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ある日突然女の子になった僕の生活  作者: ひまじん
二学期の始まり、変化の始まり
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美少女、帰り道で

第一○○話 美少女、二人、帰り道で


 

 

「あ、えーと……」


 僕は頭の中が真っ白になっていた。劇の時にセリフを忘れてしまった時よりも、さらに真っ白な状態。

 体はカチンコチンに固まり、最早どうすればいいのかサッパリわからない状態だ。


「アユミ……今の言葉って――」


「ああああああ! 待って待って! 今のは違うから! いや、違わないけど! そうじゃなくて!」


 何とか身振り手振りで良治が言及するのを止める僕。

 でもこんなところで止めたところで、一体何がどう助かるというの。頭から煙が出てきそうなくらいに熱い。きっと僕の頭の中は煮えたぎっているに違いない。


「うう……」

 

「……アユミ、落ち着いたか?」


「あ、うん……。ごめんね、なんかパニックになっちゃって」


 良治がいつもより少しだけ遠い気がする。

 いつもは不必要に寄ってくるのに……。やっぱり僕なんかじゃ……。

 ちょっとだけ目が涙ぐんできた。こんな場の流れみたいな感じで言ってしまうなんて。どうせ振られるにせよ、嫌がられるにせよ、もうちょっとロマンチックな感じが良かった。

 僕は暗い歩道に立ち止まる。良治も僕に合わせて止まってくれた。

 電灯のあかりが僕らの周りだけを照らしている。まるで今日の劇のスポットライトみたいだ。 

 ここで終わっちゃだめだと思う。

 「ここぞという時に少しだけ頑張る」って芳乃さんも言ってた。ちょっと頑張り時がずれちゃったかもだけど、このまま冗談みたいなノリで終わっちゃうくらいなら――。


「あのさ、良治……」


 僕は指で軽く涙をぬぐう。今日は泣いてばっかりだ。

 こんなに泣いたのはいつ以来だろう。女の子として生きるって決めたときくらいかな……。


「僕ね、良治の事が――」


「待ってくれ、アユミ!」


 ダメか……。良治は、僕の言いたいことを察したのだろうか。

 だから止めたのかな。それを聞いてしまえば、関係が壊れてしまうから。


「俺の話を聞いてくれ」


「……話?」


「俺には、好きな子がいるんだ」


「……うん」


 そう、だったんだ……。なるほど、それじゃあ僕の言葉を聞くことはできないし、前に貰ってたラブレターも断るよね。


「その女の子は、思い悩んでいた。自分が変わってしまったことに。

 俺は思ったんだ。どうあっても彼女の味方でいようって」


 僕は黙って良治の言葉を聞く。


「やがてその子は、どんどん可愛くなっていった。そりゃもう、俺なんかじゃ手が届かないくらいにだ」


 そうなんだ。そんなに好きな人がいたなんて、全然気づかなかった。

 つまり僕が入る余地なんてもともとなかったわけだ。


「夏休みだったな。その子は自分の生き方を決めた。それが俺は嬉しかった。

 迷いが消えたその子は凄く魅力的だった。ちゃらんぽらんな俺とは違って、強いと思った。

 多分その時だったかな。俺がその子をただ単純に可愛いって思うだけじゃなく、異性として見るようになったのは」


「そうなんだ……」


 はぁ、と僕はため息をつく。その子が心底羨ましかった。

 僕がもっと早く女の子になっていれば、こんなことにはならなかったのかな。

 ママも言っていた。「女の子も欲しかった」って――。どうせなら初めから女の子に産んでくれれば良かったのにとすら思う。

