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偶然の再会?

 ファミレスを後にした倉崎は――

 三人組が置いていった財布の処分について、悩んでいた。

 交番に届けるのは面倒だし、かといってカツアゲ被害に遭っていた少年に返そうにも、少年はもう死んでいる。

 ならば、少年の遺族に返す……

「アホか。そっちのほうが面倒だ」

 奴の妹に会うかもしれないのだ。冗談じゃない。

 二度と俺の前に現れるんじゃねえ、と言っておきながら、自分から会いに行っては本末転倒だ。

 第一、自分が借りたわけじゃない金を律義に返しに行くほど彼はお人よしではない。

 とすると……

「金だけ抜き取って、財布はそこら辺に捨てるか」

 それが妥当な判断だろう。

 彼とて裕福なわけではない。慢性的に金欠なのだ。ここはラッキーだと考え、もらっておくのが最良だろう。

 彼は当然のようにその結論に達し、財布から金を取り出そうとしながら、廃ビル沿いの通りへと続く道角を右へ曲がると……

「…………」

「…………っつ!?」

 曲がったところで、見覚えのある人物に遭遇した。

 無言で棒立ちになった倉崎に対し、驚いてのけ反ったその人物は、どう見積もっても小学生くらいにしか見えない、小さな小さな少女だった。

 年の頃は10~12才といったところか。ウェーブのかかったふわりとした栗色のロングヘアーをしている少女は、ロリータ調の服に身を包んでいて、西洋人形と見間違うような可愛いらしい外見を……

「何してんだお前」

 ――その少女は、昨日倉崎を襲撃した少女と同一人物であった。

「お、お、お、お前! な、何でこんなところに!」

 驚きと怯えが混ざったような顔で、少女は後ずさりした。

 その手には昨日のようなナイフなども握られていない。どうやら再び倉崎を襲撃しようとしたのではなく、偶然遭遇しただけのようだ。

「いやまあ、俺の家この近所だしよ。……ってか調度良いや。この財布なんだが……」

 ダッ!

 少女はきびすを返し、スカートを翻しながら、脱兎の如く駆け出した。

「おい、待てって」

 だが待たない。

 立ち止まったら殺される。

 そんな脅迫概念に追い立てられるように、倉崎に背を向けただひたすら走り抜けた。が、

「待てって言ってんだろクソガキ」

「!?」

 その声はなんと、猛ダッシュをしている()()()()()()()発せられた。

 慌てて急ブレーキをかける少女。

 目の前には、少女の背後にいたはずの倉崎が、若干不機嫌そうな顔を浮かべて、後頭部を手で掻きながらけだるそうに突っ立っていた。

「嘘!? え? だって……」

 少女は、倉崎がテレポートでも使ったかのように錯覚した。

 だが、何のことはない。倉崎は少女の進行方向に走って回り込んだだけだ。

 その速度があまりにも速かったため、何が起こったのか少女は理解できなかったが。

 破壊神と呼ばれる倉崎は、暴力だけではなく運動能力全般に優れている。人知を超えた身体能力は、実のところ喧嘩以外でも応用はきくのだ。

 もっとも、喧嘩以外と言っても、学校に遅刻しそうなときに猛ダッシュをするくらいしか普段の使い道はない。

「ううっ……殺るなら一思いに殺りなさいよ! ば、化けて出てやるんだから!」

 あくまで強気に開き直った少女。だがその目元は潤んでいる。

「はあ? なに言ってんだお前は。別に取って喰ったりしねえよ。……ほら、コレ」

 倉崎は手に持っていた財布を差し出した。

「お前の兄貴をカツアゲしていた野郎のだ」

 ポカンとした顔を浮かべた少女に、彼は通学鞄の中からさらに財布を二つ取り出して少女に突き付けた。

「……はあ!? どーゆーこと!? お金取り返してきたってわけ!?」

「まあ、そんなところだ」

 三人組が勝手に財布を置いていっただけなのだが、面倒なので細かい説明は省いた。

「ほら、受け取っとけ」

 しばらく迷った後、少女は倉崎の手から財布を引ったくり、

「こ、こんなんで赦してもらおうなんて甘いんだからね! アンタのこと、絶対絶対絶対に赦さないんだから!」

 倉崎をキリリとした目で睨み付けた。

 もちろん、そんなものに臆するはずもない倉崎は、

「なあ、お前の兄貴の自殺の理由って、本当に俺なのか?」

 いたって冷静に、もっともな疑問をぶつけてみた。すると少女は間髪入れずに、

「この腐れツリ目!」

 彼を恫喝した。

「く、腐れツリ目……だと?」

 ヒクヒク。

 変化に乏しいはずの彼の顔が、わずかに引き攣った。

「アンタツリ目のくせに眼球が腐った魚のようなのよ! ホント気味悪いわ! それにこの、陰険ボサボサクルクル頭!」

「ク、クル……!?」

 ワナワナと、彼は怒りで小さく震えた。

 ちなみにクルクルとは、彼の髪のことを指している。この生れついての強烈なくせっ毛は、彼にとっては無視できないコンプレックスであるのだが、少女はそれに触れてしまった。

「……おいガキ。今のは聞かなかったことにしてやるから、俺の質問に答えろ」

 コレは騒音コレは騒音、キレてもこっちが疲れるだけ……

 なんとか堪え、一段と不機嫌になりながらも、彼は再び問い掛けた。

「お前、お兄ちゃんの言うことが信用できないってゆーの!? やっぱり死ぬべきよ、万死に値するわ!」

「信用っていうのは相手のことをよく知っていなきゃできねえもんだ。で、俺はアイツのことをまったく知らないわけだが」

「うるさい! とにかくお前のせいなんだから! ……だって、お兄ちゃんの遺書にそう書いてあったんだもん!」

「……ちょっと待て、お前今何て言った?」

「あっ、しまっ……」

 少女はあからさまに狼狽し、慌てふためいた。

「遺書はなかったんじゃないのか? どういうことだ」

「え、えーっと……」

 少女は、何かをごまかそうとするときの癖なのだろうか、ウェーブのかかった栗色のロングヘアーの毛先を片手でクリクリといじり始めた。

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