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美少女、元男子につき

初投稿です。

まだまだ拙いですが、完走できるように頑張ります。

第一話 美少女、元男子につき




「う……ん……」


 先日「美川市立美川中学校」を卒業したばかりの、僕、佐倉歩(さくらあゆむ)は全力で走っていた。

何かに追いかけまわされている。何か…が何なのかはわからない。

そのディティールはひどく曖昧で、なんだかよくわからないが、とにかく恐ろしいというイメージだけが認識できる。

何処だかもよくわからない場所を逃げに逃げる。僕の心臓は、口から飛び出そうな程にバクンバクンと鼓動している。

そしてついに、僕はそのよくわからない場所で、よくわからない何かに捕まった。

 


「うわああああ」


 僕は、勢いよく体を起こした。

 ん……? 起こすということは……?


「夢…か」


 体中汗びっしょりで、まだ心臓がどきどきしている。

 寝間着や髪の毛が肌にびっちりくっついている。汗臭い臭いはしなかったけど、気色悪いことこの上ない。


 妙にリアルな夢だったな……。僕はそう思いながらベッドからのそのそと降りる。そして今日の一歩目を踏み出した。

 そして、わけもわからず転倒した。


「なん……だ?」


 僕は運動は苦手だ。だけど普通に歩いて、何もないところで転ぶほどのドジっ子ではない。

 じゃあなんで? ズボンのすそを踏んだせいだ。

 きっと寝てる間に寝間着が着崩れたんだろう。寝起き直後に室内でヘッドスライディングかますことになるとは思わなかったけど、おかげで目は覚めた。

 僕は、ゆっくりと立ち上がり、寝間着のズボンを上げる。

 あれ……。腰の位置まで上げても、裾があまってるんですけど……? そんなもんだったっけ?

 そこで僕は気づく。全体的に寝間着がだぶついていることに。

 目が覚めたおかげで、今まで気づかなかった違和感がどんどんと湧き出してくる。

 

 まず、昨日より重くなったような気がする頭。首の後ろに手を回すと髪の毛がある。

 昨日まで短髪だったはずなのに何故……!? これは短髪どころか背中にかかるくらいまで髪の毛ありますよ?

 

 体をべたべた触る。

 柔らかい何かがそこにあった。胸がある。僕はお世辞にもマッチョではなかったために、胸筋がすごくてモリモリになったわけでは絶対にない。手のひらに収まるサイズのその柔らかいものは、どうみても昨日までの自分にはなかったものだ。

 

 そして、一番の違和感は、トランクスの中にしまわれているはずの大切なものだった。

 ない……。


「玉がねぇ……」

 

 玉どころではない。何もかもない。ズボンを脱いで、トランクスを引っ張って中を確認したんだから間違いない。

 

 トランクスって短パンみたいなもんだけど、中にモノがしまわれてると、なんか落ち着いた感じするよね。

 中に何もなくなった時のスースー感は異常。

 あはは、あはははははは。


 渇いた笑いを浮かべた僕は、背筋がすっと涼しくなるのを感じた。これはやばい。なんかしらないけど、やばい。

 気づけば僕は洗面所に駈け出していた。下はトランクス一丁という姿で。

 

 洗面所につき、そのまま洗面台に手をついて鏡を見上げる。

 

 

 

 そこには、今まで見たことのないような美少女が必死な様相を浮かべていた。

 誰だ……?

 って鏡なんだから、当然それは鏡の前に立っている人間なわけで。

 鏡の前に立っている人間って僕以外にいないわけで。

 でも僕は女の子として15年間生きてきたわけもなく、昨日まで立派な男だったわけで。

 

 じゃあこれは誰なんだよっ。

 

 右手を挙げる。鏡の中の女の子も右手を挙げる。

 そのまま右手でほっぺたをつねる。鏡の中の女の子もほっぺたをつねる。

 

 これは……誰なんだよ……。

 

 本当はわかっていた。

 だってそもそも、男のあれもなくなってたし。鏡の前に立って鏡に映る人物が自分以外なわけがない。いや、自分以外が鏡に映っていたら、それはそれでホラーすぎて僕には耐えられない。

 

 

 鏡の中にいる、大きなくりくりの瞳をした、長い黒髪の少女は、間違いなく僕の今の姿を現しているのだ。



 僕は男の時から、顔立ちが女の子みたいといわれることがあった。だけど鏡の中の女の子、つまり現在の僕は、そんな女の子みたいと言われた僕の顔を踏襲した上で、さらに可愛さと美を追求してみました! って感じの美少女だった。

