの分類が正しいのかよくわかってないけど、携帯電話を持ってない僕には、どの辺がスマートなのか判断がつかない。

 よく見かける感じなので、ボタンがなければスマートフォンで、ボタンがあれば携帯…? でもスマートフォンって携帯電話じゃ…。


「僕、携帯持ってないんだよね」


「ええー! ほんとに? どうして!?」


「えっと、どうしてって言われても」


 中学では良治としか遊んでない、殆どぼっちだったから要りませんでした。とはさすがに言えない。

 さて、どうしたものかと考えていると、桜子ちゃんが会話に入ってきた。


「アユミちゃんって、時々周り見えてなかったり、天然だったりするから、架空請求とかに引っかかるのが怖くて親が持たせるのをやめたんじゃないかなー」


「なるほど、確かにー」


 萌香ちゃんは納得したようだ。僕も追求を免れたので助かりはしたけど、これはこれで不本意だった。

 別に天然じゃないしっ。周り見えてないのは…うん、まあ、そうかもしれないけど。


「でもさ、中学だとまだ持ってない子もいたけど、高校だとみんな持ってるし、ないと不便だよ! それに体育祭実行委員とかで、帰りが遅くなるときに連絡もできるし」


「そ、そうかな」


 確かに、委員会なんてものに入ってしまった以上、帰りが遅くなることもあるだろう。

 今現在、家からの最寄駅へは良治の自転車に載せていってもらっている。しかし、下校時間が良治と合わなくなれば、当然バスか徒歩で帰ることになる。連絡手段は持っていていいに越したことはないかもしれない。


「アユミちゃん可愛いから、暗がりを一人で歩いてると、あっという間に襲われちゃうかもよ!」


「ははは、まさかー」


 そこまで治安が良くないとは思えないけど。でも、こんなナリになってしまった以上、逃げようとしても速く走れないし、当然力もないから不安ではある。


「一人が危ないからっていうのもそうだけど、私は帰ってからもアユミちゃんとメールとかしたいなー」


「うんうん、そうなんだよ! アユミちゃん、最近じゃ「MINE」っていう無料通話できるアプリが流行ってて、みんなやってるんだよっ」


「そうなんだ。よくわからないけど、なんかすごそうだね」


 僕のIT知識は、「アプリ」とはなんぞやって言うところからなんだけど、とりあえず話は合わせておいた。

 でも確かに、みんなが携帯のアプリとやらで楽しく会話してるのに、僕だけ仲間外れっていうのは今後を考えるとよくないような気がする。ぼっちフラグが立ちそうで怖い。うん、やっぱり携帯は欲しいな!


「やっぱりみんな持ってると欲しくなるなあ。携帯」


「そうだよねー! じゃあ、これから見に行くだけ見に行こうよ!」


「えっ、これから!?」


 こ、これは、放課後に寄り道ってやつですか! ちょっと憧れてましたっ。


「あ、でもちょっと用事があるから、その後でもいいかな…」


 僕は鞄の中にしまった手紙のことを思い出した。

 実は今朝、先生が来る前にトイレで読むだけ読んでおいたのだ。

 三通とも一目ぼれしました! って言う感じの内容だった。まあそりゃそうだ。まだ入学してから二日目、僕は相手の顔すら知らない。その内二通は、返事が「オーケー」だったら連絡してくださいという内容で、メールアドレスが書いてあった。当然オーケーではないので、これはそのままスルーしてもよさそうだ。というか、メールアドレス書かれても、僕には返事を出す術がないので、どちらにせよスルーだ。そもそも、一回もまともに顔を合わすことなく、付き合い始めようっていう魂胆が気に入らない。男ならもっと男らしくいこうよっ、と自分じゃ出来もしないことを思ってしまう。

 三通目は、今日の放課後待ってますと書かれていた。手紙を読んでなかったらどうすんだろうなって思ったけど、手紙を読んでしまった以上放置も可哀想な気がして出来ない。

 もう放課後になってしまっているので、待たせてしまっているかもしれないな。


「ひょっとして今朝の手紙の返事?」


 桜子ちゃんが用事の内容に気づいて、僕に問う。


「うん」


「律儀だねー。毎回返事するようにしてると、その内二人きりで少しでも話したいからってだけで呼び出されちゃうよ?」


「それはないでしょ」


 僕は笑いながら答える。そうまでして話したい人間じゃないって。

 桜子ちゃんと萌香ちゃんの二人は、顔を見合わせてため息をついていた。また僕は自分が気づいてないところで何かをやらかしたのだろうか…。



    ****************

 

