美少女、入学する①
第十二話 美少女、入学する①
今日は入学式だ。
良治の自転車の荷台乗って通学すると前日に約束をしておきながら、僕は母さんとバスに乗っていた。
あ、勿論昨日のうちに電話して、今日はいいよって言っておいたよ!
保護者同伴ってことを忘れてたんだよね。
バスの中でも、駅でも、電車の中でも何故か注目を浴びる僕。
昨日の桜子ちゃん達も、僕を年下だと思ってたし、高校の制服着てるのに違和感でも感じるのだろうか。
母さんはというと、なんか得意げだった。
なんでドヤ顔なの! 恥ずかしいな。
県立美川高校は、僕の家の最寄駅から二駅先の駅が最寄駅となっている。
高校の最寄駅からは徒歩五分の距離と近いため、みんな駅からは徒歩だ。
だから、駅から高校までの道のりは、朝の時間帯は美川高校生でいっぱいだ。
その人でいっぱいの歩道を歩いていると、やはり大量の視線を感じる。
「ねえ、ママ。僕って、そんなに目立つ? なんか変なのかな」
「うふふ♪ そうねぇ、とっても目立つと思うわ。だってこんなに可愛いんだから。ママだって人の目がなければ、アユミちゃんと路地裏でいいことしちゃいたいくらいの勢いよ!」
「それは犯罪なんだけど!」
「あら、そうなの? 残念。じゃあ今日は一緒にお風呂に入りましょうね」
「何でそうなるのさ!」
「だって路地裏がダメっていうから…」
「え、それって、当然だよね! なんで、路地裏がダメなら一緒にお風呂っていう話になるの!? っていうかその二択なに?」
「アユミちゃん、大きな声出すともっと目立つわよ♪」
う…ぐぅ…。僕は周りを見渡す。みんな見てる。
僕は慌てて口を手でふさぐと恥ずかしいので下を向いた。
「はぁ~アユミちゃんは何やっても可愛いわあ」
母さんはホクホク顔だ。
僕はというと、絶不調です。あーもー、ただでさえ目立ってるのに、恥ずかしいな。
校門まで来た。記念撮影で人が溢れている。
保護者と新入生は別々の場所に移動するようだ。
「ホントは可愛い可愛いアユミちゃんを撮りたいんだけど、もうそんなに時間に猶予がなさそうだから行ってきなさい」
僕は頷くと新入生の順路を進む。
時間なくなったのは、母さんが家で写真撮りまくってたせいなんだけど…。
新入生のエリアを仕切っているのは、先輩のようだ。
男の先輩が新入生を奥の受付テントに誘導している。
受付では、新入生のクラスの通知と、入学式の式次第の配布、そして胸に安全ピンでつける花を配っているようだ。
僕も誘導している先輩の方に向かう。
「はーい、新入生はこっちで名前言って花をもらっ…!」
僕を見ると、その男の先輩は一瞬固まった。目が丸くなっている。
「うーん、さすが歩。歩く姿だけでも直視すればタダじゃすまないってわけか」
そしていつの間にかいる良治。一体どこから湧いてきたんだ。
「なんだよそれ。まるで凶器みたいじゃないか」
「男女問わず、心をときめかせるのは凶器だと思うぜ?」
「まあいいや。それより、この人ごみでよくわかったね、良治」
「最近、俺の話スルーすること多くない? 実は内心ちょっと傷ついてるんだけど」
「そうなの?」
「いいえ、むしろ昂ぶります」
うわぁ。僕はあからさまに引いてしまった。
「・・・まあ歩を探すのは楽だよ。人の視線が集まってる方を見れば、自動的に歩が見つかるから」
何故なんだ…。やっぱり顔、身長が高校生の割に小さい、幼いから目立つのか!
外見的特徴が変だから、珍しいからって、ジロジロ見るのは良くないと思います!
外国人が日本に観光に来た時に、ジロジロ見られたりするのってこんな気分かあ。僕は、もう絶対ジロジロ見たりしません。
「新入生はこちらに来てくださーい」
今度は女の人の声だ。奥の受付テントの方から聞こえてくる。
僕らもそこで受付を済まさないといけない。
受付は、そんなにスムーズにはいかないようで、前には二列の列ができていた。
受付を済ませたら、列から抜けてUターンし、昇降口へ向かうような流れだ。
「なー今の人、すげえ綺麗だったな」「あれって生徒会長らしいぞ」 テントで受付を済ませて戻ってくる男子生徒連中の声が聞こえた。
凄い綺麗な人か! なんか楽しみだな。
男として、美人や可愛い女の子を見たいというのは当然の性だよね。
テントの前に並ぶ。横から顔を出して、その綺麗な生徒会長とやらの顔を見ようとする。
うーん、見えない! あっ見えた!
おおお、確かに凄い綺麗だ! しかもメガネ! なんというステレオタイプな生徒会長!