 面影は残っているので、男の時の僕の顔を知っている人は、気づくことはできる…かもしれないが言い切れない。

 くりっとした大きな黒い瞳、小さな鼻と、小さな口。唇は薄いピンク色をしていて、触るとぷにぷにしている。きれい系というよりは、圧倒的に可愛い系の顔立ちをしている。

 僕は、一昨日に中学校を卒業したというのに、目の前の女の子は、この春から中学校に入学するんですと言っても何ら差支えないような顔をしている。というか小学校でもいい気すらする。

 

 って、何じろじろ見てるんだよ……。

 どうすんだよこれ……。

 

 僕は頭を抱えた。

 ダメだ。だってこれわけわかんないよ。これで母さんや父さんと会って、「オマエ誰?」ってなったらもうどうしようもない。

 部屋に引きこもろう。そうだそうしよう! もう僕は現代のアマテラスになる!

 

 現実逃避だってわかっていたけど、とにかくこの場から逃げたいという一心で、僕はこう思った。

 そして洗面所から廊下に出ようとしたところで、何かにぶつかった。

 

 「わぷっ」

 

 妙な声が出て、僕はその場で尻もちをついた。

 そしてぶつかったものを見上げる。

 

 

 そこには妙にうれしそうな母さんがいた。

 

「あらあら、この可愛い子は誰ぇ〜?」


 母さんは、僕の手を取って立ち上がらせてくれた。

 

「かえでちゃーん、チェーック!」


 母さんこと、佐倉楓(さくら かえで)は、そんなことを言うと、僕の頭からつま先までを物凄い勢いで観察した。

 

「ぺろっ。……これは歩君の味!」


「いや、なめてないから! 僕の味とか意味わかんないから!」


「やーん、どうしたの歩君。こんな可愛くなっちゃってぇ。え、なに? 母さんを誘ってるの? だめよ、母さんには貴方のお父さんがいるんだから」


 何やら暴走を始めた母さんだが、僕が歩だと認識できたのだけは救いだった。

 僕は何やら妄想まで始めた母さんに、今までのことを説明する。説明って言っても、朝起きたら女の子になってました! って言うだけで終わるんだけど。

 

「なるほど、わからないわ」


 聞いた上での母さんの反応はこれでした。なるほど、僕もわからん。

 目が覚めたら体が縮んでいた! というのが、まさか本当に現実のものとなるとは思わなかったさ。まあ、縮んでるだけじゃなくて、性別まで反転してるおまけつきだったけどね……。


「でも貴方は私の息子……だった歩君でいいのよね?」


「うん……」


 僕は力なくそう答える。

 これでもし、「そんなわけないでしょ」と返されたら、人生詰みだよ。ベリーハードどころかゲームオーバーだよ。


「ふふ……ふふふ」


 母さんは、謎の笑いを浮かべる。気でも触れてしまったのか。

 息子が突然女になりましたって聞いたら、僕も頭おかしくなりそうだ。


「歩君。今は何も考えないで、私のこれからいう言葉を繰り返して言いなさい。いいわね?」


「え? う、うん……」


「いい? いくわよ。……『ママ』」

 

「は?」


「は? じゃないわ。プリーズアフターミー! 『ママ』」


「……ママ?」


 僕は意味が分からないので、小首をかしげて言った。


「ずきゅーん! これは歩選手ホームラン! ホームランだ!!」


「母さんが壊れた!!」


 突然意味不明なことを叫びだした母さんに、僕は不気味ささえ感じた。やはり、息子として育てた子供が、突然女の子になったら、精神的なダメージが大きいのだろうか。


「歩、聞きなさい」


「え?」


 急に真面目な顔をした母さんが僕に語りかける。


「母さんね、女の子もほしかったのよぉ」


「はい?」


 ぽかんとした僕から、間抜けな声が出た。


「やーん、もう、貴女すっごい可愛いわ! 貴方が生まれる前に私が妄想した理想形の女の子よ! 歩、ファインプレイよ!」


 頬を僕にすりすりしながら、母さんは僕を抱きしめる。

 拒絶されないでよかったと思いつつ、何やらやたら楽しそうな母さんを見てるといらっとしてきた。

 僕が女の子になって、そんなうれしいのか。あれ、男の僕って実はいらな……い、いや、今考えるのはよそう。

 

「母さん! そんなことより、僕どうすればいいの。どうやったら男に戻れるの!?」


「えっ? 母さんがそんなこと知ってるわけないでしょ」


 ですよねー。

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