 面と向かって告白を受けたのは初めてだった。

 内容は「一目ぼれしました! 付き合ってください!」とのことで、おおむね手紙に書いてある内容と変わらなかった。

 告白をしてきたのは、B組――隣のクラスの男子だ。

 告白は凄いものだ。する方も緊張するだろうけど、される方も滅茶苦茶緊張する。もう心臓バクバクで倒れそうだった。

 しかも会ったこともない、見たこともない男子からの告白だというのに、何故かちょっと嬉しかったり、ちょっと惹かれてしまったりした。これが対面の魔力か。まあそりゃ好意を持たれて嬉しくないわけはない。

 僕は残念ながら中身が男なので、この人の期待には答えられないけどね。


「ご、ごめんなさい。僕は誰とも付き合う気はないから」


 僕がそう答えた時、その男子はやっぱり悲しそうな顔をしていた。

 うう、なんか凄い罪悪感。でも、中途半端に期待持たせてもどうしようもないし、そもそも付き合うとかはいろんな事情から考えられない。

 

「じゃ、じゃあ、友達としてはどうかな!」


 その男の子は食い下がる。

 友達…かあ。友達ならいいかなと思う反面、違うクラスで多分会う機会もないと思うのに、友達ってしていいのかなとも思う。うん、友達の定義ってなんだろうか。

 あれ、でも友達になるのって許可とかいるんだっけ? 僕は桜子ちゃんとかに許可をもらった?

 そんなことをグルグル考えながら、やっと出た言葉がこれだった。


「えっと、それもどうかな?」


 今となっては何故この言葉が出たのかよくわからない。

 ただ、あの時この言葉を言った瞬間の相手の顔を見て、やってしまったと思った。

 後になって思ったけど、友達になることすら拒否ってのは酷いよね。


「わ、わかった! じゃあ次会うときはせめて友達くらいにはなれるように、頑張るよ! またっ!」


 その男子は早口でこういうと、一気に背を向けて走り去っていった。

 タフだなあ…。振っておいてなんだけど、めげないで走っていく姿はかっこいいと思った。


    ****************

 

「どうだった?」


 校門で待っててくれた桜子ちゃん達。


「うん、まあ断れたけど、なんか罪悪感が…」


「あんまり気にしなくてもいいと思うよー。ずっと一緒だった人の告白ってわけじゃなくて、会ったこともない人なんでしょ?」


 萌香ちゃんが僕の頭を撫でながら言う。

 やっぱり撫でられるのは気持ちいいなあ。今日みたいに、なんかもやもやしてる時は猶更安心できていい。


「…で、なんで良治がいるの?」


「いちゃ悪いか?」


「悪くはないんだけど、僕なんか待ってなくても、先帰っててもよかったのに」


 心なしか良治は少し機嫌が悪そうな気がする。まあそりゃ良治には何も言わずに行っちゃったし、それで待たせてしまったから不機嫌にもなるか…。


「待たせてごめん。これから携帯見に行くんだけど、良治はどうする?」


「うーん、折角待ったんだし、ついていくかな」


 こうして僕らは四人で家電量販店に向かうこととなった。



    ****************



 家電量販店の携帯コーナーは、今やほとんどがスマートフォンで埋め尽くされていた。

 さまざまな種類のスマートフォンがあり、そして僕には何が違うのかさっぱりわからない。

 今日は契約自体はできないものの、いざ買うときに迷わないように、どんな機種があるのか見るという名目で来ている。

 携帯電話は、僕みたいな高校生単独では契約できない。親の同行、もしくは同意書がなければ無理だ。だから、今日ここで契約することは難しい。

 でも皆に教えられながら、あれこれ操作するのは楽しかった。

 

「これって、どうやって電源つけるの?」


「それはね、横についてるボタンを押すと、電源つくよ」


 萌香ちゃんが横のボタンを押すと、色鮮やからな画面が映る。

 こんなに画面綺麗なんだー。すごいなあ。科学の力ってすごいものだね。

 僕も傍にあった端末を手に取って、横のボタンを押してみる。あれ、つかないぞ?