僕が生徒会長に会うことなんて、多分これっきりなんだろうなあ。
「おおー確かに綺麗だねー。でもアユミちゃんのがいいかなあ」
いつの間にか僕の後ろに並んでいる桜子ちゃん。一体いつの間に…。
ということは萌香ちゃんもいるのでは…と思ってその後ろを見る。
「わたしをお探しかなあ?」
突然思わぬところから声をかけられたので、ぎょっとした。後ろに向けていた顔を前に戻すと、目の前にいた! 萌香ちゃん。
僕の知り合いは、忍者かなんかか! なんで普通に登場しないんだよ!
「待って! 待って! アユミちゃん! 別に驚かそうとしたわけじゃなくって! むしろ普通に並んでいたのに気付かれない私たちって可哀想でしょ!」
僕が変な顔をしてると、萌香ちゃんが慌てた様子で言った。
「そうそう。私たちが並ぼうとしてたら、ふらふらーっと間に入ってきてガン無視って、ひどいでしょ!」
「あ、そうだったんだ。えっとごめんなさい」
僕は素直に謝る。
生徒会長がどんな人かっていうのを見たいが一心で、全然気づいてなかった。
「謝るくらいなら、撫でさせろー」
「撫でさせろー」
「うわぁ、桜子ちゃん! アユミちゃんの髪の毛凄い柔らかい!」
「な、なぜ同じ人類なのに、こんなに髪質が違うの!」
僕は前後の女の子に頭をわしわしされて、完全に玩具になっている。
まあ気づかなかった僕が悪いんだろう。もうどうにでもなあれ。
・・・あれ、ひょっとして、良治のことも気づかないで普通に無視してた?
だとしたら悪いなあと思って、僕は横の列に並んでいる良治の顔を見た。
「気にしなくていいぞ。俺は歩のケツを追っかけてただけだから」
「ア、ソウデスカ」
安心と信頼のダメっぷりだった。
「生徒会長さんも凄い綺麗だけど、アユミちゃんはなんていうか、オーラが違うわよね」
「そーそー、輝いてるって感じ!」
で、出た! オーラ! 母さんも言ってたな。
なんなんだよそれ。なんで僕だけ知らないみたいな感じで、平然とオーラとか言う謎のパラメータが浸透してるの!
流行ってんの!?
そんなくだらない話をしている間に、前の萌香ちゃんが先頭になっていた。
萌香ちゃんが名前を言うと、生徒会長がにっこりとほほ笑んでクラスを伝えてくれた。
うーん、この笑顔。これは男子諸君はひとたまりもないですなあ。僕もひとたまりもないですけどっ。
萌香ちゃんは「A組」のようだ。
「じゃあ後ろで待ってるねー」と手を振って萌香ちゃんは列から抜けて行った。
次は僕の番だ。
「まぁ…なんて可愛いらしいのかしら」
僕が先頭に立った瞬間、生徒会長はそう言った。
僕の顔をじっと見つめている。こんな美人に見つめられるなんて、何もしてないのにどんどん恥ずかしくなっていく。
僕は顔の体温が上がっていくのを感じた。
すると、生徒会長は僕の頬にそっと手を触れる。
「あの…?」
な、なんなんだ、この人は。なんか僕の頭撫でてるし。
って言うか最近頭撫でる人多くないか!? 撫でられると気持ちいいことは気持ちいいんだけど、事あるごとに撫でられると、僕の頭をハンカチかなんかと勘違いしてないか心配になってくる。
「あら、失礼しました。お名前を教えてくださいね」
僕が戸惑っていると、生徒会長ははっとしたような顔をして、僕の頭から手を放した。
生徒会長は恐らく桜子ちゃんよりも背が高い。すらっとしたスタイルをしていながらも、抜群のプロポーションを誇る。顔も小さいし、まさにモデル体型だ。
きりっとした顔立ちをしており、意志の強そうな印象を受ける。
これできっと成績もよくて完璧超人なんだろうなぁ。
「佐倉歩です」
僕は生徒会長に名前を告げる。
「そう、アユミさんですね。覚えておきますね」
「えっ?」
なんで覚える必要があるんだ。
「是非昼食などを一緒に食べましょう? 貴女の席は私の膝の上ですけど」
「えっ?」
なんか話がおかしな方向に。
「おっと、生徒会長さん! 歩の席は俺の膝の上だ! こいつは譲れねえ」
「隣の列から会話に入ってくるなよ」
隣の列で、まだ順番待ちしてる良治が混じってくる。
っていうか誰の膝の上でも食べません!
「話がそれてしまいましたね。アユミさんのクラスはAですね」
萌香ちゃんと同じクラスだ! これでぼっち回避できる! 勝つる!
僕は思わずガッツポーズをした。
これで何故か入学式でみんな初対面だったはずなのに、いきなり派閥ができていてあぶれるという謎の現象を回避できる。
女の子の友達って上手く付き合っていけるんだろうか、とかいろいろと不安もあるけど、教室で一人ぼっちよりはましだ。
「ふふふ、そんなにA組が嬉しいのですか? 喜んでる姿も可愛らしいですね。そう、本当に食べてしまいたいくらいに」
言葉遣いは丁寧だけど、目線は限りなくアヤシイ生徒会長。
わかる、なんか母さんに似たものを感じる。
はっ! これがオーラってやつか!