 あはは……男の子の時の僕が聞いたらなんて言うだろうか。

 僕は心の中で自嘲する。


「生き方を決めてからのその子は頑張っていた。まあ他の連中と比べたらどうかはわからないけど、な。

 俺はさらに惹かれていった。と同時に、独占したいと思うようになっていった。

 ……でも、そんなことをして嫌われたらって思うと何もできなかった。今まで通りを演じるしか出来なかったんだ」


 みんな同じように思い悩み、変わろうとしていくんだね。

 そして失敗する人もいれば、成功する人もいる。もう僕にできることは、良治の変化が成功することだけでも祈るくらいだ。


「今日までその子は頑張ってた。慣れない主役なんてやって、滅茶苦茶練習までしてな」


「え……?」


 ドキリとした。良治の言ってた女の子って――、


「でも、今日は焦ったなあ。本番でセリフ抜けちゃうなんて、その女の子らしいと言えばらしいんだけどな」


「あ、あの……良治?」


「そうさ! 俺が好きなのはアユミだ!」


 時間が止まったように感じた。

 急激に上がる心拍数。

 ち、違う! これはきっとナニカのジョウダンで……。


「じょ、冗談だよね?」


「冗談なわけあるか! こんな恥ずかしい事、真顔で冗談で言えるわけないだろ!」


「そ、そう……」


 どうしよう。

 今日何度目かの頭真っ白状態だよ! 今日だけで一体どれくらいの脳細胞が死んでいったのかわからないよ。

 良治が、僕のことを好き? そんな、嘘だ……。頭が爆発しそうだよぅ。

 感情が暴走しすぎて頭がくらくらしてくる。もう枯れるほど泣いたはずなのに、目から涙が零れていく。


「アユミ、……嫌か?」


 泣き始めた僕を見て、良治が不安そうに尋ねる。

 彼はハンカチを出して、僕の涙をぬぐってくれた。

 

 良治が好きって言ってくれた。

 僕は、涙を拭いてくれている手にそっと手を添えた。


「ううん。嫌じゃない。……嬉しい」


 そう言って僕は笑った。

 こんなに晴れやかな気分で笑えたのは初めてかもしれない。


「あのね、良治。僕も、良治のこと……好きだよ」


 良治の事を真っ直ぐに見られなくて、最後は下を向いてしまった。

 きっと僕の顔は真っ赤になっているだろう。でも、薄暗いから気づかれないよね。

 それに自然に顔がにやけてしまう。


「えへへ。良かった」


「うおおあああ! 可愛すぎか! 俺を殺す気か!」


「ええ!? なんで怒るの!?」


「怒ってねー! い、行くぞ! 遅くなると電車の本数も減るしな」


「あ、う、うん」


 良治に手を引かれ、早足で駅に向かう。


「ね、ねえ良治」


「なんだ?」


「どうして僕の言葉を遮ったの? 僕、めちゃくちゃ頑張って……その、こ、こここ告白しようと思ってたのに……」


 手を引く良治が立ち止まる。


「わぷっ」


 急に立ち止まったせいで、良治の背中に激突してしまった。


「あ、悪い」


 そう言って僕の頭をポンポンと撫でる良治。

 また、こうやって同い年なのに子ども扱いして! と膨れ面をする。あ、でも撫でられるのは気持ちいい……。


「なんだろうな。アユミが告白するぞって言うのがわかってさ。それは凄い嬉しかったんだけど、それでいいのかって思ったんだ。

 いや、なんていうか、先に告白されたらカッコ悪いかなって」


「むぅ……。そんな軽い気持ちで僕の一世一代の頑張りどころを潰したの?」


 僕はジト目で良治を睨む。まさか良治のカッコイイ、カッコワルイっていうそれだけの理由で、僕の告白イベントが潰されてしまったなんて。結果的に良治から告白されたわけで、それは凄い嬉しいんだけど、なんか釈然としない。


