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“狐狩猟犬(フォックスハウンド)”

 三人組は、廃ビル沿いの通りを抜け、車が行き交う大通り沿いの歩道へと出た。横一列に並んでペチャクチャと会話しながら、歩を進めて行く。

 倉崎はその数メートル後ろを、三人組に気付かれないように注意深く歩いていた。

 自分が何をしたいのか、彼にはわからない。下校途中に三人組を見つけたときから、体が勝手に彼らを追うのだ。

「ほっときゃ良いのによ。あいつらも、あの馬鹿な兄妹も」

 だが、自宅とは逆方向に踏み出す脚は止まらない。

 まるで自らアリジゴクの巣へと向かう蟻のように、彼は自ら災厄へと脚を踏み入れて行く。

 三人組は、道路沿いにあるファミレスへと入っていった。それを追うように、倉崎も店内へと入って行く。

 洋風の内装をした店内を見渡すと、三人組の姿はすぐに見つかった。窓際のテーブル席に座って、メニュー表を開いている。

 倉崎は真っ直ぐ、彼らの座るテーブルへと向かった。程なくして、彼らのうちの一人が倉崎に気付き、顔を青ざめた。

「は、破壊神倉崎……」

「は? お前何言って……って!」

「なっ!?」

 残りの二人も気付き、同じく顔を青ざめた。全員が倉崎の存在に気付いたときには、彼はすでに三人組が座るテーブルの目の前に立っていた。

「よお、ちょっと良いか?」

「な、ななな何の用で、しょうか?」

 倉崎は努めて穏便に話し掛けたはずなのに、三人組は震えあがった。この街最強の不良と呼ばれる存在への潜在的な恐怖ももちろんあったのだが、目つきの悪さや低くぶっきらぼうな声に加え、無意識ににじみ出ている不機嫌さに言い知れぬ圧迫感を感じてしまっているのだ。

「おいおい、ヤベーよ……」

「やっぱ、こないだのアレのことか?」

 ひそひそと、倉崎に話し掛けられる原因を模索している彼らに、倉崎は無表情で用件を伝える。

「別に何もしねーから安心しろ。ちょっと聞きたいことがあるだけだ」

「は、はい!」

「ったく、そんなかしこまるなよ。……端的に言う。この前お前らがカツアゲしてた野郎がいるだろ。あいつが自殺した原因は、お前らか?」

「ち、違います! 違うと……思います!」

「そ、そうだよな!? だって……」

「俺らが夢川に絡んだのって、あれが初めてなんですから!」

「初めてだあ?」

「はいい!」

 倉崎は単純に聞き返してみただけなのに、再び三人組は震え上がった。

「ほ、本当なんです! 金が欲しくて、たまたま道であった夢川に借りようと思っただけで!」

「あれ以降そーゆーことやっていないし、俺達が原因なわけないっす!」

 三人組が嘘をついているようには、倉崎には思えない。完全に倉崎に怯えているうえに、三人全員で事情を説明しているからだ。もし、とっさに嘘をつこうとしたのなら、三人の息がこうまで合うはずがない。

「わかった。お前らが原因じゃねえんだな。

 ……じゃあ聞くけどよ、あいつが自殺した原因だか理由だか心辺りだか、なんか知らねえか?」

 倉崎の質問を受け三人組は、いかにも必死で考えていますといった表情を見せた。

「別に、虐めを受けていたって話は聞いてないし……」

「お、俺ら、夢川とはクラスも違うし今まで全然話したことなかったんですけど、あいつの家すげえ貧乏だって話を聞いたことがあるような……」

 生活苦を苦に自殺。

 はたしてそれは、世の高校生の自殺の理由としてはどれほどの割合を占めているのだろうか。倉崎にはわからないが、学生の自殺=虐めが理由という先入観を持っている彼には、あまり多くはないような気がした。

「でも、俺ら実際全然わからないっす! 夢川が自殺した理由探すのが学校で流行ったんすけど、結局全然わかりませんでしたもん!」

 どうやら、ニュース記事を読んだ通り、自殺の理由ははっきりとしていないらしい。

「ああそうかい。……で、お前らはその“貧乏な”夢川くんにカツアゲしていたわけだ」

 彼は何の気無しに言ってみただけだった。

 悪意も敵意も責める気もなく、ただなんとなく呟いただけ。しかし……

「す、すすすす、すみませんでした!」

「許してください! ちょっと調子に乗っていただけなんです!」

「そ、そうです! 俺ら、“狐狩猟犬フォックスハウンド”の会員費稼ぐために仕方なく……」

「ば、馬鹿お前っ!」

 仲間にそう突っ込まれ、“狐狩猟犬フォックスハウンド”の名を口にした一人は、「しまった!」といった顔をした。

「“狐狩猟犬フォックスハウンド”だあ?」

「ひいっ!」

狐狩猟犬フォックスハウンド

 倉崎はその名称を聞いたことがあった。

『倉崎てめえ、俺達“狐狩猟犬フォックスハウンド”ナメてっと痛い目見るぞコラ!』

 この街に来てからこういった輩に喧嘩を売られたことは、一度や二度じゃない。“狐狩猟犬フォックスハウンド”以外の名前を名乗る連中も大勢いた。

 もっとも、連中が言う「痛い目」とやらを彼が見たことはまだないのだが。

 それに、彼は“狐狩猟犬フォックスハウンド”という名称は知っていても、それがどういうものなのかはしらない。この街に蔓延はびこるただの不良グループなのだろうという予想は立てているのだが。

「す、すみませんすみません! “狐狩猟犬フォックスハウンド”って言っても、俺ら入りたてで下っ端の下っ端の下っ端の、ほとんどパシリみたいなものなんです!」

「だから「狩る」のだけは勘弁してください!」

「……俺は別に、不良を「狩る」趣味なんてねえんだが……」

 猟犬を名乗る輩が、倉崎に「狩られる」のを恐れているのは、なかなか滑稽だ。不良組織に入っていても所詮この三人組は小物なのだなと、彼は呆れた。

「ったく、喧嘩売りにきたわけじゃねえって言ってんだろ。

 ――ってか、お前らあの時、ゲーセンに行きたいから金寄越せって言ってなかったっけか?」

 倉崎は、これまた、何の気無しに聞いてみただけだ。

 だが、三人組に対する嫌悪感が少々混ざっていたのは否めない。その、微妙にブレンドされた嫌悪感だけで、三人組の恐怖は臨界点に達した。

「「「これで勘弁してください!」」」

 三人組は一斉に立ち上がり、彼の前に財布を突き出し、深々と頭を下げた。

「金はお返しします、だから命だけは……」

「……いやだから、俺に返してどうす……」

「「「失礼しました!」」」

 そう叫ぶと、三人組はドタドタと慌ただしくテーブルから走り去り、勢いよく店を飛び出した。

「……この街には馬鹿しかいねえのか?」

 テーブルの上に置き去られた三袋の財布を眺めながら、割と本気で、彼はそんなことを考えてみた。

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