他の人には、胸につける花を渡すだけだったのに、なぜか僕にはつけてくれた。
つけてくれるだけじゃなくて、何故か抱きしめられる。
突然のことだったので、完全に不意を突かれてしまった。
生徒会長の柔らかい胸の感触を顔に感じる。やばい、こんな役得、いいのだろうか!
「ああ…なんていい匂いなのかしら。私、なんだかいけない気分になってきました」
そんな危ない言葉を言うと、生徒会長の右手が僕のお尻にふれて、ゆっくりと動く。
さらに、手が下の方に動いていき、内またに…。
って、生徒会長の胸の感触に感動してしまってて、なすがままにされちゃったけど、これ完全なセクハラだよねっ!
セクハラっていうか痴漢でしょ!
「おおー!」
そしてなぜか周りに溢れる歓声。もうね、意味が分からないよ!
いや、みんな止めてよ!
僕はその場でじたばたして、やっとのことで生徒会長から離れる。
「もっと愉しい時間を過ごしていたいのだけど、後ろが詰まってしまっていますね」
生徒会長は心底残念そうな顔をしている。
結構列を待たせたにもかかわらず、後ろに並んでる新入生からは不満の声はなかった。
むしろ僕が生徒会長から離れた時に「あぁ~」とか残念そうな声が出たよ!
入学早々、危険な人物というのを知ってしまった。なるべく近づかないようにしよう。
「アユミさんは、一年A組ですよね。覚えておきますねっ」
もうクラスもばれてるなんて、どこに逃げればいいのでしょうか。
列から抜けて萌香ちゃんのところに行くと、萌香ちゃんは怒っていた。待たせてしまったからかな。僕のせいじゃないんだけど。
「もー! アユミちゃんガードゆるい! あの残念系美人におしり触られてたでしょ!」
「いやもう、なにがなんだかわかんなくて」
残念系美人という言い方が、的を射すぎていておかしかった。
確かにその通りだ。
「でも正直絵になってたし、私もちょっと興奮しちゃったわ」
僕の後ろに並んでいた桜子ちゃんも加わる。桜子ちゃんの受付は終わるの超早いな!
できれば、変な事されたときに止めてほしかったよ、桜子ちゃん。
「もー! 桜子ちゃん! 私たちのアユミちゃんが、あんなどこの馬の骨とも知れない女にいいようにされていいの!?」
萌香ちゃん、結構辛辣なんだね。
馬の骨って…生徒会長なんだけど。
生徒会長と萌香ちゃんとで、出会ったのが一日の差でしかないから、実際のところあんまり変わんないと思う。
でもこれは言わないほうがいいかなっ。歩君、空気読みましたっ!
「生徒会長ね。あれはレズっぽいわ。アユミちゃん狙われてるから気を付けたほうがいいわよ」
桜子ちゃんが萌香ちゃんに頷いて言う。
あんなに綺麗なのに、もったいないよなあ! あ、でも女の子が好きな女の子でも容姿は大事なのかな。
そんなことを考えてると、桜子ちゃんの指が僕の脇にふれる。
「わっ! ひゃっ!?」
突然のことだったので、僕は変な声を上げて飛び跳ねてしまった。
「うん。萌香の言うとおり、アユミちゃんガードゆるい! っていうか、ゆるいっていうよりノーガードね」
「だよねー。なんかもう、ちょっと強引に行けばなし崩し的に行けちゃうって感じだよね!」
「男には気を付けないとダメだよ? 痴漢とかにも」
脇は弱いンダヨ! って言うか普通、人の体にはそんなに簡単に触りません!
まったく! 生徒会長といい桜子ちゃんといい、僕を玩具にしないでほしい。僕はむっとして、二人から顔をそらした。
「アユミちゃんって反応も可愛いよねー」
「だからついついいじりたくなっちゃうんだよね」
二人は笑顔で言う。
いじられるのに慣れてないんだよ…。だって今までいじってくる人いなかったんだもの。
それに僕なんかより、生徒会長のほうがスタイルもいいし、美人だし、よっぽど見てて満足できると思うんだけどな。
まあ性格は残念だったけどさ。見てる分には、いいでしょ?
「俺は、胸が小さくて身長も小さい、ロリロリした女の子が好きだ」
「いきなり話に入ってきて、いきなりいうことがそれなの!?」
受付を済ませてきた良治が混じってきた。
すると僕と良治の間に、萌香ちゃんがすーっと入ってきて手を広げる。
「待って! 待って! 良治君、アユミちゃんは渡さないから!」
「キミに娘はやれんなあ」
・・・と、これは桜子ちゃん。別に桜子ちゃんの娘になったわけじゃないんだけど。
良治はと言えば「お父さん、あなたの期待にきっと応えられます」とか、言っちゃってるし。
ノリいいよね、良治は。だから良治は友達も多い。
まあとりあえず、これでみんな受付は終わったようだ。
「ちなみに桜子ちゃんと良治はクラスどこになったの?」
「ん、Aだな」
「Aね」
みんなA組じゃん。これは楽しくなりそうだ!
僕は、これから始まる高校生活がちょっと楽しみになった。
いよいよ入学です。
まだ続きます。