「……それにしても、アユミが俺の言葉に全然気づかないのには驚いたわ」


「そ、そりゃそうだよ! 良治が僕の事好きだったなんて思ってもみなかったし。それにあんな回りくどい感じで言わなくてもいいじゃん」


「いや、あそこで単純に「好きだ」って言っても、どんだけのものか伝わんないかなって思ってさ」


「むぅ……。でも良治はホントにいいの? 僕、もともと男だったんだよ?」


「今は女の子だし、女の子として生きていくんだろ? 大丈夫、アユミはもう、並の女の子より女の子してるよ」


「あはは、なにそれ」


 僕は変な言い回しにくすくすと笑う。


「それに……遅かれ早かれ、告白しようとは思ってた」


「そうなの!?」


 それなら待ってても良かった、なんてまた後ろ向きなことを考えちゃった。


「文化祭前だったし。変に悩ませても悪いし。何より俺も自信がなかったしで、なかなかできなくてな。

 だけど、今日、蒼井先輩だっけ? その先輩に会ってさ、こりゃやばいなって思ったんだよ。相手のがイケメンだったし」


 僕と良治は再び歩きはじめる。

 駅前の明かりが見え始めた。時刻は八時前くらいで、駅前はまだ結構人で賑わっていた。

 

 改札を通り電車に乗る。

 僕と良治は電車の中でもずっと手をつないだままだった。

 

 一緒にいることの意味が、昨日までとは変わった。

 でも昨日よりもより一層安らいだ気持ちになれる。

 駅から家までの間は、とりとめのない話をしただけだった。いつも通りのくだらない話をしているのに、いつもより楽しく感じた。

 もう少しで家に着く。隣で自転車を押している良治を見つめると、良治が少し照れたように見えた。

 今日はいろいろあったなあ。今までの人生で最も波乱に満ちた一日だったかもしれない。


「そうだ、良治……。今日はゴメン」


「何がだ?」


「劇のセリフ忘れちゃったのと、その転びそうになってキ、キスしちゃったこと!」


 僕の言葉を聞くと、良治は「あー」とだけ呟いた。


「気にしないでいいぞ。劇は結果的にうまく行ったし、キスは俺にとっても儲けものだったし」


「そ、そうなの……」


「そりゃ、好きな女の子からのキスだからな!」


 あぅ……。僕は頬を押さえる。

 今までだったら、また冗談言って懲りないヤツって思うだけだったんだけど、今日からは違う。

 ……あれ? ひょっとして自分が気づいてなかっただけで、今までのも冗談じゃなかったのかも……? あぁ、どれだけ鈍いんだろ、僕。

 でも仕方ないじゃない。誰かに恋をしたことなんて今までなかったんだし、わかんないよ。


「……なんなら、もう一回ちゃんとしたキスをしないか?」


「え? ええええええええ!?」


「いや、だって、あんな事故じゃノーカンだろ!?」


「だ、だめ! 今はまだダメ! 心の準備ができてにゃいから!? そ、それに明日も文化祭あるのに寝られなくなっちゃうよ」


「じゃあ、文化祭が終わったらいいか?」

 

 そう言うと良治はにやりと笑う。


「う、うん」


「いよっしゃああああ! 俄然やる気出てきた! 明日は主演男優賞狙えるぞ!」


「あの! その! ま、前向きに検討するだけだから」


「なんだそりゃ! 政治家かなんかか!? 無理やり奪っちゃうぞ?」


 無理やりって、それは酷いんじゃないかな……。

 そんなバカげたやり取りをしていると、いつの間にか家の前に着いてしまっていた。

 良治と別れるのがちょっとだけ名残惜しい。


「それじゃあまた明日な」


「あっ、良治」


 良治が自転車にまたがり、漕ぎ始めようとしたところで、僕は良治を引き留めてしまった。


「どした? 別れたくない~とか言ってくれたりするのか?」


「ち、違うよ! その……、僕と良治ってつまり彼女と彼氏になったってことでいいのかな……?」


 ガチャンと音を立てて、良治がバランスを崩した。


「そ、そうだな! うん。そうだ!」


「そっかぁ……。そっか! えへへへ」


 彼氏彼女と言う言葉の響きが嬉しくて思わずにやけてしまう。だめだ、我慢しようと思っても顔が勝手に笑顔になってしまう。


「ああもう! 可愛いなあ!」


 良治はそう叫ぶと、自転車を滅茶苦茶な勢いで漕ぎ始め、あっという間に見えなくなった。

あと少しだけ続きます((└(:3」┌)┘))

アユミちゃんニブチンすぎでした。

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