「アユミちゃん、それただのモックだから、電源つかないよ」


「なっ!」


「可愛い…」


 思わぬ罠に引っかかってしまった。なんて恥ずかしい。


「これなんかどうだ」


 良治が端末を指さす。

 黒いボディと、角ばった感じがかっこいいスマートフォンだ。


「防塵、防水ときて、スペックも高いから困らないと思うぞ」


 スペック高いって言われても、電話とメール以外に何に使うのかイマイチ想像できていない僕にはピンとこなかった。

 でも良治のオススメだから、きっといい物なのだろうと思って手に取る。

 でかい…。僕の手には持ちきれない感じの大きさだ。


「こんなに大きいの、持てないよ」


「うーん、確かに、アユミちゃんじゃ五インチは無理かも? 萌香でも無理でしょ?」


「そうだねー。大きすぎると使いにくいかも。アユミちゃんには、こっちがいいんじゃない?」


 萌香ちゃんが指したスマートフォンは、ピンクが基調となっている丸みを帯びたデザインのスマートフォンだった。こっちは小さ目で、僕でも持てそうだ。


「これってピンクしかないの? ちょっと可愛すぎるかな」


「ええええ、アユミちゃん、アユミちゃん! アユミちゃん本体がこんなに可愛いのに、スマホは可愛いのいやなの!?」


「本体って…。スマホは僕の分身か何かなの?」


「個人情報がいっぱい入るから、分身と言っても差し支えないと思うな」


 うわー。落としそう。

 でも、色以外は萌香ちゃんの指さしたスマホがよさそうだ。色のバリエーションは、白とピンクがある、とのこと。完全に女性がターゲットになってる色だなあ。

 まあ白なら男が持ってても女が持っててもあんまり関係ないかな。

 電源をつけてみる。はっ、ボタンがないけど、これどうやって操作するんだろう。


「それは画面を指で触って操作するんだよ」


 桜子ちゃんが苦笑しながら僕に教えてくれる。

 僕は言われたとおりに指を動かしてみる。おお、動いたー。


「すごい! 動いた!」


 なんか楽しくなって、僕は色々操作してみる。

 

「萌香、良治君、やばい。この子本当に可愛いわ」


 桜子ちゃんが僕の頭を撫でる。

 なぜ撫でられているのかわからないけど、撫でられるのは嫌いじゃないのでそのまま大人しく撫でられることにする。

 そんなことより、手の中にある玩具で遊ぶことの方が大事だ。


「ああ、なんかメチャメチャにしたくなるくらい、可愛いなこれ」


「良治君が言うと、犯罪になりそうだからやめてねー」


 良治の言葉に対して、萌香ちゃんが返す。最近の良治は、基本的にイケメンなんだけど、時々よくわからない奇行に走るから困る。そして良治の奇行の際には、必ず僕が絡んでるので尚のこと困る。


「いや、俺は超紳士ですよ?」


「超紳士は、土下座しながらパンツのぞかないと思うなあ」


 全くだ。僕もまだ許したわけじゃない。


「いや、歩のパンツを見るチャンスがあったんだ。そりゃ見るだろ?」


「なるほど、確かに…」

 

 いやいやいや、納得しないでよ萌香ちゃん!

 二人ともそれじゃあ生徒会長と変わんないよ!


「この二人はほっといて、アユミちゃんは携帯それにするの?」


「うん、これが一番使いやすそう」


 桜子ちゃんの問いに対して僕は答える。

 他の機種と比べて小さめで持ちやすいのが気に入った。萌香ちゃんのオススメなだけはある。


「そっかー。じゃあ親をなんとか説得しないとね!」


「ぐっ…ママかぁ…」


「ママ!? ママって呼んでるの?」


 桜子ちゃんが驚きの声を上げる。

 し、しまった! 普段は家の外じゃ「母さん」で通してたのに、ついうっかり呼んでしまった! 母さんの前では「ママ」って呼ばないと睨まれるからそう呼んでただけで、僕はそんな風に呼ぶつもりなんてなかったのに。


「いや、その母さんの前じゃそう呼ばないと怒るからっ」


 僕は慌てて弁解する。


「ううん、「ママ」の方がアユミちゃんっぽいし可愛いから、そっちにしようよ! 流石アユミちゃんのお母さん、わかってるわね」

 が、僕の弁解は効果を発揮しなかった。

 ああもう! なんでこうなるんだろう。


「でも、「ママ」を説得するのは大変じゃない? スマホって結構高いけど」


「ママを強調するのやめてよね」


 

 機種を絞り込んだところで、その日はお開きとなった。

 みんなメールとかしたいって言ってくれてるし、僕もやってみたいなあ。

 それにしてもスマホって高いのか。

 どうやって母さんを説得しようかな…。


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